8.24「学祭巡り」

あらすじ

「「*****円!?」」砂川さん、出店を監査。笑星くんの軍勢、3話以来のご登場となります8話24節。

砂川を読む

Time

15:00

Stage

武蔵大学

【笑星】

「んーーー……!!! 何か緊張したなーー!!」

 だから何で貴方が緊張してるの。

【笑星】

「やっぱりこの、お祭り騒ぎな方が俺の性にも合ってるかな。で……これからどうするの? 紫上学園に戻る?」

【邊見】

「そっか、えっちゃん達はお仕事、いっぱいあるもんね」

【笑星】

「お仕事ってほどでもない気もするけどねー」

【鞠】

「……今帰ったところで、恐らくその仕事すらできないでしょう」

 最速で帰っても多分閉園処理にも間に合わない。

 ソレはこのコンクールのスケジュールから容易に推測できたから、前もって残ってる3人に閉園誘導については委ねたのだし。

 だから、此処で出来ることをやった方が、仕事をしていることになる。

【鞠】

「あのコンテスト会場以外でも、ささやかに武蔵大、それに稜泉とのコラボ企画は行われております。それを回ります」

【笑星】

「ああ、美術部とかの共同画廊、あったよね。アレもコンテストポイントあるの?」

【鞠】

「無論。ということでそれらをパトロールしてから戻ります。……貴方はどうしますか」

【邊見】

「うーん……それなら、僕は紫上学園に戻ろうかな~。クラスの出し物がどうなってるか、心配だし~」

【鞠】

「分かりました。……この時間帯なら、マチョコンの連中と一緒に帰れるでしょう。独りでは行動しない方がいいです。どんな不審者がいるか分かったものじゃありません」

【邊見】

「はい……」

 ……心配が絶えないので、誰か仲間を発見するまでは附き添うことにした。

 結果予想通りマチョコンのむさ苦しい、ボディーガードとして頼もしそうな連中を発見できたので、彼らに引き渡したところで、時間潰しの特別な巡回を始めた。

【笑星】

「鞠会長って、やっぱり邊見には優しいよね」

【鞠】

「学生の安全を慮るのは仕事のうちでしょう」

【笑星】

「あと、俺にも最近優しい」

【鞠】

「……貴方は彼よりも危ない」

【笑星】

「そんな、過敏になることないのに……」

 あの親友みたいに大人しければ私もそう思うけど。

 貴方はそうしてくれないじゃないか。

【笑星】

「鞠会長ってさ、結構世話好きだよねきっと。子どもとか、育てるの上手そう」

【鞠】

「なわけないでしょ」

 何処見てそう思えるのか。

 体育祭の時とか散々な目に遭ったじゃないか。子ども、最高に苦手。

【笑星】

「そうかなぁ」

【鞠】

「そうです」

【笑星】

「子どもっぽいと云われまくる俺の扱いはこんなに上手なのに」

【鞠】

「貴方を捌き切れてる自信皆無なんですが」

 ……なんて会話を不本意ながらダラダラ続けて。

 目的の展示場まで、広いキャンパスを歩いたのだった。

 私は足が疲れたけど、隣の後輩は、相変わらず楽しそうだった。

Stage

コラボ催事場

 ……武蔵大との連携イベントといったら、ミスコン辺りが一番の目玉になる。が、他にも実は色々小さいことをやっている。具体的には、出張物販あるいは展示だ。

 まあ逆も然りなので、此処だけは何か連携してるって感じがする。

 で、複数の団体が同一のテーマの作品を武蔵大や稜泉で販売・展示する場合、それを紫上学園は「コンクール」と括ってコンテスト扱いしている。

 その中で一番売上げや評価をゲットした上位団体にコンテストポイントを贈呈するって形。

 規模の大きい武蔵大は、結構我々にスペースを提供してくれている。一方稜泉でもそれなりにやらせてもらってるので、この色んな客層が集まりやすい武蔵大、また有名な学園である稜泉でどんなパフォーマンスをするか、またどちらの連携のコンテストに出場するか等、そこでも案外戦略性がある模様。

 ……ぶっちゃけ私は全部どうでもいいんだけどね。

【笑星】

「あ、此処だ!!」

 沢山建物のある武蔵大。そのうちの1つに入って、アルスで地図を解読しながら、目的の場所まで進む。

 ……比較的狭い建物って印象はあるけど、其処もお客さんで結構詰まっていた。コラボ部屋もこの様子だと繁盛しているといっていいだろう。

【笑星】

「美術画コンクール。俺あんまりこういうところが混むイメージ無かったけど、凄いね!」

【鞠】

「……学生の美術絵を見て楽しいものか」

【笑星】

「へへ、そうかな。俺、知ってる人が描いた絵がこんな凄いところに飾られてたら、嬉しくなっちゃうよ」

【鞠】

「……そうですか」

 その気持ちは、今のところ私は分かりそうにないけど。

【女子】

「あ! 笑星くーーん!!」

【笑星】

「あ!! 福田先輩!!」

【鞠】

「ん……?」

 雑務が遠くから声を掛けられた。

 ……其処はうちの団体の物販コーナーだった。

【鞠】

「……知り合いですか」

【笑星】

「漫画部の人!」

【鞠】

「……漫画部……」

 そういえば仲良かったんだっけ。

 ていうか漫画部もこのコンクール参加してるんだ……いやまあ、クラス団体の連中も可能性があるならってコンテスト(予選)には有りっ丈エントリーするのが普通なんだから、絵に特化してる彼女らが物販を開くのはそこまで不思議じゃないのかもしれない。

