8.28「5人の夜」

あらすじ

「……何で、こんな挨拶しなきゃいけないんだ」紫上会、ご就寝。ゆっくり休ませてはもらえない砂川さんのちょっと非日常な夜更けの8話28節。

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 シャワー上がった。スッキリした。

 しかし洗濯機に脱いだやつ放り込もうと思ったら、男子の脱ぎものが既に入っていた。勿論誰のかは分からないし、複数人じゃないかなって思う量。

 いや、1日泊まるだけなんだから普通に家持って帰ってから各自洗濯すればいいのに。私はすっかり此処での生活に慣れちゃってて気付くより前に私のを放り込んじゃって、慌てて回収して、ついでに1回誰かの下着まで回収してしまう始末。

 まあ先着順ってことで今回は男子に洗濯機を譲ってあげることにした。共有というのは難しい。

 というババ様ニヤニヤなイベントを振り払って、リビングに戻ってきた。

【深幸】

「会長もトランプするかーババ抜き」

【信長】

「上がりだ」

【四粹】

「同じく」

【深幸】

「よそ見してる間に瞬殺された……ッ」

【信長】

「俺との勝負でよそ見をしている暇があるわけが……ッ――」

【四粹】

「……湯加減は、如何でしたか」

【鞠】

「湯加減も何も、シャワーだけですし」

 男子陣はしっかりお湯を張ってお浸かりしたみたいだ。

 それが何と云うか、意識してしまった所為で、というか男子が使うために張られた湯船だったわけだし、私はいつも通りシャワーのみで済ませた。

【四粹】

「そ、そうでしたか……」

【信長】

「…………」

【鞠】

「…………」

 ……あれ、何だろこの空気。

【鞠】

「な、何ですか」

【深幸】

「いや、何でも」

 ちょっと、気まずそうというか。

【ババ様】

「初々しいのー少年少女たちよーニヤニヤ」

【鞠】

「…………」

 ババ様が反応してる……ということは、もしかして女子と寝るっていう状況に緊張してたりするのかな。

 ……いやでもこの人達、卑下の達人副会長は兎も角として、皆さんモテモテなんだしいっぱいそういう経験ありそうなものだけど。

 そして何より、相手が私だし。

【鞠】

「……私は、会議室で寝ようと思いますので」

 リビングには布団が敷かれていた。多分紫上会室に収納されているやつだろう。私は自分の寝袋を用意しているから使ったことないけど。

 兎も角、今日の活動が終わったなら彼らと会話する必要は無い。私は自分の寝室へと歩いて行く。

【信長】

「……会長」

【鞠】

「何ですか」

【深幸&信長&四粹】

「「「おやすみなさい」」」

【鞠】

「……おやすみなさい」

 ……早歩き。

【鞠】

「……何で、こんな挨拶しなきゃいけないんだ」

 いや挨拶に理由なんて疑っちゃいけないんだろうけど。ちょっと。

 何か恥ずかしかった。

【笑星】

「……あ、会長。久々の寝間着姿だー」

 会議室には、雑務がソファーに座っていた。

【鞠】

「……1日空いただけな気がしますが」

 ふぅ、と息をつく。

【笑星】

「あれ、何か会長、顔赤い?」

【鞠】

「……風呂上がりですから」

 自分の衣服をビニール袋の中にまとめて、鞄に仕舞う。

 ……それから、彼の隣に座る。

【鞠】

「貴方は、まだ寝ないんですか」

【笑星】

「松井先輩たちは?」

【鞠】

「トランプしてました」

【笑星】

「満喫してるなぁ」

【鞠】

「アッチ行かないんですか」

【笑星】

「俺は、もうちょっとやっておこうと思って。ごめん、そこで寝るのに」

 テーブルにはノートや問題集が開かれていた。

【鞠】

「……借ります」

 そのうちの1冊――「分からないノート」に手を伸ばす。題名は彼がつけてるだけだが、このノートの作成は私が指示した。

 隣に私が居ればいいのだけど、居ない時に解説などを見て分からないことが発生した場合、考えこまずに早々にこのノートにメモしてスルーする決まりを設けている。

 考えるという作業は確かに重要だけど、12月までに基礎となる学力を完成させるにあたって時間のロスは一番避けねばならないから。

【鞠】

「……増えましたね」

 その数は、私の知らないところで彼が努力していた時間も示唆している。

 文化祭で一番はっちゃけそうな性格をしている癖に、本当意外だ。

【笑星】

「やっぱり数学がキツい……」

【鞠】

「それは最初の1週間で既に分かってます」

 どうやら雑務、一番意が手なのは数学らしかった。

 ……正直数学についてはセンスだと私は思っている。家庭教師さんは自身をセンスが無い側だと自白した上で、その人間がセンスを持つ人間に試験で勝つには彼らの4倍問題を解かなきゃいけないと持論を展開していた。

 多分精神論の話なんだと思うけど、センスある人間が問題集を3週するなら自分は12週しようと。教え子なので文句は云わなかったけど、これは私的には5周以降は時間の無駄だと思ってた。

【鞠】

「どの科目でもそうですが、理想的なのはソレを他人に説明できることです」

【笑星】

「……鞠会長みたいになるってことだよね」

【鞠】

「まあ、その解釈でもいいです。貴方は案外黙って勉強するタイプですが……文化祭の後始末が終わってから、数学と理科については口答で説明できるようになりましょう」

【笑星】

「理想を、純粋に目指すの? 鞠会長がそう云うなら、勿論俺は頑張るけど……」

【鞠】

「心配せずとも貴方の身の丈に合わせています。……自分がどこまで理解しているかを常に把握するのは難しい。それを一発でチェックできるのが、他人に説明できるかどうかの確認です。3学期は実力試験十数回の過去問を使って、貴方がそれらの問題を総て自分の口で説明できるようにすることを目指します」

 雑務が心配を覚えた通り、本来このやり方は実力試験の出題範囲を考えるに1年以上期間が在るときにすべき、可成り労力の掛かる細かい作業ではある。

 だけど彼の熱意は本物、この勉強へ打ち込める日常を半年続けられるなら、結構間に合うんじゃないかって思う。というかこの後輩は形だけの暗記を脳が嫌ってるみたいだからコレがどうしても最効率。

【鞠】

「その為に、知識の習得だけで無くそれを利用し計算する実践力がめちゃ求められる理系科目については今から訓練しておいた方が良いと判断しました」

【笑星】

「なるほど……実力試験の全問題が解説できるようになってたら、本番の実力試験の全問題だって解説できるし、当然解答できる……」

【鞠】

「まあ変わり種の問題とか時間配分とか他にもすべき対策はあるでしょうが、中心となる学力についてはそれで完成させられます。勿論、貴方なら実現可能だと現実的に考えた上での提案です。やりますか」

【笑星】

「お願いします!」

 うげっ、ってならないのが彼の強みかな。

【鞠】

「……じゃあ、取りあえずこれらの解説でもやりますか」

【笑星】

「俺、どんなの分からなかったんだっけ……色々リストに挙げすぎて忘れちゃってる」

【鞠】

「どうぞ」

 ノートを返す。

 確かに、沢山挙がってる。その数だけ私の疲労に繋がるだろう。

 ……まあ、来年度の平穏の為と思えば、ね。

【笑星】

「あ、そうだそうだ。数列、きっついよー……」

【鞠】

「……1時頃を目処にします。できるだけ、リスト潰しますよ」

【笑星】

「はい!」

 ……こうして文化祭1日目の夜を私は、紫上学園で過ごしたのだった。

 ――ってこれ、あんまり今までと変わらない光景だけど。

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