9.32「スク水のおばあちゃん」

あらすじ

「若いのに、色んなものを背負って。楽しいことに目も振らず、辛く苦しい時間を、耐え抜いてきたんだね」砂川さん、店舗訪問。スク水のお婆ちゃんが登場するってなかなかインパクトある文章ですよねな9話32節。

砂川を読む

vsmari

Day

11/18

Time

13:30

Stage

燻牆村

【鞠】

「はぁ~~~~……」

 摩耗が甚だしい。

 予想済みだから大丈夫……なわけもなく、案の定私の心、大ダメージ。

【汐】

「鞠ぃ、お姉ちゃんちょっと疲れました。もっと疲れてるご自身の為にもここらで休憩しましょうよー」

【鞠】

「んな暇あるか……はぁ~~……」

【汐】

「鞠ー、言葉遣い言葉遣い」

 どんだけ心が荒れようと、私は止まるわけにはいかない。客観的にみて大輪の復興速度は奇跡に近いものがあるだろうが、主観的にはまだまだ遅れている。

 もっと、焦っていいはずだ。もっとペースを上げて回るべきだ。

 そんなわけで私は、とある村にやってきた。

【在欄】

「燻牆村……人口200人にも満たない、実質的に限界集落な区分か」

【汐】

「今まではスーツを着たお偉いさん達ばっかり挨拶してきましたけど、流石に此処にはそんな人居なさそうですねぇ」

 私が今やっているのは(一方的な)復興活動に間違いないのだが、抑もの動機は修学旅行のルート確保。ゆえに私にとって本番の作業といえるのは、ルート回復の要といえる、企業先との再提携。

 具体的且つざっくりと云い換えるなら、私の有難いであろう復興活動を目の前で見せつけて、これを修学旅行当日まで頑張ってあげるから、その代わりに予約通りに修学旅行に附き合ってくれとお願いすること。

 まず1番に見せつけるべきは、その企業のトップクラスの方々。彼らの大半は元々私が一峰の令嬢というのを考慮していた。それに加えて、私自らが一峰の全勢力を揮って全力で大輪の復興に携わっている壮大な事実。これで断ろうものなら、私に嫌われる……ソレを彼らは非常に恐ろしく思う筈だ。物質的に復興されたなら、彼らにコレを断る価値ある道は無いだろう。

 復興するにあたって都会を最優先したのは、そういうとこにお偉いさんは集まるからでもあった。ということでもう既に彼らへの挨拶は済ませてある。狙い通りの反応を戴けた。あとは各地、すなわち我ら紫上学園の修学旅行生が直接お世話になるお店へと挨拶回りする。

 これは私の予想だが、このステップについてはお偉いさん達のように上手くはいかないだろう。何故なら、各店舗の営業だけ考えていればいいスタッフの方々は私が一峰の令嬢なことを知らなくて当然だからだ。幾ら私が目の前で復興スキルを見せつけて物質的に彼らを助けることができたとしても、心情的に戦後な彼らにいきなりお店を開けてくれなんて云って大丈夫なんだろうか、という恐怖があるからだ。下手すれば滅茶苦茶怒られる。

 まあそういう時には何だかんだでメイドが盾になったり何故か矛になったりして、何だかんだで何とかなってるんだけどね。役に立ってるのか判断しがたいメイドのサポートもあって、今のところ全勝。予想は外れていないものの、外界との関係が一度遮断され孤立状態に陥った彼らの中には、いきなりの非日常に疲弊しながらも復興と外客への意気が燃えたぎっていた。ああいうのも商魂ってやつなのかな。お陰で意外にも何もかもが好調だった。

 とはいえ私がコミュ障なことには変わりないので、いきなりの営業挑戦と変わらずの臥子への燃料投与で疲れまくってる。帰ったら寝まくってやる。

 で、続いてはこの燻牆村だ。

【汐】

「此処は……見たところ、ノーダメージですね」

【在欄】

「…………」

 大輪全域が壊滅、なんてニュースが口走ってた憶えもあるが、実のところはそういうわけでもない。便宜上、そう云うのが都合も良かったのだろうが、全域は総ての町村という意味ではない。

