9.31「生存確認」

あらすじ

「でも……やっぱり皆、鞠会長こと、気にしてるみたい」笑星くん、できることをやります。台詞の数的に信長くんごめんなさいな9話31節。

砂川を読む

vseboshi

Time

18:00

Stage

紫上学園 外

 ……今日も、相談会が終わった。

【笑星】

「お疲れー!」

【信長】

「ああ、お疲れ!」

【深幸】

「お疲れさん」

【四粹】

「お疲れ様でした」

 会長の抜けた、相談会。それは予想できた通り、だいぶ回転率が落ちていて大変だった。

 果たしてちゃんと上手くできているのか、不安になる。

【信長】

「……だいぶ、進んだな今日は」

【深幸】

「昨日はアイツのことで皆集中できてなかったからなぁ。1日経って、多少は意識が戻ってきたって感じか」

【四粹】

「リストを見る限り、ほぼ総ての対象者の滑り止めは完成しつつあります。最終相談会までに間に合わせることは、本日のペースを保つ前提であれば難しいことではありません」

【深幸】

「そのペースを保てるかどうかが難しいところなんすけどねー」

 ……でも先輩たちは、笑っていた。疲れつつも。

 その理由は訊くまでもないことだと思う。もうこの紫上会が発足してから7ヶ月が経ってるんだ、皆のことも、俺は分かってる。

【笑星】

「……鞠会長に、ちょっとは褒められるかも?」

【深幸】

「それはねえだろ」

【信長】

「ないな」

【四粹】

「ありませんね……」

 やっぱりそうか、と皆で笑い合う。

 一致団結の証。

 怖がる必要なんて無い。今の俺には、強い先輩たちが居るのだから。

Time

20:00

Stage

紫上会室

【笑星】

「……今は、ね」

 ここ数日は、夜この場所で、俺は1人になる。

 1人というのは寂しさもあるけど、少なからず価値のある時間だと思う。

 先輩たちが居るということ、皆が助けてくれるということの大切さを。俺単体はまだまだひ弱ということを。

 俺は、忘れたくないから。

【笑星】

「よーし、頑張るぞー……!!」

 いつもの、会長になるための準備に入る。今最も俺がやらなきゃいけないもの。

 たとえ紫上会活動の山場である、修学旅行で大きな困難にぶち当たっていようとも、それは変わらない。俺は毎日、欠かさない。

 進めるだけ、進むのだ。

【笑星】

「……理系はちょっと、分からないことだらけなんだよなぁ」

 分からないことノートを、開く。作り始めた9月頃に比べて、滅茶苦茶リストが増えてしまった。数学と理科が圧倒的に多い。

 ……そしてコレを鞠会長に教えてもらうまでスルーするわけだけど、スキップした先がスルーしたやつの応用だったりするので、結局スルー連発。これはもう進んでるとは云わないよね。

