7.26「完全無欠の道」

あらすじ

「鞠ちゃんの今の道は、パパのエゴで舗装された道でしかない」砂川さん、親子で会話します。パパ様は決してモブキャラではありませんな7話26節。

砂川を読む

Time

19:30

Stage

砂川家 ダイニングフロア

【市鴎】

「本日はコースではなく――」

【兵蕪】

「いただきまあぁあああああああああああああす!!!!」

 夕食がフライングスタートした。

 シェフ、落ち込んで厨房に引っ込んだ。後でコースじゃない解説聴きにいかないと……。

【ババ様】

「今日は何だか、不思議なメニューじゃのー」

【鞠】

「ご飯だらけですね」

 しかもおにぎりだらけ。

 どうやら中の具がそれぞれ異なるらしい。これはこれで凄まじい手間だと思う。シェフ頑張った。

【兵蕪】

「おっと、スクランブルエッグだったよ。HAHAHA!!」

 スクランブルエッグで何で笑い出すんだろう。

【ババ様】

「きっと冴華の意識が戻って、無事この家に迎え入れられそうなのが嬉しいんじゃろ」

【鞠】

「……パパらしいですね、それ」

 私それに一票。

【ババ様】

「それにこの愉快な晩ご飯、多分シェフが和佳を意識したんじゃろう。シェフなりの励ましじゃ」

【鞠】

「ほう」

 それにも一票。

 確かに、あの子も比較的上機嫌でおにぎり頬張ってるように見える。

【和佳】

「はむはむはむはむ――」

 ――と、眺めていたら……

【和佳】

「えへへ……はむはむ――ッ……!?」

【鞠】

「あ」

 次に手に取ったおにぎりが、噛み付いたことで多分バランスを崩したんだろう、分裂に対処しきれず床に落としてしまった。

【和佳】

「や、やっちゃ――」

【兵蕪】

「ッ――!!」

 パパ、走って駆けつけ――

【鞠&汐】

「「(何で駆けつける!!)」」

【和佳】

「――!?」

【兵蕪】

「和佳ちゃん――」

【和佳】

「ッ……ヒッ――」

 拾おうと椅子から降りていた身体が、突然崩れ落ちた。

 ――これは、私やメイドが当初恐れていたことだ。

【兵蕪】

「大丈夫!? どっか怪我してない!? 火傷!!

【和佳】

「――――」

【鞠】

「何してるんですか!!!」

 私も駆けつける。

 同時にパパ叱責。

【兵蕪】

「え!?」

【鞠】

「あー、えっと……そんな勢いで大人が駆け寄ってきたら怖がってもおかしくないでしょ」

【兵蕪】

「あ、いや! パパは和佳ちゃんが心配で!!」

【汐】

「もーうこのパパ様ったら、過保護なんですからー」

 私とメイドで撫でたり慰めたり。

 ……身体の震え、収まってきたようだ。

【鞠】

「……この人は、かつての貴方の父親とは違うタイプです。まず暴力は振るってきませんから」

【汐】

「ちょっと不器用でやることなすこと別の意味で怖かったりするんですけど、基本悪い人じゃないから大丈夫ですよー。寧ろ私達で襲って泣かせてやりましょう。お小遣い恐喝しましょう」

