7.09「嫌な感覚」

あらすじ

「手前にも、秘密の2,3はあります」砂川さん、再び問います。早々に今回の敵を特定した7話9節ですが、次回はグロテスクなの苦手な人は要注意。

砂川を読む

Time

11:00

Stage

紫上会室

 村田家をお暇して、学園へと。今日も出張祭なのでそこまで作業はできないだろうけど、まあ一応ね。欠席すると雑務が五月蠅いし。

 ただ私、今はお仕事の気分じゃないんだけど。別のことで頭いっぱい。

【笑星】

「今日は目安箱、収穫なしだねー」

【深幸】

「イタズラも含めてな。いつもなら残念に思うけど、昨日のを考えたらちょっと安心したなぁ」

【信長】

「一応昨日の時点で掲示内容の案を作ったが、他にやれる対策がないか考えておこう」

【四粹】

「…………」

 他の連中は相変わらず小さくてズレてることをやっていた。何か憐れにすら思えてくる。

 しかし、その件について、のんびりしていられはしない。敵が敵だ、折角不意を衝ける状況を妹さんが作ってくれたのだから、それは有効に活かしたいところ。

 それに、仕事に身が入らないし……仕方無い。

【鞠】

「……一番安全な場所は、此処、か」

 紫上会室やその下の保存庫は、電波の傍受を通信間で防ぐなど、情報を盗み出そうとするあらゆる行為に対して念入りに対策が施されている。私が思いつく限りでは、この場所ほど行動範囲内で適している作戦場所はない。

 アルスを操作し通話ボタンを押す。本当、普段なら絶対この時間帯にかけたくない相手なんだけど……。

【鞠】

「……もしもし」

【汐】

「― 鞠っ! まさか白昼、お姉ちゃんに電話してきてくれるなんてっ、やっとデレ期ですか!! ―」

 切りたい。

【鞠】

「普通に用事です。仕事を持ち掛けようと思いまして」

【汐】

「― ほお、お仕事 ―」

 普段車の運転ぐらいしかやらないメイド。私は基本、日常的に無能と認識しているが、実際はそうではない。

 悔しいというか腹が立つというか、生活力さえ関わらなければ彼女の仕事は天下一品だったりする。これは砂川家では都市伝説でしかないが、何度かひっそり仕事を持ち掛けたことのある私はしっかり知っている。

 だから私は持ち掛ける。

【鞠】

「村田優可って知ってますか」

【汐】

「― ……えらくエグいとこ持ってきましたね ―」

 知ってた。

 その界隈では有名ってやつだろう。

【汐】

「― 他人に嫌がらせすることに命懸けてる奇人ですね。有能な政治家に地域領主的存在、数多の学園・大学の首脳陣の頭の上に足乗っけてる女王です。因みに本職は弁護士。勝率ヤバいですよ ―」

【鞠】

「ソイツ、潰してくれませんか」

【汐】

「― ……鞠ぃ、それは流石に感心できませんよー。喧嘩を吹っかけるなんてそんなガキ大将みたいな子に育てた覚えありませんよ ―」

 だから貴方に育てられた覚えだけは全く無いと云ってるのに。

【鞠】

「喧嘩を持ち込んできたのはアッチですよ。いずれ、一峰にも手を掛けるに違いない。私に迷惑をかける行為を働いた時点で、私はもう一峰に攻撃したと認識してますけど」

【汐】

「― ええー……一体何されたんですかー? ―」

 丁度良い、この人の意見も聞いておこう。

 村田家の事情をメイドに話す。約5分を要す。

【鞠】

「といったところですか。貴方はどう考えますか。奴は脅威でしょうか」

【汐】

「― あー十中八九こちら見て舌なめずってますねー。鞠とか絶対人質されますよ ―」

【鞠】

「なので普段発揮されない貴方の力が使われる良い機会だと思います。いつでも殲滅できるように準備しておいてください」

【汐】

「― まあそれはいいんですけど、報酬は? ―」

【鞠】

「……報酬?」

【汐】

「― だって通常業務とかけ離れた仕事じゃないですか ―」

 その通常業務をこなせてない分際でっ。

【鞠】

「……賃金なら、既に割に合わないほど渡しているような気が」

【汐】

「― いやお金じゃなくて、ソレをやったら鞠はどんな御礼をしてくれるのかな~って ―」

【鞠】

「…………」

 やむなし、長い目で見て私の平穏の為。

 ここは忍耐の時である。

【鞠】

「どっかの休日、貴方に合わせます」

【汐】

「― マジですかっ!? いよっっしゃあぁあああ準備しまーーーす!! ―」

 切った。

 どっと疲れた。あのメイドに気に入られてしまったのは私史上の不幸トップ10に入る出来事だと思う。

【鞠】

「はぁ……仕事しよ」

 取りあえず後はメイドの報告待ちだし、村田家関連でやれることはない。

 少しは気も紛れただろうか。修学旅行の手続き準備でもして――

【笑星&深幸&信長】

「「「……………………」」」

 ――ん?

