8.25「迷子の変人」

あらすじ

「しっかり前見て前歩くんでちゅよー」砂川さん、ヤバめの人に絡まれる。金嶺ちゃんも覚えなくてまぁ大丈夫な8話25節。

砂川を読む

Stage

武蔵大 紫上学園漫画部支部

 天下一の大学にて猛威を振るう漫画部。

 もうお腹いっぱいなんだけど、色々心配なので雑務のノリに附いていき……私たちは遂に彼女らの武蔵大の支部を訪れた。

【鞠】

「うわ……」

 さっきのはイラストだったけど、コッチは彼女らの本業、漫画書籍が販売されている。更にさっき飾られてなかった他のイラスト達がこれでもかって数飾られてる。文化祭への張り切りが半端ない。

【笑星】

「こんにちはー」

【漫画部】

「「「笑星くーん!!」」」

 雑務は流れるように挨拶。その前提として、この空間に慣れていないといけない。

 ……今更だけど、4月の時点で私は彼の放課後をもうちょっと監視していればよかったと後悔しかけていた。

【笑星】

「さっき美術画とイラストの方、見てきたよー。ぶっちぎって人気獲ってた! やっぱり皆凄いよー!!」

【女子】

「ふふっ、福田ちゃんたちは夏休みの9割を消費してこの文化祭に合わせて仕上げてきたからね……当然とも云える結果ですね」

【女子】

「無論、私たちだって。私たちの活動が、世界に知られる絶好の機会、全霊をかけて臨みたいじゃないですか」

 凄まじい意気込み。言葉だけじゃない、積み重ねられた努力。その賜物が、この紫上学園漫画部だけで展開される物販スペース。

 その総てが、彼女たちオリジナルのBL漫画で彩られており、さっきの場所には売られてなかった日用品たちがその彩りを纏って揃えられている。

 ハッキリ云おう。あの男コンミスコンの客層に劣らぬ、訪問客たちの熱気に私はもう諦めた。この人たちは、私といえども止められない。

【女子】

「ど、どうでしょう会長……会長も、是非とも何かお手に取って」

【鞠】

「……何か買おうものなら面倒なことになりそうなので遠慮します。私はどちらかというと監視の意味合いで廻ってるので」

【女子】

「え……どこか、おかしいところ、ありますか……?」

 この人、部長かな? 頭のネジ飛んでるんじゃないかなって天然な質問繰り出してきて私大ダメージ。戦意湧いてこない。

【鞠】

「……良識の範囲というのを意識して活動すること。1年に1度の、貴方たちにとっての本気の祭りだからといって自制を失うことないようにしてください。何かトラブルがあったらすぐに紫上学園に連絡すること」

【笑星】

「鞠会長がバックに附いてれば、怖い物なしだね! 頑張って!!」

 その表現やめてっ、私が何だか思想共有してるみたいじゃんっ。

【鞠】

「というか、本当、どうしてこんなに客が……」

 漫画部と会話したくないので、眼を逸らして信じられない現実の方に視線を回す。逃げ場無いなホント。

 で……気付く。

【鞠】

「ん――」

 不特定多数のうち誰か1人を限定して見詰める、というのはある意味難しいことだ。だって私はまずその人のことを、数秒前までは存在すら知らなかったんだから。そしてそれを知る価値も無いとなれば、その作業に心が乗らないのは当然。すぐ飽きるが普通。

