8.53「学生の本分」

あらすじ

「紫上会会長に、なる男だからね!!」笑星くん、日頃の成果を解き放つ時。作者は三平方の定理の証明なんてできません8話53節。

砂川を読む

【観客】

「「「――――」」」

【笑星】

「……おおう……」

【琴竪】

「――!!」

【司会】

「コレが、最終問題となるかあぁあああああ!?!?」

【観客】

「「「いやキツい……!!」」」

 会場が、何か変にざわつく。

 皆にとっても、ちょっと出てくる問題の方向性が予想と違ってたんだろう。俺も、もうちょっと具体的なやつだと思ってた。

【邊見】

「証明問題……しかも、普段何気なく使ってる公式ていりの証明……!!」

【男子】

「うっわ、何かやった気もするけど……全然覚えてねえよ!!」

【男子】

「証明って何だ!? 三平方さんって証明できるのか!?」

【夏鳴】

「す、凄い手強い問題なんですね……!」

【金嶺】

「他人事のところ畏れ入るけど、私達の学年なら解けて然るべきレベルなんだよねー」

【夏鳴】

「え……?」

【金嶺】

「でも、確かに問題としては異質。基本的に大事にされるのは、公式を如何に使いこなせるか。受験側も出題側もそっちを重視するから、軽んじられる死角にもなる……ってところなのかな」

【夏鳴】

「えっと……何か……すいません……」

【金嶺】

「……逆にコレをこんな舞台で答えられるなら、それなりに優秀な学びに浸かっている……そう考えていいかもね。さあ、より“品位”があるのはどっちかな」

 ――ぴこん。

【観客】

「「「!!!!!」」」

 早押し音が、やけに響いた感じがした。

 鳴った直後ではあるけど、皆がそれに反応し一気に静かになったから、かな。

【司会】

「押したのは――」

 ……注目が集まるのが、嫌でも分かる。

【琴竪】

「ッ!」

 大勝負中の、大勝負。

【司会】

「――堊隹塚くんだあぁあああああああああ!!!!」

【笑星】

「…………」

 少し油断すれば今考えてることが全部吹っ飛んでしまいそうな乱気流。

 何らかの試練だと思った。

 「お前にこの壁を越えられるか?」

 みたいなさ。

【笑星】

「…………上等……」

 できないわけが、ないさ。

 何故なら――

* * * * * *

【鞠】

「――この定理の証明方法は、100通り以上存在します」

【笑星】

「……え? 公式なのに?」

【鞠】

「その公式は元々あったものではありません。論理上そういう法則があるというだけで、それを定理と認めるには幾多の検証――すなわち証明が重ねられたんです。抑も数学という学問の本質はソコですよ多分」

【笑星】

「あー、何か姉ちゃんもそんなこと云ってたような覚えが。今俺たちが勉強してるのは数学じゃなくて、受験数学だって」

【鞠】

「貴方のお姉さんに同意します。ですが、扱っているのは矢張り数学。何事も本質を押さえた思考にこそ安定は生まれる。実力試験の過去問を眺めていると、頻出とは云いませんがその本質と如何に附き合っているかを確かめてくる応用問題も見られます。実力試験数学の出題形式・得点配分ならびにこの学校の偏差値から察するに……コレを得点できれば非常に有利です」

【笑星】

「な、なるほど……じゃあ俺は、その本質的な考え方、みたいのをしっかり覚えないとダメなんだね」

【鞠】

「ぶっちゃけ数学という学問に根ざした本質的な考え方なんて偉そうに講義できるセンスは私にはありませんが、そこは書籍で補います。勿論、貴方が読む必要はありません。兎に角貴方がやるのは……縦横無尽に公式を使いこなせるようになること。その公式が何たるかも理解すること。そのスタートとしてまずは、三平方の定理の証明ルート、1つぐらいは暗記しておくことです」

【笑星】

「すっごいお世話になってるけど……いざ証明ってなると、何かどう手を着ければいいのか分かんないね」

【鞠】

「それは培われてるのが受験数学的思考のみだから。数学的思考の方法に触れるのに、三平方の定理の証明を調べるのは色んな意味で気楽です。……三角形というのは1つ情報が明らかになっていれば他の要素を導き出せるようになっている。当然だけど、出題される問題は総てその準備が出来ている。よほど性格の悪い証明問題じゃなければ、貴方は楽に感じる筈です」

【笑星】

「わ、分かった……! でも、100通りもあるんだよね? そのうちどれを、とかオススメあるの?」

【鞠】

「勿論。ワケの分からない証明方法もいっぱいありますから。そうじゃない、我々ただの学生でも親しめるのは……内接円を用いた証明。これは幾つか別の定理も絡んでいるので、それも合わせて“いちから”導き出せるようにすること。この検証力を培って、私の指示に従いステップを踏んでいけば……3ヶ月後、必ず貴方の苦手な数学は最強の得点科目に化けます」

* * * * * *

 何故なら!

