9.08「そう簡単に変わらない」

あらすじ

「嫌なことがあった時は、兎に角落ち着きたいよね。ふー、ふー……」砂川さん、呆然。嫌な夢ほど強烈に覚えてるんですよね。作者の場合は記憶や経験もまたしかりな9話8節。

砂川を読む

Day

11/7

Time

16:15

Stage

紫上会室

【鞠】

「――ッッカハアァア!!??」

 ……………………。

 ……………………??

【鞠】

「ハァ――ハァ――ハァ――!?」

 ……………………あれ。

【鞠】

「ハァ……ハァ……え……っと……」

【ババ様】

「鞠!! 大丈夫か!!」

【鞠】

「……ババ……様……」

 ……左眼に、手を置く。

 ……ちゃんと、ある。

【鞠】

「…………今の……夢……?」

 上半身だけで、軽く見回す。

 ……どう見ても、紫上会室。リビングエリアだ。

 私は……ソファで、寝てたのか。

【鞠】

「いや……私そんなこと、した覚え……」

【???】

「あ、起きた?」

【鞠】

「ッ――!!?」

 声に、滅茶苦茶動揺。

 今度は下半身も起き上がり、振り返る。

【笑星】

「ちょ、寝起きでそんな急に動いちゃ関節痛めるって」

【鞠】

「――――」

 ……雑務だ。

 雑務だ。

【鞠】

「――雑、務?」

【笑星】

「え? うん、雑務の笑星だけど……どったの? 何か鞠会長、変だよ?」

 雑務だ……。

【鞠】

「……………………」

 どかっ、とソファに座り込む。

【笑星】

「す、すっごい汗だね、ちょっと待ってて、タオル持ってくる」

【鞠】

「…………よかった……夢だった……」

 ……だけど。

 その夢の中で……私は、確実に。この右手で。

 彼の、心臓を――

【笑星】

「……鞠会長、震えてる……? もしかして、悪い夢でも見た……?」

【鞠】

「……そんな、ところ……です」

 タオルを、受け取った。

 本当に、びっしょりだった。

【笑星】

「実は俺も、昨日帰ってから寝て、イヤーな夢見たんだよねー……お尻のお肉がポロポロ取れる夢ー……暗闇の時にちょっと座り過ぎたんだろーね、痛くはなかったんだけどなー」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「鞠会長、どんな夢見たか覚えてる?」

【鞠】

「……忘れました。夢は、だいたいそんなもんです……」

【笑星】

「そっかー。鞠会長がそこまで疲弊させられる夢、ちょっと興味あったんだけどなー」

 ――云えるわけがない。

 私が貴方を――此処で出会った人達を、悉く惨殺している夢、だなんて……。

【ババ様】

「…………」

【笑星】

「……はい、ミルク。温めてみた」

【鞠】

「…………」

 手前のテーブルに、電子レンジで温めたカップが置かれた。若干湯気が見える。

 そして隣に、雑務が座った。同じく湯気の立つカップを持って。

【笑星】

「村田先輩の事件の時、こうやって俺に振る舞ってくれたよね。安心したなーあの時」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「嫌なことがあった時は、兎に角落ち着きたいよね。ふー、ふー……――熱っ! んー、温めすぎたゴメン……」

【鞠】

「…………」

 ……テーブルのカップを、持つ。

 汗のせいか、酷く冷え込んでいた手が、それだけで温められていく。

【鞠】

「…………」

【笑星】

「えっ、フーフー無しでいくの? 熱いってば!」

 いい。

 今は……これぐらいが丁度良い。

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「あっつ!! ちょ、ホントあっつい!!」

【笑星】

「……やっぱ熱かったでしょ?」

【鞠】

「……熱い……温めすぎ……」

【笑星】

「だからフーフーしてって云ったのにー。ちょっと涙出てるよー俺が泣かしたみたいじゃん……氷とか舌に乗せとく?」

【鞠】

「……乗せとく……」

【笑星】

「持ってくるねー。えーっと、手づかみっていうのもアレだよね……何か丁度良いお皿あるかな……」

 ……もう、涙とか枯れてるって、思ってたんだけどな。

 やっぱり私は、変わらない。

【ババ様】

「……鞠?」

【鞠】

「ッ……グスッ……ひぐっ……ッ――」

【ババ様】

「…………」

 変わらず私は、泣き虫だった。

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