9.13「説明会」

あらすじ

「ルート変更説明会を、放課後食堂で開きます」砂川さん、対応に追われます。そしてようやっと今作最高レベルのモブな子が出しゃばってきます9話13節。

砂川を読む

Day

11/9

Time

8:00

Stage

霧草区

【鞠】

「……………………」

 昨日が練習初日だったわけだから、すなわち本日は2日目。

 しかし2日連続でずる休みは流石にマズいので、しっかり朝から通常登校を決め込む。

 ……私にとっての通常は最早宿泊パタンになりかけてるんだけどね。仕事というよりは、雑務の勉強を見るって意味が強い。ちゃんと勉強進んでるかな。一昨日と昨日は全然見れてないから多少心配。

 ……それにしても。

【鞠】

「……………………」

 かったるい……。

 明らかに昨日の疲れが半分以上残ってる……。私なりに終了のタイミング見極めたつもりだったけど、何事も初日の支払いは大きいか……。

【和佳】

「鞠様、何だか疲れてる……大丈夫、ですか?」

【鞠】

「心配は要りません。エナジードリンクは常に手元にあるので」

【冴華】

「ソレ大丈夫とは云いませんよ……大丈夫じゃない証ですよ……」

 周りから見てもあからさま、らしい。

【四粹】

「体調が優れないようなら、矢張り今日も休まれた方が……」

【鞠】

「暴動が起きるでしょ、そんなことしたら……」

 こんなクソ大変な時に、ってさ。

 責任者は大変だ。おちおち風邪も引けない。この前引いたけど。

【汐】

「責任感が強いんですねー鞠は。私だったら友達に全部ぶん投げて、家でゲームしてますね」

 今日もクズっぷりを発揮するメイド、安全運転で走行。

 メモリが空いてるその分、お喋りがやまない。

【汐】

「和佳ちゃんなら、ずる休みしたら何します~?」

【冴華】

「何訊いてるんですか汐さん……! 和佳はずる休みなんてしませんッ。させません」

【和佳】

「う~ん……お休みしてても、お姉ちゃんが居ないから……和佳、つまんないと思います……」

【冴華】

「…………休む時は、姉妹一緒ですね。和佳の面倒診なくては」

 それつまり連帯してずる休みってだけである。

【汐】

「皆真面目ですね~。四粹くんは云わずもがなでしょうし」

【四粹】

「正味お嬢様が休まれるなら、手前も休み看病に尽くしたいところではありますが……」

【鞠】

「貴方は学校に行ってください」

 発覚した時のインパクト倍増だからソレは止めてっ。

【汐】

「……あ、そうだ。話は思いっ切り変わるんですけど、鞠」

【鞠】

「何ですか……」

【汐】

「結局昨日のロボットさん何処に仕舞っちゃったんですか? 私乗りたいんですけどいやホント」

 ちょ――今その話する!?