【鞠】

「んん……?」

 何でコッチ見てるの、あの4人。

 特に3人の視線が熱い。

【鞠】

「……何ですか。そんなに見られてると集中力が削がれるんですけど」

【信長】

「会長……申し訳ないのですが、お仕事入る前に我々にも説明いただきたく」

【鞠】

「何を」

【深幸】

「村田の話に決まってんだろうがッッッ!!? 何ソレ、調査速過ぎんだろ!! 完全にこれ、イタズラじゃなかったじゃねえか!!」

【笑星】

「さっすが鞠会長! 何も知らずにポスター作ろうとしてた俺たちが恥ずかしくなってくる!!」

 その割には嬉しそうじゃん雑務。

 しかし、声はそれなりに抑えてたつもりだったんだけど、会話内容もろに聴かれてたらしい。まあしっかり隠そうとしてなかった私に落ち度があるし、これは別に重大なミスではない。

 それに……いずれ必ず訊こうと思っていたことではあるし。

【鞠】

「……貴方たちが盗み聞きした通りです。昨日の脅迫文書を投函したのは村田冴華で、その首謀は母親である村田優可。紫上学園に喧嘩を売ったと見なし、私は村田家を潰す気でいます」

【四粹】

「ッ……会長、潰す、というのは……適切な表現でしょうか。であれば、過剰防衛にはならないでしょうか」

【鞠】

「普通の家が酔った勢いでやった程度なら、確かにそうでしょう」

 しかし敵は普通の家じゃない。

【鞠】

「あれの母親はあれの究極進化形です。この社会における強者を貪り尽くし、弱者と成り果てた者達を虐め嘲ることに人生を注いできた、生き甲斐に忠実な人間。お金の使い方も上手でしょうから、ヤクザとも友達なんじゃないでしょうか」

【深幸】

「ま、マジか……アイツの母親そんな凄えの……?」

【鞠】

「村田優可に、倫理観というのは恐らくありません。その証拠を、復学判定で村田家を訪れた私はよく感じました。多額の資産を持っているのに関わらず、それが全然投影されていないボロボロのアパート一室賃貸。無職で白昼堂々酒気に溢れた寝間着父親。その父親の暴力、そして母親の支配から逃れられない敗者で弱者の姉妹」

【信長】

「……村田……そんな印象、俺は全く――」

【鞠】

「この学園に居る間は、村田家から殆ど監視されてない状態ですから。家に居る間のストレスを発散させてたんだと思います。だからこその、あの傍若無人な強者の態度でいた」

 で、私はそのストレス発散に見事巻き込まれたと。つくづくお互い運が悪かった。

【笑星】

「村田先輩、今、どうなってるの……? さっき、父親が暴力、とか云ってたけど」

【鞠】

「停学前のことは知りませんが、停学してからはお金も稼げない役立たずですから。酷い有り様でした。蹴られ殴られ、今は足を痛めてまともに歩けない。妹を護る為に、父親の理不尽も、母親の命令も言葉を呑み受ける日々。結果、今回深夜に足を引きずって学園に忍び込んで目安箱にアレを投函することにもなった」

【笑星】

「――酷い。酷いよ、酷すぎるよ……! 近所の人は、相談機関とかは!!」

【鞠】

「村田冴華曰く、すべて母親の支配下とのことです」

【信長】

「ッ……何たることだ……」

【深幸】

「……で、お前は……そのクソ母親を、潰すってんだな」

【鞠】

「紫上学園にちょっかいをかけてきたのだから、自分の感情に忠実な彼女は必ず紫上学園に、本気で手を出してきます。どういう手を使ってくるかは分かりませんが、確実に学園長ら首脳陣の経営や人生は束縛されるでしょうし……何より我々紫上会だって可成り危ない」

