7.30「玖珂四粹の家」

あらすじ

「……随分昔から日記を付けてるようですが」砂川さん、他人ん家に不法侵入。作者のお家の玄関は簡単にピッキングで開けられます。金目の物はありませんよ7話30節。

砂川を読む

Time

13:30

Stage

紫上学園 正門

【汐】

「お待たせしました、鞠」

 メイドに連絡し、昼休みになったところで私は早退を決め込むことにした。

 理由としては企業打ち合わせ。平日の昼間にやることではない気もするけど、企業側に時間帯を合わせることも時に不可避になるようだ。紫上会は割と早退が多い。

 ……まあ、いつもの如く出張は私だけなんだけど。そしてその出張自体嘘だし。

 車が到着した連絡を受けて、私も外に出た。

【鞠】

「……貴方も一緒ですか」

【行】

「1人で外に出るのは感心しませんね、お嬢」

 確かに、車に到達するその数十秒で首を撥ねられてもおかしくないのか。

 我ながら無茶をする。

【鞠】

「行き先は此処です」

 彼の住所は勿論、紫上学園に登録されている。それを紫上会が確認できるのも当然。

 マンションの建っている場所を地図表示し、アルスをメイドに渡す。

【汐】

「石栄区……宝石の街ですねー。淑女の嗜みで私もよく行きます」

 確かハンバーガー貪りながら歩き回って宝石店に出禁にされて帰ってきたんだっけ。

【行】

「……今のところ、石栄近辺には誰も居ない状況ですね。安全に向かえるかと」

【鞠】

「行きましょう」

 玖珂四粹の行方を調べる。

 彼がこの一連の事件にどう関わっているのかは知らないが、現状私の一番困ることは学園の空気が悪くなること。

 スーキュアという敵を倒すことがこの事件の終幕。それがいつになるかは連中の行動次第であるし、長期化する恐れは小さくない。

 しかし副会長がどうなってるのかぐらいは、スーキュアの処理よりは此方の努力次第で進捗するだろう。兎に角早く彼を見つけて、学園に連れ戻す。そうすれば学園生たちは可成り安心することだろう。

 それに彼は何かを知っているのだから……。

【ババ様】

「おお、新しい町に入るのか! ワクワクするの!!」

【鞠】

「平和ですね」

 私も早く、のんびり車窓を眺める日々に戻りたいものだ。

Time

14:00

Stage

石栄区 シングルユーズ石栄

【ババ様】

「石の町というから、もっとイシイシした景観かと期待したのに……」

【鞠】

「イシイシって何ですか」

 せめてゴツゴツでしょ。まあゴツゴツしてるわけでもないけど。

 それは兎も角、彼の住所に到着した。

 このマンションの505号室とのことだ。

【汐】

「でもこのマンション、どうやって入ればいいんですかね」

 エントランスのガラスドアが私達の行く手を妨げていた。

 入居者じゃないんだから至極当然の光景ではある。

【鞠】

「普通に505にチャイム鳴らせばいいじゃないですか。そこのインターホンで――」

【行】

「…………(←ハッキング)」

【鞠】

「ちょっと?」

 この人何か、インターホン弄り始めたけど――

【自動ドア】

「ぴぴぴ」

【汐】

「開きましたね」

【鞠】

「…………」

 はい、不法侵入ー。

 さっさと用を済ませて帰らないと警察来るかもしれない。

【行】

「行きますか」

 嫌な汗が頬を伝うのを感じながら、マンションに突入する。

 ……………………。

【汐】

「ここですね。505」

 副会長のお家に到着。ネームプレートとか貼ってないみたいだ。

【鞠】

「まさか空き部屋とかいう展開ないよね……」

 そうなるとちょっと手詰まり半端ないけど――

【行】

「…………(←ハッキング)」

【鞠】

「インターホンすら鳴らさないんですか」

 呼吸するように錠を弄るな。

【自動ドア】

「ぴぴぴ」

【行】

「開きましたね」

【汐】

「よっしゃ突入!!」

【鞠】

「…………」

 誰の視線も監視カメラも無いことをめっっちゃ確認してから、私も2人に続いて505号室に侵入した……。

Stage

玖珂家

【鞠】

「……よかった、普通に人住んでる形跡ある……」

【ババ様】

「おお、此処が都会の普通の家か! 島の家より狭いのー」

【鞠】

「人口が違いますから」

 しかし、今人の居る気配は無い。あったらあったで大変なんだけど。

 リビング、ダイニング、ベランダ、洗面所……勝手に色々回ってみる。

 しかし矢張り誰も居ないようだった。

 洗面所の鏡台を開けてみると、まあ、身だしなみ整えるやつがそれなりに整理されていた。しかし女性用のは特に見当たらない。

【鞠】

「……歯ブラシは2本」

 コップに入れられた歯ブラシの数からして、この家に2人暮らししているようだ。その同居人は男性。

 紫上会の把握する学生データでは……保護者名は「玖珂八雲」。

 何故か同じく音信不通になっている存在だ。

【ババ様】

「男2人の生活か。ちょっとドキドキしてくるの」

【鞠】

「いや、全然」

【ババ様】

「歯ブラシ見て興奮しないのか?」

 いや、何で興奮する必要があるの? ただの歯ブラシだよ? 縁結びのヌシどんなフラグ認識してるの?

