8.05「今年の文化祭は」

あらすじ

「それを決めるのは残念ながら私ではなく文化祭実行委員です」砂川さん、団らん。7話を思えばたいそう平和で悩ましい8話5節。

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Time

20:30

Stage

砂川家 ダイニングフロア

 とても刺激的だったお迎えを終わらせて、夕食の時間となった。

【和佳】

「お姉ちゃん、クレヨンとかで描いてみたんだ、ライオンさん! どう、似てる?」

【冴華】

「……………………」

 こっち見んな。気持ちは分かるけども。

【冴華】

「うん、すっごい似てるわね……あまりの迫力にお姉ちゃん、腰砕けそうになった……」

【和佳】

「えへへ、よかったー!」

【行】

「私も負けてませんよ、冴華嬢。ご覧下さい」

【冴華】

「――――――――」

 こっち見ないで、気持ちはすっごい分かるけども。

【冴華】

「その……ひ、髭とかライオンってあるんじゃないですか?」

【行】

「ああ、そういえば描き忘れてましたね」

【兵蕪】

「うむうむ、どっちも額縁に入れて玄関に飾ろうか!!」

【鞠】

「玄関はやめておきましょう。来客がビックリするので」

 違うベクトルからの同時攻撃。百獣の王相手には生腰の人間は無力だろう。

 ていうかいい加減食事にしよう。

【四粹】

「……そういえば。お嬢様」

【鞠】

「何ですか」

【四粹】

「文化祭で稜泉学園とも連携することになったと聴きましたが」

【鞠】

「……………………」

 ああ……味が分からなくなった……。悩み思い出させないで執事。

【冴華】

「稜泉……? 確か、甲子園常連校ですよね」

【四粹】

「今年度の甲子園では紫上学園とあたり、大熱戦を繰り広げた相手でもあります。多少調べた程度ですが、あちらも因縁を感じているようです」

【汐】

「1回戦が一番盛り上がってましたもんねー。信長くんとの死闘で疲れ切っちゃったエースのピッチャーさん、2回戦出れなくて負けちゃいましたし」

【四粹】

「石山さんだけでなく稜泉野球部全体が疲弊していたとのことです」

【冴華】

「今年の甲子園はそんなことが……しかし、それがどうして文化祭の連携に繋がったんですか? 稜泉との繋がりなんて、そのくらいでしょうに」

【四粹】

「えっと……何処まで話してよいものでしょうか」

【鞠】

「機密事項は特に無いでしょう。任せます」

 私はご飯を食べる。

【四粹】

「承知しました。実は今年の8月の生徒会合宿でも稜泉学園生徒会と接触しまして」

【冴華】

「ああ……そういえばそんなイベントありましたね……玖珂さん、今年は大丈夫でしたか?」

【四粹】

「……………………」

【冴華】

「大丈夫じゃなかったんですね……」

 モテ男も辛いんだなあってあの光景を生で見た私は素直に思った。すっごい疲弊してたし。

【四粹】

「今年度の稜泉学園生徒会、その会長が野球部エースの石山さんだったのです。松井さんと思わぬ再会を果たし、大変嬉しそうでした」

【冴華】

「ああ……それで仲良くなっちゃったということですか」

【四粹】

「松井さんはライバル校であることを重視していますが、石山さんは構わず紫上学園を気に入っているようでした。お嬢様のことも大変評価されていましたし」

 その所為で隣の副会長が吐血してたっけ。

 多分だけどあの副会長にも私は嫌われてるだろう。

【四粹】

「そして文化祭については立ち会った笑星さんや松井さんから話を聴いただけですが、どうやら稜泉学園の文化祭は紫上学園と同日程らしく、且つ武蔵大学の学祭とも連携する流れになっていたと」

 紫上学園の文化祭は、「紫上最強文化祭」という正式名称を持ち、体育祭経験済みなら察知できるようにコレも結構な勝負イベントだったりする。

 しかし体育祭よりも規模は大きいと云え、それは2日間かけて開かれるという時間的な理由、更に学園全体どころか学外とも連携するという空間的な理由からも、誰もが納得する紫上学園最大級の祭り。実力試験は考えないでおこう。

 特にユニークなのは連携システムで、学園長が武蔵大のお偉いさんと仲良しってことでノリで合同学園祭を開いたのが発端。それが案外評判だったので毎年伝統として続けてきたらしく、私が文句を云う暇もなく武蔵大との打ち合わせが始まってしまっていた。

