9.40「丘のソレ」

あらすじ

「帰ってきましたよ。一時的に、ですが」砂川さん、軽めの登山。自分の知ってる町が廃墟化してたら相当思うところもあるなぁ。賛否両論、滅びの美の9話40節。

砂川を読む

vsmari

【ババ様】

「のー、鞠」

【鞠】

「何ですか」

【ババ様】

「よかったのか? また無断で笑星たちを放置して」

【鞠】

「……あの人達は勝手に何とかするでしょう。興味関心もあるんだから」

 優海町には連れてきた。後はまあ勝手にすればいいと思う。私は1人の方が気が楽だ。

【鞠】

「……それに、これでババ様も喋り放題でしょ」

【ババ様】

「おお、ババ様のことを忘れないでいてくれたのか! 嬉しいのー!」

 寧ろどうやったら忘れられるんだ。

【ババ様】

「しかし、これが鞠の故郷か……」

【鞠】

「だから故郷じゃないですって。ただ今までで1番生活してきた場所ってことで」

【ババ様】

「なら故郷じゃろ」

 自分の故郷が何処かって云われると、結構迷う。

 女潤の別荘な気もするし、真理学園な気もしなくもない。が……

 少なくとも、此処ではないな、とは思った。

【鞠】

「私は……こんな優海町を知らない」

 私は記憶通りに、森を登っていた。だがその光景は、記憶を疑うほどにもはや別のモノだった。

 此処は、優海町なのか――?

【ババ様】

「緑が、枯渇しておる。風も何と云うか、渇いてとても生命を感じぬ」

【鞠】

「……此処はもっと、迷子になりやすい山だった筈なのに」

 いや、目印が焼けてしまっているので、寧ろ迷子になりやすくなってるかな。でも視界はスッキリしちゃっている。

 私はこの光景を断じて森とは呼ばないだろう。

【ババ様】

「今まで沢山の、戦後の町を見てきたが……此処は次元が違うの」

【鞠】

「……やっぱり、此処で何かがあった。」

【臥子】

「姉様、活動を開始しますか」

【鞠】

「……その前に少し寄っておきたいところがあります。その後に」

 いや……別に寄りたいとは、思ってこなかったんだけど。気付けば彼らと別れて、私の足は此処に向いていた。

 9ヶ月ぶり、ぐらいだろうか。

【鞠】

「……結局、私もまた忘れることができない」

【ババ様】

「? 何のことじゃ?」

【鞠】

「何でもないです」

 確か、優海町に別れを告げた時も、最後に訪れたのは此処だ――

Stage

美麗の丘

【ババ様】

「……! おお、優海町が一望できるの……」

【臥子】

「優海町……状況を、分析」

【鞠】

「分析も後でいいと思いますが」

 優海町といったら、地理的にも歴史的にも中心に座すあの学園。

 彼処を含めた、全貌とは云えずとも優海町の姿を見渡すことのできる見晴らしの良い丘。

 元々絶景と云えるかどうか微妙なところだったが、今はもう酷いねコレは。

 ……おかしいな、予想通りだった筈なんだけど。

【鞠】

「…………」

 この光景を、私はどこかで拒絶していた。

 胸が苦しい。この感情は……。

【鞠】

「散々ですね……相変わらずというか、少しは平穏になればよいものを……」

 呪われているんだろうか、この町は。

【鞠】

「……呪い、ばっかだな……」

 そう思うでしょ?

 ……私は振り返る。角度まで、完璧に。

【ババ様】

「……ん?」

【鞠】

「帰ってきましたよ。一時的に、ですが」

 話し掛ける。

 ……何を思おうとするわけでもなく、バッグを乾ききった地に下ろし、道具一式を取り出す。といってもどれも日用品の域を出ないものだけど。

 ペットボトルを開け……純水をスポンジに染みこませ、汚れを落としていく。

【鞠】

「……あれ、案外綺麗だ……」

 9ヶ月放置していたから、結構大仕事になるの覚悟してたんだけど……洗剤は弱めでよさそうだ。

【ババ様】

「…………」

【臥子】

「…………」

 予想より遙かに早く終わったので、あとはタオルで頭からから拭きして水気を取り除いていく。

 これで……登山の目的は達成、かな。

【鞠】

「……懐かしいような、そうでもないような」

 よく分からない。

 もう9ヶ月なのか。まだ9ヶ月なのか。

 抑も9ヶ月なのか。或いは1年じゃないのか。

 ……どうでもいい、思考だろう。

【鞠】

「……はぁ……」

【ババ様】

「――?」

 ソレに、ゆっくり、抱きつく。何も考えずに。

【臥子】

「…………」

 眼を閉じる。

 ……これは確かに去年度やっていたことだけど……。

【鞠】

「(ヤバい……寝る……)」

 船旅からの長時間トラックは矢張り疲れる。

 でもだからって、こんなところで……私にとって此処は安心できるところなのだろうか。

 ……否。此処に居るのは、そんな存在ではなく。

【鞠】

「……………………」

 寧ろ――

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