【鞠】

「……特に手がかりに繋がるものはなし」

 次は……息子のお部屋でも探してみようか。

【汐】

「あっ、鞠。先にやってまーす」

 2人が既に色々漁っていた。

 メイドは勉強机の棚に並べられたノートを捲っていた。

【汐】

「四粹くん、勉強家ですねー。ほら見て下さいよー」

【鞠】

「…………」

 予習、授業、復習、と教科毎にノートが用意されていた。

 メイドの開いていたノート……これは授業のやつか、それを覗き見る。

【鞠】

「うわ」

 物凄い情報量。先生の一言一句を全て書き連ねてるって勢いだ。一体1回の授業で何ページ費やしてるんだ。こういうの文字起こしっていうんだっけ。

 図式もしっかり記録されている。その図式を説明している箇所が何処なのかも色分けしている。

 もはやこれ一冊あればそのまま教鞭に立てるってぐらいだ。

【汐】

「鞠はノート作らない派なんですよねー」

【鞠】

「必要があればメモはしますが、必要が無いなら書きません」

 だって分からないことがあるなら参考書とか開けばいいんだし。

 というか家庭教師の意向で、私は寧ろノートを作ることを禁止されてたし。「ノートにメモったから大丈夫」って脳が判断しないようにするためらしい。

 そのお陰かどうかは知らないけど、私は瞬間記憶とまではいかなくとも割と一発で長く覚えてられるタイプだ。だから真理学園でも紫上学園でも、授業中は基本的に頬杖スタイル。怒ってきそうな教師相手なら背筋は伸ばして肘は仕舞っておく。

 だから、副会長のこの勉強机の棚は私からすれば違和感しかなかった。

【行】

「……こちらの本棚も、ノートや教科書、知識書などばかりですね」

【汐】

「何と云うか、詰まんないですねー。娯楽とか、無いんですかね」

【鞠】

「…………」

 私も、天井にまでくっついた大きな本棚の調査に入る。

 ……でも、さっきの棚と大差は無い。

 彼の勉強跡ばかりが顔を見せるばかり。

【行】

「学園というのは、こんなに読み書きするところなのですね。知人はそんな様子、全くありませんでしたが」

 隣のエージェントが呟く。

 学園は、勉強するところ。なら、沢山勉強をしてたって全然変ではないだろう。一流の大学、医者、公職を目指すならばこれくらい勉強するだろう。

 だが、学園というのは、きっとそれに限る場所ではない。学力主義を掲げてる紫上学園だって、あんなに部活動が盛んじゃないか。その制服を着て遊んでいる学生たちも町でちらほら見かける。他の制服の人たちだって多く見る。

