8.49「照らされた粗悪」

あらすじ

「赦されることがなくても。罵倒がやまなくとも。それが正当」冴華ちゃん、告白。良い話かどうかは分かりませんが、取りあえず放送事故な8話49節。

砂川を読む

【冴華】

「私は、ずっと親から虐待を受けてきました」

 シン、と静まり返る。

 凄まじい圧迫感。押す恐怖感。

 ……だけど、もう戻れない。

【信長】

「……まさか……」

【深幸】

「云うのか――家のことを――?」

【和佳】

「――お姉……ちゃん――」

 井伊さんと石山さんを結ぶテーマがソレだというなら……

 私とあの人を結ぶ……私があの人を考えて浮かぶテーマなんて、それは1つしかないのだから。

【汐】

「ちょ、待っ――」

【ノウェル】

「何狼狽えてんの汐ちゃん?」

【汐】

「あ、いや……もうちょっと明るいものがいいんじゃないかなーって」

【在欄】

「告白は様々な意味を包容する。カミングアウト等、極めて真剣でその先の人生を左右しかねない行為にも充分なり得る。故にルール上止めるべきものでもなかろう」

【学長】

「……そうですね、生放送が少し気にはなりますが、彼女のあの目……覚悟は据えているのでしょう」

【帯刀】

「砂川さんへの告白――果たしてそれに留まるものなのか……楽しみだね、姿勢を正さねば」

【汐】

「さ……冴華ちゃ~ん……!」

 汐さんが、あまり見ない困ったような表情で私を見ている。

 ……いや、実際彼女だけでなく、多くの人を困惑させることだろう。事情を知っている人達の配慮を無下にする蛮行だろう。それは、ごめんなさいとしか……云い訳は出来ない。

【邊見】

「…………」

 でも、それでも――

【冴華】

「意向に反すれば、私は親にとって価値の無い粗悪品です。だから私は生きる為に、自然と親の教育に従って参りました。しかし、私は従う意思はあっても……彼らを満足させるほど完璧な品ではありませんでした」

 私は、変えたい。今の、私を。

 既に大いに変わった一方で、変わり損ねているモノを――

【冴華】

「だから、身体に沢山の傷を負いました。無数に痣も作りました。骨も沢山痛みました。痛みに何度も嘔吐したし、血だって何度も吐きました。勿論、病院には行かず自然治癒に委ねます。食事は用意されませんから、自分で確保が原則です。それができればいいですが、できなかった時は飢えにも苦しみました」

【和佳】

「ッ……」

【井伊】

「な――」

【冴華】

「私は、ずっと、頑張ってきました。頑張って、他人よりも結果を出し、生き残ることが人生だと両親から教わってきたからです。だから……私は、学園で、ずっと苛ついていました」

 私の足をどうしても止めてしまう半透明で不明瞭なソレと、向き合う為に。

【冴華】

「私よりも頑張っていない、結果を出していない同年齢の人達の肌は綺麗で、痣も無く……屈託無く、笑っていたから。私の方が頑張って居る、結果を出している――すなわち勝者の筈なのに、敗者である彼らの方が幸せそうで……だから、私は貶めたのです」

 区切りを、つける為に。

【冴華】

「私の後ろに居る皆さんを、私はそれ故に、傷付けたのです」

【紫上学園】

「「「…………」」」

 後ろを振り返り、彼らと視線で相対し、理に適った正当な恐怖に足が震えるのを感じても……ヤケクソ混じりかもしれない、諦めすら混じってるのかもしれない、私の勇気で。

【冴華】

「それで私は、私の先に広がる粗悪な未来を、見ることを誤魔化したのです。私は、正しいんだと、止められない感情の捌けをどこかで気付いていながらも、フタを、したのです……ソレが紫上会雑務を担った時代の、皆さんの知る害悪の村田冴華です」

