8.18「交代!」

あらすじ

「そりゃそうだよ。俺、1500点目指すことになってるんだもん」砂川さん、武蔵大へ。一転して一番優勢な勢いの笑星くんとお喋りしながら町を歩きます8話18節。

砂川を読む

Time

11:15

Stage

紫上会室

【鞠】

「……写メってしまった」

 画伯姉の姿なんてデータに残してどうする私。

 でも後で画伯に見せてあげよう。ん、抑も画伯も遊びに来てるのでは? となると変わり果てた姉との再会、どんなことになるのか個人的にちょっとだけ興味あるかも。

 ……だけど祭りに浮かれるのは私らしくないので、やっぱり忘れることにする。データは残しておくけど。

【ババ様】

「で、これからどうするんじゃ? まさか書類整理とかじゃ――」

【鞠】

「それなら私としては良いんですが」

 残念ながら今から出張だ。

 そして行き先も、祭り中。ババ様はきっと喜ぶだろう。

 ただ出張のためには今回彼を連れて行かなきゃいけないので、こうして待ち合わせということで紫上会室に戻って来たのだった。

【笑星】

「……………………」

 私と違って全力で浮かれてるに違いない……そう思っていたのだけど。

 雑務はリビングにて静かに座っていた。私はもう見慣れている……つもりだったがこうして妙に目に留まっている時点でまだ斬新と思っている自分が居るのだろう。

【鞠】

「……非効率ですね。楽しむ時に楽しまないのは」

【笑星】

「あ……鞠会長」

 真剣な顔が、笑顔にチェンジした。

 懲りない。私にその顔やめてって何度か云ってるんだけど。僅かに目線を泳がさざるを得ない。

【笑星】

「松井先輩は?」

【鞠】

「もう別れました。今頃会計とでも合流してるんじゃないですか」

 代わりにこっからは彼と時間を共にする。

【鞠】

「できれば私の目の届くところで勉強していてほしいんですけど」

【笑星】

「へへっ、何もすることないからさ、今この場所で」

 雑務は本を読んでいた。私が持ってきた参考書の一冊だ。

 何を読むべきかとか、そういうのも私が逐一指示する予定でいたのだけど……まあ縛りすぎるのも余計なストレスになるか。

【笑星】

「これ、俺でも結構すらすら読み進められていいね!」

 その本は、進学校は知らないけど普通の学校なら3年生になってから学ぶんじゃないかなっていう範囲の歴史の内容が確か150テーマぐらいに分けられて、1テーマ見開き1ページでざっくり解説しているやつだ。

 ざっくりなので当然これ1冊で受験対策というわけにはいかないけど、その分大事な部分だけをすっきり説明してくれてるとも云えるので、現時点では余計な情報を排除して初学することができる。今の雑務には大変ありがたい書物だと思う。

 但し、12月になったらもう役に立たない書物になっていなければならない。

【笑星】

「ね、移動中にこれ読んでていいかな」

【鞠】

「構いません。寧ろ、推奨するつもりでした」

【笑星】

「へへ、よかった!」

 ……さて、私も何を持って行くべきかを確認しなければ。

Time

11:30

Stage

紫上学園 正門

【笑星】

「よし、出発! ……で、駅に向かうんだよね?」

【鞠】

「タクシーは予定してません」

 ほぼ予定通りに紫上学園を出た。

 混雑や事故などの交通情報は耳に入ってないので、このまま予定通りに行けると思う。

 まあ仮にタクシーを使う羽目になったとしても、取りあえずまずは駅まで歩こう。それで何とかなる。

【笑星】

「……ね、鞠会長」

【鞠】

「何ですか」

【笑星】

「それって、楽器?」

 隣を歩く雑務が肩に背負ってるケースに軽く触れた。

【鞠】

「まあ、そうですけど」

【笑星】

「……何で?」

【鞠】

「何で?」

【笑星】

「何で、持ってくの?」

【鞠】

「それは、使うからですけど」

【笑星】

「……どこで」

【鞠】

「武蔵大」

【笑星】

「…………マジで」

 そんな感じの反応前にも誰かから戴いた気がする。

【笑星】

「確か何か会長別の用事もあるとか云ってたけど……どこまで凄いんだよー……」

【鞠】

「元々凄いつもりはありませんが。割と、貴方と同等だと思ってます」

【笑星】

「それ、謙遜?」

【鞠】

「私が貴方に対して謙遜する性格に見えますか」

【笑星】

「見えない」

 これも前にあった気がする。

 すぐに才能だと決めつけるのは現代人の悪い癖だと思う。

【鞠】

「人間、たいていのことは経験を積めば学習し身に着けることができます。得意不得意はあるでしょうけど」

【笑星】

「じゃあ……鞠会長も、いっぱい頑張ったから、今あんなに凄いってこと?」

【鞠】

「自分がどこまでやってるか、はあんまり考えてませんけど、取りあえずこの学園負けず嫌いな学園としてる割には皆総じて中途半端じゃないかな、とは思ったりもします」

 実力試験とか酷いデータだったし。

【笑星】

「……ははは……酷評だー……」

【鞠】

「……だから、貴方は会長になれると思ってます」

【笑星】

「――え?」

 雑務が足を止めた。

 ……私としたことが、変な事を口走ってしまったようだ。先輩じゃあるまいし。

 でも一応は……本音の類いではある、と思われる。

【鞠】

「私が貴方を推すかどうかは別として……客観的に評価するなら、私が現在の学力にまで到達した経験をもとに唯一貴方を教授してるんです。貴方が私と同等の経験を積んだなら、大差で勝ちます。そうでしょ?」

 それをちょっと、装飾して。

 私のおかしさを、誤魔化す。

【笑星】

「……ふふっ」

 雑務は笑った。

 彼にしては静かな笑みだな、とか思った。

【笑星】

「そりゃそうだよ。俺、1500点目指すことになってるんだもん」

【鞠】

「辛いですか。貴方の体調以外は考慮はしませんけど」

【笑星】

「上等。この絶好の環境、手を離すなんて有り得ないよ!」

 再び、2人で歩き始める。

【鞠】

「(ブレない、か)」

 そこは心底、大したものだと思う。他人のこと云えないね――才能だなって思う。

 彼の本気は、その深さも方向も、他とは違う。悪くも、良くも。

【鞠】

「……今日も無茶は、許しません」

【笑星】

「分かってるよ。いつもの無茶振りだね」

【鞠】

「勉強ついでに、適度というのも覚えるといいです」

 駅に到着するまでの間。暇な歩行時間。

 こんな感じで私は色々、雑務と会話をしてしまったのだった。

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