9.03「暗闇3」

あらすじ

「でも、心配なんだよね」世界、停止その3。今までにない規模の二重展開は今は理解できなくて大丈夫だと思います9話3節。

砂川を読む

* * * * * *

【ニュース】

「番組の途中ですが、緊急ニュースをお送りします。大輪大陸の複数地域にて団体による破壊活動が勃発しています。また、人体に強い影響を及ぼすほどの強力な電磁波が大陸間に発生しているとWKBが発表しており、大輪大陸との交信、また渡航も不可能だとし全便を緊急運休にする指示を発令しました。繰り返します――」

 私はその瞬間には立ち会っておらず、後で動画サイトにあがってたやつを見たんだけど……10月下旬の夜、全國にそのような速報が流れた。

 また、それと同時か、少し遅れてか、詳しくは覚えてないけど革肥……いやスカタ中に聴いたことの無いアラート音が公共スピーカーを通して響き渡った。メイドが調べた。このサウンドは、何処か我々の関わりうるところで開戦というものが起きた時に発せられる警報だった。

 「大輪大陸は戦争状態に入った」。

 全世界に関わりがあるといっていい規模。故にスカタどころじゃない、毘華や彩解の都市の人々も、私と同じ音をその時聴いたのだろう。

 一体何が起きているのか? 何と何が戦争をしているのか?

 当然皆同じ事を疑問に思う。抑も、大輪に戦争の影なんて無い……と大半の人々が思っていただろう。何故なら、毘華大陸には複数の「国家」が存在していて、それらが衝突するというケースは考えられる一方、大輪はそういう治安ではないからだ。大輪の各地域が争うようなことが起こっているとは、どうしても考えにくい。大輪における行政状態や治安に常に目を光らせてきた専門家さん達が特にそう主張しているのだ、本当にその可能性は薄いのだろう。

 そして、大輪の一部地域でなく、大輪全体と表現するのが丁度良いってぐらいに複数地域での治安崩壊。更に、大輪を囲むように海域に突然出現したらしい極めて強力な電磁波が、我々外の大陸の住人のあらゆる干渉を阻害し、危険な状況っていう以外何一つ把握のできない現状。本当に蚊帳の外、指を咥えて想像力を働かせながら行く末を待つしかできないのである。

 ……まあ、私は1つ、これだけのデカい事件を引き起こしうる存在を知ってるんだけど。

【鞠】

「回世……協会……」

 もし連中がコレをやっているのなら。

 その相手は。

 大輪で最も戦火に塗れているかもしれない場所は――

【鞠】

「先輩……」

 アルスの電話帳を開く。

 そこには先輩の電話番号が登録されている。

 だけど、コレはもう繋がらない。

 文化祭の前後で、何度もかけた。相変わらず理不尽に晒されている私の愚痴を聞いてもらいたいなって思って、いつもの夜中な時間に。

 でも、もう繋がらない。

【アナウンス】

「― お掛けになった電話番号は存在しません。電話番号をお確かめ―― ―」

 「存在しません」――だそうだ。

 機械の癖に、巫山戯ないでほしい。

 そんなわけはないのだ。今までその電話番号で、私と先輩は繋がっていたのだ。

 なのに……私にとっては突然といっていい、他アドレスも含めて「存在しません」。

 私は――先輩と繋がる手段を、失ってしまったのだ。

* * * * * *

【笑星】

「……井澤先輩、大丈夫かな……」

【鞠】

「…………」

 雑務が呟いた。

【笑星】

「大輪ってことは、勿論優海町も含まれてるよね。真理学園も」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「鞠会長、先輩と連絡先交換してるよね? 繋がる……?」

【鞠】

「開戦してからは誰も繋げられないでしょう」

【笑星】

「……その前は?」

 最近の雑務は、妙に鋭いところがある。

 私を刺しに来てるのだろうか。やめてほしいって思うけど……今は彼らも、ババ様の解釈を前提にするなら世界中の人々も、危険な状況。足掻くための情報共有は基本だろう。

【鞠】

「……繋がりません」

【信長】

「え……?」

【鞠】

「私の知ってる総てのアドレスが、「存在しない」ようです」

【深幸】

「な――何だソレ、機種変するにしても契約変更するにしても、普通継承はされるもんだろ、電話番号は特に」

【鞠】

「それは普通の人の事情です。あの人には適用されない」

 ……そう、普通の解釈で彼らの状況を見てはいけない。

 どうせ無駄なのだ、いつもそうだったのだから。

【鞠】

「今の時期、彼処の3年は修学旅行に入ります。あの人は何処か辺境にでも旅してたんでしょう。それで電波が届かなくなった……とか」

 9月頃はまだ、「存在しません」ではなかったわけだし。

 ……それ以上の推測は何も出来ないけど。

【笑星】

「…………おかしい」

 だけど、雑務は何かに引っ掛かっていた。

【深幸】

「どういうことだ、笑星?」

【鞠】

「何がおかしいんですか」

 私は密かに期待したかもしれない。私の見落としてるところを、鋭い彼は何か見つけたのでは――と。

【笑星】

「おかしいよ――鞠会長」

 でも残念。違った。

【笑星】

「何で鞠会長は……ここ暫く、変わらず紫上学園で過ごしてたの?」

 彼がおかしいと思ったのは、私のことだった。

【鞠】

「……どういう……こと」

【笑星】

「井澤先輩は、鞠会長にとって大事な人なんでしょ? 俺たち紫上学園とは違って……だったら、繋がらなくなったなら――」

【ババ様】

「行方を捜すのが、普通じゃな」

【鞠】

「……………………」

 ああもう。

 何でそんな、鋭いの。そんなどうでもいいところでさ。

【四粹】

「……会長」

【鞠】

「…………」

 貴方はやっぱり、私のこと嫌いなんだろう。そうなんだろう。

 悪くない。普通に痛い。私を虐めるにあたって実に良質な角度から突いてくる。

* * * * * *

【笑星】

「……悲しい曲、だったね」

【鞠】

「……それは……大将戦の」

【笑星】

「うん。俺知らない曲だったけど……茅園先輩曰く、シュークリームの専門店のCMソングだって」

【鞠】

「楽しい曲、だと思いますけど」

【笑星】

「悲しい曲だよ。だって鞠会長、武蔵大の時にも思ったけど――楽しそうじゃないんだもん。さっきのは……寧ろ、辛そうだったじゃん」

* * * * * *

 あの時と同じ、恐怖感。拒絶感。

 貴方が変わるべきは学力だけなのに。

【笑星】

「どうして……?」

 どうして貴方は、そんなに私を理解してるんだ。

【鞠】

「……あんなところ、行きたくもありませんから」

【信長】

「会長――」

【鞠】

「それに、一体誰と戦ってるのかは知りませんけど……あの人が負けるわけがない」

【笑星】

「…………」

【四粹】

「確かに……短い時間相対しましたが、それだけでも感じ取れます。全國大会ファイナリストという肩書きではまだ足りないほどに……彼は底知れない」

【鞠】

「そういうことです。だから……心配するだけ無駄。心配して何か行動を起こそうものなら、それが先輩たちの行動を阻害することに繋がりかねない」

 だから、私の選択は、正しい。

【笑星】

「でも、心配なんだよね」

 にも関わらず……私は何か、揺さぶられているような気がする。

 雑務の言葉が、痛い。

 怖い。

【鞠】

「……心配してると云えば、毎日してますよ。今に限らず」

【笑星】

「…………」

【鞠】

「あの人はずっとボロボロですから」

【笑星】

「…………」

 視線が……何かを追っている。

【鞠】

「…………」

 私の何かを、追い詰めている――

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