【笑星】

「――これで、どうだ!」

【司会】

「……審査員判定、ごおおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

【帯刀】

「よく分からなかったけど、凄いからOK☆」

【ノウェル】

「煩雑感丸出しだけど頑張ってたからマルあげる👅」

【在欄】

「冗談じゃ無く尺が圧している」

【汐】

「笑星くんって時点でOK!!」

【学長】

「……勉強しているんですね。学生の本分は勉強――貴方がその時間を積み重ね、どんな成長を遂げるのか。拝見できる時を楽しみにしましょう」

 俺には、あの人が隣に附いているのだから!

 どんな壁にだって、負けるわけがないんだから!!

【司会】

「け――決ちゃあぁあああああああああああああああっっっっく!!! 3ポイント先取したのは――紫上側、堊隹塚笑星いぃいいいいいいいい!!!!」

【笑星】

「やったぞおぉおおおおおおおおお――!!!」

【紫上学園】

「「「うおおぉおおおおおおおおおおおおおおお――!!!!」」」

 勝った……。

 俺の、勝ちだ……!

【男子】

「な、何で堊隹塚があんな答え方してんだ!? 別人じゃねえのか!? 何処の誰だか知らないけどナイスファイトーーー!!!」

【男子】

「何云ってたのか俺ちょっと附いてけてないけどこれで並んだぞーーーー!!!」

【邊見】

「え……えっちゃあぁああああああん凄いよーーー!! 数学得意になったんだねーーー……(泣)!!!」

 歓声。

 コレは――俺に、注がれている。

【笑星】

「……楽しんでくれてるかな」

 だったら、きっとコレも、俺の恩返しになる筈だ。

 これからも――俺は皆にこの、最高の空気を与えたい。

【琴竪】

「……完敗ですか。貴方は雰囲気に反して相当秀才だったようですね。仲間候補に入れましょう」

 完敗なのかな、俺正直ちゃんと答えられたのか未だに不安でいっぱいなんだけど。それに、偶然とすら云っていいぐらい、早押しは僅差だった。間違いなく答えられてたら、俺こそが完敗だった。