 ……なのに、吸い込まれてしまった。多数のうち1人に、視線が吸着した。

【鞠】

「ん……んんんんん……?」

 何故なら。

 明らかに不自然に見えるものはそりゃもう目立つからだ。

【ヤバい人】

「あ、あぁあああああノブユキ素敵です~~~♥」

【鞠】

「…………」

【笑星】

「ん、どったの鞠会長なんかドン引きしてる気配――あれ?」

【ヤバい人】

「あ、こっちはユキノブなんですね~~!!! ふはあぁあああああああ~~~!!」

 …………。

 動きが最早ヤクを決め込んでる領域の人発見。

【笑星】

「うわ……凄いね、トリップしてる。お店的には迷惑なっちゃうね。よし、任せて!」

【鞠】

「え――」

 雑務、出陣。いや別にお店に任せちゃえばいいじゃん! そしてほんとその恐れ無さどうなってんの。

【笑星】

「こんにちはー。すっごい動きしてるけど大丈夫?」

【ヤバい人】

「えへへへへへ――え?」

【笑星】

「どうも」

【ヤバい人】

「え、え? あの……えと…」

【笑星】

「…………」

【ヤバい人】

「……――ハッ!! というか、此処、どこですか!?」

 ヤバすぎる。

【笑星】

「え? 普通に、紫上学園の漫画コンクールスペースだけど。漫画、そんなに好きなのー?」

【ヤバい人】

「いや、あの、そ、そういう、わけでは……///」

 今更隠すな。

【ヤバい人】

「えっと、その……わ、私、仕事終わりって感じなので。それで暇になって、友達と一緒に、が、学祭を見学しようってなってッ……――」

【笑星】

「な、なるほど」

【鞠】

「…………」

 この、私も雑務も話しかけただけで特に何にもしてないのに、1人で勝手に頑張って喋っちゃってる雰囲気。

 もしかしなくても私と同類なんだろうか。いやその云い方だと私がこの人に似てるってなって嫌すぎるからもうちょい限定すると……相当の人見知り?

【笑星】

「俺たちに緊張なんてしなくていいよー。お店を沢山困らせないなら全然敵じゃないよ、俺たち」

【ヤバい人】

「す、すみません……! えっと……私、あんまり、誰かとお話するのって慣れてなくて……」

【笑星】

「ふぅん……ん、友達? 友達と一緒に来てたの?」

【ヤバい人】

「は、はい。その……一緒に廻ってた筈なんですけど……はぐれちゃったみたいで。お恥ずかしながら、私、1回何かに夢中になると他が見えなくなって……」

【笑星】

「ああ、確かにそんな感じだったね。ってことは迷子状態なのかな鞠会長」

 私を会話に巻き込もうとするな!

【笑星】

「そっかあ、こんなでっかい場所で離ればなれはキツいねー。あれ、でも電話とかは?」

【ヤバい人】

「えっと、アルスアルス……」

 彼女は鞄からアルスを取り出した。が……

【ヤバい人】

「……う~~~~……」

 自立させて起動させたまではいいけど、そっから何故かフリーズして唸りだした。

【笑星】

「どったの?」

【ヤバい人】

「使い方が、分かりません……(泣)」

【笑星】

「えええええ」

 相当ヤバい現代人である。

【ヤバい人】

「早く金嶺ちゃん、見つけないと怒られちゃいます~……ただでさえ先日あんなことがあったのに――」

【笑星】

「あんなこと?」

 素朴に気になって雑務が何か質問しようとしていた、その瞬間だった。

【女子】

「全くですよこの親友」

 女子の声が入ってきた。

 あと視界にも入ってきた。目の前の少女をギュッと抱きしめていた。

【女子】

「少しはご自身の“利用価値”を真剣に受け止めていただきたいですなー」

【笑星】

「あ……つ、連れの方?」

【ヤバい人】

「うえ~~~ん金嶺ちゃんごめんなさい~~(泣) つい、盛り上がっちゃって~……」

【金嶺】

「まあ無事で良かったけど。はぁ……」

 うん。まぁどうやら無事再会できたみたいだし、これでお役御免ってやつだろう。何にもしてないけど。

【金嶺】

「…………」

 この女子はどうやら私達に警戒心を持っているようだし、勘だけど不容易に話し掛けていい空気ではないだろう。抑もそれを掻き乱す必要は全く無い。よし、退散――

【笑星】

「よかったね!! よかったらお連れの方、紹介してよ!!」

 ――っておぉおおおおおい!!!?

【金嶺】

「……この人たちは……?」

【ヤバい人】

「此処で知り合ったんです。えと……」

【笑星】

「笑星と、こっちが鞠会長」

【ヤバい人】

「こちら笑星さんと、鞠さんです~」

【笑星】

「よろしくー(←握手)」

【金嶺】

「……どうも(←握手)」

 雑務、この上なく容易に掻き乱しに行く!

