9.28「元気で」

あらすじ

「俺は、鞠会長がやろうとしてること……賛成したいけど、それ以上に今は反対したい」砂川さん、旅の時。こっからは理解をスルーして流し読みでも構わない気がする9話28節。

砂川を読む

【鞠】

「――ってこと、なんですけど」

 やると決めたら、のんびりはしていられない。私史上、1番焦ってるかもしれない。ほんと時間が無い。

 なので急いで渡航しなきゃいけないのだけど、その前にやることが幾つかある。

 それらを丸ごと解決できるショートカットがあるとしたら、それはこの電話だ。正直上手くいくとはあんまり思ってない――

【兵蕪】

「― ……分かった、何とか話を通してみよう ―」

 ――が、その予想を裏切るリアクションが即座に届いた。

【鞠】

「……頼んでおいてなんですが、即決過ぎませんか……? どうなんですか、ソレ」

【兵蕪】

「― だって鞠ちゃんからのお願いなんだもーん!! パパとしては何としてでも聞き入れたいわけで ―」

【鞠】

「ホントどうなんですかソレ」

 時間帯的に酔ってるのかな。

【鞠】

「パパ、云っておきますが私本気ですよ」

【兵蕪】

「― 分かってるよ。鞠ちゃんは、冗談とか云わないタイプだもんね ―」

【鞠】

「…………」

【兵蕪】

「― 前にも云ったよね。一峰の跡を継ぐという君の道は、パパがパパの為に用意したものでしかない。だから鞠ちゃんも、鞠ちゃんの為に、自由に物事を選びなさい ―」

【鞠】

「……親目線ってやつですか。それに沢山の人が巻き込まれるわけですが」

【兵蕪】

「― 鞠ちゃんは娘目線ではなく、一峰目線で僕を頼ってくれたんだろう? そんな鞠ちゃんなら分かっている。鞠ちゃんがやろうとしているのは……一峰時期当主としての資質を世界から評価される、本番の舞台を自分で用意するということだ ―」