 都市周辺の町は随分酷い有り様だったが、一方この村のように全く戦火に巻き込まれなかったところもあるにはある。

 ただまあ、電磁波は漏れなく蔓延してたので、機体さんはしっかり配りましたけど。

【機体】

「――――」

【じいちゃん】

「このデカブツ、いつまで居るんじゃろうなー」

【じいちゃん】

「あれから全然動いてないの」

【鞠】

「……臥子、アレはもう片付けていいです」

【臥子】

「オーダー・アクセプト。消失実行」

【機体】

「――――(←消えた)」

【じいちゃん】

「……んん? あれ、デカブツは?」

【じいちゃん】

「役目を終え、あるべきところに還ったんじゃろう。次は……俺の番かもしれんの」

【じいちゃん】

「嘘をつけ、萩田さんはもう5年はくたばらんわい!!」

【じいちゃん】

「山根さんの死に顔なんざ拝みたくないのぉ。せいぜいあと10年は頑張ってなぁ」

【じいちゃん】

「んじゃ、今日も日課をやりますかのー萩田さん。ランニング、10kmといきましょうやい」

【鞠】

「…………」

 村の真ん中で体育座りしていた異文化過ぎる機体が消えたけど、村の人々は大して気にしていなかった。合掌してる人はちらほら居た。

 というかこの村の人達、ほぼ限界集落というだけあって年齢層が半端なく上だけど、全員スク水を装着して健康なことをしていた。健康なのは、別にいいんだけど……

【鞠】

「……何で、女子用……いや、まずツッコむべきはそこじゃ……」

【在欄】

「時間が圧しているんじゃなかったか、砂川鞠くん」

 後ろから指摘が来たので、一旦村の景観は忘れることにする。

 訪れたということは、私は修学旅行の関係上訪れなければならない人がいる。

【鞠】

「農作のところすみません。お訊ねしたいことが」

【じいちゃん】

「んお? おお、お外の人かの、しかも若いの! いらっしゃい!(←スク水)」

 スク水……いや、そうじゃなくて……。

【鞠】

「こちらにスク水職人の方がいらっしゃると聞いたのですが、どちらにいらっしゃるか御存知でしょうか……」

【じいちゃん】

「蒼権院ロザリアさんなら、こう行って、ああ行って、こうじゃ!(←スク水)」

【鞠】

「……ご親切、感謝します……」

 それ、本名……?

