7.36「気付けば僕は」

あらすじ

「幸せ――だと……」四粹くん、回想その2。そして現実が彼を終焉へ導く、嵐の下の7話36節。

砂川を読む

 ――そして、僕は昼を失った。

 いや。

 全てを失った、というべきだ。

【玖珂さん】

「行こうか――若頭」

【四粹】

「……………………」

【玖珂さん】

「いや、もう「四粹」と呼ぶべきか」

 僕が殺害した男は、ただの大人ではなかった。

 かねてより敵対していたギャングスタの組織員だった。

 地上ではたいそう素行が悪かったと評価され、地上社会では僕は正当防衛とされた。自分と、彼を助けるために、付近で落ちていた木の枝で貫いた。正当防衛で無罪とされた。

 だけど、僕はもう地上において普通の子どもとは見られない。それに、地上には地上の、地下には地下の掟がある。僕は地下において、大罪を犯したのだ。

 若頭による、唐突な攻撃。敵対組織は、当然報復を仕掛けてきた。結果――僕たちは、失ってはならない人を、失ったのだ。

【玖珂さん】

「……もうお前さんは、椎名じゃない。ちょいと役所の友達にこっそりお願いしてな、もう変えてもらったんよ。だからお前さんの名前はもう、椎名八慶じゃない。玖珂四粹だ」

【四粹】

「…………」

【玖珂さん】

「……悔しいか? 悔しいだろうなぁ。皆、悔しい。アイツらも。お前の親父さんも。俺も……悔しいさ。そういうもんだ、この人生ってのは。明解で、気持ち良い選択なんて滅多にあってくれねえんだ」

【四粹】

「……僕が……僕が、勝手なことを、したから……」

【玖珂さん】

「……ああ」

【四粹】

「父さんが――それで、皆が悲しみに暮れて……僕は……資格が、無かった」

【玖珂さん】

「……ああ。お前さんは……若すぎた」

【四粹】

「中に、入りたかったんです。大切にしたかった。だけど……零した……」

【玖珂さん】

「……四粹。少ししてから、お前は紫上学園ってところに入る」

 四粹。

 玖珂四粹。

 父を殺し。家族を引き裂き。全てを零した、空っぽの人間に付けられた名前。

 僕が――玖珂四粹だ。ならば、

【四粹】

「……玖珂さん。僕に、誰かの側に居る……資格があるのですか」

【玖珂さん】

「資格も何も、この社会では人と遭わずにはいられねえ。諦めるこったな、罰とでも思いな」

【四粹】

「罰」

【玖珂さん】

「お前さんは……優しい子だ。もう誰も悲しませたくないなら、裏切りたくないなら……まずはこれまで通り、優しく、友人の助けになれ」

【四粹】

「…………」

【玖珂さん】

「これからは、地上オンリー! もうお前も、俺も、シナじゃない。罪背負った、一般人だよ」

 ……僕が最も裏切った相手は、僕の隣で笑っていた。

 ――殺されるなら、甘んじて受け入れよう。

 指示があるなら、今まで通り全てに従おう。

 僕にあるべきは、その義務のみ。

 ……それ以外の権利など、あるわけがない。

【四粹】

「僕なんかに――関わったら――」

【六角】

「うっせえ!!!」

 ……その紫上学園で、僕は望んでいなかった1つの出会いを果たす。

【六角】

「お前もう喋んな! いいから黙って、俺と一緒に遊べ!!」

【四粹】

「え――ちょ――」

【六角】

「近くにゲームセンターあるんだけどよ、そこの新しいヤツが2人用なのよ、だから附き合え!! えっと……玖珂四粹、だよな。じゃあ四粹って呼ぶぞ!! 俺は六角な!!」

【周り】

「「「す……すげえぇえええええええ……」」」

 玖珂さんの云う通りだった。

 この社会では、誰かと関わらずにはいられない。

 この人は、まさにその象徴だった。

【六角】

「じゃあその分皆を幸せにしちゃえばいい。皆のこと助けちゃえばいいじゃん」

【四粹】

「……え……」

【六角】

「そうだ! じゃあ取りあえず、俺を助けろ!」

【四粹】

「六角、さんを――?」

【六角】

「そそ。俺もこんな性格だからさ、トラブルに色々見舞われるんよ。紫上会に入れば、尚更だ。だからさ、四粹」

 彼は、どこか……彼に似ていた、気がした。

【六角】

「一緒に居て、俺を助けてくれ――!!」

 それが悲しく思えて……だけど、彼が僕を利用してくれる。僕なんかに、価値を見出してくれた。

 ならば……今度こそ、彼の力に。

 命に替えても。

【六角】

「はっはははははははははーーーー!!! 六角政権、遂に終盤だなーーー!!!」

【菅原】

「どこに笑う要素があるのか」

【冴華】

「…………やっと……この無能から……解放される……」

【信長】

「その、お疲れ……村田……」

 学園を幸せに導く力。彼には、その力がとめどなく湧き上がるようだった。

 僕ですらも、学園のプラスへ転化させたのだろう。だから、僕が学園の方々から信用されたのは、僕の力によるものじゃない。彼のずば抜けた包容力あってこそだ。

【六角】

「3年なったら、何しよーかなー」

【菅原】

「いや、受験しなさいよ」

【六角】

「四粹は何か考えてるー?」

【四粹】

「僕は……既に、多くの大学からスカウトを戴いているので、学費免除の厚意に甘えさせていただこうかと」

【冴華】

「……何か将来のため具体的に学びたいこととか無いのですか? 今や大卒の肩書きなどあってもなくても同じです。卓越した何かへの経験を得られないなら、ただ数年を無駄にするだけですよ」

