9.30「覇者である為に」

あらすじ

「貴方の話を聞かなければ……こんなことやるつもりなかった」砂川さん、ぼやきます。案外砂川さんも勝負脳なのかもしれなかった9話30節。

砂川を読む

vsmari

* * * * * *

【???】

「――どうしてだ?」

 ――声が、聞こえる。

 真っ暗だ……此処は、何処なんだろう。クラクラ、する。気持ち悪い。

 上下左右が分からない。前後も、よく分からない。

 寝転がっているような。でも、水の中にユラユラ浮いているような気もする。

【???】

「…………**……教えてくれ……**を、殺してしまったのは誰だろう。***担当****たちか? 或いは、****……****も***しまった***か――?」

 そんな中で、ユラユラと、何かが、聞こえる……。

 言葉だと理解する。でも殆ど聞こえなくて。

 気持ち悪くて。

【???】

「後は、任せたよ**。時間だ……*は……**に渡らねば**ない。沢山の**たちが、**の仕事を***いるのだ」

 コレは、何なのだろう。

 知っているような。知らないような。

 知ってるならソレは、つまり……

【鞠】

「私の――何処かの、記憶――」

* * * * * *

Time

19:45

Stage

???

【鞠】

「――ぅ――」

 ……意識が、覚醒する……。

 ってことは、寝てたってことだけど……何かを見ていた気もする。

【鞠】

「(夢を、見た、ような――)」

 もう見たかどうかもハッキリ覚えていない。

 だったら内容も思い出せるわけがない……考えるだけ無駄、だろうけど。

【鞠】

「…………」

 ちょっと、気になっていた。後味が悪いというか、変に引っ張られるというか。

 何だろう……この、感情は。

【臥子】

「姉様」

【鞠】

「!」

 話し掛けられる。前方、というか目の前に頭があった。

 臥子だ。臥子の頭。私はどうやら、彼女を抱き枕にして寝落ちしてたみたいだった。ごめん。

【臥子】

「着信音が、鳴り響いています」

【鞠】

「え……ああ――」

 そうか、このバイブがあったから私は、起きたのか。

 あったかい臥子を抱いたまま、ポケットの中のアルスを取り出し、自立させずにクイック着信。受話をとった。

 相手は――

【笑星】

「― ! もしもし会長!! ―」

 ――雑務だ。

 ってことは……成功、してるんだな。よかった。

【鞠】

「生存確認ですか」

【笑星】

「― よかった~……43回目の発信に流石に心折れかけてた…… ―」

【鞠】

「いや、もっと早くに諦めてくれてもよかったのに」

【笑星】

「― 諦めた時は俺が大輪に渡航する時だから ―」

【鞠】

「お疲れ様です、なので来ないで」

 履歴凄いことになってそうだなー。

 とか思いながらも、私はちょっと、心が舞っていた。今のところ何の失敗もしてないってことがこの電話で改めて実証されたからだ。いや何の失敗もするつもり1ミリも無いけどね。

【鞠】

「繋がるってことは……残留電磁体の除去と電波塔の設置は上手くいっているということ」

【笑星】

「― 凄すぎるよー、会長!! これでだいぶ、安否確認とかしやすくなるよね! ―」

【鞠】

「まあ、そうですね。まだ全域というわけにはいきませんが――」

【???】

「― もしもし、会長さん!? ―」

 声の主がいきなり変わった。

【鞠】

「えっと……誰ですか」

【安倍】

「― クラス委員の安倍だけど! ―」

 ちょっと予想外の人来たな……。

【鞠】

「……何で貴方が、夜中に雑務と一緒に居るんですか」

【安倍】

「― 会長に安否確認仕掛けるとか云ってたから、駅ビルの中で一緒にいた! ―」

 それはまた周りの人からしたら変な2人に見えただろう。43回もめげずに通話ボタン押してる2人だもん。あんまり騒いでないことを祈る。

【鞠】

「そうそう、今こうして電波繋がってますけど、貴方の祖母のところはもうちょっと待ってください。後醍醐町の隣に電波塔建て直しますんで、それまで――」

【安倍】

「― どうして!!! ―」

 耳に大ダメージ。そういうテロほんとやめて。お陰でシャッキリ目が覚めた。

【鞠】

「……何が、どうして、ですか」

【安倍】

「― どうして……こんなこと、するの ―」

【鞠】

「…………」

【安倍】

「― 私、云ったよね!? 会長も分かってたよね、これは「仕方無い」ことだって、だから……皆が何とか修学旅行を済ませられる状態に持って行ってくれたなら誰も会長のことを責めないッ! 現時点で凄い頑張ってくれてる会長を誰も……なのに、どうしてそんな、有り得ないことしてるの!? ―」

