9.17「愛する人形」

あらすじ

「会長さんの覇道の先に、どうか我が心血を注ぎし臥子ちゃんをお供に据えてくだされ!!」砂川さん、堊隹塚家でまったり。本作は決してR-18作品ではございません9話17節。

砂川を読む

Time

13:45

【初台】

「お待たせいたしました、鞠お嬢様」

 暫くして、初台さんご到着。

 普段はメイド服で見慣れてるが、今はがっつり作業服だった。軽トラで来たし。

【笑星】

「え……どなた?」

【鞠】

「えっと……私の知り合いの、初台さんです。建築に詳しい人です」

【初台】

「ああ、隠してるんですね。分かりました、合わせます。……可愛い鞠ちゃんの頼み事となれば、断れないね☆」

 合わせてる? それ私に合わせてるの??

【秭按】

「初台さん、すみませんお休みのところを。このアパートの住人の堊隹塚と申します。実は……」

 私の方から軽く説明済みだけど、当事者たちから事情説明。

【初台】

「ほー、じゃあちょっとほほいっと見てみますねー」

 初台さん、壁を走ってすぐに屋根に到着。

 ……え、壁走り? 家政婦ってそんなことできるの?

【初台】

「ふーーーーーーーーーーん……」

 数分で彼女なりのチェックは完了したようだ。

【初台】

「まぁ、よほど強い嵐が来ない限りはすぐに崩れるって事は無いと思いますよ。鉄筋構造ですし」

【秭按】

「そ、そうですか……」

【初台】

「多分この前の嵐で屋根が少し崩れて、管理人さんがヤバいって思っちゃったんでしょう。確かに、全体的に修繕した方がいいとは思います。……いや、いっそ崩して作り直してしまいたい……」

【鞠】

「できるんですかそんなこと」

【初台】

「勿論、私1人では無理です。ただ、寿命を縮める雨風の侵入を防ぐためにも、外壁や屋根の修繕はすぐにでもしときましょ。それなら私1人でも材料あれば1日で仕上がります」

 この人もたいがい化け物だと思い知った。

 と……耳打ち。

【初台】

「……お家の方から、材料は用意して大丈夫ですか? てかもう持ってきますけど」

【鞠】

「自由にどうぞ。あ、一応管理人さんに話通しておいてください」

【初台】

「心得てますよ。ではではー☆」

 初台さん、ササッと退場。

 ……兎も角、すぐに倒壊するということは無いってことが判明した。

【秭按】

「えっと……これは、直してくれる形なのかしら」

【鞠】

「現職ではありませんが、プロの技術持ちですから。まあ私としては今すぐ最新のマンションにでも引っ越しをお勧めしますけど」

【笑星】

「そんなお金ないよー……でも、ありがと会長、人呼んでくれて! また助かっちゃったよー!」

【鞠】

「……まあ、貴方にぺちゃんこになられると私の苦労水の泡ですし……」

【秭按】

「また苦労をかけたわね……今度こそ、上がってください。お昼はまだ? 少し時期外れではあるけど、素麺出すわ」

 ようやっと、私は堊隹塚家に入ることを赦された……。

Stage

堊隹塚家

【笑星】

「狭くてごめんねー。あ、父ちゃん今俺のお友達連れて来てるー!」

 畳のリビングに、座る。

 ……玄関に並んでいた靴たちから察するに、両親と姉と弟の4人暮らしか。2人でも狭いんじゃないかなって面積だ。私侵入しちゃって申し訳ない気になる。

 どうやら母親は出掛けているようだ。

【秭按】

「飲み物、水、薄い麦茶、麦茶、濃すぎる麦茶、どれがいいかしら?」

【鞠】

「……水で」

【秭按】

「質素ね。濾過するから待ってて」

 ……ツッコミ待ちかな?

【父】

「いやぁ、どうもどうも会長さん!」

 と、異文化に困惑してた私の前におじさんが現れた。

 この人が、雑務の父親か……面影あるかどうか正直分かんない。

【父】

「いやぁ笑星が自慢を止めないから、一体どんな子だろうとずっと楽しみにしてたんですよ。こんなクソボロい家ですが、ゆっくりしていってください」

【鞠】

「……どうも」

 取りあえず、身体の調子が悪そうだなって印象。

 無理をさせたみたいで申し訳ない。

【笑星】

「父ちゃん、会長が限界寸前のウチの屋根修繕してくれたんだ」

【鞠】

「いや、まだ出来てないですし私じゃありませんし」

【父】

「何と! 屋根の修繕まで……流石笑星自慢の先輩、いきなり感謝し尽くせませんな……笑星の紫上会存続の為に助力戴いてることも含め、相当な価値をもってお返ししなければ……」

【鞠】

「いや本当、お構いなく……。私が強引に進めてしまっただけなので――」

【父】

「……そうだ!! 私の傑作を、受け取っていただこう!!」

 話を聞いてくれない辺りは息子と似てるかもしれない。

【笑星】

「!! 父ちゃん、まさか……!!」

【鞠】

「えっと……傑作……?」

【笑星】

「父ちゃんはアーティストなんだよ。すっごいよー……!!」

 え……傑作って、じゃあ作品?

