7.40「家族に」

あらすじ

「家族が居るなら、一緒の時間を過ごすべきだと思います」四粹くん、未来が拓かれていきます。因みにスピンオフネタをお風呂場で思いついた時、真っ先に思いついたのがこの四粹くんエピソードでした。反省はしてない7話40節。

砂川を読む

Day

9/4

Time

4:30

Stage

水上総合病院 ロビー

【鞠】

「……もう朝じゃん」

 クタクタになって見つけた病院に入った時には、あの酷い雨はすっかり弱まっていた。風はまだ結構強い気がするけど。

 それにしても、また病院だよ。この1ヶ月程度で3軒目。うち2軒で私怒られる。今回は「何でこの天気で外歩いてるの!!」と至極最もなお言葉を戴いて何も云えなかった。

 で、何で病院来たかは勿論この右手だ。今はしっかり包帯巻かれてる。

 このヤバい怪我をお医者さんに見せるのはめちゃくちゃ緊張したけど、「何か針が飛んできました」で何とか納得させた。

 一番の壁は「何で君たち一緒の怪我してるの?」ということだったけど、「手を繋いでたら針が飛んできました」で何っっっとか納得させた。

 保護者役もそう証言してたからね。入院もしなくていいし、変に追及されずに済む……と信じたい。

 ……ただ、めちゃ疑問なのは。

【鞠】

「いやホント何やってんですか」

【汐】

「……てへっ☆」

 年甲斐のないぶりっ子なメイドの右手も、しっかり包帯が巻かれていることだった。

* * * * * *

【鞠】

「じゃあ……取りあえず、抜きますか」

【ババ様】

「え!?」

【四粹】

「は、はい。では……僕が――」

【汐】

「――ちょっと、待ったあぁああああ!!!」

【鞠】

「は?」

【四粹】

「え?」

【行】

「……汐? 貴方何を――」

【汐】

「……たあっ!!!」

【鞠】

「――はぁ!!?」

* * * * * *

 怖いけど串抜こうかなって思ったら、メイドがいきなり私の手の甲にがっちゃんこするように自分の右手を串に刺したのだ。

 3本の手が仲良く血に染まって串刺し。笑えばいいと思う。私は私自身を含めてもう何もかもにドン引きだったけど。

【鞠】

「生活に支障が出るかもですよ。それに痕が残ったら、折角無駄に綺麗な手が台無しじゃないですか」

【汐】

「それは全部鞠に云えることじゃないですか。それでもそんな選択をするというなら、メイドとしては地獄の果てまでお供するしかないじゃないですか」

 メイドの仕事の捉え方おかしくない? ちゃんと雇用契約の関係だよね?

【汐】

「……それに……だって」

【鞠】

「は?」

【汐】

「だって、鞠と、一気に家族になれるチャンスだったんだもん……」

 包帯に巻かれた右手を、左手で優しくさすっている。

 ……呆然しながらも、私は彼女を見ていた。

 辛そうだった。当然だ。この苦痛は尋常じゃない、経験者になってしまった私だから、いつも朗らかなこの人があんな顔をするのもよく理解できる。

 ……本当、この人も狂ってる。

【鞠】

「……まだ、諦めてなかったんですか」

【汐】

「当然。私は、鞠のお姉ちゃんになるんですから。ただ……それは私が思っている以上に困難なことだって分かったので。もっと本気でボロクソになって体当たりしてかないとダメだなぁって」