 ……でも、謙遜は失礼だ。

【笑星】

「へへっ……こんぐらい、できなきゃね!」

 勝者として、笑わないと。それが、紫上学園。

【琴竪】

「ふむ。存外にストイックなり」

【笑星】

「琴竪さんの方がストイックだよ、俺はそうじゃない。ただ、俺は――紫上会雑務で!」

 俺が笑うことから始める。そして、皆が笑う学園にする。

 その為に俺はやっぱり、なってやるんだ。

【笑星】

「紫上会会長に、なる男だからね!!」

【琴竪】

「…………貴方が、会長……ふふっ、それはまた……まぁ、バカヒロ会長みたいに酷い施政にならないことを細やかながら祈り申し上げて私は戻るとしましょう」

 琴竪さんは、稜泉側の控えに戻っていった。

【笑星】

「…………笑われた?」

 ほんっとに、よく分かんない人だ。考えが全然読めない。考えても無駄な部類だ。

 ……それにしても、よく云われるけど俺って、そんなに見た目会長っぽくないのかなぁ。子どもっぽいのは平均身長よりちょっと低いところが大きいと俺は思うんだ。

 もっと身長伸ばす為に、帰りに牛乳買って帰ろうかな、と考えながら俺もステージから降りた。

【信長】

「良かったぞ笑星!! よくぞ俺と深幸の屍を踏み越えた!!」

【笑星】

「そんなの踏み越えた覚えないけど、これで2勝2敗だね!」

【深幸】

「しっかしお前ほんと、学力めきめき上げてんだな、あんなのスラッと解くとか、正直俺や信長でもなかなか出来ねえぞ……」

【冴華】

「……よほど、貴方と、教師が優秀なんですね」

【笑星】

「……うん!」

【司会】

「さあ、テレビ的には美味しい展開!! 2勝2敗ッ、拮抗する両学園!! 決着の一打をかますのは――大将戦、どちらのエースかぁあああ!!!」

 ……いよいよ、大将戦だ。

 ……………………。

【笑星】

「あれ!? 鞠会長は!? 鞠会長戦闘不能じゃん!!」

【冴華】

「そうなんですよね……松井の所為で」

【信長】

「まっこと申し訳ない……」

【深幸】

「また誰か、代わりの奴を呼ぶか……」

【笑星】

「それはテレビ的に悪い意味で超展開だよ……大将戦で代打って」

【深幸】

「だが仕方ねえだろ、アイツ出れねえし――」

【???】

「――出ますよ……」

【笑星】

「え――?」

vsmari

【司会】

「ッ――!!! おっとぉ、私の目には、映ったぞぉおお!!! 喜ぶがいい観客および視聴者の皆さんッ、紫上会会長――砂川鞠さんと副会長玖珂四粹くんが、再び姿を現したあぁあああああああ!!!!」

