8.46「望む顔は」

あらすじ

「女性の肌には、コラーゲンが良いと聴きました」砂川さん、あの悪夢再来。完全に放送事故な8話46節。皆、料理はちゃんとレシピ通りに作ろう!

砂川を読む

【石山】

「――さあ、できたぜ英!! ツララ姫!!」

【司会】

「おぉおおっっと!! 先に出来上がったのは、何もかも先手を打った石山くんだあぁああああああ!!!」

 まずその姿をカメラに披露するのは、あちら側となった。

 壁スクリーンから、私たちも敵の完成品を見詰める。因みに私と副会長はもう特設の試食席に座らされてる。死刑宣告を待ってる気分。緊張とは違う気持ち悪さで喉が汗掻いてる気分。

【司会】

「石山くんは、どんなカレーを作り上げたんでしょおぉおおおお!!!」

【石山】

「刮目しな!! 石山博樹シェフの処女作だぜぇ!!!」

 もう皆分かってたけど、初心者なんだね貴方……。

 でも初心者でももうちょっとマトモなもの作る――

【石山】

「野菜カレー!! それもただの野菜カレーじゃない、より忠実と云わざるを得ない、モノホンの野菜カレーだ!!!」

 ――いや、抑もどうしてコレがマトモじゃないと奴は分からない!? 初心者とかそういう問題じゃない……!!

【汐】

「うわぁ……」

【ノウェル】

「あれ巫山戯てやってないよね👅」

【在欄】

「かの石山くんには、現代社会の生活水準が染みついていないらしい。実に面白い研究題材といえよう」

【ノウェル】

「在欄きゅん、食わされる側は全然面白くないよ👅」

 生活水準を感じない野菜カレーが、稜泉側のリポーター席に置かれる……。

【英】

「…………」

【石山】

「さあ……冷めぬうちに、召し上がれ!!」

【藍澤】

「どうやって……?」

 何一つ切り刻まれること無く、入れた時のまんまの野菜が皿に転がっていた。

 アレは野菜カレーではなくただの野菜じゃなかろうか。ルーは野菜に浸す為のソースでさ。別料理だと思う。

【深幸】

「よっしゃ、あんなの食いようねえぞ!! これはコメントできないぞ!!」

【笑星】

「相手のミス願うのはスポーツマンシップに反するけど、ナイス石山先輩!」

 一方、こちらの書記はちゃんと野菜を切り刻んでいたから大丈夫、ちゃんと口に入る――

【信長】

「……俺も、完成しました」

【司会】

「あっと、松井くんも完成、その皿は――……え?」

【信長】

「会長に、日頃の感謝を伝えられる機会となればと思いました。これを――どうぞ!!」

モザイク鍋

 はい、モザイクー。

 ……え? これを、口に入れるの? 今から?

【四粹】

「…………(←保険証)」

 副会長が健康保険証裏の臓器提供の欄にマルし始めた。

【鞠】

「ちょ、諦めないで、人生始まったばっかですってッ」

【四粹】

「お嬢様と“家族”になれて、束の間ではありましたが、僕は間違いなく幸せでした――」

 それもしかして辞世の句? いやいや死なないでッ!! そんな死に方されたら何か色々やりきれない!!

