9.35「おかえり」

あらすじ

「俺たちは、紫上学園としてこの行事を全うできるんだよ!!!」笑星くん、魅せます。これちゃんと、良い話風になってるんですかね。作者は若干不安な9話35節。

砂川を読む

vseboshi

Stage

紫上学園 体育館

【信長】

「それじゃ、始めるか」

【笑星】

「……うん」

 規定の時間になった。

 これを遅らせることは、適当とは云えない。

【深幸】

「もうそろそろ、会長がこっちに上陸する頃だな」

 起きて、アルスを見たら早朝から会長のメールが来ていた。

 「到着は説明会開始時刻を過ぎる」ことが判明した。

 つまり、この最終説明会という名の会見を、俺たちだけでこなすことになる。

【笑星】

「茅園先輩、お願いだよ! ちゃんと会長、見つけてきて」

【深幸】

「最悪行き違いになっても俺のことは気にすんなよ、笑星」

【笑星】

「うん、分かってる」

 茅園先輩が走って体育館から出て行った。

 ……茅園先輩曰く、この霧草区は最近大輪からの人で溢れてるって聞いた。特にビジネス的な理由で訪れる人が多いらしい。

 Gateの道路が混雑することは滅多に無いんだけど……タクシーの数を先輩は心配した。だから万が一ってことで茅園先輩はポートエリアに向かうことになったのだ。

 ……どうせ鞠会長のことだし大丈夫だとは思うけど、あとは茅園先輩に任せよう。俺は、俺のやるべき事に、全力で相対するだけだ。

【四粹】

「――それでは、静粛にお願いいたします」

 玖珂先輩の声が、スピーカーから響く。

 ざわついていた、皆が静まっていく。

【学生】

「「「…………」」」

 皆が、俺の居る壇上を見る。

【信長】

「笑星、大丈夫か?」

【笑星】

「……正直今は、玖珂先輩がやればいいのに、とか思っちゃう」

【信長】

「はは、そうか」

 だって会長が居ないなら普通は副会長が代わりをやるでしょ?

 或いは紫上会的にはナンバー2とも云える書記とかさ。

 ……でも、今から皆の前に立つのは、玖珂先輩でもなく松井先輩でもなく、俺だ。

【信長】

「まぁヤバそうなら俺がサポートする。だから、全力でやってこい」

【笑星】

「……うん。分かってる」

 先輩たちは云った。

 俺がやるべきだと。

 今、会長の代わりをやってみるべきは、俺だと。

【笑星】

「良い機会とは思うけどさー……」

 この経験は、絶対来年度の紫上会において役に立つ。だから、俺は立つ。

 こんな大勢の先輩たちの前に、鞠会長ではなく俺が……。

【笑星】

「……はぁ~~~……」

 鞠会長の真似事をやってみる。

 幸福の逃げる溜息。

 諦める溜息。

【笑星】

「……………………」

 闘う為の、溜息。

【笑星】

「――よし!」

 今邪魔なものは、全部吐き出したぞ。

 今もう勝負の場に立ったぞ。

 ――堊隹塚笑星は、勝つぞ。

【四粹】

「それでは、お待たせしました、平保31年度修学旅行生最終説明会を始めます。司会は紫上会副会長、玖珂四粹が務め申し上げます。この説明会では、最終確認と云える注意事項を紫上会より説明すると共に、恐れながら我ら紫上会よりエールの言葉を送り申し上げます」

 階段下すぐそこで立つ玖珂先輩が、慣れた様子で進行を始めた。

 といっても……すぐにそのマイクは、

【四粹】

「では、注意事項を紫上会雑務、堊隹塚笑星さん宜しくお願い致します」

 階段で、俺に渡る。

【四粹】

「……ご武運を」

 切られたマイクに入らない、玖珂先輩の俺だけに向けた一言が、渡された瞬間に同時に俺に渡る。

【笑星】

「うん!」

 笑う。

 そう、笑え。それこそ、親友がベタ褒めしてくれる俺の真骨頂。

 堊隹塚笑星、本気の姿で……皆と向き合う!