【観客】

「「「うぉおおおああぁあああああああああああ――!!!」」」

 歓声やめて……またお腹に来るから……いや、頭? もう全身かもしれない。

 これからはもっと普段の食事に有り難みをもっていただきますしようと悟りを覚えて私は再び会場に戻ってきた。

 副会長も合わせて戻って来たけど……打ち所(?)が悪かったのか、私よりも回復しきれてない。

【鞠】

「休んでればいいのに……」

【四粹】

「会長の晴れ舞台です、見届けず何が副会長ですか……」

 責任感が強いというのは矢張り困りものだ。無責任よりはマシだけど。

 ……さて、そろそろ状況の把握に移ろうか。

【ババ様】

「もう嫌じゃぞ……もう食べたくないぞ……」

【鞠】

「大丈夫ですババ様、見ての通り次鋒戦はもう終わってます」

 それどころか中堅も副将も終わってるんだよね。さっき司会の人、大将戦って云ってたし。

【信長】

「会長――出てきて大丈夫なんですか!? どう見ても顔色優れませんが!?」

【鞠】

「病欠とかダサいでしょう……それで紫上学園負けたとなればヘイトが……」

【深幸】

「ほんとブレねえなお前……」

【鞠】

「それより、状況は――?」

【信長】

「すみません、次鋒戦は石山に敗れました……」

 マジか。

 あんなに体張ったのに負けたの? ていうかアッチも食べたんだ……。

【深幸】

「それから中堅戦は、代打で出た村田が勝った」

【鞠】

「貴方出たんですか……」

 ていうかもうナチュラルに紫上会の空間で観戦してらっしゃるし。

【冴華】

「ふ、ふふ不本意ですが……ッ。これでも、元紫上会ですしね!?」

 何で目が泳いでるんだろうこの人。

【冴華】

「そ……それから副将戦で、彼が勝利し、これで2勝2敗です」

【鞠】

「それは、知ってます……副将戦は見てたし」

【笑星】

「えっ、見てたの!?」

 正確には、5問目あたりから、だけど。入場口あたりで壁にもたれながらスクリーンで雑務の勇姿を眺めてた。

 ……それにコメントすることがある、とすれば……。

【鞠】

「……三平方の定理の証明と云っているのだから、余計な記述は省く努力をなさい。あんなのズラズラ並べる暇は実力試験ではありませんよ」

【笑星】

「……え!? 俺のヘロン、そんなダメだった!?」

【鞠】

「抑もヘロンも内接円の性質の導出も要らなかったです。時間が圧してるから正解と見なされたと思っていいかと」

【笑星】

「いや、違うんだよ鞠会長! あの審査員の人達すっごい癖強いの!! だから念には念を入れようとね――」

 もし録画でもして後で見返そうものなら、雑務は随分蛇行している自分の証明跡に恥ずかし悶えることだろう。

 生放送は恐ろしい。コレをしっかりこなしちゃう毎日ニュース担当してるテレビマン達には敬意を持たねばなるまい。

【鞠】

「……まあ、この土壇場で勉強の成果を発揮できる勝負強さを持っている」

【笑星】

「え――?」

【鞠】

「それが分かったのは、貴方にとって思わぬ収穫でしたね」

【笑星】

「…………うん。会長の、お陰!」

 そこは私関与してない筈だけど。

 本当笑顔がブレない後輩である。

【司会】

「おっと、稜泉側からもッ!!」

【琴竪】

「……流石というべし、仕事に対する責任感。いつも通り、愚かしい」

【井伊】

「起きてきていきなりすみません……無理、しないでくださいね……?」

【藍澤】

「――大将戦、お願いしよう」

【司会】

「救護室でお口ケアしていた英環副会長が、稜泉学園を背負って、再び会場に立ったーーーー!!!」

【稜泉学園】

「「「副会長ぉおおおおおおおおおお――!!!!」」」

【英】

「……何となくこうなるんじゃないかって予感はしてたけど……やっぱり私まで回ってきちゃった……」

【石山】

「英、随分寝坊したなぁ。中堅戦も副将戦も楽しかったぜー」

【英】

「会長……野菜を切る云々以前に、よく洗ってください。胃の中寄生虫だらけで、その駆除してたからこんな出遅れたんです……」

【井伊】

「アンタもはや殺人未遂じゃんっ!」

【藍澤】

「料理というのは人の命を左右する作業なんだな。今日は学ぶことがいっぱいあって本当楽しいな……」

【琴竪】

「しかしながら、その楽しい時間も終わりにしなくてはなりません。タマ副会長、その頼りの欠けた手で」

【藍澤】

「一言余計だこの海賊王。……いつも通り、私は期待をしている。折角だ、こんな大舞台での大山場の、君の闘い方を見せてくれ」

【石山】

「稜泉学園最強の努力家! みせてこい英、全國放送だぜ!!」

【英】

「ソレ思い出させないでー……(泣)」

【司会】

「大将戦、紫上側からは会長・砂川鞠!! 稜泉側からは副会長、もう実質会長な英環が満を持して登壇だあぁああああ!!! さあ、クライマックスを見逃すなあぁあああああ!!!」

【笑星】

「……会長」

【鞠】

「なんですか」

【笑星】

「勝ってね!!」

 ……やめて、その、笑顔ほんとに。

 コーヒーとかも濃いめが美味しいわけで、私も少し濁ってるぐらいが丁度良いの。

 その、私が勝つこと疑ってない高純度の顔やめて。

【深幸】

「どんなお前が見れるのか、楽しみだわな」

【信長】

「その、無理はされず……勝ってください」

【冴華】

「最大の盛り上がり……本当、災難ですね……」

【和佳】

「鞠様、頑張ってー!!」

【四粹】

「……この流れでは、手前が代わることは難しいですね」

【鞠】

「貴方の方が体調悪いでしょう。ほら、座って」

 何か季節が変わるごとに、私の災難度、グレードアップしてる気がするんだよね。

 負ければ、ゲームオーバー。

 そこだけは変わらなくてね。

【英】

「…………」

【鞠】

「…………」

 ステージに上がる。

 司会が云ってた通り、どうやら次鋒戦で私達同様に救護室送りにされたらしい稜泉の副会長が既にいた。

 ……お互い、会話のできる距離へと詰めていく。

 ステージの中央へ近付いていくたび、会場の視線を強く感じていくような……

【紫上学園】

「「「会長っ会長っ会長っ――!!!」」」

【稜泉学園】

「「「会長っ会長っ会長っ――!!!」」」

【石山】

「おい待て、会長俺なんだけど」

【井伊】

「実質会長はアッチだから」

【笑星&琴竪】

「「…………」」

 お互い、このコールと武道館という場違い感にあらためてドン引き。

 常識陣は苦労するね。この人となら良い酒飲めそう。飲まないけど。

【司会】

「さあ、始めよう――最後の闘いを!!!」

【英】

「……砂川会長には、沢山の恩義やら申し訳なさやら、あるんですが……こんな私でも稜泉学園を背負っていますので、すみません……私なりの、本気で、いきます――!」

【鞠】

「寧ろ手を抜こうものなら生放送で全國から指摘がとんできますから、致し方ないです」

【英】

「なら……砂川会長も、本気で来るんですよね――!」

【鞠】

「勝つ気でいるのは確かです。私にも事情というものがあるので」

 仲間意識は持てそうでも、構造上どうしようもなく今は敵同士。

 全力でぶつかり合い、そして散らすべき相手。

 緊張に類する総てのうち、要らない分を溜息で排出して……さあ、紫上学園の日常を始めよう。

 勝負の時だ――

【司会】

「では、勝負内容、クジ引きしまーす。……これだあぁあああああああ!!!」

【汐】

「おお」

【ノウェル】

「へ~👅」

【帯刀】

「これは、尺を使うね~☆」

【在欄】

「だがこれまでと異なり完全に潔く決まる。我々審査員の出る幕すらない。楽な対決ではある」

【学長】

「楽しみですね」

【司会】

「――カラオケ対決だぁあああああああああああ!!!」

 ……………………。

【鞠&英】

「「はぁ???」」

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