【和佳】

「ろぼっと?」

【四粹】

「…………」

【汐】

「アレで登校とかしないんですかー? よかったらお姉ちゃんが操縦しますよー」

【鞠】

「操縦したいだけでしょ貴方が……ていうかそんなこと万が一やったら一峰は何に金使ってるんだって非難殺到するでしょ」

【汐】

「事実非難ものですよね。何考えてるんですお嬢様」

 ああもう、ホントどう説明したものか……ッ。

 ていうか他の人達いるのにその話すんなッ。

【汐】

「あれ絶対戦闘機能持ってますよね。見てみたいなー、あれで戦争とかしたら絶対面白そう」

【和佳】

「???」

【冴華】

「……和佳、気にしないでおきましょう。何か興味本位で首を突っ込むと怖い目に遭う予感が……」

【四粹】

「ロボット、ですか……」

 そんな、ヒヤヒヤさせられた、安全運転を恨みたくなるぐらいには長く感じた登校を何とか終える……。

Time

8:15

Stage

紫上学園 1号館

 副会長や画伯と別れ、2年の教室が並ぶフロアを歩く。

 ……何か、この短い時間すらも久し振りな気がしてきてしまう。のんびり授業を受けるというのは平穏に違いない。贅沢なことだ。

 が……周囲の心境は平穏からは程遠い。

【学生】

「「「……!」」」

 私を視界に入れるやいなや、勝手に葛藤し始める人達。

【冴華】

「……あからさまですね……」

【鞠】

「大体用件は予想できますけど」

 すぐに話し掛けてはこない。

 私は、異質だから。

【鞠】

「…………」

 ならば、別に構わない。私もたいして、彼らと会話したいわけでもないし朝っぱらから囲まれたくもない。

 ……集団生活でそれは難しかろうが、できれば近付いてきてほしくない。私の、最低限の平穏の為に。

【冴華】

「え……?」

【鞠】

「……ちょっと、静かにしててください」

 お隣を歩いてた画伯姉を黙らせておいて、スカートのポケットに忍ばせていたピンマイクを装備し、スイッチを入れた。

【鞠】

「紫上会放送」

【学生】

「「「!!!!」」」

 ……しっかりスピーカーと連動しているのを確認してから、喋り続ける。

【鞠】

「おはようございます、紫上会からのお知らせです。修学旅行ルート変更を余儀なくされているA等部2年生の方に向けた、ルート変更説明会を、放課後食堂で開きます。繰り返します――」

【冴華】

「…………」

 ……はい、これでこの朝囲まれることはないだろう。周りはもう騒然としてるけど、要はこういうことをしてほしかったんでしょ。先手打ち。

 私がずる休みした昨日、前もって私が作成しておいた変更に関する用紙一式は副会長らによって対象学生に配られている。一応これを読めばこれからの紫上会の作業方針含めた修学旅行計画の行く末については理解していただけるようになっている。

 ……が、矢張り実際に責任者自らが立って口頭で説明していった方が親切と云えるだろう。しかし、また会見かぁ……嫌だなぁ。

【鞠】

「はぁ……」

【冴華】

「行動に迷いがありませんね……」

【鞠】

「……どのみち大変なのは変わらないですし」

 どのみち、荒れる。

 さあ皆さんどんだけ理不尽に荒んでるのか、そして私に飛び火してくるのか、楽しみにするとしようか……。

Time

16:30

Stage

食堂

 ……とビクビクしてたんだけど。

 説明会自体は思いの外スムーズに進んだ。皆大人しかった。

 皆、私への罵倒よりも修学旅行ちゃんとできるのかっていうのに意識を集中させたってことだろうか。だとしたら賢明な判断だ、私としても都合が良い。

 ……とはいえ、急な大陸変更、更に準備ゼロからの自主行動時間の計画を強いられて不安にならない人は稀有だ。可能な限り資料のボリュームと構成は易しめを心懸けたが、私自らの説明を含めてもコレでスッキリ見通しが立ったっていう人はまあ居ないだろう。

 故にもう1段、措置を重ねる必要がある。それが――今の時間だ。

【四粹】

「ゲームセンターを巡りたかったのですね。ならば……代替として、最北端のゲームセンター街を巡ってみる、というのは一考の価値がないでしょうか。毘華大陸なのですが――」

【信長】

「特に熱望してるものがないなら……個人的にオススメできるのは、紫上会として去年俺が行ったこの地域です。都市ではまず体験のできない、遙かな自然にきっと感動しますよ。今年は人気のコースですから、他の連中と自主行動の計画を共有するのも比較的容易です」

 いわゆる、個別相談会。

 回転率はどうしても悪いけど、一斉講義型ではまず個々の不安を完全に解消することはできない。中にはスケジュールをいつまで経っても組めずに本番を迎えてしまう人も居るかもしれない。そんな人達の為に、個別の相談口を設けて1人ずつ最低限のスケジュールを組めるようこっちがフォローする。

 本番までは残り1週間ちょっとだけど、何とかコレで皆それなりに計画を立てた状態で旅行してもらおうというギリギリ感満載の大一番である。

【男子】

「がっつり田舎なところ、行きたかったんだよなぁ……アナログな生活っていうかさ。そういうの1回体験してみたくて。大輪ってそういうとこ案外あるんだろ? しかも毘華と比べて簡単に行ける。毘華は何か空気悪いっていうし、彩解は総じてアナログ過ぎるし……」

【鞠】

「……なら、第5の大陸も検討してみては」

【男子】

「え、それって……グレイシャ島嶼群、だっけ?」

【鞠】

「その中に、ミマ島という、電波環境が全く未熟だけど電気は案外通ってるそこそこアナログな田舎でありながら外部客ウェルカムという、聞いた限りでは可成り貴方の需要を満たせる環境が揃ってるように思います。生徒会合宿でもお世話になったので、村長も融通を利かせてくれるかと」