 それは閒岐阜らしいけど、私そんなの求めてこの家来たんじゃ――

【父】

「ちょい待ちですぞ、会長――!!」

 ウッキウキしながら父親さん、再び奥の部屋に引っ込んでいった……。

 いや、だからお願い、お構いなく……。

 ……………………。

【父】

「会長、どうぞ我が傑作、受け取りくだされ!!!」

 話を聞いてくれない父親さん、5分後再登場。

 その腕に抱いていたのは――

愛する人形

【ババ様】

「ほう――」

【鞠】

「……これ、は……」

 ――お人形さんだ。

 人の形と書いて人形なわけだが、実にその通りだ。等身大だろう、身長は……120cm前後、といったところで……

 何よりその顔かたちや身体つき、髪質、柔らかそうな肌は一見だと本当の人間と勘違いしてしまう恐れ大だろう。

 ……ただ、そんな凄まじい完成度よりも、どうしてこの人形は現在全裸で父親さんに抱かれてるのか、凄まじく疑問だった。

【鞠】

「え、えっと……ふ、服、は……?」

 この人形はとってもリアル指向なんだろう。妥協を許さぬならば当然のように、何と云いますか……性的特徴? それも思いっ切り忠実に表現されねばならないのだろう。

 ……これは芸術的と評価しなきゃいけない場面なのかな。

【笑星】

「うっわ、父ちゃんガチのやつお披露目してる!!」

【鞠】

「何ですか、これは……?」

【笑星】

「俺はよく分かんないんだけど、何かラ*ドールっていうんだって」

【鞠】

「ラ*ドール……」

 何だろうソレ。私芸術はホント興味無いから、知らなくてもきっと仕方無いんだろうけど……まあそういう何らかの括りがあるんだろう。

【笑星】

「父ちゃん、ラ*ドール職人なんだー。國宝認定もされてる」

【鞠】

「え……國宝認定?」

 そこまでなの? そんな凄い人なの?

 ……だったら……。

【鞠】

「裕福なんじゃ……?(←小声)」

【笑星】

「多分マニアックなんだと思う……父ちゃん世間に媚びないタイプだし……(←小声)」

【父】

「どうかしたかな?」

【鞠】

「いえ……」

 その技術、絶対何処かで活躍できるのに……芸術肌かぁ……。

【秭按】

「……お父さん?

 あ、素麺持って先生が――って顔がッ!

 未だ見たことの無い怖い顔してる! 初見を思い出すコールドなオーラ!!

【秭按】

「何を、紹介してるんですか……?」

【父】

「秭按、見ての通りさ! お父さんの新作――臥子ふせこちゃんだッ!! 何か修繕と笑星の世話諸々の御礼を渡したいが、現状価値あるものとして自信を以て渡せそうなのは、コレぐらいなんだ……! 私の生涯26番目の傑作、どうか受け取ってください会長!!」

【鞠】

「は、はあ……」

 微妙だな、私個人は勿論そんなの要らないんだけどな、とか思いつつ。

 しかし雑務に通ずるもののある異様な勢いにいつの間にか負けて、この手で裸の女子人形を受け取ってしまった――って肌の質感ホンモノそっくり!! 凄い國宝の技術!!

【鞠】

「く、クオリティ、ヤバいですね……ヤバい」

【父】

「臥子ちゃんは特に、抱き心地を追及したのです。笑星や秭按が最も期待する存在、会長さんの覇道の先に、どうか我が心血を注ぎし臥子ちゃんをお供に据えてくだされ!!」

 何だろう、娘さんを渡された感じに思えてきた。怖い。修繕とか私ほんと何もしてないのに。

 ……まあ、マニアックだとしても國宝認定されてるんだし、コレは相当価値のあるものだろう。お金持ちはその身分相応のステータスというものを示せなければならない。たとえどんなに実用性に欠けていたとしても、國宝の放った逸品はその時、きっと役に立ってくれることだろう。

 そう考えたら、私の覇道のお供にとやらは実に的を得てるとも考えられる。ただ……

【鞠】

「……すみません、何か、着せるものとか、ありませんか……? 流石にコレを、そのまま持ち帰る勇気が……」

【父】

「おおすみません、私は保管の際、布を総て剥ぐよう心懸けておりまして……! 納品の際も、基本的には全裸のまま持って行きますので」

【鞠】

「は、はあ……」

【父】

「えーっと……あ、コレとかどうだろう、はいどうぞこのコートを」

 裸の上からいきなりコートかー……。

 いや、まあ人形だしね……?

【秭按】

「……あの、砂川さん……? ソレ……本当に、持ち帰る気……?」

【鞠】

「え? あー……まあ……」

【父】

「是非ともッ!! 臥子ちゃんを、宜しくお願いいたす候!!!」

【鞠】

「……って、ことなので……」

【秭按】

「……………………」

【鞠】

「……??」

 凄い辛そうな顔をしてる先生。

 何だろう、お父さんがこんなんでごめんなさい、的な感じかな。失礼なことあんまり予想したくないんだけど。

【笑星】

「姉ちゃん、大丈夫?」

【秭按】

「……何でもないわ」

 眼が死んでるのは何でもないの範囲内なんだろうか。

【秭按】

「ごめんなさいね、本当ごめんなさい砂川さん……取りあえず謝っておきます……近々改めて私の方からも御礼とお詫びの品を用意するので……」

【鞠】

「いや、もうこんな立派なもの戴いてるのでお構いなく――」

【秭按】

「ごめんなさい用意するので……ッ」

 そこは譲らないらしかった。

 ほんと、どういうことなんだろう……何か怖い……。

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