【鞠】

「…………」

【安倍】

「― 出来っこない、大輪復興を……学生1人で、なんて! ―」

 それを、今どこかの駅ビルで叫んでると思うと……ちょっと怖い。補導とかされないか心配になる。当然それを指摘できる空気でもない。

 真剣に応えるべき文脈なのだろう。といっても……私からすれば「はぁ?」な話であるけど。

【鞠】

「ソレを挑発したのは、他でもなく貴方でしょう?」

【安倍】

「― ……え? ―」

【鞠】

「貴方の話を聞かなければ……こんなことやるつもりなかった」

 本日の午前を思い出す。

 パパが呼び寄せてくれた、私の考える精鋭たち。彼らは私をどう見ただろう。きっと、今日に限っては一峰の令嬢としてよりも……。

 化け物と、見ただろう。

【鞠】

「貴方が、他の人を支えてあげてとか、云うから」

* * * * * *

【安倍】

「他の皆の為に、頑張ってね」

【鞠】

「…………」

【安倍】

「私は……会長さんが選んでくれたやつを、頑張って楽しんでみるから。私みたいな莫迦じゃなくて……諦めずにルートを考えられる皆を、支えてあげて。じゃないと、文句とか云われちゃうかもよー」

* * * * * *

【鞠】

「それつまり、私じゃ貴方を救えない、的な意味でしょ。挑発じゃないですか」

【安倍】

「― は、はぁ……!? そう取るの!? ―」

【鞠】

「いいですか、確かに最低限の状態に持って行くよう頑張ってましたけど、ソレで満足する覇者が一体何処にいますか。私は私のために、覇者でなければならない。その為に……貴方なんぞに負けてる暇は無いんですよ」

 総てを勝ち飛ばしてこそ、まさに覇者だろう。

 ならば徹底する。最適解を目指す。当然だろう。

【鞠】

「貴方は、大輪の祖母に会えれば修学旅行に満足してくれるんでしょう? 貴方だけじゃない、大輪にしかないモノを何よりも求めた人達がきっと居る。その人達に応えることができないなら、ソレは紫上会会長として、私の敗北と同義じゃないですか」

【安倍】

「― …………………… ―」

【鞠】

「それと……」

 イラッとしたのでもう1つ指摘を。

【鞠】

「出来るわけないとか、仕方無いで思考停止して諦めて時を待ってる貴方は、雑務から話聴いたんでしょう? だったらせめて諦めるのを諦める、ぐらいのヤケクソすればいいのに」

【安倍】

「― ッ……! で、でも…… ―」

【鞠】

「その学生1人……厳密には私だけじゃないですが、その勢力で現に1つ、電波塔が完成してるんです。女潤は景観的にはだいぶマシになってきましたよ。1日目にしては超絶上出来でしょう? これでもまだ、無理とかほざきますか」