【和佳】

「ぁ……う、うん」

 いや恐喝はやめろ。

【和佳】

「ご、ごめん、なさい……私、私が食べるから――」

 取りあえず最低限落ち着いてくれた。

 が、そのまま床に落ちたおにぎり……とはもう云いがたい拡がりかたしちゃってるご飯を拾おうとする。

【兵蕪】

「あんっ」

【和佳】

「え――」

 しかしそれより前にパパがササッと拾い集めてしまい、ソレ全部自分の口に入れてしまった。

 大人の拾い食い眼前で見届けてしまった。

【兵蕪】

「……うん、美味い! 流石我がシェフの料理、床に落ちても美味いものは美味いな!!」

 それ褒めてるつもりだろうけど聴いたらシェフ落ち込みそう。

【兵蕪】

「けど、3秒は過ぎちゃってるからね。和佳ちゃんは、パパのおにぎりを食べなさい」

【和佳】

「あ……え?」

【汐】

「そうそう、このパパ様は拾い食いのプロだから、和佳ちゃんはお皿の綺麗なおにぎり食べましょー。はい、コレとコレ、あとついでにコレ!」

【兵蕪】

「ちょ、汐ちゃん!? パパのおにぎり半分減っちゃったんだけどー!!」

【汐】

「和佳ちゃん襲った罰金だと思えば軽いでしょー?(もぐもぐ)」

【鞠】

「何でソレを貴方が喰ってるんですか」

【和佳】

「……………………」

 といった、ちょっとした騒ぎがあってから……。

Time

20:30

Stage

砂川家 リビングフロア

【兵蕪】

「……そういう、ことだったのか」

 親子、同じソファで並び座ってさっきの反省会。

 ……私とパパだけって、案外珍しいかも。いつもメイドとかいるし。

【兵蕪】

「フラッシュバックさせたか……本当に悪いことをしてしまった」

【鞠】

「なにも、走らなくてもよかったでしょうに。というかおにぎり常温に近かったですから火傷するわけないのに」

【兵蕪】

「いやー身体が勝手に動いてしまって……情けない」

 すっかり落ち込んでいた。

 何と云うか、落ち込み方も元気で健康な大人だなって変な印象を隣で覚えた。

【兵蕪】

「鞠ちゃんはもう既に1人でしっかりやれちゃう子に育ったけど、あの子はまだそうじゃないだろう? だから、今度こそ……護れる時にはしっかり護れたらな、と意気込んだんだが。どうやら空回りしたようだ……はぁ~」

【鞠】

「今度こそ?」

【兵蕪】

「……鞠ちゃんをずっと放置してきた前科があるからね」

 別に、そんなのいいのに……。

 ……………………。

【鞠】

「また家族ですか……」

【兵蕪】

「鞠ちゃん?」

【鞠】

「……家族って、そんなに大事なんですか。パパは事実として、私との時間よりも、仕事を優先しているじゃないですか」

【兵蕪】

「……申し訳ない」

【鞠】

「別に。悲しく何て思ってませんから続ければいいと思います」

【兵蕪】

「……思わない、か」

【鞠】

「ん――何か?」

【兵蕪】

「……鞠ちゃんはやっぱり、家族というものの価値が根付いてないんだなって」

【鞠】

「……………………」

 まあ、必要ではなくない? と思ってることは事実だけども。

 そこまで残念がられるとは。

【兵蕪】

「仕事と家族……私の中ではね、この2つは非常に密接に繋がってるんだよ」

【鞠】

「……そう、なんですか」

【兵蕪】

「ああそうさ。鞠ちゃんからしたら無関係にしか見えないだろうが、パパがこんなに仕事をやっているのは、家族の――ママの為になんだ」

【鞠】

「…………」

 なら、知るわけもない。

 知ろうと思うこともなかったのだから、繋がりなどに気付くわけがない。

【兵蕪】

「ママとの出会いが、約束があるから、僕は仕事をしたいんだ。世界を……豊かにしたい。しなければ、ならないんだよ」

【鞠】

「…………」

 だから、それについて何かコメントができるわけもない。

 実際私は今パパの選択で困っていないのだから、このまま続けてもらって大いに構わない。過保護を発揮して騒ぎ立てる時間が減るなら万歳じゃないか。

 ……ただ、それを聴いてて一つ疑問になったのは。

【鞠】

「何故、私が後継者なんですか?」

【兵蕪】

「え?」

【鞠】

「それだけ会社で使命を以て働いているなら、その次代にはパパの意思を継げる、信頼できる部下の誰かに継がせるのが自然でしょう? 何でいきなり……私が一峰の跡継ぎに選ばれてるんですか」

【兵蕪】

「…………」

 何故か、黙った。

【兵蕪】

「……鞠ちゃんは、継いでくれる、つもりなんだろう?」

【鞠】

「? まあ、断るだけの大きな理由もありませんから」

【兵蕪】

「なら……いずれ気付くと思う。もしかしたらその時、鞠ちゃんはパパを恨むかもしれないがね」

【鞠】

「……は? どうして」

【兵蕪】

「特に明確な理由は無いさ。だが人はエゴで生きている……人それぞれにね」

 ……分からない。

【兵蕪】

「一峰がどうしてここまで発展を目指したのか。何を目指したのか……それが分かった時、きっとパパの駆け抜けてきた人生は本当の意味で終着点を迎えるんだよ」

 この人との会話史上、何を云っているのか、全然分からない。

【兵蕪】

「こんなことを今更偉そうに云える立場なのか、疑問ではあるけどね……鞠ちゃん、一峰の先輩として、それよりも君の父親として、一つだけアドバイスをするよ」

 そんなパパが、まだ続く。

【兵蕪】

「鞠ちゃんに用意された道はね……完全無欠の道ではない」

【鞠】

「――え?」

 私の「前提」をも揺らすようなことを、云う。

【兵蕪】

「鞠ちゃんの今の道は、パパのエゴで舗装された道でしかない。それは時に――鞠ちゃんを不幸にする道かもしれない」

【鞠】

「…………パパ、それは――」

【兵蕪】

「実際どうなのかはパパにも分からない。だから……鞠ちゃんも、自由に道を改装していくといい。自分の大切なものの為に、生きなさい」

【鞠】

「それは――!」

 「私は間違っている」。

 ――それを貴方が、云ったのだ。

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