 この学園の首脳陣はある意味、私達でもあるのだから。

 特に……私が奴の手に堕ちるというのは世界的にも一大事だろう。

【深幸】

「いいじゃねえか……やってやろうぜ、お前の云う「潰す」っていうのをよ! 俺は反対しねえよ!!」

【信長】

「絶対的な悪にして敵……容赦する必要は、無さそうですね」

 書記は兎も角として会計が私のぶっ飛んだ方針に賛同するのは珍しい。まあ感情論で云ってるだけなんだろうけど。どうせ何も出来やしないのだから、色々理論を語られるよりはずっとマシというべき。

【笑星】

「……ねえ、会長。それをやった場合……村田先輩はどうなるの?」

 一方、この雑務は随分冷静な疑問をぶつけてきた。

【鞠】

「…………」

 正直、驚いた、と思う。

 明らかに母親への怒りが着火している傍らで、彼にとって喜ばしくない存在である筈の問題児を心配する心を忘れていない。寧ろこちらが大事としている態度を見ると、笑顔主義の雑務らしい気がしてくる。

 なら、彼はきっと反対派に立つのだろう。

【鞠】

「路頭に迷うだけなら、まだマシと云うべきですか」

【深幸&信長】

「「ッ……!」」

【四粹】

「…………」

 私は雑務とは違う。

 私は他人を慮らない。味方でない者に、無駄に容赦などしない。だから今回だって、村田姉妹を助ける意思を私は持たない。

【笑星】

「……そう、なんだ……」

【信長】

「それは、避けられないのですか……?」

【鞠】

「母親だけならまだしも、父親も屑です。村田優可のテリトリーを殺したなら児童相談所が父親の暴行を黙認しなきゃいけない理由もなくなる。姉妹はほぼ間違いなく家を失う。その流れは確定です」

【四粹】

「……それだけでは、ありません。世間には村田優可さんの犯罪の数々が知れ渡るでしょう。そして世間に極めて強い先入観が根付くでしょうが……村田優可さんというレッテルを貼られた彼女たちが、果たしてその先入観の根付いた世界で生きていくことができるかどうか」

【鞠】

「何処へ行こうと、大陸を渡ったとしても、厳しい環境に晒されることになる。この辺りは想像でしかありませんが、割と現実味がある想像です」

【笑星】

「もっと、何か無いの!? 村田先輩たちがもっと助かる道は――」

【鞠】

「無いと断定はできませんが、私は村田優可に先手を打てる現状を優先します。敵が敵ゆえ、時間がありません」

 明日は我が身と思え。

 ならもう私に選択の余地は無い。

【深幸】

「……重大犯罪を犯した奴の家族は、たいていその影響を受けて苦労するもんだ。今回だって、それの例外じゃない。母親のやってることがインパクトデカすぎる……それをぼかすとかしない限り、周りはどうしてもアイツとその妹を母親と結びつけて考えちまう」

【信長】

「何とか……俺たちが、少しでも擁護できないだろうか」

 無茶なことを云う。

 しかし、目安箱を確認する作業よりはずっと有意義な思考だろう。私は参加しないけど。

 それよりも――

【鞠】

「副会長、再度貴方にコレを見せます」

 そして、問う。

我々は玖珂四粹の秘密を知っている

【鞠】

「コレを、どう思いますか?」

【四粹】

「…………」

 例の脅迫文書を取り出し、副会長に叩きつける。

 これをどう見るか……昨日とはもう全く違う文脈だ。

【鞠】

「ヤクザを顎で使えるほどの猛者が、わざわざこんな文章を送りつけてきたのだから、これは意味不明なイタズラと切り捨てていい事案ではありません」

【四粹】

「…………」

【鞠】

「貴方は、この「秘密」に……思い当たる節はあるんですか」

 それも、村田優可が取り上げるに相応しい秘密を。

 貴方は持っている――?

【笑星】

「玖珂先輩……」

【四粹】

「手前にも」

【鞠】

「はい」

【四粹】

「手前にも、秘密の2,3はあります。そしてソレは当然……話したいものでは、ありません」

【鞠】

「……そうですか」

 まあ、期待はしてなかったけど。

 ただ……この人が回答をはぐらかした、というのが割と気にはなる。この重大な局面で、自分のプライバシーを優先する……別にそれを非難したりはしない。私、警察じゃないし。だがこの人はそれでも答えるかもしれない……そう思っていただけに。

 さあ、来た――嫌な予感、だ。先輩譲りかどうかは知らないけど、また不穏な何かが、私の身を包む。

 ――地獄は、すぐに顔を出した。

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