8.31「巡回その3」

あらすじ

「俺は煌めく会長のお前を助けられる存在でありたい。ソレが俺の紫上会に入った意義だ」砂川さん、また見回り。今度は影薄い疑惑を作者からかけられてる彼と一緒に出陣な8話31節。

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Time

10:15

Stage

紫上学園 1号館

 紫上会巡回のお時間である。恐らく本日一番平和であろう時間。

 それを1人で堪能することは赦されず、何故か昨日よりも自然な流れで私の隣にはパートナーが。

【深幸】

「……何か云いたいことでも?」

【鞠】

「何で貴方隣に居るんですか」

【深幸】

「稜泉には玖珂先輩が付いて行くんだろ? じゃああとは俺だけじゃん」

 何でコンプリートする必要があるの。

【深幸】

「お前と2人っていうのも……案外久し振りだな」

 そんな頻繁にあってたまるか。

 多分体育祭以来だろうけど……本当良い思い出1つも無いから、この時間にも全く期待できない。一番平和な時間は見事に穢されてしまった。

【深幸】

「……色々と、云い忘れてきたんだけどさ」

【鞠】

「? はい」

【深幸】

「信長のこと、本当サンキューな」

 ……何のことだろう。

 私と彼の間の、何を指してるんだろう。

【深幸】

「アイツが今活き活きしてるのって、お前のお陰だし。まあお前の所為で1回堕ちたんだが」

 結局嫌味か。

 そして私が関係してることは兎も角として私が主因扱いされるのは勘弁願いたい。書記に関わるのは何かもう怖すぎる。

【鞠】

「……私の所為、があるというなら、その感謝はおかしいと思いますが」

【深幸】

「かもな。でも……今までで一番、今の信長が煌めいてる気がするんだよ俺。それは、お前無しじゃきっとなれなかったと思う」

【鞠】

「……特に紫上会として活躍してない状態なのに?」

【深幸】

「不思議なことにな。親友の俺もよく分からん」

 随分ふわふわした親友だった。

【深幸】

「あと、笑星のことも。アイツが雑務として紫上会出発できたのもお前のお陰だし」

 ……これまた懐かしいのを持ち出してきた。何なんだろう、この人は結局、何が云いたいんだろう。この文脈に、何の意味があるんだろう。

【鞠】

「アレ、私何かしましたか。彼に対して」

【深幸】

「ぶっちゃけ分からん」

 また絶大にふわふわしてた。

【深幸】

「でも事実アイツはお前のことを滅茶苦茶慕ってるだろ。お前を目標にして……ソレが良いことなのかは別として」

【鞠】

「いや別にしちゃダメでしょ」

 そこはしっかり理解していてもらわないと。

 会長になった彼は、出発を間違えてはいけないのだから。

【深幸】

「玖珂先輩だって、村田のことだって、結局お前が解決した」

 ……しかし私と、文脈を無視って会計はひたすら話を続ける。祭りの喧騒を歩きながら。

【深幸】

「どう解決したかまでは俺たち全然把握できてねえけど。ねえけどッ」

【鞠】

「……しなくていいです」

 逆に知られると波乱が待ってそうだし。

【深幸】

「はぁ……ホント凄えよ、最初お前の顔を見た時、こんなことになるなんて想像だにしてなかった」

【鞠】

「私だってそうですが」

【深幸】

「ははっ、まあお前も可成り災難喰らってるよなぁ。実力試験の価値も知らされないでトップ取っちまって、自動的に会長だ」

 実力試験を頑張る切欠作ったのは君らだけど。

【深幸】

「それから学園生の反抗を殺したり、体育祭で活躍しちまったり、野球部関連の会見では……入院までしたな。島でも災害に巻き込まれて入院だ」

【鞠】

「…………」

 分かってたつもりだけど……うわホントだ、こうして思い返してみるとこの5ヶ月ほどちょっとで一体どんだけ巻き込まれてるんだ私は。

 何て酷い青春時代――

【深幸】

「ありがとな」

【鞠】

「……え……は?」

 回想してブルーになっていたら、それを掻き乱すようなことを云われた。

 ……今この人、私に御礼云ったか?

【深幸】

「色々あったけど、俺、今一番楽しいんだわ。だから、それを作ってくれたお前に……まあ、何だ。礼ぐらいは云っておかないとなって」

【鞠】

「……………………」

【深幸】

「んだよ、その気持ち悪いって顔はッ!」

 正解。

【深幸】

「俺だって、流石に云うの抵抗あるぞこんなの……ッ!」

 だったら云うなよ。

【鞠】

「何で云う必要があるんですか。私は貴方の敵でしょう。恨みの対象であり、嫌いな種でしょう。なら……」

【深幸】

「…………」

 ……ちょっと。

 何その、顔。まだ何か云うつもり? 何を、発表するつもり?

 ちょっと軽く、書記に近い警戒反応が私の中で出ていて……え、ヤダやめてちょっと待って――

【深幸】

「……俺が嫌いっていうか気に入らないのは、輝かしい場所に立った割には煌めきの欠けてる芋女」

【鞠】

「な、なら私じゃないですか」

【深幸】

「違う」

【鞠】

「……は?」

【深幸】

「お前は――煌めいてる」

 ……………………。

【鞠】

「……はぁああぁぁぁぁぁ???」

 脳天、ぐらぐら揺れるような、そんな微妙な衝撃。

 え、ちょ、何云ってるのこの人――??