 …………。

【汐】

「此処ですねー、何と云うか質素」

 案内された通りの道順で向かったら、一軒辿り着いた。

 他の家と大して変わらない、ボロボロの木造建築。広さは……ミマ島でお世話になったあの空き家に似ている。

 だが此処は当然無人ではなく、國宝の居るアトリエだ。

【汐】

「ごめんくださーーい(←開ける)」

 メイド、ノックも無しにごめんくださいを云う前から玄関扉を開ける。この人は果たして私と同じ種なんだろうか。

【在欄】

「……店だというなら、それらしい外装の1つもあるだろうが」

【汐】

「ド田舎ですしねー。抑もどうやって、世界中にスク水を届けてたんでしょう」

 と会話しながら2人とも勝手に靴を脱いで上がっていく。これが武蔵大四天王クオリティなのだろうか。

【ババ様】

「主役は鞠じゃろ、ほら2人に遅れるでない」

【鞠】

「……私がおかしいのだろうか……」

 疑問はやまないが、私と臥子も靴を脱いだ……。

Stage

ロザリアの工房

【女性】

「……そっかぁ……大切にするんだよ、貞子。短かろうと長かろうと、大事なのは命尽きる時に、隣に誰が居るかだから」

 リビングっぽいところを覗いたら、普通に人がいた。女性だ。

【女性】

「お前を想ってくれる、その為に海を渡り戦ってくれる友達が居るなら、絶対に貞子は幸福な子さ、お婆ちゃんも最高に安心」

 誰かと、電話をしている。

 その何処をみてるのか分からない、僅か仰角の表情は、見ているこちらも安心を覚えるかのように、兎に角安堵というべきものに包まれていて。

【女性】

「よかった。貞子にそんな友達が居て、それなのにお婆ちゃんを忘れない広く優しい孫娘を持てて、この歳になってもお婆ちゃんは喜び尽くしだ――」

 もう既に手遅れって感じはあるが、とても邪魔できる雰囲気ではなくて――

【女性】

「――?」

 ――あ、ヤバ、バレた……。

【汐】

「ちょっと、どうするんですかこの雰囲気ぶち壊しの状況」

【鞠】

「貴方が先陣を切ったんでしょうが……! 何とかしてッ」

【在欄】

「これからこちらの國宝殿に用があるのは砂川鞠くん、君だけだ。故にこの岐部在欄らは大して気にする必要もない」

【鞠】

「先陣切った癖に……ッ!」

【女性】

「ふふ……噂をすればってやつかね、お客さんのご到来」

 が、私の予想を裏切って、不法侵入者に女性は笑った。

【女性】

「それじゃ、貞子……いつでも待ってるよ、ゆっくりおいでね」

 受話器を置いた彼女が、立ち上がり、此方を向く……。

【女性】

「ようこそ、我がロザリアのアトリエへ――!! 営業中長電話していて申し訳なかったね。どうぞお座りください」

 いや、普通の家じゃん……四畳半の和風なリビングじゃん……。

 とかツッコむ前にやることがある。

【鞠】

「えっと、こちらこそ無断で入ってきて申し訳ありません。普通に玄関から靴脱いで上がってきてしまったんですが……お店への入り方として合ってましたでしょうか」

【女性】

「畏まっちゃって、若いのにー。この通り、商売気のたいそう薄い村なんでね、昔はもうちっと活気もあったんだが、若いのがどんどん外出てっちゃって」

【在欄】

「貴方がシルバー國宝認定のスクール水着職人・蒼権院ロザリア殿か」

【女性】

「如何にも! といっても、國宝の仕組みはよく分かってないんだがね。村興しになってないならあんまり意味も無い肩書きと思ってるが」

【汐】

「いえいえとんでもないですよお婆ちゃん、その肩書きをチラつかせるだけで高単価の仕事が勝手に来るんですよー。具体的には、世界中の水泳授業を設ける学校からオファーが来ます。調べましたよー、お婆ちゃんのスク水ってデザインも独特で、何より潜在効果っていうのがウリなんですよね?」

【鞠】

「……潜在効果?」

【汐】

「そのスク水を着けてると攻撃力が+5、的な」

 水泳において攻撃力が+5されることにどんなメリットがあるのか分かんないけど、凄いことは取りあえず伝わった。

【蒼権院】

「確かにお電話戴くことはあるけどねぇ、その学校さんの生徒さん皆が攻撃力+5を望んでるわけじゃないんだなぁこれが。この蒼権院ロザリアはね、1人ひとりに完璧に見合ったスク水を創り上げるを大切にしたいのさ。だからそういう濫りな大量生産のお願いはお断りしてるんだねえ。せめて各学生さんの要望を送ってくれないと」

【在欄】

「この岐部在欄の持つ情報の限りでは、ロザリア殿の後継者は見つかっていないようだが」

【蒼権院】

「必要無いさそんなものは。私自身スク水というのは好きじゃない。組織的っていうか、集団意識だか何だか知らないけど若い子たちの1番大切な時間は、やっぱり好きな服を着て好きな人と一緒に全うすべきだ」

【在欄】

「にも関わらず、その道を選んでいるのか」

【蒼権院】

「現実はどうやら、集団意識の為に学校の制服だけじゃなく水着まで統一するらしいからねぇ。だったらせめて、この水着が若い子たちを縛るものでなく、背中を押せるようなものであってほしいってね。気付けば60年経ってた」

【在欄】

「不器用なものだ。しかし揺るぎない魂。この岐部在欄は感服の限りだ」

【蒼権院】

「変な子だねー」

【鞠】

「…………」

 会話の内容から、もう確定でこの人が、私の用あったスク水職人さんってことでいいんだろう。

 で……この人は会話の内容も参考にして、あの人のお婆ちゃんってことで……少なくとも還暦はいってるってことで。

 ……還暦?

