9.36「屈服」

あらすじ

「私は――大輪に、行く! 私の大切な、ロザリアお婆ちゃんに、会うために」砂川さん、帰還しました。そして出発の発端だった彼女とも再会します9話36節。

砂川を読む

Time

15:30

Stage

紫上学園 食堂

 ……最後の個別相談会、実質的には大輪ルートを選ぶ人達の為の作戦会議が始まってだいぶ時間が過ぎた。

 勿論、ソレを真正面から担当できるのは私のみ。書記と副会長にはそれ以外の大陸のルートの人達の最終相談を丸投げ。

 ……これは私への嫌がらせじゃないと信じたいのだけど、元々大輪ルートを選んでた人達、会計たちが計算したところ9割5分以上が大輪を選ぶらしい。疲れた私への追い打ちじゃないことを本当に信じたいのだけど、うん。

 ただ、それよりも気になるのは……

【鞠】

「では、以上とします」

【女子】

「ありがとう、ございました! 会長、私……頑張ってきます、会長に恥じないように――!!」

【鞠】

「……無理はされず」

 ……何か、皆テンションおかしくない……?

【鞠】

「はぁ~~~……」

【ババ様】

「笑星の激励が効きまくってるのかもしれんの。ババ様正直、楽しくて仕方ない」

 ここ数日のババ様の声のトーンが常に高い。いやそんなことはどうでもよくて。

【鞠】

「紫上学園らしく、だっけ……」

 まあ確かにソレは別に、私としてはどうでもいいこじつけ……の、筈なんだけどさ。何故それで私に恥じないように、とか謎の付け足しをどいつもこいつもしてくるの。

 後は各々自由に、とは云ったけどいつも通り私を巻き込まないでもらいたい。もう暫く大輪は懲り懲りって気分なんだから。

【ババ様】

「ささ、まだまだ行列の尾はやってこんぞー」

【鞠】

「はい、次の方ー……」

 色々憂鬱になりながらも、勇者捌きを再開する。

【安倍】

「…………」

【鞠】

「……あ」

 元凶じゃん。

 何か文句云ってやろうっていう気でいた覚えがあるんだけど、いざこうして再会してみると何も言葉が出てこない安定のコミュ障な私。

 いや、そんな私的なことしてる暇ないから私。早く帰るために、今は仕事だ私。

【鞠】

「どうぞ座って――」

【安倍】

「――!!」

【鞠】

「――え?」

 ……んん?

【安倍】

「かい……会長、さん……砂川さん……ッ――!」

 え、何これ。

 何で私、いきなり机越しで抱きしめられてるの。

【安倍】

「ありがとッ、本当に、ありがとう――砂川さんッ――!!!」

【鞠】

「!?!?」

 な、何で泣いてるのこの人……!?

 そして何で矢張り私巻き込まれてるの!?

【安倍】

「ありがと――ありがと、ありがとッ、ありがと、ひぐっ、お婆ちゃんッ、ありがとおぉおお……――!!!」

【鞠】

「な、な、なに……」

 これぇぇぇぇ……。

 ……………………。

【鞠】

「……落ち着き、ましたか……?」

【安倍】

「うん……ごめんしゃい……」

 やっと落ち着いてくれた。とんでもないタイムロス。

 もうそろそろこの人のことも天敵認定していいかな。いいよね。

【安倍】

「……お婆ちゃんと、電話、繋がったの」

【鞠】

「まあ、そうでしょうけど」

【安倍】

「会ってくれたんだよね、お婆ちゃんに。全員に挨拶しに行ったってことは……」

【鞠】

「ええ、会いました」

 四半世紀ぐらいは忘れられそうにないくらい凄まじいインパクトをお持ちでした。

【鞠】

「一体どこに老いを感じる要素ありましたか。倒れる気配全然ありませんでしたよ。完全に心配損です」

【安倍】

「あはは、そっかぁ。私もね、電話繋がった時、「あれ、何か思ってた以上に元気だな」って思った」

 はい、天敵認定。

 矢張り貴方絶対赦さない……。

【安倍】

「……心配損、かぁ」

【鞠】

「……?」

【安倍】

「会長さん、心配してくれたんだ」

【鞠】

「…………違いますよ、貴方の心配損って意味ですからね」

【安倍】

「そっかぁ。ふふ、そっかぁ」

【鞠】

「違いますからねっ!?」

 ……ああもう、タイムロスがやまない。これは修学旅行後でもできる会話だ。後でもしたくないけど。

【鞠】

「はぁ……で、貴方も当然、大輪に行くってことでいいんですよね」

【安倍】

「勿論! あんなに会長さんを挑発しておいて、ここまでやってくれちゃったんだから。その分私も、頑張らないと」

 だからそういう、私を絡めて考えるのはよしてほしいんだけど……。

 それにしても、だ。

【安倍】

「私は――大輪に、行く! 私の大切な、ロザリアお婆ちゃんに、会うために」

 やっと私の辛うじて知っていたクラス委員の顔に戻ったか。

 明るく、腹立つぐらいに変な自信に溢れた女子だ。

【安倍】

「それで会長さん……砂川さんのこと、たっくさん自慢しに行くから☆」

【鞠】

「いやだから何故私がそこで出て――あ、思い出した、貴方既にあの人に電話で私のこと色々ぶちまけてますよね!! どういうことですか!!」

【安倍】

「え? あーそりゃあ……お婆ちゃん、友達至上主義だから。私にもちゃんと最高のお友達がいるってこと、伝えて安心してほしくて」

【鞠】

「ナゼソコデワタシヲダス……ッ」

 ただ、その天敵っぷりはもうちょっと息を潜めていてほしかった。

【安倍】

「えー? へへっ、いーじゃーん!! ね?」

【鞠】

「はい、相談終わり! ご健闘ください、ゴーホーム!」

 これは解を見誤ったかもしれないな、と思ったのだった。

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