 体当たりされるこっちの身にもなれ。

【汐】

「というか、あんなぽっと出の男子に先を越されるとか絶対嫌なのでー」

【鞠】

「……そっか」

 何にも考えずにやったけど、ちょっと考えれば分かることだ。あの儀式を私と彼で行ったということは、私は彼の“家族”ということになる。

 その意味は測りかねているが、それが私にとって不要な価値であることは流石に実施前の私もどこかで理解していたと思う。

 ……これでは大半の犯罪者と変わらないじゃん。つい、なんてさ。

【鞠】

「その男子とも、貴方は家族になるってことですけどソレはいいんですか」

【汐】

「弟ができるというのは新感覚ですね」

【鞠】

「見境無しかい」

 まあ、もう過ぎてしまったこと。掘った穴は元には戻らない。

 これは決して小さくない穴……だけど、私は気にしない。何故なら、私にとってアレは重要じゃない。私が何より絶対零してはならないものは、既に確定している。

 私にとってはどうでもいい……彼がどう結論づけたか、これが全てだ。

【四粹】

「…………」

【汐】

「お」

 副会長がロビーに戻ってきた。

 酷い天候で病院泊まりしてたお医者さんが急遽対処してくれた形だ。感謝感謝。

【鞠】

「どうですか、身体の調子は」

【四粹】

「特に重大な問題は……ただ、右手は暫く安静にしたほうが、と」

 右脚もまだ松葉杖が重宝する段階なのに、それを持つ右手も重傷。左手でやった方がよかったかな。いやでも儀式は右手って書いてたからなぁ。

 心配してるつもりはないけど、儀式持ち掛けたの私だから流石に気まずい。

【汐】

「当然ながら、それは皆同じですねーお揃いですねー鞠(すりすり)」

 いや、決して同じではない。

 だって副会長はこれまで失踪してたのだ。その間殆ど飲食をしていなかったらしく……そこそこの栄養失調が診断されたし、右手右脚以外にも多く傷が見られた。

 本人が意思を全く持たないのもあり入院はしないようだけど……彼処で倒れているところを拾ってなかったら確実にヤバかった。

【汐】

「すりすりすり~」

 まあそれも過ぎたことだから気にしないし、今はこのメイドのウザさの方が気になるし。

【鞠】

「湿気臭い、ですッ(←押し離す)」

【汐】

「おっとっと」

 おっとっとしてたメイドがそのまま合流した副会長に近付いていった。

 元気なメイドを見てると、何かこうして色々考えてるのも莫迦らしく思えてくる。

 ……終わったんだし、決して必要とは限らないことなのは間違いないか――

【汐】

「……ね、四粹くん」

【四粹】

「は、はい」

【汐】

「うちで、働いてみませんか?」

 ――んん!?

 終わってない!? メイド、終わらせる気ないの!?