【菅原】

「まぁ、玖珂はどうせ何処に行っても活躍できるんでしょうけどね」

【六角】

「じゃあ俺も四粹と同じとこ行くー」

【冴華】

「コ イ ツ 。」

【信長】

「会長、もっと真面目に考えておきましょう流石に……」

【六角】

「四粹は俺が居ないとちょい心配だからなー」

【菅原&村田】

「「どの口が云ってんの!!」」

【四粹】

「…………」

 声にはしなかったけど……その心配は、嬉しく思った。

 もし本当に来て下さるなら――

【四粹】

「……会長は皆さんの代表的存在ですから、皆さんの参考になる立派な進路選択を踏むべきかと」

【六角】

「へへ、分かってるよ。でも、本心だからな親友」

 だが、これ以上は、求めたくない。

 絶対に。こんな僕を、気遣ってくださった貴方だからこそ。温かく、そして希望に満ち溢れた紫上学園だからこそ。

 この世界から失われないように……僕は、彼らから離れるべきだった。

 玖珂四粹。

 その唯一の存在意義はすなわち、誰かの助けになることだ。玖珂さんや六角さん達が与えてくれた、この価値を発揮し尽くし、そして尽きたなら廃棄されればいい。

 ……それが玖珂四粹の、あるべき使用。

 それが……僕の、幸せ――

* * * * * *

【四粹】

「幸せ――だと……」

 何を云っている。

 僕は、分かっていなかったのか?

 いや……分かっていた筈だ。

【四粹】

「はぁ……はぁ――分かっていた、筈なんだ。最初から――僕が間違えた、あの時から……!」

 もう、夜だった。時間帯は分からない。

 とてつもない大雨。強風。

 水上の、水だらけとなっている道を……当てもなく、歩いている。

 ……今も僕は、玖珂四粹は、生きていた。

【四粹】

「……どうして、僕は、皆さんと関わってしまったんだ――」

 どうして、生きてしまった。

【四粹】

「どうして……殺してくれなかったんだ――玖珂さん!」

 罰、だなんて……僕はいい、だけど僕が近付いてしまった人たちは無関係じゃないか。

 巻き込んで、巻き込んで――巻き込んで!

【四粹】

「一体、何の価値があったんだ!! また、それで――僕は繰り返したじゃないかァ――!!!」

 ――その時。

【四粹】

「ッ……?!」

 足が、滑った。どちらの足が、かも分からない。

 身体が、傾いていく。横なのかも縦なのかも分からない。

 一瞬、感覚が消えて……重力に身が囲まれる。視界が空を向く。

 ――真っ暗で、何も見えない、世界だ。

【四粹】

「…………」

 仰向けになった身体が、水に浸かっている。

 一体何処に落ちたのかも。抑も僕が何処を歩いていたのかも。

 分からない。分からなくても……いいのだろう。

 もう僕に、居場所など、無いのだから。

【四粹】

「何で……僕は……」

 だから、頭に膨張する疑問を、また繰り返す。

 どうして僕は、数年を生きてしまったのだろう。

 こんな僕が、生きて、何を得たというんだ。

 こんな、僕が――

* * * * * *

【六角】

「じゃあその分皆を幸せにしちゃえばいい。皆のこと助けちゃえばいいじゃん」

【四粹】

「……え……」

【六角】

「そうだ! じゃあ取りあえず、俺を助けろ!」

【四粹】

「六角、さんを――?」

【六角】

「そそ。俺もこんな性格だからさ、トラブルに色々見舞われるんよ。紫上会に入れば、尚更だ。だからさ、四粹! 一緒に居て、俺を助けてくれ――!!」

* * * * * *

【六角】

「はっはははははははははーーーー!!! 六角政権、遂に終盤だなーーー!!!」

【菅原】

「どこに笑う要素があるのか」

【冴華】

「…………やっと……この無能から……解放される……」

【信長】

「その、お疲れ……村田……」

【六角】

「3年なったら、何しよーかなー」

【菅原】

「いや、受験しなさいよ」

【六角】

「四粹は何か考えてるー?」

【四粹】

「僕は……既に、多くの大学からスカウトを戴いているので、学費免除の厚意に甘えさせていただこうかと」

【冴華】

「……何か将来のため具体的に学びたいこととか無いのですか? 今や大卒の肩書きなどあってもなくても同じです。卓越した何かへの経験を得られないなら、ただ数年を無駄にするだけですよ」