【安倍】

「― ……会長、さん ―」

【鞠】

「……貴方だって、屈服させてみせる。私は繊細なんです。貴方たちに弱味なんて、見せてたまるものか」

 ちょっと、喋り過ぎたか。

 こんなに喋ってる暇があるなら、もっと頑張らないとね。

【鞠】

「際布都エリアの電波が通るのは、明後日を予定しています。テキトウに楽しみに待ってればいいです。切ります」

 切った。

 ……やば、雑務のこと忘れてた。まぁ明日どうせまた掛けてくるだろうし、生存確認自体は達成してるから大丈夫だろう。

 さてと……

【鞠】

「ん~~……(←背伸び)」

 両腕を天に伸ばす。因みに今、その辺にあった大岩に背を預けて座り込み、臥子を抱いてる状態だった。

【臥子】

「…………」

 臥子は私が寝落ちしてる間も、しっかり働いているようだった。

【鞠】

「……終わったら、何か美味しいものでもご馳走するべきか」

【臥子】

「シュークリームで」

 設定した覚えのない設定が増えていた。

 やったのは画伯かな……。

【鞠】

「よりによってシュークリーム……」

【臥子】

「ライジングサンのシュークリームが、ふーの大好物です」

【鞠】

「……食べたことあるんですか」

【臥子】

「汐に戴きました」

【汐】

「呼びましたー?」

 こんのメイドいつの間にそんなもの食べさせてッ。

 てか人形だけど食べられるんだ……設定した覚えのない私のイメージに従ったのか、それとも元々この國宝の手掛けた人形に食物摂取の機能が備わっていたのか。

【汐】

「起きたんですね、鞠。朝まで寝てればよかったのに」

【鞠】

「今まだ19時台でしょう。早過ぎる」

【汐】

「早くても休んで良いくらいに、鞠は今日頑張りすぎています。私はまだまだ元気ですが」

【鞠】

「……抑も貴方が来る必要、無かった筈なんですけど」

【汐】

「私を置いて行かせるわけ、ないじゃないですか」

* * * * * *

【鞠】

「あ、初台さんちょっと……」

【初台】

「え? どうしました、お嬢様――」

【鞠】

「お力貸していただきたく……(←ハグ)」

【初台】

「!?!?!?!?」

【鞠】

「グッ……――? ……えっと、ありがとうございました……」

【初台】

「お、お嬢様が……」

【鞠】

「え?」

【初台】

「お嬢様が私にデレたーーーーーー!!! 汐さーーーーーん!!!」

【鞠】

「何故呼ぶ!?」

【汐】

「何ですとおぉおおおおおおおおお!?!? 初台さんこの私を差し置いて何をやったんですかああぁあああああああ!!??」

【鞠】

「来ちゃったよ……。……そういえばメイド、貴方武蔵大で機械工学専門でしたっけ」

【汐】

「え? そうですよ、このお姉ちゃんその気になれば現存するあらゆるIT設備作れますよ」

【鞠】

「……え、それ学生のレベルじゃ――」

【汐】

「私は武蔵大四天王ですから☆ 材料さえあればアルスとか独りで部品作ってプログラミングして完成させられますし。鞠は知らなくて当然ですけど、武蔵大に私専用のアトリエあるんですよ。最早工場です。そんなことより鞠、初台さんにデレたという事件について詳しく――」

【鞠】

「……貴方が100万人いたら、大輪ひと町の通信設備とか完備できるってことですか」

【汐】

「はい? そんな仮定考えたこと一度も無いので分かりませんけど……って、鞠その格好、外出ですか……? 普通に補導時間帯ですけど――」

【鞠】

「事前知識として……やむなし……(←ハグ)」

【汐】

「!?!?!?!?!?!?!?」

【鞠】

「ッ……じゃあ……私、今からしばらく大輪に行ってくるんで――」

【汐】

「――へ――え、ま、鞠!? ちょ、鞠ーー……!?」

* * * * * *

【汐】

「あのハグ、初台さんやお姉ちゃんへのデレ、その直後戦地へ赴く鞠、そこから導かれる先の展開はただ1つ……鞠の死亡フラグです。私は砂川家メイドとして、お姉ちゃんとして、そのフラグをへし折る為に同行しないわけにはいかなかった……」

【鞠】

「何もかも誤解なんですけど」

 貴方の知恵を何処まで信用したものか分からないけど、専門家たちのエリートな知恵をまとめて共有していただく前の抵抗削減には使えるよねって思った末の判断だし。

【汐】

「またまた誤魔化しちゃって~。本当は鞠、お姉ちゃんのこと好きなんですよね~。だから暫く離れなきゃいけないことに苦しみを感じて、あんな顔になってたんですよね」

【鞠】

「……あんな顔って?」

【汐】

「普通に苦しそうな顔。」

 ……それは、“機能”に慣れてないからというか。メイドに抱きつかなきゃいけなかった残酷な選択ゆえというか。

 それに……欲しくもないモノもついでに流れてくるから、というか……。

【鞠】

「……貴方には私の“機能”、ちゃんとバラした筈なんですが」

【汐】

「ですね。まさかこのお姉ちゃんにそんな大事なことを隠してるなんて」

【鞠】

「貴方が私の専属ボディーガードだったということを私も知らなかったんですが」

【汐】

「鞠は知ろうとも思ってなかったからいいんですよ。でも私は鞠のことは何でも知りたいんですよ。だから、隠されていたのは結構ショックです。ふーちゃん其処代わってください、私が慰められる番なので」