 ……ていうか私もそのレベルで絶体絶命なんだけども……。

【鞠】

「何ですか……コレは……」

【信長】

「単純なネーミングではありますが……コラーゲンカレーです!」

【四粹】

「コラー…ゲン……?」

【信長】

「女性の肌には、コラーゲンが良いと聴きました。故に、会長がより美しく輝けるように、この信長、ルーの代わりにコラーゲンを投入しました!!!」

【鞠】

「それもうカレーじゃない!! ほぼ野菜炒め!!!」

【司会】

「松井くんも石山くんに劣らぬ、殺戮兵器を仕上げてきたああぁあああああ!!!」

【在欄】

「似た者同士、といったところか」

【帯刀】

「極めて上手なものがある一方、それを帳消しにできてしまう谷の短所。いいね、ギャップ萌えというやつだ☆」

【汐】

「いやいやいや桃、この流れヤバいですって鞠が食べるんですよあの毒物??」

【ノウェル】

「コラーゲン入れただけなら透明感ありそうなのに何であの皿ドス黒いの?」

 この前のクリームシチューより漆黒。

 臭いからも文句なし、産廃認定である。

【深幸】

「……………………」

【笑星】

「松井先輩……期待を裏切らないんだね……」

【司会】

「さあ――運命の、試食タイム!!」

 静まり返る会場。今周りの人達は何を思ってるんだろう。

 2人へのドン引きか。私達への同情か。

【ババ様】

「ま……鞠……(泣)」

 何か、取りあえずスプーン持ってみたりしたけど……ヤバい、手が震えて、スプーン机に落とす……。

 本能が理解しているのだ。コレは、食べられるものではないと。この身体が有する免疫システムでは到底消化できない有害物質なのだと。

【鞠】

「はぁ……はぁ……」

 何で……何で、こんなことに。

 本当に、私が一体何をしたというんだ――

【四粹】

「――会長」

 隣の副会長が、左手で私の震える手を、優しく押さえた。

【鞠】

「……?」

【四粹】

「手前が……いきます」

 保険証とペンを置いた副会長が……スプーンを手に持ち。

 ルー(?)に着けた……

【司会】

「……!! いくのか、玖珂くん!! 引き返すなら今のうちだぞ玖珂くん!!」

【井伊】

「四粹様ー、思いとどまってぇー!!」

【和佳】

「四粹様、ソレダメ、多分死にますーーー!!」

【四粹】

「……大丈夫ですよ、大切な仲間が作り上げたおもてなしの一品です。ソレを受け入れられない自分など……紫上会に身を置く手前は、許すわけにはいかない――」

【鞠】

「ちょ……」

 副会長、めちゃ覚悟決めてるのは分かるけどソレだと私も食べなきゃいけない流れじゃね――

 って掬ってる!! もう何の具材か分からないやつを掬って――

【四粹】

「いただきますね、松井さん――」

 口に入れた!!

【四粹】

「…………うん……美味し――」

 2秒後、副会長はぶっ倒れた。

【ファン】

「「「きゃあぁあああああああああああああ――!!?!?!?」」」

【司会】

「玖珂くん、ダウン!!! 決死の覚悟でコメントを絞り出そうとしたが、それを総て掻き消しあらゆる意思を沈黙させる松井くん渾身のカレーに、お茶の間も戦慄だあぁああああ!!!」

【鞠】

「ふ、副会長、は、早く救護室に――!! 吐き出させて!!」

【四粹】

「――――」

 ……保険証を胸に乗せた副会長、退場……。

【信長】

「な……ま、また俺は失敗してしまったのか……」

【鞠】

「何でレシピ通りにやらない……」

【信長】

「いえ、その、俺レシピ通りにやった筈なんです……コラーゲンルーというアドリブは入れましたが……」

 その透明なアドリブだけで何でダークマターを作れるんだこの人は。

 ……で、アッチは。

【石山】

「ほら、食えって!! 淑女なんだろツララ!!」

【藍澤】

「淑女関係ねえ!! 無理だバカ!! 抑もどうやって食べるんだコレはッフォーク全然刺さらないし、芯まで加熱できてないだろうどれもこれも!!」

【石山】

「素が出てんぞツララ」

【琴竪】

「ユラ書記、タマ副会長、取りあえずお2人の遺書ご用意できました👍」

【井伊】

「いや他人が作ったら意味無いですからソレ!! 2人とも食べなくていいですからー!!」

【石山】

「は、何でだよ? 喰ってもらわないと俺勝てないじゃん。それともお前ら食べる?」

【琴竪&井伊】

「「殺す気か!!!」」

 同じく、食べれない状態。

 最高に泥仕合になっていた。これはテレビに映し続けてるとお茶の間からも倒れる人出るかもしれない……。早く何とかしないと、色々滅茶苦茶になる……。

【鞠】

「……副会長が早々に口を付けようとしたのは、ソレを考慮してのことか」

【信長】

「…………」

【鞠】

「…………」

 滞りが発生しては双方の後夜祭に、番組に支障になり続ける。ソレは学園の傷にもなり得る。だからどうにか状況を動かしたかった。

 どちらかがコメントしてしまえば、取りあえず勝敗は付けられるようになるのだから。あちらは抑も口に入らない形状と堅さだし……。

【信長】

「…………」

【鞠】

「…………」

 ……………………。

 ……えっと。

 つまり、あとコメントに入れるのは――って、ことだよね。

【鞠】

「……棄権なんてしたら、ブーイング不可避ですしね」

 つまりつまり仕方無いこと、だから。

【信長】

「――!!」

【ババ様】

「……鞠?」

 再び、スプーンを持つ。

 保険証は……いいや、マルしなくて。毒で散った私の臓器など使えるか疑問だし。

【信長】

「会長――」

【深幸】

「ッ、おい待て莫迦、早まるな!!」

【笑星】

「鞠会長ぉおお!!?」

【司会】

「ま、まさか……玖珂くんの後を追う気なのか、砂川会長がスプーンを漬けたあぁああ!!?」

【汐】

「はぁ!? ま、鞠!? 正気ですか!? まさか臭いにやられて――」

【在欄】

「バイオリンが弾けなくなったらどう価値を復元するつもりだ、砂川くん――!」

【学長】

「…………」

 騒然としている。

 まあ、盛り上がればいいんじゃないかな。テレビ的にはソレが良し。

【ババ様】

「ま、ままままま鞠!? 嫌じゃ、ババ様嫌じゃぞ、コレを味わうなんて!? ダメじゃこれは、人の食べ物じゃない!!」

【鞠】

「そんなの見るまでもなく分かりますけど……」

【ババ様】

「ならどうして――」

 ……丁度カメラの死角になってて、今は私しか見えない光景。

【信長】

「――――」

 貴方の顔。

 だから……お願いだから、もうさ。貴方は、そういう顔だけは、やめてほしいっていうか。

 今一番動かしたい状況は、ソレだったから――

 ああもう、だからッ!