【笑星】

「調子はどう?」

【女子】

「えへへー、売れ行き好調だよー👍」

【笑星】

「そっか、良かったね! でも、抑も何を売ってるの?」

【女子】

「どこも結構同じ感じだけど、美術画の本物を展示して、それを精密コピーしたやつをもとにポスターとかアクリルキーホルダーを大量生産して販売!」

 ……そういえば幾つか工場にも挨拶しに行ったっけか私。見てみるとアクリルキーホルダーとか結構なクオリティ。割れたら嫌だから私は抑もキーホルダーとか付けない主義なので買わないけど。

 ……抑も、コレ、何の絵だろう。

【笑星】

「何か、すっごい抽象的な絵だね」

【女子】

「痴情のもつれを、超現実的に描いてみましたー」

【笑星】

「おぉお、道理でドロッとしてると思った! すげー!」

【鞠】

「…………」

 この人は一体どんなもつれを経験したんだろう。したんだよね? こういうのって自分の経験から導き出されるものだろうし。

 想像だけで描いたのなら、それはそれで凄い。ただそんな想像をしてしまえるのも、やっぱそれはそれでどうなんだろうとも思ったり。つまり、私ドン引き。

【女子】

「笑星くん、時間まだあるなら他の漫画部員の活躍も観に行ってよ」

【笑星】

「がってん! 他に何にコンクール出てるの?」

【女子】

「BLイラストコンクールとか」

 何でこの大学でそんなウルトラニッチなコンクールが……ッ! これも多様性というやつか……!?

【笑星】

「よっしゃ、行こう会長! 時間は全然無限じゃないしね!!」

【鞠】

「行くんですか……」

 行くことになった。

 ……………………。

【笑星】

「あっ、皆いるー!」

【女子】

「「「あ、笑星くーん!」」」

 ……思っていたより広い講義室空間に異世界が広がっていた。

 そして思っていたよりも見慣れた制服の人達が集っていた……。

【鞠】

「……すっごい繁盛してる……一体何を……」

【女子】

「何って……普通に、口コミを拡げつつ販売してただけですよ?」

 此処でも基本は、アクリルキーホルダーなどのプリント量産品を売りさばく物販術。

 ただその絵柄はさっきの抽象的なものと違って、鮮明に解釈できるものだった。

【ババ様】

「お、おう」

【鞠】

「…………(←左眼閉じる)」

【ババ様】

「ちょ、何するんじゃ鞠……! 世界が真っ暗じゃー!!」

【鞠】

「……ちょっと、ババ様にはまだ早いかな、と」

【ババ様】

「ババ様はガッツリ年上じゃー!」

 心の整理がつかないので、取りあえず左眼はずっと閉じておくことにした。

【鞠】

「…………」

 深呼吸。責任者として。監視役として。

 私自身の右眼で以て、壁に多く飾られている、彼女らのオリジナルであるイラストを眺めていく。

 ……カルチャーショック的なアレかな、頭痛がやまない。分かってはいたけど、私は多様性に柔軟な人間ではないらしい。

 こう直接対峙するのは初めてだけど、雑務の雑談を盗み聴いてずっと注意深く見ていた、拡散主義のマイノリティたち。現代社会の基準は多様歓迎であるので私も彼女らを迫害するようなことは断じてしない。ただ何かとの衝突の恐れはあるから、そこを注意していよう、というスタンスだった。

 ……この客数も考えて、私はもしかしたら過敏なのかもしれないけど――

【鞠】

「――ん?」

 と……この男の肌が余すこと無く曝け出された濃厚空間そのものに適応しようと頑張り慣れてきた頃、視野に余裕ができた私は気付く。

 ……何か。紫上学園陣の作品さ。

【鞠】

「この男子……見たことある……」

 7割ぐらい、これ、同じ人じゃね? そしてこの2人は、何故か私の眼には見慣れている感じがして……。

 ……………………。

【鞠】

「ああ――」

 謎が解けた。スッキリはしたけど寒気もした。

 ……じゃんけん勝ったの、雑務で良かったかもしれない。

【笑星】

「で、どうなの売れ行きー」

【女子】

「もう絶好調だよー、アクリルキーホルダーだけでもう*****円売り上げちゃった」

【鞠&笑星】

「「*****円!?」」

 ……ヤバすぎる……。

 このコラボ、陰で活躍し過ぎじゃね? もしかしたらミスコンとかより規模大きいんじゃって気すらしてきた。

【女子】

「しかも、武蔵大の四天王のおひとりがね、凄く造詣のある方だったの。笑星くんみたいに!」

【鞠】

「また四天王……」

【笑星】

「俺造詣あるわけじゃないけど……あ、もしかしてその人って、ヤケにキラキラしたイケメンだった?」

【女子】

「私はそこまでタイプではなかったけど、キラキラしてたとは思うなぁ」

【笑星】

「やっぱり帯刀先輩だ! どうだった、VIPポイント貰えた?」

【女子】

「それ! 贈呈してくれたの……!」

 漫画部が猛威を振るってる……!

【女子】

「普段ずっと薄暗く活動してるから、こうやって外に出て、皆に見てもらえて、評価までしてもらって嬉しいなー……文化祭って、素敵」

【笑星】

「うんうん! 皆が頑張ってるの俺知ってたから、それが沢山の人に拡がって……俺も嬉しいよ!」

【女子】

「笑星くん、天使……ッ! 文化祭が終わって一段落したら、今度は笑星くんを描いてみるね!!」

【鞠】

「その感謝の表現はちょっとッ!!!」

 ……コレは果たして本当に、拡げちゃってよかったものなのだろうか。

 私という人間の狭さを痛感した、間違いなく先の前座演奏よりも疲れた巡回だった……。

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