【菅原】

「まぁ、玖珂はどうせ何処に行っても活躍できるんでしょうけどね」

【六角】

「じゃあ俺も四粹と同じとこ行くー」

【冴華】

「コ イ ツ 。」

【信長】

「会長、もっと真面目に考えておきましょう流石に……」

【六角】

「四粹は俺が居ないとちょい心配だからなー」

【菅原&村田】

「「どの口が云ってんの!!」」

【四粹】

「……会長は皆さんの代表的存在ですから、皆さんの参考になる立派な進路選択を踏むべきかと」

【六角】

「へへ、分かってるよ。でも、本心だからな親友」

* * * * * *

みこし頑張る

【笑星】

「鞠会長~~! どう、安定してるーー?」

【四粹】

「バランスが取りづらければ仰って下さい。何とか、調整します」

【信長】

「じゃあ……そろそろ出発するので――」

【深幸】

「立てや!!!」

【司会】

「ッ――アンカー紫上会です!! み、御輿の上に……堊隹塚くん、茅園くん、松井くん、そして玖珂団長が担ぐ御輿の上に立っているのは……砂川会長です! とても――とても、綺麗で――輝いて、ます……」

【笑星】

「えっほ、えっほ、えっほ……!! 鞠会長、すっごい人気だねーー!!」

【鞠】

「カエリタイ」

【司会】

「圧倒的強者!! 圧倒的会長!! 毅然とした態度で、我々一般学生を見下しています!! これが……この煌めきが、今年度紫上会会長、砂川鞠さんです――!!!」

【観客】

「「「うおおぉおおおおおおおお!!!」」」

【観客】

「「「会長!! 会長!! 会長!! 会長――!!」」」

【鞠】

「カエリタイ」

【四粹】

「……会長にとっては、悉く災難な祭りでしたね……」

【笑星】

「あ、あははは……だねー」

【鞠】

「早く……早く、ゴールしなさい……あと4分の1……」

【信長】

「とのことだ。会長の為に、少しペースを上げようか!」

【深幸】

「ったく……しゃーねえなッ!!」

【四粹】

「もう少しの辛抱です、揺れが大きくなるかもしれませんが……速度を優先します!」

【笑星】

「いくよーーー!! せーっの!!」

* * * * * *

甲子園戦2

【四粹】

「7回が終了して、紫上学園は7点を入れました……一方稜泉の攻撃を、1点も入れさせることなく。こんなことが……」

【深幸】

「舐めちゃいけねえよ玖珂先輩! 信長はいっつもこうだ!! 俺らの想像をぶち壊すようなプレイをして、勝ちを捥ぎ取る!! 漫画みたいなことを何度も現実に起こす奴だ……そんなアイツの姿を、俺はこの場所で見たかったんだ――!!」

【笑星】

「アッチの完成野球もすっかり乱れちゃってるよ!! これなら、逆転できる!! いっけえぇええええ!!!」

【四粹】

「……松井さん。貴方は本当に、恐ろしい方だ……それに――」

【鞠】

「喰らい尽くせ、書記ぃいいいいいいいい――!!!!」

* * * * * *

【四粹】

「しかし手前が足枷となり皆さんの行動を束縛しては本末転倒の恐れもあります。手前のことはいいです、皆さんの障害となるならば――」

【鞠】

「だから貴方は赤羽なんです」

【四粹】

「ッ――?」

【鞠】

「会長が云ってるんです。貴方も残さず連れて行くと。従いなさい、貴方も紫上会だというなら」

【四粹】

「――会長――」

【英】

「それに、2人はカップルですものね。そう易々と手は離せませんよ」

【鞠&四粹】

「「ん……!!」」

* * * * * *

【四粹】

「……………………」

 …………ああ。

 何だ。気付けば、随分と僕は。

【四粹】

「不相応に……楽しんでたんじゃないか――」

 目を閉じる。

 冷たい雨、冷たい水溜まりが浸かる身を冷やしていく。

 僕の終わり――僕の道の終着点に、僕は辿り着いたのだろう。

 だから、僕は……振り返った。

【四粹】

「はは……どこまでも……罪深い――傲慢な、怪物だ……」

 何も求めてはいけなかった筈なのに。結局僕は、再び求めていたということだ。

 ……もし。

 もし――次の生が与えられるようなことが、あるのならば。

 その時は――どうか。

【四粹】

「――“家族”が――欲しい――」

     

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

     

【四粹】

「――?」

 ……雨が、止んだ?

 いや、豪雨の音は聞こえる。だけど、自分の顔に叩きつけていた衝撃が、無くなった。

 それに――上半身が、少し浮いたような気がした。最初、自分の浸かっている水溜まりの波に押されたのだと思った。

 だが違った。後頭部に触れていた……恐らくコンクリートか何かで、硬いものは……今は無くて。代わりに柔らかさを感じていた。

【四粹】

「ッ……?」

 終わりを迎えた筈の眼を、再び、見開く。

 嵐の世界。暗闇の夜。

【四粹】

「――――」

 それだけの筈の視界に――有り得ないものが映った。

莫迦ですか

【四粹】

「――会――長――?」

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