【笑星】

「こんにちは! 流石にもう皆、しっかり覚えてくれたよね。紫上会雑務・堊隹塚笑星です!!」

 挨拶程度なのに、この喉の渇き。だけど、これだって全然、全ッッッッ然マシだよね、後夜祭の時に比べたら。

 今回この説明会に集ったのは修学旅行生「全員」。でも、これだって全然マシだよね、生放送でもなんでもないもん。

 そう、俺に為せないわけがない。自信は、笑みに変わる。

【笑星】

「いよいよ、修学旅行5日間を翌週に控えました。今に至るまでに、それぞれ皆、いっっぱい準備してくれました。紫上会は勿論、そのことを理解してます。だから正直、この注意事項だって読み上げる必要は無いよねって思うところはあるけど、儀式的な意味も多大に含めてますので、どうかお付き合いください」

 あ……ちょっと笑った人を見つけた。そういうの見ると、ますます勇気が出てくる。

 何より、良かった、って思う。

【笑星】

「それでは早速、注意事項を紹介します! 壇上のビジュアルボードをご覧下さい」

 松井先輩に合図を送って、壇上に設置されたビジュアルボードを作動してもらう。

 そして、アルスに送り込まれたプレゼンデータが一面に映し出される。この画面操作は松井先輩にお任せしている。

【笑星】

「まず、いきなり厳しい項目! 制服を着てください! これはただの旅行でなくて、紫上学園の伝統行事、だから制服を着て全うすること! 勿論ホテルでお風呂入った後とか、アクティビティの時とか、制服じゃなくていい時っていうのもいっぱいあるよ。その辺の判断基準は個人に任せるしかないけど、基本ルールを守ってこその行事だっていうのは先輩たちには云うまでもないよね」

【信長】

「ナチュラルに良い釘を刺すもんだ……」

 切り替わる。

【笑星】

「その土地のマナーをしっかり守ること。郷に入っては郷に従えってやつだね。異文化に触れるってところに旅行の醍醐味があると俺は思うんだ。時に、自分の価値観に合わないルールに出くわしちゃうこともあるかもしれない。でも、それを一旦受け入れるっていう普段なら絶対やらないような眼差しでそれらを見てこそ、深い学びになるんじゃないかな。それと、これは常識と良識を守ることも勿論意味してるよ。さっきの服装のことと同じ。もうテレビで有名になっちゃった誇り高い紫上学園生として、恥ずかしくないように頑張って」

 どんどん切り替わる。どんどん読み上げる。

【笑星】

「トラブルがあった時は、必ず速やかに紫上学園に連絡すること! 私的なコネクション、例えば俺のメアドにヘルプを送りつけてもまあ何かしらの対処はできるけど、俺たちも絶対すぐには駆けつけられないから、間違いなくこの紫上学園に電話した方が速いよ。些細なことでも、心配がなくても電話するくらいの心持ちで、自己判断は極力避けること。これ、1番大事だからね!!」

 どんどん進む。

【笑星】

「当日ホテルのチェックインは必ず果たすこと。チェックインはホテルに滞在してる教員を介して行ってください。まあ、ホテルも把握してる筈だから直接でもフロントさんが柔らかく対応してくれるとは思うけど、先生が混乱しちゃうから。あと、多くの人が修学旅行中、複数のホテルを利用するので、当日どこのホテルかっていうのは間違えないこと」

 それから……。

 この項目も、読み上げる

【学生】

「「「……!!」」」

 ビジュアルボードを眺めていた皆の反応がほぼ真っ直ぐ届く。

 ある意味、今回の要だもんね。

【笑星】

「これは大輪ルートの人達の注意事項です。知っての通り大輪大陸は今、治安が敏感な状態なので、より常識と良識を働かせて臨機応変に行動し振る舞うこと。平和ボケした発言は場合によっては対人トラブルに発展するかもだからね。もう既に今の大輪を心配して、渡航便が復活してから多くの人が大輪に流れ込んでるから……その人達にも注意が必要かも。だけど、こんなことは云っててもキリが無い。だから、それすら含めた全力の学び・楽しみを、紫上会はめちゃ心配しつつも期待するところです!」

