8.09「お泊まり」

あらすじ

「お泊まりシステムを使って此処で沢山勉強すれば一石二鳥でしょ」砂川さん、いつものお泊まり。でも今回はパートナーがいます8話9節。

砂川を読む

Time

21:15

 ……………………。

【鞠】

「……あれ」

【ババ様】

「……どーしたー……?」

【鞠】

「気付けば夜」

【ババ様】

「そりゃ15時半から6時間ぶっぱしたら夜じゃろ!! お腹空いたー!!」

 空腹も共有するのか。

 というか普通に夜9時いっちゃってる。晩ご飯食べよう。

【鞠】

「今日はうどんにします」

【ババ様】

「肉は?」

【鞠】

「ありません。野菜ましましでいきます」

【ババ様】

「えー……」

 好き嫌いは共有しないらしい。

 そんなことどうでもいいので構わずリビングルームへと向かう。

【鞠】

「……ん」

 で、そんな時間だから当然誰も居ないと思ってたんだけど。

【笑星】

「……………………」

 雑務が居た。

 リビングの絨毯に座り、テーブルに何か拡げて睨み付けている。あまり私の見ない、真剣な表情だと思った。

 でも普通に最終下校時刻過ぎてるんだけど。

【鞠】

「何してるんですか」

【笑星】

「あ……鞠会長。お疲れ様ー」

 こっち向いた雑務は、笑った。いつもの顔だ。

【笑星】

「勉強してたんだー」

【鞠】

「……勉強は別に良いですけど、もう時間ヤバいっていうかアウトです」

【笑星】

「だね」

 だね、じゃないんだけど。

【笑星】

「それを云うなら鞠会長もだよね。アウトアウト」

【鞠】

「私は泊まりだからセーフですが」

【笑星】

「俺も泊まりだからセーフ。ほら、彼処にお泊まりセット」

 ……確かに大画面テレビ装置棚の下に見慣れない鞄が置いてある。

 なるほど、本当に雑務はお泊まりするのか。

 ……いや何で?

【鞠】

「貴方此処に泊まる理由ないでしょ」

【笑星】

「勉強、集中できるのって此処なんだよね」

【鞠】

「……抑も、このタイミングで?」

 今、普通に文化祭で盛り上がってるタイミングで勉強合宿?

 おかしいでしょ、とまでは云わないけど、何か納得はできない。

【笑星】

「……村田先輩から、色々聴いたんだ。今日」

【鞠】

「……?」

 何か文脈飛んだ。いや、恐らく繋がりのあることなんだろうけど、ここでどうしてあの人が出てくるんだろう、とは思う。

【笑星】

「放課後、ばったり会ってね。それで、邊見と3人でちょっと深々会話した。紫上会の活動中にごめん」

【鞠】

「……別に貴方たちの活動に元々意義はありませんから全く構いませんけど」

 それより、昼休みにあんなアンバランスなことになってたあの人と放課後一緒に時間してたって怖いんだけど。事件起きてないよね何も。

【笑星】

「……謝られちゃった。俺は、気にしてないつもりだったんだけど。やっぱり、4月のこと気にかけてたんだね先輩」

【鞠】

「……貴方、それを分かっててあの朝の積極的な挨拶ですか」

【笑星】

「尻込みしてたらいつまでも繋がらないなって思ったから。村田先輩は、ただ酷いだけの先輩じゃない。それが分かったから……俺は、あの先輩とももっと繋がれたらなって思った。正直邊見は反対気味だったけどね」

【鞠】

「当たり前でしょう。あの人が貴方たちにやったことを考えれば」

【笑星】

「……だから、邊見は村田先輩を赦さなかった。多分それが、村田先輩との一番良い附き合い方だって思ったからなんだね」

【鞠】

「……………………」

 なんか、私の想像と違う。

 放課後のことを語る、今の雑務も含めて。

【笑星】

「赦さないって云われたのに、村田先輩はありがとうって云ってたんだ。不思議だよね。やっぱり邊見は凄いや。俺より遙かに色んなものが見えてる」

 彼女は少しは悩み事を解消できたのだろうか。

 それを確認することに私は興味がない。だけど……今は私の家族。否が応でも、彼女の行く末を私は見ることになるだろう。

 これ以上もう、私を困らせることをしでかさないことを祈るばかりだ。

【笑星】

「でさ。折角だから、雑務の先輩に朝云った通りアドバイス貰おうとしたんだ。俺ももっと頑張んなきゃいけないし。この紫上会も、あと半年ぐらいだから」

【鞠】

「仕事を与える気は全くありません」

【笑星】

「うん、分かってるよ」

 笑う。

 ……4月は随分膨れっ面を見せてきた覚えがあるけど。

【笑星】

「勉強しろって云われた。来年紫上会に入りたいなら、それが最優先事項だって。会長になるってことは、邊見よりも点を取らなきゃいけないってことだから。仕事とか自分の在り方とかは来年度になったって覚えられるし、それで充分間に合う。だから今は今しかできないこと、今やるべきことをやっておけって」

【鞠】

「…………」

 それ全然仕事のアドバイスじゃないね。だけどなかなか悪くない観点だ。

 この雑務の目標は、会長になること。本番は今年ではなく来年。今年は偶然紫上会に入ってしまったというだけ。おまけでしかない。

 そのおまけに気を囚われて、本番である来年の準備を怠ったとなれば本末転倒だろう。

【笑星】

「俺はもっと、会長から色んな事を学びたい。会長を見ていたい。それなら……お泊まりシステムを使って此処で沢山勉強すれば一石二鳥でしょ」

【鞠】

「……貴方そんな効率の良い性格じゃないでしょうに」

 現にさっきもひたすら問題集を睨み付けていた。私の仕事姿なんか見ちゃいない。いや、文書作成ばっかりやってたからその見学とか一番無意味だったろうけど。

【笑星】

「ご飯の準備もしっかりしてるよ。会長に、迷惑はかけない。ね、いいでしょ?」

【鞠】

「……貴方も此処に来ることを赦された勝者です。好きにすればいいでしょう。云う通り、私に迷惑を掛けない限りですが」

【笑星】

「へへ、やった。ありがと会長」

【鞠】

「…………」

 その笑顔……ちょっと、やめてほしい。

 御礼云われる意味も分かんないし。

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