9.38「優海町へ!」

あらすじ

「俺たちを、鞠会長を心配させたことを怒りにいく。コレ、今回のノルマの1つだから!」砂川さん、再び大輪へ。その目的地、ここまでくるとラストダンジョンみたいな雰囲気出てきますよねって感じの大詰め9話38節。

砂川を読む

Time

15:00

Stage

中京

【鞠】

「状況はどうですか」

【兵蕪】

「― 順調というべきか否か分からないけど、まぁ順調なんじゃないかな。世間的な組織は兎も角、優海町の金の入り処を調査できているMSBが今1番警戒してるのは一峰勢だからね ―」

【鞠】

「こちらは手筈通り、トラックに乗りました。……しかし、本当に大丈夫なんですか……? 単純過ぎません?」

【兵蕪】

「― なあに、敵方がこちらに興味を持ってくれてるように、我々もしっかり調査はしてるからね。この私によって隆盛を極めた一峰は、間違いなくこの私のモットーに従って行動する……そう読んでいるだろうね ―」

【鞠】

「……正面突破、ですか」

【兵蕪】

「― その方が倒すにしても打ち解けるにしても手っ取り早い。つまり、MSBを騙すような無断行為を一峰はやらないわけだ ―」

【鞠】

「だから、私のような勢力は眼に入らないと」

【兵蕪】

「― 鞠ちゃんはパパとは違って色んな手を考え抜くことのできる智将。彼らとてそこまで調査は回っていないだろう。なんせ一峰すら君の覚醒には気付いていなかったんだから ―」

【鞠】

「別に覚醒してませんけど。まぁ……木の枝を隠すなら森の中、大きな要素は細かく切り分けて散りばめてしまえば、という寸法です。ぶっちゃけ資材運びの方法は他にもありますけど、関連性が疑われてはダメージが辛いので」

【兵蕪】

「― 鞠ちゃんの判断に任せよう。お邪魔虫は、パパ達に任せなさい ―」

【鞠】

「すみませんが、宜しくお願いします。では」

 電話を切った。

 ……ちょっと酔いそう。車は後ろに座るほど酔いやすいっていうのは本当なのかな。後部座席どころじゃないもん、此処。

【深幸】

「今、誰と電話してたんだ……?」

【鞠】

「今回の作戦に協力してくれることになった知人です」

【信長】

「会長の知人、ですか……これまた凄まじそうですね……」

【四粹】

「はは……(←苦笑)」

【笑星】

「俺たちの計画だと、女潤に繋がるポートに上陸する感じだったけど、会長初っ端から修正入れちゃったよね。これも理由あるんだよね?」

【深幸】

「加えて、トラックの荷台に詰められる俺たちにも理由があるんだろ? 毘華あたりで結構ニュースになってるだろ、こういうの。何て云ったっけ……」

【四粹】

「密入国ですね」

【深幸】

「そう、ソレ! 俺ら犯罪者?」

【鞠】

「少なくとも都合の悪いと考える人は多いです。我々人間だけならまだしも、お土産を持って行くとなると」

【笑星】

「お土産っていうのは、コレだよね」

 超絶薄暗く狭い空間の中、雑務が座っている箱を叩く。

【鞠】

「お察しの通り、物資です。確定ではありませんが、恐らく南湘エリアは復興協力を得られていない孤独な地域群となっています」

【四粹】

「……優海町、真理学園の影響ですね。行政の統制を受け入れず独自の法で地域を運転する為に、敵を多く作っていた状況が今完全に裏目に出ている」

【笑星】

「だからって、普通助けないかなぁ……。全國的に平和を謳ってるくせに」

【鞠】

「その平和の為に潰しておきたい組織と認識してるんでしょう。そんな連中筆頭がMSBのような、今まで真理学園に手を焼かされてきた巨大連盟。M教は云うまでもなく巨大且つ多岐的な括りですので、色んな考え方をする色んな人間がいる。南湘支部はどうやら一見物騒で過激な思想に溢れているようです」

【四粹】

「……何が何でも、困窮した状態を回復させてはならないと考えているのですね。なら、他のM教的動機で接触を試みる“仲間”を通してはならない。南湘とのコネクトが最も充実している女潤のルートは当然彼らによって監視されている」

【笑星】

「それ、M教的にどうなんだろう」

【深幸】

「そこも複雑多岐ってことなんだろうよ。抑もホントにM教思想のままに組織が動いてる、とも限らないしな」

【四粹】

「手前の認識の限りでは、MSBなどの清潔を大切にする組織がさような支援活動の妨害行為をしているとは聞いていません。別の組織に具体的な活動を投げて、関与を伏せているかと」

【鞠】

「そう、大々的に妨害することは世間の目もありますから出来ない。つまり、妨害の壁は案外穴が多く空いていることになります。ですからその小さい穴を潜る為に、中京接続のポートにて上陸し、先週の復興活動でまだ使っていなかった物資を細かく分配して地道に南湘大陸に送っています。このトラックもその1台」