 その後もいくつか読み上げて……。

 普通なら退屈しそうな時間が、どんどん過ぎて。

 軈て注意事項のターンは終わる。

【笑星】

「(……ふぅ……)」

 ちゃんと前を向いて、皆に向けて喋ってきたから分かる。

 皆、真剣に聞いてくれてるんだもん。

 これは皆にとっても全力で闘っていくべき行事。紫上学園の行事なんだと、俺は思い知らされる。

 それに……やっぱり、あの人のことがあるから。

【笑星】

「以上、注意事項、終わります! ご静聴ありがとうございました!」

 拍手が盛大に響く。

 やりきった感じ……になるのは、まだ早い。

【四粹】

「続きまして、紫上会による激励を送らせていただきます。紫上会雑務・堊隹塚笑星さんお願い致します」

 返したマイクがすぐに返ってくる。

 松井先輩はビジュアルボードの操作を、玖珂先輩は司会を担当していて、茅園先輩と鞠会長は居ないので自然と俺ってことになる。

 喋るってだけなら、鞠会長と同じワンオペ状態。

【笑星】

「(でも、俺は鞠会長のようにはいかない)」

 俺の心は、鞠会長とは全然違う。

 俺が語るのは鞠会長とは違う、言葉。本来なら今回だってあの人が語るべきこの場を……俺が担っている。

 だから、尚更本気で、俺は俺の出せる全力を放つ。

【笑星】

「……はぁぁぁぁぁぁ……」

 溜息に乗せて、要らないものを総て外に出し、

【笑星】

「――よし」

 さあ、笑おう笑星。

 自分の言葉で、全力を出すんだ。

【笑星】

「……今回の修学旅行は、皆、迷ったと思う。特に……大輪を希望してた人達は、皆」

【学生】

「「「…………」」」

【笑星】

「今回はきっと、いや絶対、過去最高に難航した。だから相談会なんて異例の放課後イベントをずっと開いたんだし。相談会に参加してくれた皆には、ほんとに苦労をかけました。ごめんなさいとは云いません。寧ろ、ありがとうって云わせて。ほんとに、ありがとう!!」

 山の調子で拍手が上がってくれた。

 うん、本当に、本当に皆頑張っていた。行列で待ってる間、沢山の人達と会話をした。心情を吐露してくれた。

 仕方無いって諦め。

 どうしてこんなタイミングでっていう遣り場の無い憤り。

 ちゃんと旅行できるのかっていう膨大な不安。

 ……悲しみ、も。

【笑星】

「ハッキリ云っちゃうね。もう、地獄だなって思った!! 笑い飛ばすってことも出来ないからさ、シリアスなことだし。俺はそれでも笑いかけて明るく振る舞って、それを先輩たちは受け入れてくれた。これにも感謝です、ありがとう。だけど、それでも先輩たちが辛く苦しく悲しいっていうのは間違いない事実で……相談会の中でそれと相対する時間は、その時は兎に角無我夢中全力の最中だから気にはならなかったけど、振り返ってみれば一言、地獄、だった」

【信長】

「…………」

【四粹】

「…………」

【笑星】

「でも――俺は、今回相談会を設けることができて、良かったとも、思ってる」

 ……ちょっと、ざわつく。

 そりゃそうだよね、この発言が危ないってことぐらい俺でも分かる。

【笑星】

「勿論、俺たちがここまで忙しくなっちゃった切欠は何一つ良くないことだよ。大輪中の人々が傷付いて、生活が壊された事件を評価はしない。でも、その切欠があって、相談会をやり通して……少なくとも俺は、体育祭や文化祭みたいな空気を何処かで感じた」

 でも、云わなきゃいけない。

【笑星】

「どんなに逆境が強くても、苦しみ悲しみ、挫けそうでも、完全には折れなくてさ。諦めきれず、やっぱり諦めず、寧ろ猛って結果が確定するまで足掻き通すッ!」

 紫上学園生として、

【笑星】

「ほら、これって……いつもの俺たちじゃん!」

 俺はこの感情を、肯定する!

【信長】

「――! 笑星――」

【笑星】

「勝負事を通して、俺たちはいっつも勝とうと頑張ってる! 俺は知ってるよ、先輩たちの、負けず嫌いなところ、諦めきれないところ、最後まで自分なりに頑張り通せるところ、そしてその勝敗けっかを最後には受け入れるところ、それら全部がッ!! 今回の修学旅行の準備の中でも発揮された、そう確信してる!!」

 俺の今、送りたい1番のことは――コレだ。

【笑星】

「俺たちは、紫上学園としてこの行事を全うできるんだよ!!!」

【学生】

「「「――――!!」」」

 そう、俺たちは、この紫上学園伝統行事である修学旅行を。

 俺たちの大好きな、紫上学園の学生として戦うことができるんだ。

 あの人が“勝負”を諦めなかったから――なら、俺たちに退く選択は有り得ない。

【笑星】

「こんなこと、エールっていうか云うまでもないけどさ!!」

【学生】

「「「……!!」」」

 そう、そんな眼をする人達に対して云うまでもない。

 当たり前だ。

 だって、俺たちは紫上学園生なんだから!

