9.25「無数の解」

あらすじ

「二心同体、同じ道を之くのだ。だから、鞠の喜怒哀楽を、ババ様にも共有させるのじゃ」砂川さん、お悩み中。そんな時は年長者に相談だ、な9話25節。

砂川を読む

Time

18:45

Stage

砂川家

【鞠】

「……はぁ……」

 溜息が絶えない。

 溜息が足りない。

 心が重くて、身体も重い。

【ババ様】

「……鞠……何か思い悩んでることがあるなら、ババ様が聞くぞ?」

【鞠】

「別に、悩んでいるわけじゃないです。割り切れてないってだけで……」

【ババ様】

「それは思い悩みに相当すると思うがの」

 無駄なことを駄弁るのは好きじゃない。

 ……解は既に得られている。ならば、解決可能と自分で判断している悩みを、その段階にも関わらず他人に話すことに、たいして価値はない。私はそう考える。

 ……もしかしたら今までずっと、どこかで気付いていたのかもしれない。どれだけ足掻いたって……って。世の中には、一人間ではどうにもならないことは沢山あるだろう。どうして私がそんなことで思い悩まなければいけない。

【鞠】

「仕方無い」

【ババ様】

「……安倍がよく云ってたことじゃな」

 自分の部屋に向かっていた足が、止まる。

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「……そっか。悩みは、ソレか」

 吐くなら溜息だけにしろというのに。何で言葉を吐く私。

 好きじゃない展開に、なってしまった。

【ババ様】

「ババ様同様に、引っ掛かってたんじゃな。安倍のことに」

【鞠】

「……ババ様とは、多分違います」

【ババ様】

「安倍が、祖母のところに行けない、安否すら分からないという状況に……云ってしまえば、同情を……いや、共感をしたんじゃないのかの?」

【鞠】

「……敵にどうして同情しなければいけないんですか。私が、考えたのは……勝敗について、です」

【ババ様】

「勝敗、とな? 何の?」

【鞠】

「書記みたいでちょっと嫌ですけど……常に私は、紫上学園という敵と戦っている構造、そう捉えることができます。私は弱みを見せてはならない。連中に嘲笑われる隙を晒してはならない。……ババ様には、分からなくていいことですけど」

【ババ様】

「……分からんの。鞠がどうして、そんなに皆を敵としているのかは本当に解せぬ」

【鞠】

「分からなくていいです。でも……今回、私は勝ってはいないってことです」

【ババ様】

「――?」

【鞠】

「体育祭でも、文化祭でも、一般学生の需要を一定以上満たすことが運営側……紫上会の重大な役目。無論会長たる私もその役目を全うしなければならない。私の隙を覆う名誉の為に……だけど、今回の修学旅行は……」

【ババ様】

「……総ての旅行生を、満足させることは端からできない、と」

 ソレは――通常ならば、負けだ。

 だけど今回についてはその判定に異議を唱えなければならない。

【ババ様】

「しかし、ソレは仕方無いじゃろ? 鞠は、大輪の地に渡りたかった者たちのことを、気にしているんじゃろう? だがソレは鞠の所為ではない」

【鞠】

「そうです。“仕方無い”んです。私がどうこうっていう問題じゃない。現在の大輪の治安は見積もっても修学旅行先としては見逃せない状態、故に私はグレイシャ島嶼群含めて他3大陸への旅行ルートを短い時間で何とか増設した、この判断は正しいに決まってる」

【ババ様】

「ババ様も、そう思うぞ。皆の安泰を守る、それは長の持つべき務めじゃ。鞠は、本当によく頑張った。それはババ様が1番見てきているから云えることじゃ」

【鞠】

「……だから……私は、負けてない筈、なんです」

 最適な解に従った。

 私の道は穢されるに達しない。

 …………なのに。

【鞠】

「……イライラする」

【ババ様】

「…………」

 何故仕方無いと、分かってくれないんだ。

 いつもの私ならすんなり受け入れるだろう――?

 何を……

* * * * * *

仕方ないこと

* * * * * *

 何を、私は迷っているんだ……?

 迷うも何も、一本道じゃないか。

【鞠】

「どうして私は止まってるんだ……どうして――」

【ババ様】

「……自分の何が分かる、と他人に己はよく云うが」

【鞠】

「――?」

【ババ様】

「己こそ、自分の何を分かっているかは、なかなか分からないものじゃよ。鞠」

【鞠】

「どういう、ことですか」

【ババ様】

よりを司りしこのババ様は、知っておる。この世のあらゆる時、あらゆる場所、あらゆる微細に、道は在る。鞠の道は……一本道なものか、今もなお無数に伸びておる。鞠よ、その目は総て見通せておるか」

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「最善なんて、分からぬよ。それができるなら人生は誰でもバラ色じゃ」

【鞠】

「私の選択は、最適じゃない……って、云うんですか?」

【ババ様】

「だから、考えすぎる鞠はそんなにイライラしてるんじゃろ」

【鞠】

「ッ……じゃあ、何なんですか、他のその最適は」

【ババ様】

「分からんよ。いつだって、そんなものは。誰にも分からん。1秒1秒を無数に検証していたら、すぐに頭が爆発する。じゃから……仕方無い、というのはババ様も大いに同意するところで……それでもやりきれない鞠をババ様は憐れむしかできん」

【鞠】

「憐れむって」

【ババ様】

「やっぱり不器用じゃなーって」

 ……その通りだと思う。私本当に不器用。

【ババ様】

「しかし、それがまた、愛らしい。ババ様はまた鞠の魅力を発見してしまったようじゃ。上機嫌上機嫌」

【鞠】

「私不機嫌なんですけどッ」

【ババ様】

「何だかんだでいつものことじゃろー。じゃから……いつも通り、ババ様と駄弁ろうぞ」

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「二心同体、同じ道を之くのだ。だから、鞠の喜怒哀楽を、ババ様にも共有させるのじゃ」

 ……それに、何の価値があるんだろう。

 それを完璧に計るには相手が超越過ぎる。無駄だ。

【鞠】

「……ババ様は、私と居て楽しいんですか、本当に」

【ババ様】

「最ッッッッ高に楽しいの」

【鞠】

「狂ってますね」

 足を再開する。

 いい加減、自分の部屋に鞄を置こう。

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