【ヤバい人】

「迷子になってた私の眼を覚まさしてくれたんです~」

【金嶺】

「あーそれは……それについては、このお莫迦な子が凄まじいご迷惑を」

【笑星】

「別に迷惑になってないよー。でもよかったらウチの学校の出し物、見ていってー」

【漫画部】

「どうぞどうぞー(←漫画)」

【金嶺】

「は、はあ……――ん!? 何コレ!?」

 私達に警戒していた女子、ここで漸く、周囲を見渡す。

 警戒すべきは抑もこの異世界である。

【金嶺】

「………………何ココ……」

 顔色が悪くなっていた。

 ここだけ親近感。

【金嶺】

「…………夏鳴……」

【ヤバい人】

「そ、そんな悲しそうな眼をしないでください……(泣)」

【笑星】

「仲良いんだねー」

 何だこの時間。

Stage

武蔵大学

 しかもいつまで続くんだこの時間。

【夏鳴】

「ほ、ほほお……!!」

【金嶺】

「歩き購読はマナーが悪いのでご遠慮ご遠慮(←回収)」

【夏鳴】

「あぁ~……!! つ、つい……楽しみ過ぎて」

【金嶺】

「親友はいつまで経っても親友が分かりませーん……(←諦)」

【夏鳴】

「諦めないでください~見捨てないで~(泣)」

 何で私たちはこの2人と一緒に行動してるんだ。

【笑星】

「……何か、2人って距離近いよね、羨ましい」

【夏鳴】

「えっ……!? そ、そう見えますか?」

【笑星】

「何かいっそ姉妹みたい」

【夏鳴】

「えへへ~、金嶺お姉ちゃん~」

【金嶺】

「しっかり前見て前歩くんでちゅよー」

【夏鳴】

「あれ、私何歳設定ですか金嶺ちゃん……?」

【笑星】

「俺と会長は身長差もあんまり無いから、弟にはなれないなぁ」

 狂気的な提案やめて。

【笑星】

「寧ろこれからもっと身長伸ばす予定だから、ますます弟からは遠ざかるかな」

【夏鳴】

「いえっ、寧ろ高身長の弟、大人びた性格の姉って萌えると思うんですッ」

【笑星】

「え、そうなの? じゃあセーフかなぁ会長」

【鞠】

「まとめて却下で」

 こんな弟は持ちたくない。

 そして、何より私は姉になりたくない。

 ていうか、いやさ、ホント何でこの面子で歩いてるの? 雑務、どう収拾つけるの??

【夏鳴】

「それにしてもあの聖域は紫上学園さんの出し物だったんですね~。何て素晴らしい学園なんでしょう……! ね、金嶺ちゃんっ」

【金嶺】

「ああ……うん、そうだねー……責任者の顔を見てみたいとは思ったけど」

【笑星】

「学園のトップは鞠会長だよね」

【金嶺】

「……………………(←悲しい目)」

 そんな目でコッチ見ないでッ!! どんな目でも私を巻き込まないで!!

【鞠】

「ぶ、文化祭で手腕を振るうのは文化祭実行委員です。具体的な出し物云々は紫上会の知るところではありません」

【夏鳴】

「鞠さん……言葉が大人びてて、素敵ですぅ……」

【笑星】

「だよねー!」

 やめてー話題の中心に私据えないでぇー……。

 ていうか雑務これ完全に収集つける気無いね。致し方なし。

【鞠】

「雑務、もう時間です行きますよッ」

 悪くない理由を放って雑務の手を取り早歩き。

 何かこれ以上一緒にいると、更に厄介な沼に嵌まる気がする。

【笑星】

「え、ちょ、会長!? これだと俺常に後ろ歩きだから一旦離して、分かったからッ」

【夏鳴】

「もう行っちゃうんですか……? えと、ありがとうございました……!」

【笑星】

「うん、よかったら明日まで文化祭やってるから、紫上学園にも遊びに来てー!!」

【夏鳴】

「い、行きます~~!!」

 いや来ないで!!!

【金嶺】

「……はぁ……夏鳴、もうちょっと自分の身分を弁えて。ね?」

【夏鳴】

「あはは……ごめんなさい、またやっちゃいました……」

【金嶺】

「しかも……砂川鞠といえば確か……夏鳴ほどじゃないにしても相当の國宝で、一峰の令嬢。ボディーガードの居ない状態でそのツーショットは世間に妄りに見せちゃダメなんだから」

【夏鳴】

「へ……? 一峰?」

【金嶺】

「……まあ、平和ボケした非力な世間知らずってワケじゃないみたいだし、滅茶苦茶警戒心持ってたし……アレには手は出せないか……ちょっと残念」

【夏鳴】

「金嶺ちゃん?」

【金嶺】

「なーんでもー。親友は夏鳴さえ居ればいーやって思っただけー」

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