【鞠】

「――いただきますッ!!」

【司会】

「い――いったああぁああああああああああああああ!!!」

 ……………………。

【信長】

「か――会長――」

【鞠】

「…………書記……」

【信長】

「! は、はい!!」

【鞠】

「………………お……」

【信長】

「お、お……?」

【鞠】

「お米、は……t……炊け…て――ます――」

 すぐに……何も見えなくなった――

【鞠&ババ様】

「「ぱたり」」

【信長】

「か――会長おぉおおおおおおおお!!!」

【司会】

「砂川会長、コメントを残したあぁああああああああああああああ!!! しかし矢張り救護室行きだあぁああああああああ!!!」

vsother

【藍澤】

「……何という殺戮的な対決……」

【英】

「す……砂川会長……」

 矢張り、常人ならざる覚悟の領域――この勝負は、もう……決まったもの、かな。

 でもそれだと……この勝負、会長の負けってことに――

【石山】

「……そういや、英に料理作ったのって初めてだわな。料理自体ほぼほぼ未経験だが」

【英】

「――え……?」

【石山】

「料理だけじゃない、お前に何か俺があげるって、全然無いからな。お前からは、あの時から沢山、数え切れないくらいに色々貰ってるんだけどなぁ。良い機会だったよ」

【英】

「…………会……長」

【石山】

「まぁ、こんなだけど、一応感謝してるんだよ。いつも、悪いな。俺の分まで生徒会頑張ってくれて……あんがと、英」

【英】

「……………………」

 ……覚悟を決めないの?

 私は……このままで、いいの? 会長に恥をかかせるつもり――? それに……。

 コレを、受け取らないの?

【英】

「…………」

【藍澤】

「え――?」

【司会】

「おっと、稜泉側ですが……英さんがスプーンを置きました、これはサレンダーということ――」

 ――ならば。

【英】

「ッ――!!!」

【司会】

「――いや、違う!! 手で、にんじんの葉を持ったぁ!!! ま、まさか――」

【井伊】

「ちょ――ヤバいって!!」

【琴竪】

「ッ……!!」

 ならばッ!

【英】

「いただきますッ――!!!」

 バキッ――!!!

【みんな】

「「「!?!?!?」」」

【司会】

「い――いったああぁあああああああああああ!!!! 歯は大丈夫なのかあぁあああああ!?!?」

 ……………………。

【藍澤】

「――――」

【英】

「…………会長……」

【石山】

「お、どうだ英! 味は!!」

【英】

「……正直、不味いです……というかこれはただのにんじんです……」

【石山】

「あれ、マジで……? 俺なりに上手くいってる気がしたんだけどなぁ……悪い英、食わせて――」

【英】

「でも」

【石山】

「ん……?」

【英】

「会長が、私に料理を振る舞ってくれたのは……嬉しかったです」

【石山】

「――ッ……お……おう」

【司会】

「英さん、口が血塗れだあぁああああああああああ!!! だけど、笑いかけたあぁあああああ愛が炸裂うぅううううううううう!!!」

【ノウェル】

「あー、把握。何あの子可愛い👅」

【帯刀】

「ふふ……青春、だね☆」

【在欄】

「……マトモにコメントができたのは、稜泉側か」

【司会】

「さあ、審査員の方々、心に響いた方を――どうぞおぉおおおおお!!!」

 校章の描かれた旗が、上げられる。

【司会】

「3対2――接戦を制したのはッ」

【信長】

「会長、しっかりしてください、会長ッ!!」

【鞠】

「……こめは……よく……た……け……」

【司会】

「稜泉生徒会会長、石山博樹ぃいいいい――!!!!」

【稜泉学園】

「「「副会長おぉおおおおおおおおおおおお――!!!!」」」

【石山】

「おお……勝った!! 俺たちの勝ちだな、英!! 取りあえず、ほら、テレビだし口元拭くぞ!! ソース垂れてる(←ハンカチ)」

【英】

「ぁ……えへへ……あ、ありがとうございます……///」

【藍澤】

「いや、それカレーじゃなくて血……救護室行きましょう英副会長……」

 ……よかった。

 私の会長はやっぱり……

【石山】

「そっか、ただのにんじんか……また無茶させたな……へへっ」

 勝って笑ってる姿が、一番素敵だから――

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