【四粹】

「はい……?」

【鞠】

「ちょ、は!?」

【汐】

「は!?、じゃないですよー。四粹くんの家族観はよく分かってませんけど、取りあえず……家族が居るなら、一緒の時間を過ごすべきだと思います」

 メイド、従業員の分際で深いことを切り出してきた。

【四粹】

「一緒の、時間を……」

【汐】

「鞠に、あんな無茶なことをさせて……私の可愛い鞠の右手に穴が開いちゃったんですよ!! どうしてくれるんですかー!!」

【鞠】

「穴が開こうと貴方のものになった覚えありませんが」

【汐】

「ってことです! 鞠の右手を損傷させたのですから……貴方は、今度こそしっかり、家族と呼べる人を持つ義務がある」

【四粹】

「…………」

【汐】

「ね……鞠。それが鞠の、やったこと、ですよね」

【鞠】

「…………」

 終わったこと、じゃない。始めたことだと。

 ならば勝者――分かり易く云い換えるなら責任者らしく、最後まで責任を以てこの穴を管理しろと。

 まあ……私の自業自得というのは、否定できなさそうだし。

【鞠】

「……要は、従業員になるってことでしょう? 枠とか空いてましたかメイド?」

【四粹】

「――! 会長――」

【汐】

「うーん……でも青年執事とかいいですよね。鞠の近くに男性が寄るのはお姉ちゃん的に許しがたいものですが、一方イケメン執事を従えるとか鞠の魅力がまた奥ゆかしく――」

【鞠】

「分かりました」

 ほぼ、自由気儘な感覚論が導き出した提案だったということが。

【???】

「――鞠ちゃん!!」

【鞠】

「え……?」

 何か、呼ばれた。

 ……よく聞き慣れた方の、私にかける声だ。振り返る。

【兵蕪】

「居た、鞠ちゃん……!」

【鞠】

「パパ――?」

 おかしい、まだパパが起きるには少し早い時間帯だし、起きたにしてもどうして此処に来ている。

【汐】

「あっれ、兵蕪様どうして此処に……?」

【市鴎】

「病院からご連絡を戴きまして。それで駆けつけたのです」

 ……今日も変わらずの仕事だというのに、私たちを探しに来たのか。それは……何か、意外に思った。この人ならやりかねないことだと思うのに。

【兵蕪】

「無事かい……ッその包帯――」

【鞠&汐】

「「あ」」

 右手の包帯見られた。

 パパの顔が見る見る土気色になっていく。ちょっと面白いと思ったのは不謹慎が過ぎるので黙っておく。

【鞠】

「違いますよ、別に襲われたというわけではありません。朧がしっかり仕事をこなしました」

【汐】

「これは、ある意味別件です。兎も角全員無事で、敵は全員行ちゃんたちが確保し、大輪にぶん投げていきました」

【兵蕪】

「…………そう、か……終わったん、だね」

【鞠】

「一連の事件については、もう物騒なことは起こらないでしょう」

 そういう意味では、終わった、と云える。

【鞠】

「学園絡みでお騒がせしました。しかし、これでもうパパも怯えずに済みます」

【兵蕪】

「……はは……ははは……そっかぁ」

【鞠】

「はい。終わりました。ですから……安心して、くだされば」

【兵蕪】

「……うん」

【鞠】

「いきなりすぐ安心するっていうのは難しい気もしますけど」

【兵蕪】

「ふふ、そうだね。正直、鞠ちゃんがもう襲われない……そうすぐ安心しきるというのは、難しいものだ」

【鞠】

「…………」

 普通の、会話。

 それもとても平和な会話。ようやっと日常に戻れる、そんな狭間の会話で……これはとても嬉しいものだ。この会話ができることに、私は何かしらに感謝しなければなるまい。

【鞠】

「……――?」

【兵蕪】

「また、パパは何も……出来なかったかぁ……」

【鞠】

「いや……普通に援助戴きましたし」

【兵蕪】

「はぁ~~出来れば直接的に、鞠ちゃんを助けられるチャンス来ないかな、とか思ってたんだけどなぁ。いや、危険な目に遭うことは勿論期待してなかったからね?」

【鞠】

「分かって、ますけど」

 ……のに、何でだろうか。

【鞠】

「…………」

【兵蕪】

「……? どうか、したかい鞠ちゃん? もしかして、何処か痛い……?」

【鞠】

「いや……別に、何でもないです」

 何だろ。

【鞠】

「…………」

 この、感情。

【汐】

「……鞠――」

【鞠】

「何ですか」

【汐】

「……いえ、何でもないです」

【鞠】

「…………」

【汐】

「な~~んでも~~??」

 ……ウザい。にやつき方がプロのウザさだ。

 ちょっと、色々気にはなったけど……追及してもウザくて体調悪くなるだけかもなので、兎に角早く帰ろうと思った。

 その為に……一番大きい話題を済ませようと思う。

【鞠】

「パパ、この人が行方不明になっていた玖珂四粹です」

【兵蕪】

「え……ああ」

【四粹】

「…………」

 騒動の中心にいた存在。

 解決に尽力した私の勢力の長には、ちゃんと説明しておいた方がいいだろう。

【四粹】

「多大な迷惑をお掛けし……大変、申し訳ありませんでした――」

【兵蕪】

「よく頑張ったね、四粹くん」

 が――パパは、これはいつも通りというべきか、勝手に話を進める。

【四粹】

「――え?」

【兵蕪】

「行ちゃんから、報告という形でそれなりに話は聴いていてね。取りあえず……君はシナの若頭で……色んな辛いことに、振り回されてきたんだろう? それでも生きて、こうして鞠ちゃんたちに、私に出会った。過去とは関係無く、この現在は、とても素晴らしいことだと私は思う」

【四粹】

「――僕を……恨ま、ないのですか……? 僕は――」

【兵蕪】

「これでも上に立つ者、人を見る目は養ってきたつもりでね。君は……過剰なほどに、優しい人だね」

【四粹】

「――!」

【兵蕪】

「沢山の人を思い、助け、信頼される。議論の必要もない、君は……価値のある青年だ。私が保証する」

【鞠】

「……パパ」

【汐】

「ああ、この人、こういう人ですから気にした方が負けですよー。そうそう兵蕪様、四粹くんをちょっと執事にしようと鞠が企んでるんですけど」

【鞠】

「ちょ」

 企んだのメイドっ。

【兵蕪】

「ほおぉぉぉぉ……鞠ちゃんがぁ……何だか意外だね」

【鞠】

「いや、ちが」

【兵蕪】

「いいよ、何事も経験だ!! これでまた、家族が増えちゃったなぁ!! ははははは!!」

 あーもう話まとまっちゃったよー……。

 無い体力振り絞って文脈変えるつもりも元々無いけど……

【四粹】

「え――家族――」

【兵蕪】

「これから、同じ釜の飯を食べるんだ、家族と呼んで差し支えないだろう? あ、嫌だったかな、よく云われるんだよ社長は欲張りすぎと」

【汐】

「欲張りすぎですねー」

【鞠】

「貴方も結構欲張りかと」

 と、またどうでもいい大笑や小口論が静かな病院のロビーに響く中で……

【四粹】

「…………いえ……嫌では、ありません……」

 また、笑った。

 建物の中、雨もなし、ゆえに今度はしっかり分かる涙を、落としながら。

【兵蕪&汐】

「「…………」」

【四粹】

「――いきなり……家族が、増えてしまいました。会長……こんな、いきなり……はは……ははは――」

【鞠】

「…………」

 涙も何故か、絵になってるなぁ。折角だ、それでしっかり濁りとか汚れとか、流し落としてしまえばいいと思う。

 ……これで、ちょっとは彼の視界も開けただろうか。

【汐】

「…………」

【兵蕪】

「……どうかしたかい、汐ちゃん」

【汐】

「…………ッ何で――」

【兵蕪】

「…………」

【汐】

「――……別に、何でも。……アレです、四粹くんの執事服のデザイン、どうしようかなって悩み中で」

【兵蕪】

「…………」

【汐】

「…………」

【兵蕪】

「…………」

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