* * * * * *

【安倍】

「柏陽町出身なんだけど、近くにあるんだ、その村が。だからお婆ちゃん子だった。パパママの仕事の都合でこっち移って……最後にお婆ちゃんに会いに行けたのがC等部後半。それからは家族共々忙しくて機会が無くて。そうしていくうちに……電話越しでもお婆ちゃん寿命来てるなって分かってきて、何とか会いに行きたかったんだけど……」

* * * * * *

【鞠】

「(寿命……どの辺が、寿命……?)」

 見た目も精神も若すぎるんだけど……! この人何歳!?

 30代と云われても私は納得できるぞ……! 美魔女ってやつかな!

【蒼権院】

「……さて、本題に移りましょうかね、お客殿」

【鞠】

「…………」

 まあ……私が問うべきは勿論そこじゃない……。

【鞠】

「…………」

 私が欲しい言葉は――

【鞠】

「――どうでしたか」

【汐】

「ん……?」

【在欄】

「…………」

【鞠】

「…………」

 ――って、それでもないし私!

 それ1番どうでもいいことだし私!!

【汐】

「え、その質問何なんです、ざっくりしすぎじゃないですか?」

【鞠】

「いや、すみません、その――」

【蒼権院】

「――よかったよ」

【鞠】

「……!」

 意味不明であろう唐突の問いに……美魔女はすんなりと答えた。

【蒼権院】

「砂川鞠ちゃん、っていうんだね。孫娘から聞いた」

【鞠】

「……そう、ですか」

【蒼権院】

「私は1度お電話で話したぐらいだが……凄い頑張り屋の女の子で、学園のトップであるために、学園のために、際限もなく頑張り続けることのできる、立派な女の子」

【鞠】

「え、いや、ちょ……」

【蒼権院】

「今回だって、大事件で疲弊した大輪大陸を、修学旅行を控える皆の為に助けようと休む間もなく動き回ってるらしいね。貞子は良い友達を持った」

【鞠】

「いや友達じゃ――」

【蒼権院】

「会長殿のお陰で、私はまた貞子と繋がることができた。……感謝は絶えない」

【鞠】

「…………」

 頭下げられて訂正するタイミングを失った……。

【汐】

「鞠、冴華ちゃん以外にちゃんとお友達居たんですね」

 コイツには後で訂正パンチ入れておこう。

 もういいや……居たたまれないので、早く用件を済ませよう。

【鞠】

「……それで、その孫娘さん1人だけだと思うんですが、貴方のアトリエに修学旅行でお邪魔したいと考える学生がいます。事実上戦後状態の大輪大陸の中でかような願い事は無理も承知ですが……」

