9.09「復興の壁」

あらすじ

「こんな不安定な治安状況で行かせるわけにはいかないでしょう」砂川さん、思考を取り戻します。今までとは色が違うだいぶシリアスな展開が続きます9話9節。

砂川を読む

【笑星】

「にしても、初めてみたよ、鞠会長が寝落ちしてる姿」

【鞠】

「……寝落ち?」

 舌の火傷に氷で処置していたら、雑務が笑いかけてきた。

【笑星】

「あれ、覚えてない? 会長、いつものデスクで作業してたんだよ。修学旅行の調整。授業にも出ず、ずっと……。で、寝落ちしてるの見て、寝るならもっと柔らかい場所で寝た方がいいよねってことで恐れながら俺が運んできました」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「よっぽど疲れてたんだね、俺よりも……だからそんな怖い夢なんか見るんだよー」

 ……………………。

【鞠】

「――そうじゃん!!」

【笑星】

「うわ!?」

 こんな落ち着いてる場合じゃないッ!!

 ていうか、今、何時……!!

【鞠】

「4時超えてる――もう放課後……」

 いや、今雑務に云われてどんどん寝落ち直前の記憶が戻って来たけど……多分30分程度のタイムロスだ。

 思ってたより大したことは……いやでもやっぱり結構なタイムロス!

【鞠】

「あーもう、こんな時に……!」

【笑星】

「も、もうちょっと休んでた方がいいんじゃ」

【鞠】

「休むなら夜中休みます」

 いつもの場所に、戻る。

 雑務も附いてくる。

【笑星】

「今って、何してるの?」

【鞠】

「毘華及び彩解の締結済みホテルや企業に、急遽学生数が増える可能性がありその場合大丈夫かを伺ってます」

【笑星】

「流石、行動が早い……」

 いや遅い。どうしても、私はそう思ってしまう。故にこのタイムロスは痛い。

 ……そういえば、放課後だっていうなら。

【鞠】

「副会長たちは……?」

【笑星】

「2年生に、修学旅行のことで意見を聞いてるって。俺は先に行ってていいってことで来たら、会長が寝落ちしてた」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「あ、また勝手に余計なことを、的なこと考えてるでしょ」

【鞠】

「……いえ、別に」

 というよりは。

 ちゃんと、生きてるんだなって思っただけ。

【鞠】

「……今回は悪くないアドリブです。一般学生から慕われてるあの人達なら、心置きなく語れるでしょうし。私へのクレーム含め」

【笑星】

「いやいや、会長へのクレームとかここにきて湧くわけないでしょ。どう考えても、会長の所為じゃないもん」

 まあ、そうだけどさ。それでも彼らには理不尽であることは間違いない。

 ――“暗闇の数十時間”は、全國共通に現れた。ババ様の予想通り、私達以外の人間は皆、コレを覚えていない。意識を失っていたということだ。この意識を失った瞬間というのは個人差が激しいので、数十時間なんて曖昧なことになっているが、コレはとんでもない不可思議な現象であるのは誰もが納得。

 ってことで各調査機関が本気で調べ始めてるとのことだが、都市伝説やオカルトが飛び交うこと以外は何も期待できない。ていうか、もっと我々には重大な現実がしっかりそびえ立っている。

 大輪大陸である。

【笑星】

「まさか……ほんとに大陸中焼けてるなんて。戦争って怖いんだなー……」

 大輪大陸の戦争状態は解消されていた。我々他の大陸の干渉を一切遮断していた電磁波も綺麗さっぱり消えていた。だから、ようやく我々は現在の大輪を知ることができた。

 ……戦争という響きからイメージされる通り、酷い有り様だった。WKBの空中偵察機が捉えた映像からは、何処を見ても焼け、壊され、倒された文明の跡がニュース視聴者に知らされた。

 先の不可解現象と共にWKBは大輪大陸の調査に全力を挙げている。都市部が特に酷く荒らされているとのことで、まずはそこを片付けていく……とのことだ。復興の目処は立たない。

 ――そう、復興。大輪大陸は今、全体的に復興しなきゃムードなのだ。最高にローテンションな状態。

 こんな状態で、修学旅行生を向かい入れられるわけがないのである。抑も総ての電波装置がぶっ壊れてるらしいし、連絡すらつかないのは戦時と変わらない。

 というわけで……開戦の時からずっとこうなる覚悟はしてたけど、修学旅行のルートをここにきて大幅に調整しなきゃいけない状態になっていた。大輪に行く予定だった人達を、毘華や彩解に回すという非常に大きい手続きを、当日まで僅かな期間で完遂しなきゃいけないのである。

 電話とメールとチャットの繰り返し。無論、日中授業なんか出れるわけもない。

【鞠】

「……!」

 固定電話が鳴った。

【鞠】

「はい紫上会室」

【信長】

「― もしもし、書記の松井です。お疲れ様です会長 ―」

【鞠】

「…………」

 ……書記だ。書記の声だ。

【信長】

「― ……会長? ―」

【鞠】

「あ、いえ……何でもありません。確か……修学旅行予定の人達の意見を聞いてたんでしたか」

【信長】

「― 笑星から聴いたんですね。勝手すみません ―」

【鞠】

「そこまで迷惑にはなってません。それで、用件は」

【信長】

「― 矢張り、流石に大輪の状況を考えて、行けなくても仕方無いというのが大半の意見となっています ―」

【鞠】

「まあ、こちらも行かせるつもりありませんけど。今、取りあえず毘華と彩解の既存のコースの拡大を図っています。その辺りを周知しておいてください」

【信長】

「― 承りました! ―」

 受話器を置いた。

【鞠】

「…………」

 当たり前だけど。

 書記も生きてた。

【笑星】

「でも……大輪に行きたい人、やっぱり1番多いよね。可哀想って行ったらアレだけど……何だかなぁ」

【鞠】

「こんな不安定な治安状況で行かせるわけにはいかないでしょう。抑も、電波環境が完全に壊れている……どの契約先にも繋がらない状態ですから、我々のような団体客を迎え入れる余裕は無いと思われます」

【笑星】

「だよねー……」

 ……さて、私もいい加減、作業の続きをしよう。

 他の大陸には特に被害があるとは聴いていない。凄まじい数を持って行きさえしなければ、ホテル予約ぐらいは新規で可能だろう。

【鞠】

「……集中だ、私」

 この局面だって、乗り切るんだ。

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