【四粹】

「とはいえ、その交通量の違和感に彼らも気付きそうですが……町の様子なども監視しているでしょうし」

【鞠】

「すぐの復興は困難でしょう。知人が女潤付近でMSBの目を引いているうちに今はどちらかというと食糧とかの受け渡しです。あと、とある南湘近隣の敷地と南湘大陸内のどこか死角的な場所と穴掘って繋げようって計画も立ててるそうです。復興の為の物資はこの穴を使います」

 まあ発案者および実行者、私なんだけど。

【笑星】

「す、凄い……あれ、もしかして俺がついでに復興させに行こう、とか云ったから鞠会長とその知人さん、そんなに張り切ってくれちゃったの……?」

【鞠】

「……まあ、貴方が云い出さずとも、大輪のルートの構築の為にはどれも復興支援が前提でしたので、結局こうなってたと思います」

 正直私はそこまで乗り気ではなかったんだけど。あの場所は総じて思い入れもないのだから。

 だけど雑務は優海町を知ると同時に優海町の復興も手伝いたい、と云っていたので、5日間暇をしない為には丁度良いイベントなのかな、と思った次第。

 何度も云っているように私はこのイベントに何一つ楽しみな感情を抱いてないので、偏に彼らが満喫することが“勝利”の条件。クラス委員を相手にしたときと同じ、今まで紫上学園全体を相手にしてきたのと同じ、私は紫上会会長として覇者として彼らに応えるのみだ。

【鞠】

「ってことで暫く揺れます。雑務、吐かないように」

【笑星】

「俺、車は大丈夫なんだよなぁ。でも暗いし狭いしで何もできない」

【信長】

「この前の暗闇に比べたら遙かにマシだがな。生きてる感じがする」

 彼らは、今のところ割と楽しんでるっぽい。平和なことだ。私なんて検挙されたらどうしよう、荷台揺れまくってて気持ち悪い、とか色々不安と不快でいっぱいだ。

 臥子を抱いて寝ていたいけど、ちょっと男子たちが近い中でソレをやるのは恥ずかしいところがある。自意識過剰とかじゃなくて、最低限女子として社会人として持って然るべき抵抗感だと主張しておこう。

【深幸】

「……優海町がどうなってるか、ていうのはお前もまだ分かってないんだよな?」

【鞠】

「電磁波の除去とかできてませんし」

【深幸】

「いや、確かにソレのお陰で未だに南湘はテレビに映らないっぽいけど……お前は先週まで直接大輪で暴れてたじゃねえか」

 暴れてはない。

【深幸】

「南湘には行かなかったのかよ?」

【鞠】

「行く必要ありませんでしたし。其処行くルートとか1つも無かったんだから。当然寄り道する余裕も無し」

 恐らく今1番不安が大きいのは、この点だろう。

 私も今優海町がどうなっているのかは、分かっていない。客観的に考えて、都市から離れていることだし燻牆村みたいにほぼ無傷なことだってあり得るだろう。

 が、残留電磁波はしっかり南湘にも蔓延している。しかも傭兵が何らかのツテで得たマスコミや専門家さんのお話によると、その辺は他地域に比べて極めて濃度が高いことが分かったらしい。都市群は兎も角、未だにあの地域をカメラに映すことができない最大の理由がコレだ。その除去をしようにもMSBが邪魔してるわけだし。

 そしてこれは私の直感でしかないけど……戦争の渦中はどうせ南湘だったのだ、ならば無傷なわけがない。これまで見てきた事件跡よりもずっと深刻である可能性が考えられる。

 ……思い入れはそんなに無いつもりだが、優海町の空気というのを知り、育ってきた者として、今其処へ踏み入る覚悟はすべきこと。

 楽しいことはない。怖いことだらけ。

【笑星】

「鞠会長」

【鞠】

「……何ですか」

【笑星】

「井澤先輩、とっ捕まえようね」

【鞠】

「…………」

 ……でも、確かに私にだって、1つぐらいこの時間に価値はある、だろうか。

 あの人は私に約束をしたんだ。ならば待ってればいい筈、なんだけど……。

【笑星】

「俺たちを、鞠会長を心配させたことを怒りにいく。コレ、今回のノルマの1つだから!」

【深幸】

「致命的な迷惑にならないことを祈るがなぁ」

【信長】

「しかし仕方無いことではあるだろう。なんせ、繋がらないというのは遠距離のコミュニケーションには痛すぎる」

【四粹】

「……手前も個人的に、訊いておきたいこともあります」

【鞠】

「……この前特変は恐ろしい存在って説明した筈なのに」

【笑星】

「怖くないよ、コッチにはもっと怒らせちゃいけない人が附いてるんだから」

【鞠】

「嫌味ですか」

 溜息。

 …………。

 でも、まあ……確かに。

 お灸を据えるぐらい、いいだろう。私にとってどんだけコレがダメージでかいかぐらい、先輩なら想定していて当然だ。

【鞠】

「……小言でも考えてよ」

 私の道の盤石を再確認するために。

 私は再び、この町へと踏み入る――

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