【蒼権院】

「かったいねえ。此処は戦火には巻き込まれちゃいない。安全に来れるっていうなら、私に断る理由は何一つありません。安全は……会長殿が作ってくれてるんでしょう?」

【鞠】

「……そう云っていただけると有難いです」

 これで――私が最も中心にあった指標は達成されたわけだ。

 私の、勝ちだ。

【蒼権院】

「……優しい子だ」

【鞠】

「……?」

 頭を下げていた私を……何故か美魔女さんは優しく、撫でてきた。

【蒼権院】

「若いのに、色んなものを背負って。楽しいことに目も振らず、辛く苦しい時間を、耐え抜いてきたんだね。孫娘には、とてもさせられないね」

【鞠】

「……彼女から、どれだけ……」

【蒼権院】

「たっくさん。ぶっちゃけ、お婆ちゃんの心配よりも会長殿の紹介の所為で長電話さ」

 あんのクラス委員……っ。何勝手に……。

【蒼権院】

「――懺悔もしてたね」

【鞠】

「…………」

【汐】

「懺悔……? 鞠、何か酷い事でもされたんですか?」

【在欄】

「真理学園出身の転入生となれば、多少なりともそれを始点とした問題は予想できよう」

【汐】

「あー……ん、何で在欄くん、鞠があそこ出身って知ってるんです」

【在欄】

「多少調べれば出てくる」

 ソレは滅茶苦茶大問題なんだけど……。

 あとで問い詰めよう、永劫隠すべき私の過去の為に。

【蒼権院】

「私はその、元いた場所のことは知らないが、結局大事なのは今の姿さ。会長殿の今の姿が、学園にとっての総てさね」

【鞠】

「…………」

【蒼権院】

「充分、頑張ってきた……なら、今はもう気負わなくともいいだろうに」

 撫でる手が、やまない。

【鞠】

「(……ん……)」

 何だろう、この手は。

 知らない。

【ババ様】

「…………」

【蒼権院】

「肩の力を、抜くといいよ。人生、先はまっっだまだ長いんだから」

【鞠】

「(……これは……)」

 これは――

【蒼権院】

「貴方はもう、沢山の恵みを手に入れているのだから。ね?」

 ――魔女の手、か。

【鞠】

「……そういう、わけにはいきませんので……」

 頭を上げる。緊急性の高さ故に。

【鞠】

「私は、何としてでも、大輪のルートを確保しなければならないのでっ」

 兎に角言葉を並べる。せめて己だけでも守る為に。

【鞠】

「だから――休みません。他でもなく……私、自身の為に」

 弱味に、付け入れられるわけにはいかないのだから。

 覇者でないといけないのだから。

 私は――

【蒼権院】

「……守って、あげたいが」

【鞠】

「ッ……?」

【蒼権院】

「今しがた顔を合わせたばかりの一老人には、何もできまいよ。だから……この立派な子の為に、隣に居てあげるんだよ、メイドさん」

【汐】

「あ、メイドの概念はご存知なんですね。勿論ですよお婆ちゃん、私は抑も鞠のお姉ちゃんですからね」

【在欄】

「君は彼女の姉ではないだろう」

【汐】

「在欄くん、部外者はお黙りんこです」

 いや、貴方だって部外者扱いしたいんだけど。

 この人がこの先ずっと隣に居るとか有り得ない。心因性でハゲるの20年早まりそう。

 というかだ……抑もその枠は最初から、埋まってるじゃないか。其処には――

【鞠】

「(――いや……)」

 現れなくても……構わない。

 私の隣は、危なすぎるんだから。今のこの状態では、隣に居られた方が私、ハゲそうなんだから。

 ……ダメだ、今はこんな考え込みそうなこと、考えるな。営業中だ。

 ああ、でももう終わったのか……じゃあお暇しないと――

【蒼権院】

「さて、どんなお礼を私は為せるかねぇ……」

【鞠】

「え? お礼……?」

【蒼権院】

「とても頑張っている会長殿たちに、何か見舞わねばねえ。そうだ、ちょっと採寸していい?」

【鞠】

「いえ、ほんとお構いなく……」

 ていうかまさか私のスク水作る気か……っ。

 紫上会権限で水泳授業オールサボりを決め込むほど水着が恥ずかしい私に、事もあろうにオーダーメイドをお見舞いすると……っ?

【鞠】

「お、お暇しましょう、臥子」

【臥子】

「姉様、貰えるものは貰っておいた方が」

【鞠】

「貴方いつからそんな貪欲な価値観備えたんですかッ?」

【在欄】

「単純な人形では詰まらなかろう(←犯人)」

 ちょっと大掛かりなアップデートというか修理した方がいいかもしれないこの子、色んな人に影響受けすぎ。

【蒼権院】

「ん……ちょい待ち、その子……いわゆる裸コートじゃないかい」

【鞠】

「う……」

 な、何でそんな特殊めいた概念まで知って……ッ!