【鞠】

「勿論、責任問題にも目は向けているつもりです。しかし……これ以上、収穫が無い状態を眺めているわけにはいかない」

【兵蕪】

「― それは、何が判断しているんだい? ―」

【鞠】

「一峰の品位……といいたいところですが、これは完全に一峰とは無関係な、私の環境みちの問題です」

【兵蕪】

「― はははっ、そっか! まあ、パパはこれでも鞠ちゃんを全面的に信頼しているつもりだからね!! 娘がどんな結果を世界に齎すか――期待させてもらうよ ―」

【鞠】

「……適宜細かいお願いを聞いていただきたいこともあると思うんですが、その時は誰に?」

【兵蕪】

「― 普段全く掛けてきてくれないパパに掛けてくれると嬉しい ―」

【鞠】

「忙しいんじゃ……」

【兵蕪】

「― 通常業務どころじゃないからねぇ、部下の仲間達が張り切ってくれて、パパ寧ろ暇 ―」

【鞠】

「分かりました。じゃあ……まずは、大輪のあの別荘に」

 ――通話を終えた。

 微妙に緊張したが、無駄だったようだ。

【ババ様】

「電話の内容からして……もう具体的な流れを想定してるんじゃな」

【鞠】

「現実で実行するんだから当然です。まあ……元ネタの9割はあのゲームですけど」

 つまり準備面でも現実的とは云いがたいわけだが。

【鞠】

「……臥子。貴方の知識を、共有します」

【臥子】

「…………」

 臥子に、ちょっともたれ掛かるようにして抱きしめる。

 ……疲れた頭に、今度はイメージとはまた別なモノが押し寄せてくる。

【鞠】

「……ッ……」

 やっぱり、気持ちは良くない。

【鞠】

「……まだ……足りない」

 これではまだ、目的を達成することは絶対にできない。

 だから――まずは、別荘に。

【鞠】

「……行く前に」

 今回は忘れなかった。

 もう1度、電話を掛ける。相手は別だけど。

 ……………………。

【笑星】

「― もしもし、鞠会長?! ―」

 何か慌ててるようだった。

【鞠】

「はい、私ですが……どうかしたんですか」

【笑星】

「― それはコッチの台詞だよ! 鞠会長から電話掛けてくるなんて……明日雪でも降るんじゃ的な衝撃 ―」

 気持ちは分からなくもないけど五月蠅い。

【笑星】

「― ふぅ……で、どしたの? たわいない会話? ―」

【鞠】

「んなわけないでしょ。この前風邪引いた時は腹立つぐらい怒られたので、今回は予め伝えておこうと」

 ……。

 …………。

 ……………………。

【笑星】

「― ………… ―」

 雑務が、黙りこくっていた。

 私の前で黙る雑務に、良い思い出は1つもない。

【笑星】

「― ……この前、俺云ってたと思うんだけど、さ ―」

【鞠】

「はい」

【笑星】

「― 何だか、鞠会長が……紫上学園から、俺の見れるところから遠ざかっていくような……そんな怖い感じが、最近してて ―」

【鞠】

「……はい」

【笑星】

「― 鞠会長、倒れた日あったよね。俺アレ、ほんと生きた心地しなかったんだ。その前には、怖い夢を見て、物凄く元気を無くしてる会長を見た ―」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「― ……ねえ、鞠会長。俺は、鞠会長がやろうとしてること……賛成したいけど、それ以上に今は反対したい ―」

 するつもりもないが、とても茶化せる雰囲気じゃないのが耳越しに伝わってくる。

 ……彼と、こんな空気を共有するだなんて4月には思ってもみなかった。

【鞠】

「……貴方がどれだけ反対していようと、関係ないことを貴方は分かっているでしょう。私は私の意思で、行くんです。だけど……一応責任は自覚してるつもりですから。だから……」

 何でだろ。

 何で私はさっきみたいに、緊張してるんだろ。

【笑星】

「― 紫上学園のことを、修学旅行生のことを任せる……ってことだよね。会長、しばらく帰ってこれないんでしょ ―」

【鞠】

「…………」

 どうして。

 私は……。

【鞠】

「まあ、見通しはたちません。しかし旅行ルートを確定させる期間中に帰るというのは……」

【笑星】

「― 本当に……本当に、行くの? 鞠会長は……ソレを選ぶの? ―」

【鞠】

「もう行きます。時間ありません」

【笑星】

「― ………… ―」

 沈黙。

 時間が無い中、これは間違いなく時間の無駄である。

【鞠】

「……もう、切っていいですか」

【笑星】

「― ……生存確認 ―」

【鞠】

「はい?」

【笑星】

「― 生存確認の電話、かけるから。夜中にかけまくるから。ソレに毎日、出て。繋がらなかったら、俺も行くから ―」

【鞠】

「…………」

 それが、彼の立てた答えか。

 ……相変わらず、莫迦なことを云う。本当に莫迦で。

 実に貴方らしい。

【鞠】

「……分かりました。でも忙しいに決まってるので、すぐ出れるとは思わないでください」

【笑星】

「― 我慢は得意だよ。昔から ―」

【鞠】

「……嘘つけ」

 貴方がゴネ出すと止めるのが面倒なことぐらい。ここ最近の勉強附き合いで貴方のことなど嫌と云うほど分かってしまったのだから。

 やれやれというか……。

【鞠】

「じゃ……あとは、よろしく」

【笑星】

「― ……鞠会長 ―」

【鞠】

「何ですか」

【笑星】

「― いってらっしゃい ―」

【鞠】

「……いって、きます」

 …………。

 電話を切った。

【鞠】

「はぁ……」

 何で、挨拶なんかしなくちゃいけないの。

【ババ様】

「……鞠は、笑星のことをどう思っとるんじゃ?」

【鞠】

「……は?」

 緊張を解いた瞬間にババ様が変な問いを垂直にぶつけてきた。

【鞠】

「どうって……敵じゃないですか」

【ババ様】

「ソレは分かって……いや分かってたつもりじゃったけど分からなくなってしまった」

【鞠】

「分かる分からないとかじゃなくて敵ですから。天敵」

【ババ様】

「…………」

【鞠】

「まったく……どうしてこんな、余計な心配を……ていうかこちらの優先順位まで乱すような真似を――」

 困ったものだ。

 それプラス、彼なんぞに慌てる不明な私にも困ったものだ。

 ……でも、まだいい。

【鞠】

「(仮に暴走しても、距離の開く今なら……)」

 あんな凄惨なことが起きるならば。

 せめて……貴方たちは。貴方だけは、絶対にこの手の届かない場所に居て。

【鞠】

「……さあ、行きますよババ様。お待ちかねのお空の旅です」

【ババ様】

「まさかホントのホントに実現する時が来るとはの」

 もうニュースになるとかそんなのも気にしてはいられない。一応報道規制もかますつもりでいるけど……。

 何より今は、やるのだ。覇者としての解を成すために。

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