【鞠】

「退かなくていいです」

 ……確かに、私はメイドのことなんて知りたいとは思わない。

 だから……メイドのことを知ってしまったのは、間違いなく私の汚点だ。

【汐】

「抱きついた相手の知識や技術を勝手に自分のものにもしちゃうんでしたっけ。ズルいですねガチで。私の十数年の努力の賜物を濫用しちゃってもう」

【鞠】

「…………」

 一見確かに、いや何度分析したって結論として、この“機能”は護真術的にインパクトが薄いってこと以外は凄まじいチートだろう。

 しかし、有能な家政婦たちに、別荘に集まっていただいた専門家たちに何度も試すうちに……私は、違和感を抱くようになっていた。

 コレは、完璧に欲しいモノを限定できるわけではない、ということだ。

【鞠】

「……貴方は、私よりも遙かに資料作成が上手なんですね」

【汐】

「はい? ……え?」

【鞠】

「(……メイドの、この技術は……)」

 知らなくてもいいものまで、知ってしまう。

 矢張り私の平穏を、中々に乱してくれるわけだこの“機能”は。

【汐】

「……鞠、私の何を……共有したんですか?」

【鞠】

「別に、今濫用してるやつばっかです。はぁ……(←抱きつく)」

【臥子】

「…………」

【汐】

「ナチュラルにハグハグした……羨ましいッ……ふーちゃん、そんなに抱き心地いいんですか? 私と大差無いでしょう、同じ女の子なんですし」

 武蔵大浪人常連らしいけど貴方いま何歳なんだ。

【鞠】

「単純に、暖かいんです。臥子にはカイロ機能もインプットしましたから」

【汐】

「鞠、周りへの説明を諦めないでください」

 コレは復興とは何ら関係無い、ただ単に私が今みたいに外で頑張る時の寒さ対策ってだけ。11月の夜は流石に寒い。

 因みに今、頑張ってると表現したが、私はまったり休んでるわけではない。今だって本当に、相当に頑張ってるのである、燃料消費的にずっっと。

【汐】

「説明っていうと……そろそろ鞠、お姉ちゃんに分かるように説明してほしいんですけど」

【鞠】

「何をですか」

【汐】

「鞠の実施している大輪速攻復興プロジェクトです。鞠は一体、何をやってるんですか?」

 機体に乗って、渡航してる時はメイドもババ様並みに燥いでたんだけど、流石に空を覆うレベルの数の機体には絶句していた。そしてソレを私が瞬時に生産したり消したりして、臥子と一緒にオペレートしてるのにも絶句していた。

 分かるように説明するのを諦めていいなら、説明できるかもしれない。

【鞠】

「パパ曰く、一峰は大輪行政さんにもお友達いっぱい居るってことだったので、行政指示ってことで行政に届いている各町についてのデータを総て臥子にインプットさせました。私も臥子を通してそのデータを全部頭に入れてます。それはつまり総ての町の、どんな建物が建っているか、建っていたか、道路はどんな感じか、水道設備はどうなってるのか、等を把握していることに等しい」

【汐】

「…………」

【鞠】

「その上で、それら町を復興させる為に必要な知識および技術を持つ、プロな人達を各町役所が調べ上げて、うちの別荘に行ってもらうよう呼びかけることを行政指示。これにより集まったプロな方々に私は片っ端から“機能”を発動する。これにより、私はそれぞれの町を復興させる為に必要な知識および技術を手に入れたことになり、これを臥子に総てインプットする」

【汐】

「…………」

【鞠】

「また、行政指示でこれから大輪復興の為の合同団体が一気に復興作業に入ることを無理矢理各町に頷かせ、基本的にロボットが頑張る為にだいぶ外の光景が暫く物騒になるということを民衆に周知することも指示。これにより、下準備が完成します」

【汐】

「…………」

【鞠】

「それからは実質臥子の領分です。私はひたすら、大きさや技術など各町の復興に特化したスペックの機体を造り出し一峰が用意した材料や工具・機材などを持たせて派遣、臥子がその機体たち総てを同時にオペレートする。臥子も機体も、人間ではない。よってヒューマンエラーを起こすこともなく、確実に延々と復興作業を進めることができる。数時間働けば疲弊し判断力も鈍る人間による工事と比べれば、その速度は一目瞭然」

【汐】

「…………」

 まあ、行政指示の届かない、南湘エリアの町とかは全くを手を着けられないんだけど、そういう怪しいところは修学旅行のルートには全く含んでないので私としては問題無い。

 まず、損傷の激しすぎる3都市を優先して無理矢理復興させる。その3都市についてはFBによる最効率建築様式を奨励していたのもあるので、その様式で無理矢理押し通す。元の姿に戻す復興というよりは、リフォームに近い。

 だがそんな素材の次元で無個性になることを良しとしない町も勿論沢山ある。特に和都のあの独特な景観は、機械の手では難しい。だから臥子のような人型の機体を造り出す必要があり、可成りイメージするのに手間取った。数百万の機体を同時に処理している臥子に比べたら霞むのは認めるが、私だって各町のデータ見ながら、どんな大きさや形状の機体を大量製造すべきかっていうのをまとめた上で形にするの結構大変なんだから。