【鞠】

「その、この子は服があまり、いや相当好きじゃなくて、できれば肌を露出していたい子なんですっ。それがなければ服着せまくるんですがっ」

【臥子】

「服は好ましくありません、姉様」

【蒼権院】

「へー……ん、でもコートは着てるじゃないか」

【鞠】

「裸で歩かせたら即行で補導されるので……!」

 苦しい云い訳にしか聞こえないだろうが、実際これは嘘ではなかったりする。

 というのも臥子は、國宝である雑務の父親がイップスを乗り越え造り上げたらしい新進気鋭の新作人形。その拘り抜いた現実的な容姿の一方で、綺麗を維持する為に太陽光を浴びることで空気中の二酸化炭素と水を皮膚で取り入れて汚れを除去してついでに酸素も出す光合成システムが搭載されている。これが國宝の技術かとマニュアル見て感動した。

 が、今は機体化したことで事情が違っている。今の臥子は、太陽光と水と二酸化炭素の代わりに私の悪魔的な霊素を使って光合成……もうこうなるとただの霊素転換だけど、それにより汚れの除去を行う。抑も臥子は機体である以上私の霊素によって活動しているので、実質的には常に活動と同時に新品化していることになる。

 ただ今になっても変わらないのが、根本の物理デザイン――いってしまえば皮膚呼吸という点だ。口呼吸とかしない分、遙かに私達人間よりも臥子は肌を露出することを重要視せざるを得ないのである。

 ってことでこの大掛かりな復興作業中、一応だぶだぶのコートを着せてはいるものの、実質裸状態で歩かせるしかないのである。以上のことを納得してもらえるかは別として説明する羽目となった。

【蒼権院】

「へぇ、光合成みたいなもんか。じゃあ気孔はしっかり確保しないとねぇ」

【汐】

「うっそ、納得しちゃうのお婆ちゃん……!?」

【在欄】

「人生経験の差というやつだろう」

【蒼権院】

「だがしかし、それではこの身だしなみ社会では幾分苦労することだろうね。可哀想に、生まれる時代が合わなかったね」

 いや、ほぼどの時代でも全裸はアウトだと思う……。

【臥子】

「ふーは、このコートをうざったく思います、姉様」

【鞠】

「お願いなので我慢してください」

【臥子】

「オーダー・アクセプト……」

 ちょっと悲しそうな顔しないで、なんて芸達者な人形なんだろう。

 人工生命というかAIというか、そういうのってもっと機械的な性格をイメージするんだけど、初日の夜までに画伯一体何したの……。

【蒼権院】

「――よしきた!」

 と、人形の心について哲学しそうになってたところ、美魔女が声をあげた。

【鞠】

「え……?」

【蒼権院】

「せめてもの恩返し、に及ぶかは分からないがね。貴方の妹さんの日々を押す、そんなスク水を今から作ろうッ!!」

【鞠】

「え……!?」

【蒼権院】

「妹さん、採寸しようか、ちょっとこっちに――」

【臥子】

「????」

【鞠】

「え、ちょ、えーー……!?」

 ちょ、私達まだこの先スケジュール詰まってるんですけど……!!

【蒼権院】

「蒼権院ロザリア、一芸一芸に、魂を宿そう――!! あっははははははあはははははは……ッ!!」

【鞠】

「ちょ、連れてかないで――臥子ーーーー!!!?」

 クラス委員ッ、やっぱりこの人まだ寿命遠いってばーーーー!!!

~ 2時間後 ~

【汐】

「お茶、美味しいですね~。普段はコーヒーとエナドリなんですけどね」

【在欄】

「環境によっても飲食の適応か否かはあるだろう」

【汐】

「この田舎でコーヒーはちょっと黒すぎますかねー」

【鞠】

「なんてッ、のんびり寛いでる暇は無いんですけどッッッ!!!」

 何この地獄のタイムロス!!

 美味しいけどおぉおお……お茶は美味しいけどおぉおおお……!