 何をやるのかというと、何か共同で出し物をするというわけではなくて、ミスコンなどのイベント系を共同でやってみたり、という感じに収まってて正直ホッとした。そこまで複雑じゃない。

 ってことで9割方準備を完成させてあとは実行委員と一般学生がちゃんとやってねっていう段階で私は修学旅行の方に集中しようかなって思ってたのに、そこに本日稜泉学園の莫迦筆頭が殴り込んできたのだ。

【冴華】

「稜泉とのコラボって……具体的に何をするんです?」

【鞠】

「武蔵大は規模が大きいので確定してるスケジュールの大幅改定はできない。だから3校同時コラボというのは実質無理ですが、ミスコンなどのイベント系を武蔵大と稜泉、また紫上と稜泉で連携してやろうとか勝手に決まりました。あとこちらの実行委員が駆けつけたと同時に悪ノリして、合同後夜祭をやろうとか云い出しました」

 あの会長の話によると、会長がノリで「紫上学園と何かコラボできたら面白くね?」とほざいたら向こうの実行委員会が乗ってしまったらしく、それに対して会長は「じゃあ俺が話を付けに行くわ!」ともう後戻りできない文脈を戻る気ゼロで作ったとのこと。

 入念に計画を練ってきたのにそんなフワフワしたノリで壊されちゃった私の思いなど誰も分かってくれやしないだろう。

【冴華】

「合同後夜祭……まあ営業後なら比較的スケジュール改造は容易ですからね……とはいっても場所とかどうするんですかそれ」

【鞠】

「知りません。後夜祭については記録はしますが紫上会は基本手を出しませんから。稜泉の生徒会と実行委員が主として計画立てるとのことです」

【冴華】

「ノリで進めすぎじゃないかしら……稜泉って確か偏差値高かった覚えがあるけど……」

【兵蕪】

「ははは! いいじゃないか、ノリ!! 勢いのままに未知に挑戦する!! その姿勢は将来きっと役に立つ!」

【鞠】

「…………」

 将来こんな感じの大人がいっぱい増えるのかな。心配将来の社会。

【鞠】

「まあ、そういうことなので、暫くまた宿泊します」

【兵蕪】

「えぇええ!?!?」

【汐】

「またですか?!」

【鞠】

「だって稜泉が乱入したので、その微調整しないと。各イベント関係者とも情報を共有しなきゃですし、それ毎に記録を作らないと」

【兵蕪】

「矢張り物事というのは勢いだけで為しては無責任というものだね。鞠ちゃん、稜泉との連携はキャンセルの方向でいこう」

 手のひら返しの基準が超絶私的だった。

【鞠】

「それを決めるのは残念ながら私ではなく文化祭実行委員です。彼らがそう決めて一般学生が既に盛り上がり始めており、しかも稜泉だけでなく武蔵大までもうその気になってる以上、関係円満の為に頷くほかありません」

【汐】

「そんなぁあああー……また鞠の居ない日々……お姉ちゃんの鞠ちゃん抱き枕が涙で濡れる日々……」

【鞠】

「傭兵画伯、後でこの人のベッドの上の抱き枕焼却処分してください」

【行】

「命令とあらば仕方ありませんね汐」

【汐】

「ぎゃーーーーーーやめてーーーーー!!!」

 そんなこんな。いつも通り騒がしさがグレードアップした夕食だった。

【和佳】

「汐さんと行さん、とっても仲良しだー」

【冴華】

「抱き枕で罅入りそうですけどね」

【兵蕪】

「ていうか鞠ちゃん抱き枕とかあるの!? 云ってよ、売ってよ!?」

【四粹】

「……買って、どうするおつもりですか……?」

【兵蕪】

「え、そりゃ今まで一度もできなかったし恐らくこの先も無いであろう添い寝体験を――」

【冴華&四粹】

「「それは絶対にやめましょう」」

【鞠】

「はぁ……」

【ババ様】

「これぞ、団らん、じゃな!」

【鞠】

「……いっそ宿泊した方が楽」

 でも宿泊し過ぎるとパパとメイドが抱き枕に溺れるから程々にしないとな、と思いながらデザートのプリンを削り一口。

 ……今日はシェフにどんなフォローを入れようかな。

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