8.12「貴方には」

あらすじ

「絶対、私が苛つく無茶をしないこと」砂川さん、天敵との契約。笑星くんは現実世界ではまず絶対見られないであろう性格をしております8話12節。

砂川を読む

vseboshi

Time

18:00

Stage

紫上会室

【笑星】

「……んー」

 ……………………。

【笑星】

「んーーー……!!」

 ……………………。

【笑星】

「んんんんんんっっっ!!!」

 ………………うん。

 終わらない。

【笑星】

終わる気がしないッ!!

 思わず後ろに倒れ込む。

 すっごく遠い天井に……シャーペン持ってる右手を伸ばしてみる。

 勿論、全然届かない。

【笑星】

「……やっぱり、この問題集はダメなんだなぁ」

 問題集が、というか俺なんだけどねダメなのは。

 ケチってないで、今の自分に合ってるものを確実にこなしていかなきゃって。あの人も云ってくれたから。

【笑星】

「……でも、問題集って高いんだよなぁ」

 参考書だって。

 極力お金はかけたくなかった。今まで俺の命を繋ぎ止める為に沢山のお金がかかったから、それを思うと無駄遣いはしたくなかった。

 だから色んな人のお下がりで俺は勉強してきた。邊見や姉ちゃんに教えてもらいつつ。

 それで……結果が、あの4月の実力試験。食中毒が拡がってなければ此処に俺の居場所は無かった。

 俺は、沢山の人に、邊見に迷惑を掛けて。背中を押してもらって此処にいる。借りは増えるばかり。それを、できるだけ返したい。

 今度は俺が、皆を……

【笑星】

「その為に……立ち止まってる暇は無い」

 腹筋を使って、一気に起き上がる。

 テーブルに拡げられた問題集と、再度対峙する。

【笑星】

「今日中が無理でも、できるだけ進めないとね!」

 ……なんてあの人の前で云おうものなら、またきっと怒られるんだろうなぁ。

 ちょっと不思議。何でそこまでって思う。俺のことなんて邪魔って思ってるぐらいなのに。倒れられても邪魔……っていうだけ、なのかな本当に。

 心配してくれてたりして。それなら、それも裏切ってはいけない。ちゃんと時間を決めて、守らないとね。

【笑星】

「でも、そういう管理能力、俺無いからなぁ~……」

 先輩たちが羨ましい。

 あれだけの結果を作れる、その力が俺にもあればいいのに。

 俺にあるのは、気合いぐらいかな。

 ……なら、それを最大限活かしてやるしかない。結局いつもの結論に片付く。兎に角やらなきゃ、何も得られるものなんて無いのだから。

 ……効率、ほんと悪いなぁ。

【笑星】

「俺にもあったらなぁ……効率」

【鞠】

「貴方には無理でしょ」

【笑星】

「……え?」

vsmari

【鞠】

「貴方には無理でしょ」

 思わずコメント。独り言姿を見てるとコッチが恥ずかしくなるっていうのがよく分かった。私も今後、もうちょっとだけ気を付けよう。

【笑星】

「……え?」

 予想していた通りの光景。案の定の行き詰まり。

 そしてどうせこのままだと、また過度な夜更かしをするんだろうなと想像する。

【笑星】

「鞠、会長――? どうして……? え、もう下校時刻すれすれだよ?」

 そうだね。結構ギリギリだった。思わず走ってしまった。

 ……メイドのウルトラドリフトが無かったらもうちょっと健康的に走れただろうに。奴のメールは極力既読スルーしないでおこう。

 さて。

【鞠】

「……貴方、1人じゃ絶対非効率ですから」

 約束も守らなそうだし。ていうか敵なわけで、口約束が信用できるわけもなし。

 つまり、私の選択はそれなりに正しいのだと、勢いで心に結論し手提げバッグを絨毯に降ろした。結構重量感ある冊子独特の擦れ音が響いた。

【笑星】

「え……? こ……これ」

 シンプルなエコバッグ。だから別にチャックとか何も無く、眼前で下ろしたなら雑務の顔は容易に中身を見下ろせる。

 結構な量の参考書や問題集。

 本屋だったらそれらに区分されない書籍も幾つか。

【笑星】

「会…長?」

【鞠】

「恩恵は全て生活費行き、故に予備校通うお金も無し。抑も予備校が実力試験の為に特別なカリキュラムを編んでくれるとも思えない。なら……相当優秀な個別指導を雇うしかないでしょ」

【笑星】

「――!? も、もしかして……!! 鞠会長が、なってくれるの!?」

 ああもう、その疑いない眼差しホントやめて。

【鞠】

「……2つ。約束してください」

 直視しないようしつつ……でも真剣なことなので視界に彼を入れて、しっかり伝える。

【鞠】

「来年も紫上会行きする貴方に恩を売っておけば、来年度私の過ごしやすい環境を作るのに相当便利になるでしょう。だから、私を陥れない来年度にすること。そして――」

 何故か一息入れて。

【鞠】

「――絶対、私が苛つく無茶をしないこと。たとえ私の見てないところであっても」

【笑星】

「…………」

 強調。

 天敵へ向けて、釘を打つ。

 現状私にとって非常に意義のある取り引き。あとはソレを、同じく意義を持つ彼が頷くか、だけど。

【笑星】

「……うん。約束、する。俺、もう変な無茶とか、しない」

 ちゃんと吟味したんだろうか。心配になるほど、即決。

 この約束事は、簡単に扱われちゃいけないことなのに。それも……私はどこかで想定済みだったのかもしれない。

【鞠】

「(……別にいい)」

 それならそれで。私がやることは変わらない。私の意思は揺るがない。

 貴方は私の天敵なのだから。

【鞠】

「……契約は成立です」

【笑星】

「うん! 俺……絶対会長になって……鞠会長を――幸せにする!!」

【鞠】

「幸せにしなくていいです、平穏をください」

 とはいえ軽く難航はしそうだ。

 その気合い癖、何とかならないものだろうか。

Time

19:30

 ……少しして、雑務がトイレに行った。

 その隙を見て。

【ババ様】

「鞠は、笑星が気に入ってるんじゃな」

 左眼が私に攻撃を仕掛ける。

【鞠】

「はあ?」

【ババ様】

「よかったのー。幸せにする、とか云われて。最早プロポーズじゃな!」

【鞠】

「……眼帯してやりましょうか」

【ババ様】

「ブーブー」

 そんなわけがなかろうに。

【鞠】

「来年度の平穏を獲得するのに、彼は利用価値がある。彼にとっても私は利用価値がある。双方強力な得が見込めたから、契約しただけです」

【ババ様】

「しかし、それを鞠から持ち掛けたのは面白かったぞー。お陰で汐のドリフトを片道分味わうことになったが」

 ああ、そのことで怒ってるのか。

 でも私だって死にかけたんだから文句の眼差しはメイドに向けてほしい。

 それは兎も角……確かに、私から持ち掛けた。これは、おかしかったかもしれない。

【鞠】

「……まあ、もっと凄まじいことは既に起こしましたし」

 今更、この程度の自分のおかしさで嘆くのも……ぶっちゃけ飽きていたのかもしれない。

 それに大事なことは変わらない。私の歩む道は変わらないのだから。

 先輩と共に歩むことは。それさえ変わらないのなら――

【鞠】

「そういえば……全然先輩と連絡取れてないな」

 ……それに今更気付くっていうのも中々おかしいことかな。アルスを取り出す。

 通話してみる。

 ……………………。

【鞠】

「……また、か」

【ババ様】

「出ないのか?」

【鞠】

「あちらが忙しいんでしょう」

 先輩も相変わらず、大変そうだ。

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