【ババ様】

「まあまあ鞠、こうなっては仕方無い、この村の雰囲気というのをじっくり楽しむしかない」

【鞠】

「ババ様はただ単に色んな景色が見れて楽しいだけでしょ……」

【ババ様】

「ここ数日はウッキウキが止まらない」

【在欄】

「随分焦りを感じているようだが、実際そう致命的ではなかろう。寧ろ今までが過剰にピッチを上げていた」

【鞠】

「その保険が今こんなどうでもいい局面で消費されまくってるのが辛いんですが……」

【在欄】

「残り店舗数は僅か、修学旅行ルートの安全確認も非常に順調だろう。何が砂川鞠くん、君をそれほどに焦らせている」

【鞠】

「順調なのはそのノルマだけでしょう、ノルマは最低ライン、そこは突破して当然なんです。そっからなんです」

【汐】

「つまり、何処まで大輪全体の復興率を稼げるかってことですね」

【在欄】

「おおよそ、紫上学園の為だけに復興活動をしたとなれば、それを見方によっては非難する者も充分に考えられる故といったところだろう」

【鞠】

「その通りです……本番はそっちなんです……」

 なのにこんなところでえぇぇぇ……。

【汐】

「まあまあ、私は依然分かってないですけど、ふーちゃんは皆勤賞ですから。たまには労ってあげても罰は当たらないですよきっと」

【鞠】

「全部終わった後でやるつもりだったのに」

【在欄】

「しかし、光合成ならぬ霊素合成か。つくづく解せない力を有しているものだ、君ら姉妹は」

【汐】

「私は普通の天才です、奇抜なのは鞠だけです」

【在欄】

「汐くん、君は含んでいない」

 私自身も結構まだ解せないってところが1番ヤバいんだけどね。

 何がヤバいってこの霊素の出所が未だ詳細不明――

【蒼権院】

「お待たせー」

【鞠】

「ッ! やっと解放され――」

(画)

 ……………………。

【鞠】

「あれ……光ってる……?」

【汐】

「それどころか僅かに色が流動的ですよ! このスク水……生きてますッ!!」

 それは大袈裟だと思うけど、そう思いたくもなる、私の知るスク水の、いや衣服の常識を打ち破る未知のデザイン。

 コートを脱いだ臥子は、それを今纏っていた。もう全裸じゃない。なのにこの尚更凄まじい、異様な感じ。顔文字っぽいのは可愛い。

【蒼権院】

「やったね、これで堂々お外歩けるよー臥子ちゃん」

【臥子】

「コートとおさらばです」

【鞠】

「いや、今冬スタートしてるしソレで歩き回るのは……」

【臥子】

「…………(><)」

【汐】

「あ、色が沈んだ……」

 色が変わった。

 ……いやどういうこと!?

【在欄】

「どうやら……その水着は、臥子くんと何らかの形で連動しているようだ」

【蒼権院】

「その通り! 臥子ちゃんに見合うスク水を考えたうえで、搭載した潜在効果は3つ! 臥子ちゃん、スク水を着てるけど、呼吸状態はどんな感じだい?」

【臥子】

「極めて良好です。コートが、無い分」

【鞠】

「……外では着せますけどね」

 あ、また色と模様が沈んだ……。

【蒼権院】

「スク水の耐久性を半永久に設定しつつ、通気性を極限まで高めた「呼吸ブースト」! そして、臥子ちゃんがこれから先ずっとオシャレな気分も楽しめるように、臥子ちゃんの感情と連動しつつもデザインが常に流動する「ノーエンドデザイン」!」

【汐】

「この人はRPGゲームから異世界転生してきたんじゃないでしょうか……?」

【在欄】

「國宝認定される人間はたいがいそういった種だ」

 私とこの人一緒にしないでっ! 2時間で何したらそんなの造れるの!?

【汐】

「あれ……そういえばあと1つは?」

【蒼権院】

「1つはー……ふふ、あえて秘密にしておこうかな。臥子ちゃんには、伝えてるけどね。とびっきり、1時間半を用いて落とし込んだ潜在効果」

【在欄】

「その1つを教えてもらおうか、臥子くん」

【臥子】

「……秘密です」

 色が仄かに赤くなった。

【鞠】

「……何だろう……臥子が、どんどん私の管理の及ばない方向に行ってる気がする……」

【ババ様】

「一大事じゃのー!! ババ様こういうの大好き!」

【鞠】

「私大嫌い……」

 この心の正しい遣り場は分からないけど、決めた……。

 帰ったら兎に角あの孫娘に文句云いに行こう――

【鞠】

「(全然元気じゃんか、もう……)」

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