【笑星】

「準備は積みに積んだよ! だから――紫上学園おれたちらしく、全力でッ、いこう!!!」

【学生】

「「「ッ――オーーーー!!」」」

【笑星】

「全力で選び抜いた分、全力で学びに行こう!!」

【学生】

「「「オーーーーー!!!!」」」

【信長】

「ふふっ……ははは――!」

【四粹】

「まったく……末恐ろしい――」

【笑星】

「やりきれば、勝利だ!! 悩み抜いて頑張ってきたお互いの為に、自分の為に、紫上学園の誇りに懸けてッ――」

 思いっ切り、腕を上げる。

 誓いの雄叫びを。

【笑星】

「ッ――!!」

 ある光景を視界に映しながらも……最後までッ、

【笑星】

「――戦い獲れええぇえええええええええええええええ!!!!!」

【学生】

「「「オオォオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!!!!」」」

 やり通す――

 これが、貴方が取り戻してくれたもの、だよね。

【笑星】

「……そうでしょ――鞠会長?」

vsmari

【鞠】

「…………」

 もうソレで終わりにすればよかったのに……。

 何故そこで私の名前を響かせる。

【男子】

「ッ……!? か、会長だって――」

【女子】

「ホントだ、会長が居る!!」

【男子】

「帰ってきたのか、会長――!?」

 あぁああ折角私出ないで済むかもとか軽く期待しかけてたのにー……結局私視線に刺される……。

【深幸】

「割と良い感じにまとまってたのになぁ……ま、やっぱお前が立たなきゃいかんだろ」

【鞠】

「まあ……そうですけど」

 これ以上の柔軟なアドリブを雑務に求めるのは私の心によろしくない。

 故に、後ろ端っこに体育座りをやめる。前へと、歩く。

【信長】

「か、会長――!!」

【四粹】

「……お疲れ様です。本当に」

【鞠】

「今は会見中です。そういうのは後にしてください」

【信長】

「何か準備することは!」

【鞠】

「ありません。マイクさえあれば取りあえずは」

【四粹】

「では……どうぞ壇上へ。笑星さんより」

 階段を昇る。

 その間、いつもの儀式。

【鞠】

「はぁ~~……」

 邪魔なモノを総て、溜息で追放する。

【笑星】

「……おかえり」

【鞠】

「…………」

 マイクを、受け取る。

【鞠】

「……ただいま」

 雑務が小走りで下に降りていったのを見てから。

 流石にもう見慣れてきちゃってる第2学年の連中へ、事務連絡。

【鞠】

「失礼、遅れました。紫上会会長砂川です」

【学生】

「「「おおぉおおおおおおおおおおお――!!!!」」」

 ……そのリアクションはこの文脈ではおかしくない?

【ババ様】

「モテモテじゃの☆」

 シャラップ左眼。叩いて黙らせる。

【鞠】

「途中注意事項で雑務より連絡があったと思いますが、大輪志望者については、本日この後開く最終個別相談会受講のうえ、元々のその志望ルートに行くことを許可します」

【安倍】

「――!!」

 沸き立つ。

 ……まあ、行きたい人はホント、ガチで行きたかったんだろうからね。こればかりは喜んでもらっても構わない。流石に文句を云われるよりはマシ。

【鞠】

「各自の大輪総てのルートにてお世話になる相手全員に挨拶は済ませており、許可を得ている状態ですのでその辺りの心配は不要です」

【深幸】

「凄えなほんとお前……」

【鞠】

「ただし、景観はある程度復興されていてもまだ戦後直後です。注意事項にもあった筈ですが、空気を読み、また受け入れる心構えをお忘れなく」

 ああまだ眠い……えっとそれから……。

【鞠】

「自由行動枠は、他スケジュールで訪れる場所の範囲内で消費することを強くオススメします。全然復興とか着手できてないエリアもあるので、戦後の雰囲気を感じる等の目的で訪れるのも良い学びになるでしょうからアリにはアリですが、その際には紫上会や教員の誰かに相談した上で、充分に気を付けていくこと。無論、後の相談会で触れてもらって構いません」

 これぐらい、かな。

【笑星】

「激励! エール!」

 ……え、ソレ貴方が完璧に済ませたじゃん?

 これ以上私が何を云う必要、あるの??

【深幸】

「最終相談会なんだから、気持ち良く締めろー」

 無理云わないでー……。

【鞠】

「えっと……」

【学生】

「「「…………」」」

 何だろう、この視線……。

 ずっっっと欠席してたんだし、可成り鋭いものは覚悟してたんだけど、何かそういうのとは違う気がする。いや、視線の種類とか意味不明だから、気のせいでしかないんだろうけど。

 何か、眠気覚めるレベルで調子狂うな……ああもうっ。

【鞠】

「以上。私が伝えるべきは以上です」

【笑星】

「えー……」

【鞠】

「……紫上会は、やれることはやりました。いつも通り、舞台は整えました。故に後は、いつも通り各々自由にするといいでしょう。個別相談会対象者は食堂集合」

 はい終了っ。

 気味が悪かったので私は早々に退散した。

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