8.36「不審者のおじさん」

あらすじ

「まあ寂しかったら、嬢ちゃんの家に泊めてもらいなー」砂川さん、事案処理。電車の中で知らないおじさんに絡まれた時は取りあえずボケに回って周りの乗客に笑ってもらう8話36節。

砂川を読む

Time

14:30

Stage

紫上学園 7号館

 文化祭の営業部というか防災センターというか。

 それは7号館に設定されており、迷子もクレーマーも取りあえず7号館に通されて、応接室に監禁されるのである。

 できればそういうのはあってほしくなかったのだが、これだけ繁盛しているのだ、迷子は余裕で続出しても致し方ないってところはある。

 そして不審者も……

【鞠】

「帰還しましたが」

 電話を寄越した主、発見。

【深幸】

「お疲れさん、どうだったよ。収穫あったか?」

【鞠】

「それは後で話します。そちらの状況を詳しく」

 ……まあ、大体もう分かってるんだけど、この光景で。

【璃奈】

「ぅぅぅぅ……」

【瑠奈】

「りなー、だいじょーぶだよ、おねーちゃんきたよー」

【璃奈】

「おねーちゃーん……」

 膝に抱きつかれた。

【鞠】

「……………………」

 私、大ダメージ。

 そして状況が状況だけに引き離せない。

【深幸】

「もしかして俺よりもお前に懐いてる……? 何か、俺まで精神的に抉られた気分……」

【信長】

「我らが会長が降臨された。これで怖いものなしだな璃奈!」

【瑠奈】

「ふしんしゃさん、やっつけよー!」

【四粹】

「その方は今……この中に?」

 結構賑やかにお話してるが、此処は一応応接室のドアの前である。

 このドアの先に、閉じ込められた不審者がいる。

【教師】

「遅くなりました、会長」

 担当の先生が来た。

【鞠】

「えっと……そろそろ、詳しく話して……(←貧窮)」

【深幸】

「見るからに体力吸われてるな……璃奈ー、一旦こっちおいでー」

【璃奈】

「イヤ――!」

【深幸】

「…………(←倒)」

【信長】

「み、深幸ぃー!?」

 3分ぐらい膝の女の子を自立させるのに要した。

【教師】

「被害者は茅園くんの弟と妹。茅園くん達と待ち合わせしたけど、お兄さんが来る前におじさんに声を掛けられて、助けを呼んだという流れ」

【深幸】

「単刀直入に云えばロリコン疑惑のおっさんだ。許さん」

【信長】

「しかし容疑を否認していてな。迷子っぽいから手を差し伸べたら泣かれたと」

【四粹】

「……信用するには、社会的なステータスが欲しいところではありますね」

【教師】

「そこで色々訊いたのだけど……今は職を探してる、とのことで」

【鞠】

「無職……」

 夕方のニュースで流れる、微妙な事件で捕まる人って結構な割合で無職だよね。

【教師】

「警察に突き出すべきか考えあぐねていたら、突然「面倒臭いから四粹を呼べ」と云い出して……ソレで玖珂くんに戻って来てもらったの」

【四粹】

「え……手前、ですか?」

【深幸】

「つまり玖珂先輩の知り合いってことっすか? 待ち合わせでも?」

【四粹】

「いえ、特にさような約束は……」

【信長】

「知り合い……というのはどうにも、外見からは信じられないが……」

【鞠】

「ちょっと、そこの窓から覗いて知ってるか判別してください」

 副会長、ドア窓から不審者覗く。

【玖珂さん】

「しくしくしくしく……」

【四粹】

「――玖珂さん!?!?」

Stage

紫上学園 外

【玖珂さん】

「はぁああああ娑婆に出られたぜーーー」

 不審者、見事釈放。

 というかその正体、あろうことか副会長の保護者。

【玖珂さん】

「ったく、分からず屋の大人どもめ。何回も云ったろうが、俺ぁ四粹の保護者だってなぁ」

 無理。信じられない。

 せめて身分証とか持って、髪もそれなりに整えて来てほしかった。そりゃ子ども泣くって。

【深幸】

「マジで玖珂先輩の保護者さんか……」

【信長】

「悪い人じゃないらしいから、まあ許してあげてくれ2人共」

【璃奈&瑠奈】

「「…………」」

 双子、未だ警戒。これは仕方無いと思う。

 どうやら軽く迷子(というか待ち合わせしてただけ)になってたらしい双子を心配して、迷子として届けようと近付いた、とのことだ。それに双子めっさ警戒して、それを周りの正義感ある一般客が察知して、それで監禁沙汰になったと。

 思いのほか此処のお客さん方が良識あって軽く感動を覚えた。叫ぶだけが能じゃないんだね。

【四粹】

「その……だいぶ、ご迷惑をお掛けしました……」

【深幸】

「先輩が謝ることじゃないっしょ」

【玖珂さん】

「ってことで、俺が四粹の保護者の玖珂さんだ。いつも世話になってるみたいで。紫上会」

 ……確か、玖珂八雲、だっけ。

【玖珂さん】

「特に――お前さんには」

 おじさんが、私を見る。

 より正確には、私の、右手を。多少痕は残ってしまった……もう戻せない決断の証を。

【鞠】

「……元シナのお目付役でしたっけ」

【玖珂さん】

「今はしがない報道社員……っていうのももう過去か。今は見事にフリーよ。あ、フリーターじゃなくてフリーランスな」

 何の手続きもしてないんじゃ形式上ただの無職です。

 ……身分証を持たないのは、多分それなりに理由あることなんだろうけど。

【玖珂さん】

「そしておじさん、これから大輪の方にお仕事なんだなー。暫く帰らないから、今のうちに紫上学園さんを観に行こうと来たわけだが、結局そんな遊べなかったわ」

【四粹】

「はあ……――ん!? 大輪!?」

【玖珂さん】

「あれ、云ってなかったっけ」

 保護者、突然の長期出張を息子に告げる。

【深幸】

「玖珂先輩って確か、男2人で暮らしてるって……じゃあ、いきなり独り暮らしか!?」

【信長】

「幾ら何でも唐突過ぎでは……」

 ほんと性格全然違う。

【玖珂さん】

「ん? 独り暮らし……ああそうか、そういうことか」

【鞠】

「…………」

 そして独りで勝手に理解して、勝手に笑う。

 ミステリアス。いまいち信用しがたい相手だ。

【四粹】

「玖珂さん、急すぎませんか! 貴方が暫く帰らないと仰った時は、本当に暫く帰らないでしょう……!」

【玖珂さん】

「お、寂しい? まあ寂しかったら、嬢ちゃんの家に泊めてもらいなー」

【鞠&四粹】

「「ッ!!」」

【深幸&信長】

「「はぁ――!?」」

 爆弾発言――!

 あ、この人分かっててやってるな!! やっぱり信用しがたい!!

【玖珂さん】

「じゃ、おじさん港に直行するわー」

【四粹】

「ま、待ってください玖珂さん――!! もう少し詳細を――」

 そんな、勝手気ままなおじさん退場。

 副会長は保護者を追い掛けていった。

【深幸】

「……何て云うか、凄え人だったな……予想に反して気さくだったというか、くだけすぎてるというか」

【信長】

「自由に物を云う人だ……身分上は息子だろうに、先輩を会長の家に泊まらせようとするとか」

【深幸】

「んなことしたら学園中が荒れるっつーの……(あと俺も荒れる)」

【信長】

「だな(俺も荒れそう)」

【鞠】

「……………………」

 取りあえず私が学園を卒業するまでは、同居情報は封印しようと堅く誓った。

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