 何その……突然の、手のひら返しカミングアウト?!

【深幸】

「だ、だから、悪かったって云ってるんだよ! 俺の認識が間違ってた。今までずっと信長がナンバーワンって思い込んできたからまさかその上がいきなり出てくるとは思わなかったんだよ!」

【鞠】

「…………」

 ちょっと、言葉が出ない。

【深幸】

「……勝手云ってるのは俺も分かってるけど、一応、伝えておきたくってさ。その――だからお前のことは、全然、嫌いじゃねえんだよ。だから今、お前の隣を歩いてる」

【鞠】

「…………(←頭痛)」

【深幸】

「…………」

 まあ、そんなの分かってたけどさ……酷い男子だ。

【鞠】

「……情けないこと云う必要、本当あったんですか。それ、果たして貴方に何のメリットが」

【深幸】

「それは……笑星は随分、お前と距離詰めてるの見てさ」

【鞠】

「え?」

* * * * * *

【笑星】

「ん~~今日もすっごい疲れそう! 頑張ろう!!」

【鞠】

「……だから貴方は頑張るなと何度云えば」

【笑星】

「分かってるよー身体面は頑張らない、でも精神面はファイト一発! これセーフでしょ」

【鞠】

「心身は連関性を持つのでアウトです。ファイト一発はやめて適度に数発分けして」

【笑星】

「……何か数発分けって発想面白いね会長」

【鞠】

「虐めですか」

【笑星】

「虐めてないよー」

【鞠】

「って何で私はまたこんなに会話してるんだ……」

【笑星】

「え? 俺たち割と会話しまくってるよね最近」

【鞠】

「……ちょっと話し掛けないでください、心の整理をしないと……」

【笑星】

「何で!?」

* * * * * *

【深幸】

「俺も、ちょっと焦ったんだわ。まだ半年ぐらいあるけど、このペースじゃもう半年。結局何も達成できずに、紫上会を引退しちまう。それじゃ……ダメだろ」

【鞠】

「……だから、仕事を貰おうと私との距離を詰めたい、と?」

【深幸】

「まあソレもあるが、ソレよりも……俺は懐刀だ」

* * * * * *

【深幸】

「へ……へへ……お前、ほんっっっと……」

【鞠】

「…………」

【深幸】

「バケもん、だわ……」

【鞠】

「……貴方は、基本的に人を……特に私を苛つかせてばっかりですが――」

【深幸】

「……あ――?」

【鞠】

「――懐刀というのは、案外似合ってるんじゃないですか?」

* * * * * *

【深幸】

「お前が認めてくれた、俺のやり方で……俺は煌めく会長のお前を助けられる存在でありたい。ソレが俺の紫上会に入った意義だ」

【鞠】

「…………」

 ホント、信じられない。こんな手のひら返し。こんな態度変更。

 ……こんな、奴――

【ババ様】

「敵、か?」

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「のー鞠。深幸は、凄く潔い男じゃぞ。本当、イイ男じゃ」

【鞠】

「…………」

 私は。

 この人を――

【鞠】

「……貴方は」

【深幸】

「お、おう」

【鞠】

「もっと、見た目通りにチャラい人かと思ってた」

 …………疲れた、やめよう。

 考えたくない。

 ……この人みたいにグルッと表裏回転するような評価転換など、すぐにできるわけがないのだから。

【深幸】

「……俺、そんなにチャラいか……? そんな嫌なビジュアルなら、イメチェンしようかな――」

【鞠】

「ッ、嫌じゃ――」

【深幸】

「え?」

【鞠】

「……悪くは、ないんじゃないですか。その、いきなり思いっ切り変わられても私も他の人達も困惑するでしょうし、それに、ダンス部のパフォーマンスでも、子ども達に見せるショーでもその容姿は役に立ってるのでしょう? 簡単に捨てていいものじゃ、ないと思いますけど」

【深幸】

「…………確かに、そうだな……でも俺、その辺お前に云ったっけ……?」

【鞠】

「聴いた覚えはありませんが……まあ、体育祭の時に嫌と云うほど見せられたので」

 私の強固に抱くチャラ男なるイメージ像とはかけ離れていて。

 自分の夢・在り方を信じて努力し続けることのできる、何か誤りがあったなら私相手にすら謝罪込みで態々訂正を入れてくる、そんな真面目な人だってことを。

 見たくも、なかったのに。

【鞠】

「人は見かけによらない」

【深幸】

「はは……お前が云うかよソレ」

 ……別に何かが変わるわけでもない。

 変わらない。私にとって貴方も書記同様に敵だということは。

【深幸】

「さて……何処廻ろうかね。俺は会長に合わせるつもりでいるが」

【鞠】

「昨日はどれくらい廻ってるんですか」

【深幸】

「大方コンプしたつもりってぐらいか」

【鞠】

「……なら、貴方の目から見て問題があるかないかっていうのは判断できますね」

【深幸】

「オッケー。じゃ、4Fに行くか……」

【鞠】

「あるんだ……」

 ……でも。

【深幸】

「~~……♪」

【鞠】

「…………」

 ちょっとだけ、会話しやすくは……なった、かな。

 ……………………。

【鞠】

「(いやだから会話しやすくなってどうすんの私ッ!!!)」

 隣の機嫌の良さそうな会計に悟られないよう、そ~っと悶々とする私だった……。

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