8.14「始まる」

あらすじ

「それが紫上会役員のVIPポイントを示す証書となります」紫上学園、文化祭当日。文化祭の必需品といったら段ボールですね。薬局で分けてもらえないか交渉するシミュレーションに3時間を費やした思い出。本番は僅か2分で済んだ8話14節。

砂川を読む

Day

9/27

Time

8:00

Stage

霧草区

【汐】

「はいとーちゃくー」

 いつもの場所。いつもの時間。いつものドリフト(※画伯不在のとき)でメイドは停車した。

【四粹】

「ふぅ……」

【冴華】

「もう、この程度は慣れたものね……」

 知らない間に2人がやけにドリフトに対し達観を決め込んでいた。

 人間の適応能力ほんと凄い。取りあえず他人事の感想を決め込む私だった。

【ババ様】

「きゅ~~~……」

 ババ様はダウン。車から出て外の空気をいっぱい吸ってあげる。

【冴華】

「そういえば、今日はどうして汐さん、私服なんですか……? いつも朝からメイド服ですけど」

【汐】

「うふふ~。さあ、何ででしょ~☀」

【冴華】

「…………」

 どうせろくでもない。

 怪訝そうな顔をする私と画伯姉だった。

Stage

紫上学園 正門

【笑星】

「あ、会長おはよー!」

 正門まで歩くと、雑務とバッタリ……いや、これは待ってたな。今日も犬のように元気だ。

 ……元気なのは彼だけでなく、此処からでも何となく分かる本日紫上学園のオーラもだけど。

 体育祭ほどドストレートじゃないけど、熱気と呼ぶべきものが既にこの校門前から感知できるあたり、私もそれなりにこの学園に慣れてきちゃってるのかもしれない。嬉しくない。

【笑星】

「ていうか今日も玖珂先輩と村田先輩、一緒なんだ」

【四粹】

「そうですね。また会ってしまいまして」

【冴華】

「ほんと、偶然ですね~……」

 ……そろそろ別々行動考えましょうよ執事。

【冴華】

「……邊見くんは?」

【笑星】

「クラスの出し物あるから先に行ったよ。会いたかった?」

【冴華】

「……いいえ、彼に悪いですから寧ろ良かったです」

【笑星】

「かもねー」

【鞠】

「…………」

 普通に会話してる。

 雑務からちょっと聴いてはいたけど、どうやら関係性は多少改善されていたようだった。

【冴華】

「と……私も、自分のところの出し物がありますから、失礼します」

【笑星】

「出し物ってどこの?」

【冴華】

「自分のクラスです。ごきげんよう、堊隹塚くん」

 画伯姉は駆けていった。

 ……クラスの附き合いにも不安を抱えていた覚えがあるけど、そっちはどうなったんだろう。組織員として生きてはいるようだけど。

 とまあ他人の心配はそれくらいにしておこう。今日も今日とて私は忙しいのだから。

【笑星】

「行こっか。俺たちの場所に!」

 3人で向かうは、自分たちの教室ではない。

 今日各々の居場所はクラスではなく、団体である。

Stage

紫上会室

【信長】

「会長、おはようございます!」

【深幸】

「お、一気に揃ったな」

 仕事場に行くとあと2人が待ち構えていた。テーブルには夥しい量のリアクションペーパーが並べられている。

【笑星】

「おはよー。何してるの?」

【深幸】

「気休め的なノリで、目安箱を覗きに行ったら予想外にも溜まってたんでな。ちょいと処理してた」

【信長】

「応援メッセージというか、自らの意気込みを書いてきた人ばかりだが。事件の匂いは特に無さそうでよかった」

【笑星】

「うわ、一日でその量!? すごー……俺も見る見る」

 でもそれ全部落書きみたいなものでしょ? それでも処理しなきゃいけないこっちの身にもなってほしいところ。

 無論そんなものより目を通しておきたいものは沢山あるので、私はいつもの会長席に移動し、金庫を解錠して資料を取り出しデスクに拡げる。

【四粹】

「目安箱を確認しに行ったということは、各団体の様子を見に行かれたのですね。如何でしたか?」

【深幸】

「俺らから見てもまあ明らかに準備できてねえってところは無かったっすね」

【四粹】

「そうですか。それはよかったです」

【信長】

「特に3年のクラス団体は既に大半が登校して気合い充分でした。最後の祭りということもあって、絶対優勝という有終の美を飾るつもりでしょう」

【深幸】

「文化部もここが一番の輝き場所だからな、熱の入り方が明らかに日常とは違ってたなぁ」

【笑星】

「鉄研とかここ最近走り込みしてたよねー。昨日とか滝に打たれる為に早めに帰ってたし」

 うちの鉄道研究部はどうやら心の底から体育会所属らしかった。

【ババ様】

「鞠ー、今日は祭りなんじゃろー? だったら外出るのじゃー、書類なんて見てないで~」

【鞠】

「祭りだろうと私の仕事はコレですけど」

 文化祭における紫上会の立ち位置は少し独特。

 結局中枢組織であることに変わりはないけど、ぶっちゃけ仕事で忙しいというわけではない。楽しもうと思えばどこまでも楽しめる、だけど当事者として文化祭の醍醐味は味わえない……彼ら4人についてはそんな感じ。

 私は連携イベントを中心にして諸々やるべきことがあって緊張せざるをえない感じな上、文化祭を抑も楽しみになんてしてなかったので、結局仕事感覚。ババ様の我が儘に附き合う精神的な余裕はあまり見込んでいない。

【ババ様】

「む~~~当日待てって云ってたのに~~」

【鞠】

「景色は色々見れるでしょうから、嘘は云ってません。もうちょっとお待ちください」

【笑星】

「会長ー」

 人が近付いてきたので独り言終了。

 馴れ馴れしい雑務が手ぶらで来た。

【笑星】

「皆、会長にお店来てほしいってさ。リアクションペーパーに書いてた」

【鞠】

「はあ? ……ああ、VIPですか」

【笑星】

「そういうことじゃないと思うけどなー……まあそれもあるよね。そういえばその証書って用意してるの?」

【鞠】

「……今配っておきますか」

 景色を色々見なければいけないのは、パトロールという形骸的な仕事の他にももう一つ、別の仕事で強いられるからだ。

 雑務に4人分の、レシートサイズの紙を渡す。

【鞠】

「それが紫上会役員のVIPポイントを示す証書となります。そこに各々の直筆で団体名を記入し、直接団体の組織員に渡して入票箱に入れるよう伝えるように」

【笑星】

「だって!」

【信長】

「承知しました」

【深幸】

「どこに入れようかねー」

【四粹】

「組織票を意識するなら、普通は自分のクラスでしょうが……」

 私も一応、文化祭というのが一体どういったものなのか、世間がイメージするソレをネットで調べておいた。

 それから考察するに……矢張りこの紫上学園の文化祭は一般的な文化祭とは一癖違う。

 正式名称、「紫上最強文化祭」……負けず嫌いな連中の燃えたぎる秋の祭りが。

 愈々いよいよ始まる――

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