8.38「邊見という親友」

あらすじ

「大袈裟ですよ~。僕は、ただ純粋に、えっちゃんとの時間が楽しかった」砂川さん、雑務くん達の過去を知ります。嵐の中での、極限な嵐の前の静けさ的な1ページお寛ぎくださいな8話38節。

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Time

15:30

Stage

1A教室

 ……ヤル気が尽きた。

 この先に山場が控えているというのに、仕事が無いと云われちゃったので、もう終わった感じがしている。

 はあぁぁぁぁ……このかったるさ、あとお腹の中で何かが消化できてない感じ。気持ち悪いなぁ。

【鞠】

「はああぁぁぁぁ……」

【邊見】

「どうしたんですか~?」

【鞠】

「……貴方こそ、どうしたんですかその格好」

 休憩バーというある意味此処の文化祭では異質なお店では、エンジェルな格好をした雑務の親友がバーテンダーしていた。

 この子はもうちょっと、断るということを覚えるべきだね。

【鞠】

「まあ、色々恐ろしい目に遭ったので」

【邊見】

「そうなんですね~……」

 ……後ろを見遣る。

【夏鳴】

「み、見てください……! こ、こここんなに繊細で煌めくアクリルキーホルダー、初めて見ました……! 本来刹那のものである筈のノブユキの汗や汁が永久保存されているんです……!!」

【金嶺】

「へーそうなんだ……ていうか、家帰ってから開けなよー」

【夏鳴】

「す、すみません……この衝動買いしてしまった外伝ノブユキ・プレミアムBOXがどうしても私に囁きかけてきて、「開けよう? ねえ、開けよう?」って腕を広げてくるんですッ……」

【金嶺】

「それは幻聴だねー。病院を検討しよっか」

 関わりたくない子たちと早々に再会してしまったし。

 ふっかい傷を負った会計と書記は園児2人に連れられて傷心旅行に出掛けちゃったし。

 勿論一番私を困らせてるのは、為す術の無い後夜祭。本当に大丈夫なんだよね? 稜泉の副会長以外、信用ならないけどちゃんと仕事できてるんだよね??

【鞠】

「はぁ~~~……――ん」

 ……肘を着いてたテーブルに、飲み物が。

【鞠】

「……コレは?」

【邊見】

「ミルクセーキです。疲労回復に、いいんですよ~」

【鞠】

「頼んでませんけど」

【邊見】

「僕からの、サービスです。僕の大好きなこの学園を護ってくれてる、僕の大好きなえっちゃんを助けてくれる会長先輩に、細やかだけどプレゼント~。……受け取って、くれますか?」

【鞠】

「…………」

 カップを手に持って……一口。

 熱くもなく、冷たくもなく。

 とても繊細な温かさ。他人の飲みやすさというのを意識しているのかもしれない。

 優しい味……なんて感想は私には似合わないか。だけど彼には似合う。

【鞠】

「……1つ、訊きたいんですが」

【邊見】

「? はい、何ですか?」

【鞠】

「貴方は、昔から知ってるんですよね? 雑務が……身体弱いって」

【邊見】

「……会長先輩、知ってくれたんだ。嬉しいな」

 彼は、笑った。

 ……いつもニコニコしているとは思うが、何だろう、それとは……ちょっとだけ違うような。

【邊見】

「ずっと、ずっと前に……病院でお母さんとはぐれて、迷子になったんだ~。で、うろうろして……外に出て。そしたら近くの木陰に、えっちゃんが座ってたんだ。「何してるの?」って訊いたら、「何もしてない。だって何もできないから」って返されちゃって」

【鞠】

「…………」

 その回想に私は浸れない。情報が断片的で、情景を浮かべるにはまだ情報が足りないからだろう。

 しかしそれでも意外に思うところもあった。

 「だって何もできないから」っていうのは……雑務が使う表現としては、縁遠く感じたから。

【邊見】

「あの頃のえっちゃんって、本当元気無かったから……沢山遊びたい。色んな場所に行ってみたい。友達とお話したい。でも、それに耐えられる身体じゃなかったから……ちょっと冒険心出したらすぐ病院のベッドに縛り付けられてた」

【鞠】

「その頃から雑務じゃないですか」

【邊見】

「そうなんですよね~。拗ねてるところもあったけど、僕が話し掛けたのすっごい嬉しかったみたいで、それから喜んでお母さん捜しを手伝ってくれた。まあお医者さんに見つかって結局縛り付けられてたけど」

 そこは見事に想像できるというね。

【邊見】

「ソレが切欠で、僕はえっちゃんのところによく遊びにいくようになりました。何もできない、弱い子ってえっちゃんは自傷してたけど……そんなことない、あの頃から僕を助けてくれたし、ちょっとメンタル弱いところもあるけど、でも何かを諦めてなくて……寧ろ強い子だって思った。一緒にいて、とても楽しくて、有意義な相手なんだって分かったから、僕はずっとえっちゃんと一緒に居たんだ」