【男子】

「おお、その辺は全然視野に入ってなかったな……グレイシャかー……」

【鞠】

「一度、自分で調べて検討してみては。其処を希望するのでしたら多少面倒はありますが、島にコンタクトを試みます」

【ババ様】

「ミマ島が大繁盛の予感じゃ! 修学旅行さまさまじゃー!」

【鞠】

「(1回行くことは確定か……)」

 流石に私1人で回すのは有り得ないので、仕方無く紫上会メンバーフル出勤である。働かせたくないんだけどねっ。

 私は当然のこと、修学旅行サポートを含めて経験のある副会長と書記が相談窓口となり、

【深幸】

「はーい相談シート回収してまーす。あとちゃんと整列してくれー」

【笑星】

「じゃあ、また明日こんぐらいの時間に、だね。オッケー。え、ミマ島? 良いところだよー縁結びの守りヌシいるよ彼処ー」

 回転率の悪さ故に待たされまくる行列さん達には会計と雑務が相談会のスケジュール管理やら、コミュニケーションやら、兎に角サポートに回っている。

 相談一発でコースと計画確定するというのはまず期待できない。少なくとも、変更後のスケジュールをこちらで添削的なことをする〇回目を大半の学生が希望する。

 ……これ、教師にも回せよって思うんだけどね。紫上会というのはホント不思議な枠である。たった5人に緊急事態を変わらず委ねる職員室の肝半端ない。

 しかし、例年通りダントツで人気のある大輪大陸、そのぶん対象学生が多いのだけど……この分でいけば、何とか間に合うんじゃないかって思う。1人も体調を崩さないこと前提だけど。私大丈夫かな。

【鞠】

「……次の人、どうぞ」

 脱線してないで、集中しないと。

 これも立派な、ヘイト削減の価値ある仕事なのだから。

【安倍】

「やっほーお疲れさん、会長っ」

【鞠】

「……貴方は……」

 クラスメイトっていうかクラス委員の安倍さんじゃないですか。

* * * * * *

【安倍】

「いやぁー、どうだったぁウチのお化け屋敷?」

【鞠&信長】

「「封鎖しろ!!!」」

【安倍】

「そんなに怖がってくれて、訓練を重ねた甲斐があったよー。あ、そうそう、はい瞬間写真」

【信長】

「え、写真?」

【安倍】

「ほら遊園地のアトラクションとかであるでしょー絶叫ポイントで写メっときましたよーみたいな」

瞬間写真

【鞠&信長】

「「……!?」」

【安倍】

「ぬふふ……松井も会長も最高のリアクションだったぁー! いやー良い物見れたー!! プロデュースして良かったぁー!!」

* * * * * *

 文化祭の時に私にとんでもない仕打ちをした憎きお化け屋敷の長ではないですか。

【鞠】

「…………(怒)」

【安倍】

「まーだあのこと怒ってんのー? お化け屋敷は怖くて当たり前でしょー」

 まあ、別に何か仕返してやろうというわけではない。仰る通り、お化け屋敷をやるんだから怖いシステムを作るのは自然だろう。

 ただ私が絶対に赦さねえってだけの話である。それとこれとは別なのである。

【鞠】

「……えっと」

 会計が回収してきた計画シートを見る。

 まあ当然だけど、彼女の本来の希望先は大輪大陸だ。

 それ以外は……ほぼ白紙。変更については何にも決まってないという、有り得ない状態だ。

【鞠】

「…………」

【安倍】

「へへへ、ごめんねー……私のんびりしてるよねぇ」

 一応、彼女本人は流石にコレはダメだろっていう自分の状況をそれなりに自覚はしてるようだった。

 まあ、怒る気には、ならない。……ていうか、何度も云うが、これは私も彼女らも悪くない。故に責めるのは違うだろう。

 ただこれは骨が折れそうだな、とは思った。

【鞠】

「……何か、別に行きたいところとかは無いんですか?」

 訊いてはみるけど、するまでもない質問ではある。だって、無いからこんなに白紙なんだし。

【安倍】

「んー……あんまり、無いかなぁ……折角の修学旅行なんだし、どっかには行くべき、とは思うんだけどねー」

 ほら、この通りだ。

【安倍】

「会長さん的に、オススメとかあるー?」

【鞠】

「オススメって……」

 ヘラヘラ笑ってる場合じゃないんですけど。

【鞠】

「……これ以上荒れない選択っていう意味では、毘華コース4とかは良いかもしれません。普通にホテルの部屋余ってますし、当然治安も一定以上の安穏をずっと保っている国家を選択してます」