 まだ着手すらできてない町だって多い。着手できてないというのは、抑も機体をまだ造れてないから。私の貧困な想像力が思いっ切り足枷になっているのだった。

【鞠】

「……ってことです。これで理解したことにしてください」

【汐】

「お姉ちゃん理解できてません」

 もっと足手纏いなメイドはそれを自覚して私に余計な苦労を背負わせないでほしいものだ。

【汐】

「何が理解出来ないって……行政指示っていうのは兎も角、鞠がロボットを大量製造してるところですよ。それって、勿論“機能”ではないんですよね? だったら……」

【鞠】

「……そこは引っ掛からなくていいです」

【汐】

「引っ掛かりますーー!!」

 騒いでる暇があるなら何か食べ物とか飲み物とか持ってきてほしいものである。

【???】

「……騒いでいるだけでは、邪魔になるだろう。汐くん」

【鞠】

「…………」

 私の心を代弁しながら、人間が現れた。

【在欄】

「騒音で眠れないと町々から声が上がってきている。引き際だ、砂川鞠くん」

【鞠】

「……もう8時か……」

 確かに、その辺はあんまり考慮できてなかった。老人やら幼子やらはもうグッスリしたいかもしれない。赤ちゃんにも優しくないプロジェクトだ。

 まあ、その辺の処理は各町で頑張ってもらおう。それくらいは働いてもらわないと。

【鞠】

「臥子、作業のキリが良いと思われるタイミングで機体の活動を停止させてください」

【臥子】

「オーダー・アクセプト。停止率……1%……2%……――」

【在欄】

「岐部在欄だ。大輪民衆の良質な睡眠確保のため、プロジェクトの初日進行を停止させる。今、機体が作業の丁度良い段階で次々と停止していると思われる。明日になれば再び動くと思われる為、作業現場には一切誰も手を触れないようそちらから各町役場に周知させてほしい」

【鞠】

「……今、誰に電話したんですか」

【在欄】

「大輪の行政機関に勤めている知人だ」

 四天王ヤバいなホント。

 そしてそっちのメイドと違って、求めてもないのに有能な働きぶり。

【鞠】

「和都とかの建築の世界観とか色々詳しいってことで此処に呼ばれたのは分かりますけど、もう貴方の仕事ノルマ終わってますよ」

【在欄】

「自身の活動は自身で決める。砂川鞠くん、君と同じだ」

 また似た者扱いされた……ッ。鳥肌ッ。

【汐】

「在欄くん、フリーダムですから。云っても聞きませんよー鞠。でも滅茶苦茶仕事できる人ですから、サポートしてくれるとなると私並みに優秀です。据え置いといていいかと。鞠と臥子ちゃんとロボットのことは据え置きませんけどねッ!」

【在欄】

「砂川鞠くんはその点を話す意思を持たないようだ。追及しても無駄だろう」

【汐】

「そうは云いますけど、在欄くんだってどうせ、鞠のこのビックリドッキリなウルトラスペックに興味あるから残ってるんでしょー?」

【在欄】

「違いない」

 やっぱ武蔵大に帰ってほしい。できればメイドも連れ帰ってほしい。

【在欄】

「しかしその追及により砂川鞠くんの集中力を乱し、本プロジェクトの作業効率を落とすことは、少なくともこの場の誰も本望ではなかろう。聞けぬなら眼差し推測に励むがいい、汐くん」

【汐】

「……それは正論ですけど……」

 疑念を抱くのは2人だけじゃない。

 大輪の誰もが、人間色の無い従業員たちに不審感を抱いていることだろう。そんな奴らに、復興を任せていいのだろうか、と。

 ……それを考慮している暇は私には無い。お互い、何の不利益もない筈だろう。だから、戸惑うことなく続けよう。

【鞠】

「……女潤系統のルートを、回らないと」

【在欄】

「修学旅行の話だったか」

 今日のメインは、さっきメイドにズラズラ述べたような下準備を完成させることと、女潤都エリアの為の電波塔を設置すること。

 本格的に建物を直したり再建したりは明日からが本番。やるのは臥子だけど。

 私の仕事は機体製造に加え……人と、会うことだ。

【鞠】

「ああ怖……ちゃんと上手く会話できればいいけど……」

【汐】

「今の猪突猛進な鞠の方が遙かに怖いから大丈夫ですよ……はぁ~」

【鞠】

「…………」

 ……かもしれないね。

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