【鞠】

「雑務は……貴方に相当感謝をしている様子です」

 彼を支えた、重大要素。

 入り込んだ卑屈に飲み込まれることなく、手術が受けられるようになるまで頑張ることのできたのは、周りのお陰と……前に雑務から聴かされた話と結びつけると、そう推測できる。

【鞠】

「貴方が彼の親友となり、彼との時間に価値を置いたから、彼は自分を諦めずに済んだ」

【邊見】

「大袈裟ですよ~。僕は、ただ純粋に、えっちゃんとの時間が楽しかった。だからこれからもずっと一緒に居れたらいいなぁ……って。外に出られたえっちゃんが、夢見たぐらいに笑ってるところを見れたらいいなぁ、そう思ってるだけです」

【鞠】

「…………ふむ」

 この後輩の教育環境どうなってるんだろう。

 仮に将来子どもを持つとしたら、目標はコレだな。

【鞠】

「……貴方が会長になったら凄く平穏そうですね」

【邊見】

「え、それはダメですよ~。会長になるのは、えっちゃんですから~。だから、会長先輩にいっぱい教えてもらってるんですよね~」

 その辺は知ってるんだ。

【鞠】

「なら、書記にでもなりなさい。元々一緒に入るつもりだったんでしょう?」

【邊見】

「そうですけど~……うーん、なれるかなぁ~……」

 発表式表彰常連が何を云う。

【鞠】

「……そこまで心配なら、多少は教えますよ」

【邊見】

「え……?」

【鞠】

「まあ最優先は彼ですけど。会長になった彼の姿は全然想像できなくて心配が止まらないので、私の平穏の為には彼を間近で完璧に支えられる人材が求められるわけです」

【邊見】

「……それに、僕がなれる……会長先輩は、そう思ってくれてるんですね」

【鞠】

「去年の雰囲気全然知りませんけど、多分六角政権における現副会長みたいなポジション。貴方は確実にその才がある」

【邊見】

「えへへ……ありがとうございます。じゃあえっちゃんは六角先輩みたいな感じかぁ」

 ……最高に似合ってる気がする。褒めてはない。

【鞠】

「まあ、そういうことです。あまり関与し過ぎると世襲じみて批判来そうですし、抑も貴方には必要無いとは思いますが……実力試験対策で困ってることがあるなら、暇があったら聞きます」

【邊見】

「ありがとうございます~。やっぱり……会長先輩に、えっちゃんのこと、お願いしてよかった」

 確かに……4月時点でお願いされてたっけ。いや、直接された覚えは無いんだけど……。

 凄まじいビジョン。これはもしかすると、この学園で一番恐ろしい人物はこの子なのかもしれない。

【鞠】

「こわこわ……」

【邊見】

「え……?」

 イイ時間だ。結構休憩してしまった。

 何か、巡回した中でプラス評価なの此処しか無かった気がする。

 ってことでコレを出すタイミングも当然此処ということになる。

【鞠】

「有難くサービスは受け取りますが、純粋に無賃というのも私が抵抗あるので」

【邊見】

「……VIP票……しかも、会長先輩の……」

【鞠】

「正当な評価です。このクラスは、他の出し物が成果を出す為ギラギラと好戦的な傾向を選んだの対し、その濃い味付けに疲れた人達から生まれた需要に最も応えられる消極的な雰囲気を採用した。他を蹴り落とし順位を上げる決定打というのは無いかもしれませんが、確実にお客様を癒やすその姿勢は3年の莫迦共に見倣ってほしいとすら思いましたので」

 まぁすっかり忘れててもう他見てる時間無いしっていうのが大半なつもりだけど。しっかり自分のサインを入れて……彼に、手渡す。

【邊見】

「あ……ありがとうございます~……でも、いいんですか? 自分のクラスとか」

【鞠】

「アレは論外ですので」

 奴ら許さない。

【鞠】

「さて……閉園立ち会いに行くか……」

 書記と会計、ちゃんと帰ってくるのかな……。

【夏鳴】

「えっ、も、もう閉店のお時間ですか!? まだ読み切れてないです……」

【金嶺】

「だから家帰って手に取りなさい。ああそうだ……ねー会長さん」

 怖い子から話し掛けられた。

【金嶺】

「此処の後夜祭って、武道館でやんの?」

 アルスを見せられた。何らかのSNSの画面だ。

 そこには……

【鞠】

「…………は?」

 合同後夜祭の情報が――テレビ局の公式アカウントにて呟かれていた。

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