【安倍】

「会長さんらしいお堅いチョイスだねー」

 貴方がオススメ訊いてきたんでしょうが。

 自分で計画するほどでもないが、一応何処かには行こうと思う……そんな超絶我が儘なポジションを貫くクラス委員。ぶっちゃけ親近感湧くね。私だったら修学旅行すらサボる贅沢を選ぶかもしれないけど。

 なので、その感情移入から推測するに、そのポジションを無理矢理動かそうとするのは私の効率にはよろしくない。尊重してあげた方が、回転率は落とさずに済むわけだ。

【鞠】

「……じゃあ、取りあえずもう2,3コース私なりにチョイスしてみます。それを自分で調べて、検討してみてください。明日か明後日にその答えを聴かせてください」

【安倍】

「やっぱり優秀だねー会長さんは」

 嫌味をスルーしつつ、こちらで管理するシートに彼女との相談結果をメモっていく。あんま書くことないけど。

 それから……あと3コースほど、簡単で安全なやつを、増築した既存ルートをまとめたファイルをペラペラ捲って検討していく。

 …………。

【安倍】

「……大輪の、燻牆いぶかき村ってところにね、お婆ちゃんがいてね」

【鞠】

「――?」

 何か、徐にクラス委員が喋り始めた。

 相変わらずのニヤニヤ顔で。

【安倍】

「國宝にも認定されてるんだ。会長さん、1回は連絡取ってるんじゃない?」

【鞠】

「……というと」

【安倍】

「スクール水着の國宝さん」

【鞠】

「……ああ……」

 そういえば、確かにコンタクト取った覚えが……スク水作り続けてその道何十年だっけ、正直私はどうでもよくてあんま憶えてないけど、長電話したっけ。

 わざわざそんなマイナー過ぎる人にコンタクトを取ったのは、其処を自主行動時間の中で訪れたいって人が居たから要望に応えたんだけど……この人だったか。

【安倍】

「ぶっちゃけ、大輪のコース選んだのって、お婆ちゃんに会えるかもって思ったからなんだよねー」

【鞠】

「……大輪に行きたいわけですらなかったと」

【安倍】

「ほんと、ごめんねーこんな我が儘で可愛い委員長で」

 変に茶化すが……若干、ヘラヘラ顔に、陰りが見られた。

【安倍】

「柏陽町出身なんだけど、近くにあるんだ、その村が。だからお婆ちゃん子だった。パパママの仕事の都合でこっち移って……最後にお婆ちゃんに会いに行けたのがC等部後半。それからは家族共々忙しくて機会が無くて。そうしていくうちに……電話越しでもお婆ちゃん寿命来てるなって分かってきて、何とか会いに行きたかったんだけど……」

【鞠】

「……この状況、ですから」

【安倍】

「そそ。残念だったなー……」

 笑いながら、明るく云う……が。

【安倍】

「…………」

 陰りが、隠しきれない。

 なるほど、知りたくもなかったが、彼女は寧ろこの修学旅行に強く価値を見出していた側だ。この白紙のシートは……その無念をよく表している。

 結局、私とは決して親近的ではなかったということ。

【安倍】

「――って、ごめんね! 会長さんには何も関係無いし忙しいのに……」

 そう、矢張り私の知る必要の無いこと。

【鞠】

「…………」

 故にこの話を発展させる必要は断じて無い。

 現状この敵と会話を続ける価値は無いのだ。

【鞠】

「……その人は」

 ――だが。

【安倍】

「え?」

【鞠】

「連絡、取れてないんですよね」

 私はリアクションを、とった。

 しかも最低なリアクションだ。云ってからでは、遅い。

【安倍】

「……ハハッ、そりゃ、私よりも会長さんの方が、分かってるでしょー」

【鞠】

「……まあ」

 今、大輪大陸は一切の電波環境が崩壊している。

 専門的なことは分からないが、ミマ島みたいに電波が通ってないということだから、私達の持っているアルスで電話をしても絶対に繋がらない。

 故に彼女と彼女の祖母が繋がるわけがない。彼女の祖母の安否を確認する方法も、WKBら派遣チームが結果を出してくれない限りは、見込めない……。

【安倍】

「ま、お婆ちゃん案外しぶといし、大丈夫とは思ってるんだけどね!」

 しかし、大丈夫だとどんだけ確信してたって、心配しない理由にはならない。その心境は、私も確実に共感できるだろう。

 だが大事なのは共感なんていうストレス発散ではなく、それら総てを踏まえた現実。

【鞠】

「……大輪のコースは……諦めてください」

【安倍】

「うん……分かってるって」

 仕方無い、という現実――

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