 自由と喜楽の青春時代、学生たちの部屋はどのような彩りなのだろうか。

 ……私は、少なくともこんな感じじゃないと思う。

【鞠】

「…………」

【ババ様】

「鞠……? 手が止まっておるぞ」

【鞠】

「……何か、気分悪くなってきた」

 この本棚は――私に吐き気を与える力を持っているようだった。

【汐】

「大丈夫ですか……? 休んでますか?」

【鞠】

「いえ、問題、ありません」

 下段には図鑑などの大きな本が倒されて並べられていた。当然ながら、他の棚と違ってほぼ全ての本が棚からはみ出ている。3割ぐらいはみ出ている。

 その一冊を引き抜いてみて……

【鞠】

「――ん」

 ……ちょっと違和感を抱いた。

 とてつもなく、些細な。

【鞠】

「(どうして、こんなはみ出てるんだ……?)」

 この棚の奥行きから考えれば、2割程度で済むんじゃないか、なんて。

 5秒でどうでもよくなりそうな、些細な疑問だった。

【鞠】

「…………」

 先輩曰く、そういう感覚ほど重要になったりする。

 だから私は半分ヤケクソの心境で下段のはみ出し本たちを全部引っこ抜いた。

【汐】

「あまり散らかすと後で戻せませんよ?」

【鞠】

「…………」

 しゃがみ……下段を覗く。

 うん、外観通りの木目の箱空間が広がってる。

 そりゃそうなんだけど……。

【鞠】

「……ちょっと、失礼します」

 その上の段も全部外に出して、覗く。

 それから、左手で上、右手で下の段の棚の奥壁を触った。

【鞠】

「…………」

 手を逆にしてみる。

【ババ様】

「ん――これは……何か変じゃの」

【鞠】

「奥行きの長さが、違う」

【行】

「え?」

 再度、最下段の棚を覗く。

 ……よくよく見ると、右上角付近の上辺に細長い穴が開いていた。

【鞠】

「何か、定規とかありませんか?」

【汐】

「え? えっと……あ、ありましたありました、どうぞ」

 勉強机の下棚に収納されていた定規を……その穴に突っ込む。

 そして……めちゃやりにくいんだけど……下に押すようにして、引く。

 定規が抜ける。

 また差し込む。

 下へ力を入れて引く。

 抜ける。

 差す。

 引く。

 ……繰り返していくうちに。

【ババ様】

「これは――」

【汐】

「まさか、ダミーの板ですか!?」

 最下段に仕込まれていた、ダミー板が傾いてきた。

 もういいだろって角度になったところで、両手で上辺を持ち、完全に外に出す。

【行】

「探偵みたいですね、お嬢」

【鞠】

「……これは」

 現れた、本当の奥壁。

 そこには……また、数冊のノートが貼り付いていた。

【汐】

「随分古くさいノートですね。予習復習、とかは書いてないですが……書き方の雰囲気は同じです」

【行】

「…………これは」

 各々、ノートを開き内容を確認する。

【ババ様】

「これは……日記、じゃな」

 日付を題目として、その日あったことやそれに対する彼の心情と思われるものがずっっっしり書き込まれた、正直見る気の失せる横書きの日記帳だった。

【鞠】

「……随分昔から日記を付けてるようですが」

 パラパラ捲っていく。このノートだと、大体C等部からB等部くらい、か。

 ノートは全部消費されておらず、数ページ戻して最後らへんの文章に眼が行――

【鞠】

「……………………」

【ババ様】

「……………………」

【汐】

「……行ちゃん、コレ……何の勉強だと、思います……? この内容、この図式……」

【行】

「暗殺の方法。数多のケーススタディ。二次組織について」

【汐】

「……血の掟」

【行】

「! 貸していただけますか。…………」

【汐】

「これは……確定、でしょうか」

【行】

「……間違いない。これはシナのオメルタです。しかし……ほう、シナのオメルタは特殊なのですね」

【汐】

「どういうことですか?」

【行】

「オメルタは基本、組織の鉄の掟そのものを示しますが、シナでは組織の者、家族員として心血を共にする加入儀式についてもオメルタと表現するようです。加入者と家族員で合掌する右手に銀の串を貫通させ、混じり合う血液で以て右手同士を染める儀式を」

【汐】

「うっわ……絶対やりたくないですねソレ」

【行】

「しかし、強力なチームワークはきっとそこから出発しているのでしょう。ブレの無い機械的な仕事様からイメージしていたからか、個人的に意外です。シナは、「家族的」なのです」

【汐】

「四粹くんは……もう、その儀式をやったんでしょうか」

【行】

「これだけ、詳しいのです。それも誰かから教わっている。ほぼ確実に、彼は家族員です。ならば――」

【鞠】

「――やってません」

【汐】

「え……鞠?」

【行】

「……そちらのノートには、何が書かれていたのですか」

 まだ読んでる途中だ。

 最初から、読んでいて……まだまだあの場所までは先。

 先ほどは飛ばした、彼の敷き詰められた日記文。

 それを……一つひとつ、読んでいく。

【鞠】

「……………………」

【汐】

「ちょっと横失礼しますよ。……日記、ですか」

【行】

「他のノートとは、趣が違うようですね」

【鞠】

「……………………」

 ただ、読んでるだけだというのに。

 手が震えているかもしれない。

 心拍数が上がってるかもしれない。

* * * * * *

【六角】

「「僕と関わると、皆が不幸になるから」だそうだ」

【菅原】

「楽しんでないとかそういうんじゃなくて……周りの人を、助けることしかしないのよ。それは……果たして彼個人の動機あってそうしてるのかが、六角の話を聴いてて気になった」

* * * * * *

【冴華】

「人生で一番楽な選択肢は、何だと思いますか? それぞれの進路を行く中で……」

【鞠】

「……え?」

【冴華】

「私は……諦めること、だと思っています。道を掘ることを、道を選ぶことを、道を考えることを、放棄することだと思います。私なりの観察でしかありませんが……あの人は……既にそれを選んでしまったんだと、思うのです」

* * * * * *

【四粹】

「――会長」

【鞠】

「何ですか」

【四粹】

「僕には――幸せになる価値はありません」

* * * * * *

 ……ああ……。

 そうか。

 今、私は。

 「真実」と直面したんだ――

僕が家族を殺した

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