 だから、いっそ分からないことが溜まりすぎた理系科目は鞠会長が帰ってくるまで手を着けない方が良いと思った。代わりに、文系科目を沢山進めよう。

【笑星】

「……歴史、いってみようかな」

 ひ弱なままではいられない。

 未来を信じて、俺は今日もちょっとでも実力を上げる――

Time

23:00

 ……ニュースアプリを見てて、俺は思いついた。思いついたといっても変わったことをするわけでなく。

 確信をもって、通話ボタンを押せるようになったってだけ。

【笑星】

「……………………」

 ……………………。

【鞠】

「― はい砂川です ―」

【笑星】

「ほ……」

 ……確信があっても、不安は拭いきれない。だから、安心の吐息も出ちゃう。

【鞠】

「― ……昨日生存確認してるんだから、分かりきってるでしょうに ―」

【笑星】

「倒れる時はいきなり倒れちゃうもんなんだよ。鞠会長、いきなりだったでしょ」

【鞠】

「― ………… ―」

【笑星】

「お疲れ様、鞠会長。今日もいっぱい、ニュースが騒いでたよ」

【鞠】

「― どんな内容でしたか ―」

【笑星】

「よく分かんなかった。大々的に取り上げてる割には、曖昧っていうかさ。誰が何をやってるのかーとか、全然言及してない」

【鞠】

「― まぁ、情報規制かましてますし ―」

【笑星】

「やっぱり……鞠会長、6月の時にもナチュラルにマスコミ操作してたよね。どうやってるの?」

【鞠】

「― 貴方には到底できない業です。忘れてください ―」

 なかなか教えてくれない、ケチな鞠会長。

 よかった、いつも通りだ。

【鞠】

「― で、生存確認はできたでしょう? この電話、もう切っていいですか ―」

【笑星】

「いやいや、もうちょっと情報共有とかさ、しようよ。個人的にはたわいない会話もしたいけど、鞠会長疲れてるだろうから自制する」

【鞠】

「― ……まあ、確かにソレはやっておいた方がいいか……ていうか、今日はあの人、居ないんですよね? ―」

【笑星】

「この時間だしねー。俺は紫上会室に居るし。鞠会長は?」

【鞠】

「― その情報はそちらには必要ありません ―」

【笑星】

「厳しい……えっと、安倍先輩はあれから見てないなぁ。今日は相談会にも来てなかったっぽいし。鞠会長、あの人と仲良いの?」

【鞠】

「― 良いわけないでしょ ―」

【笑星】

「だよねー。安倍さん、割と落ち込んでるように見えたよ。自分の無責任な発言の所為で会長が、なんてさ」

【鞠】

「― まぁその通りではありますけど ―」

【笑星】

「でも、ちょっと……嬉しそうにも見えたかな。完全に俺の勘だけど」

【鞠】

「― ……なら、アテになりません。あの人の話題を共有するのに価値もないでしょう ―」

【笑星】

「冷たいなー。じゃあ……他の皆のことについて、かな」

【鞠】

「― 相談会の調子は ―」

【笑星】

「玖珂先輩は好調って云ってるよ。ほぼ皆、代替ルートが完成しつつあるから。でも……やっぱり皆、鞠会長こと、気にしてるみたい」

【鞠】

「― 気にしてるのは私でなく大輪のコースでしょう ―」

 ……やっぱりそう捉えるんだよねぇ。

【鞠】

「― まぁ、副会長がそう評価しているならいいです。しかし念のため、各学生のコース案、全部私に提出してください。休憩の時に眺めます ―」

 鞠会長は、紫上学園を信用しない。まとめて敵だと明示している。

 ……これを覆すことは、紫上学園流で云えば、「覇者」にしかできないと俺は思ってる。

 だから尚更、俺はソレにならなきゃいけないんだ。

【笑星】

「先は長いなぁ、ホント」

【鞠】

「― 何がですか ―」

【笑星】

「何でも。それより……休憩の時とか云ってたけど、鞠会長休憩なんてあるの? ずっとロボット動き回ってるじゃん」

【鞠】

「― こちらの事情は大して知らなくていいです。怖くなってくるぐらい好調に進んでるっていうことぐらいで ―」

【笑星】

「因みにだけど、あのロボット鞠会長の仕業っていうの紫上学園にはもう罷り通っちゃった」

【鞠】

「― ……は!? 何で?! ―」

【笑星】

「実質俺がバラしちゃった感じかも……まぁ、鞠会長が大輪に飛んでるーってことぐらいしか話してないつもりだけど、それで充分推測可能だもんね。何てったって鞠会長だもん」

【鞠】

「― ざ~つ~む~…… ―」

【笑星】

「お、怒らないでよー……鞠会長も、その辺口外禁止とか云ってなかったじゃん。ていうか皆ホント会長のこと気にしてたし、せめて無事かどうかぐらい伝えておかないと皆相談会どころじゃなくなってたよ」

【鞠】

「― ぐぬぬぬぬぬ……また、私の平穏が遠ざかったッ…… ―」

 機嫌を損ねちゃった……。

【鞠】

「― はぁ~……もう、いいです……で、相談会は順調そうですけど、紫上会室に居るって事は勉強しているのでしょう? そっちの調子は ―」

【笑星】

「順調の真逆をいってます」

【鞠】

「― この多忙が終わったらペースを上げる必要がありそう ―」

【笑星】

「俺もそんな気がするー……理系は分かんないノートが充実し過ぎて行き詰まってるから、文系ばっかりやってる。この判断、まずいかな?」

【鞠】

「― いえ。タイムロスが最も避けねばならない無駄ですから、その方針で構いません。文系もですが、理系は私完全監修でいきます ―」

【笑星】

「なら、安心。ありがとー、鞠会長」

【鞠】

「― ……契約上やむないことです。それよりも、文系……特に地理と歴史はその分しっかり進めておいてください。無論解説見ても分からないと思ったことがあればメモして先へ進むように。兎に角問題集メインで、用語集と教科書を据え置く、これ以外やらないように ―」

【笑星】

「分かった!」

【鞠】

「― じゃ、そろそろ…… ―」

【笑星】

「たわいのない話をしよー!」

【鞠】

「― しないんじゃなかったの…… ―」

 ……鞠会長は何だかんだ云いつつも、附き合ってくれた。

 十数分ぐらいの電話。

 これが今の期間における俺の、夜の1番楽しみな時間だった。

 ――明日も、しっかり、繋がりますように。

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