 私の……勇気で。

【六角】

「…………」

【菅原】

「…………」

 私が、歩かなきゃ。

【冴華】

「私が私でなくなっていく、粗悪になっていく、私の目から遠ざけられたその「真実」を――あの人は照らしたのです」

 でなければ――あの人が私にしてくれたことの意味が、死んでしまうかもしれないから。

 ソレが、一番あってはならないことだから。

【冴華】

「紫上会に昇り弱者と見なした学友を虐げることでしか笑えなくなっていた、粗悪な私を完膚無きまでに叩き潰し……私の悲哀と、悔恨と、絶望を取り戻してくれた」

 貴方にこれ以上、私の粗悪なんかで、不快な思いをさせてはならないから。

【冴華】

「私は現実に戻って来た。そして、私を覆っていた絶望を、最も私が強く虐げた1人である貴方が、壊してくれた。そして、私は――自由と、なったのです」

 だから、どんなことだって、やる。

 今度は何を見逃すこともせず、

【冴華】

「だけど、今、私は恐怖しています。私はなんて粗悪なんだろう……って。今年も文化祭はとても盛り上がりました。その中に私も入っていて……そこで、とても強く思い知らされたのです」

 逃げも、せずに。

【冴華】

「私が傷付けたクラスメイト達は、彼らを虐げる理由を失った私を、文化祭の作り手の1人として迎え入れてくださいました。色々あって怪我をした私に心配すら寄せてくれる方もいました。その度、私は手遅れながら気付きました。彼らは全く、敗者と決めつけるに値する弱者ではなかったじゃないかと。その度、私は戦慄しました。弱かったのは私じゃないか。その度……私は、悩みました。こんな弱い私が、こんな強い方々と一緒にいていいのだろうか」

【女子】

「村田……」

【女子】

「……そう、だったんだ。村田――」

【女子】

「そんな……そんなこと――」

 言葉に出して、全部を把握して、

【冴華】

「――そしたら、あの人は、私に云ったのです」

 私の総ての感情を、拾って――

* * * * * *

【鞠】

「少なくともここに1人、居るじゃないですか。貴方を恨んでいる人間が」

【冴華】

「――!」

【鞠】

「蒸し返しても何の得もないのでしませんけど、私は貴方を赦した覚えはありません」

【冴華】

「…………」

【鞠】

「……野蛮な私に負けただけでなく、野蛮な私と今や同居し登校を共にする。おまけに、貴方が唯一大事にしてきた妹が私に懐いている始末。だから――もうそれでいいじゃないですか」

* * * * * *

【冴華】

「私は貴方を赦した覚えはない、野蛮な私に屈している敗者。だから、もうそれでいいじゃないか、と」

【汐】

「……鞠」

 そして――微弱だとしても――光を持った私の「結論」を、死んでも離さないように、この身体に刻んで。

 私は、今度こそ、本当の意味で歩くのだ。

告白冴華

【冴華】

「歩きます」

【和佳】

「…………」

【冴華】

「この村田冴華は、褒められる人間では断じてありません。生来、粗悪な弱者であり敗者ですッ――!! この照らし戴いた「真実」を今度こそ大切にし、今度こそ……ちゃんと歩いて行く所存です」

 その為の、告白だ。

【冴華】

「赦されることがなくても。罵倒がやまなくとも。それが正当。それが私です、しかるべき私です! 私の……あるべき道です」

 貴方へ返すべき私の在り方だ。

 ……そして、今、とても云いたい。

【冴華】

「……だから……」

 告白をしたい。総てを拾い、相対した故に当然、見逃す筈も無い巨大な感情を。

 どうせ……貴方は嫌がることだから、居ない今がチャンス、とでも云うべきで。

【冴華】

「……鞠さん」

 受け取ってくれなくていい、私なんかの言葉。届かないなら捌けと同じかもしれないけど。これは、もう、それでいいから。

 お願い。

 云わせて――

【冴華】

「私の「真実」を、一番最初に見てくれてありがとう」

 鞠さん――

【冴華】

「――貴方が紫上に来てくれて、よかった」

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