7.25「過去の告白」

あらすじ

「お姉ちゃんなんて……もう要らない」砂川さん、かつての存在を呟きます。いまいち判然としない砂川さんの過去が気になるところですが、矢張り発覚する機会のない7話25節。

砂川を読む

Time

12:30

Stage

霧草区

【和佳】

「すー……すー……」

 3人で、車で家に戻る。既にシェフは戻っているようだ。

 因みに泣いた分疲れたのか、妹は私の膝の上で眠っていた。

【ババ様】

「汐の運転と怯えておったが、今回はマイルドじゃの」

【鞠】

「まあ、この子もいますから」

 車内は、珍しく静かだった。

【汐】

「……………………」

 タイヤが悲鳴を上げる音すら全く無い。これほどの静音、今まであっただろうか。

 ……違和感すら覚える静けさに、何故か居心地の悪さすら感じ始める私はきっとおかしい。

【鞠】

「(……メイドめ)」

 予想以上に病院で体力を消耗した気がする。その原因の半分はメイドだと思う。

 今そのメイドもおかしい気がした。ずっと黙ってるもん。

 この新手の嫌がらせムードから意識を逸らす一環で、眠る妹の頭を撫でてみた。

【和佳】

「すー……ん、えへへ……」

 ……撫でるのって、こんな感じでいいんだろうか。よく分からない。

【ババ様】

「鞠は、ちっちゃい子にだけは優しいんじゃの」

【鞠】

「うるさいです」

【汐】

「……………………」

 私の独り言にも慣れたのか、「え、何も喋ってないじゃないですか」的なツッコミもなく、静寂は続く。

【鞠】

「はぁ……」

 早く着かないかな。一応本来の仕事もキリが良いからってことでもう今日はやらなくていいやと決め込んでるんだけど、果たして休めるだろうか。

 私にとっての家の光景には、悪い意味でこのメイドが不可欠となっているのに。

【ババ様】

「……のう、鞠」

【鞠】

「何ですか」

【ババ様】

「ずっと気になっておったんじゃが……どうして鞠は、そこまで汐がお姉ちゃんと呼ぶのを、嫌うのじゃ?」

【鞠】

「……………………」

 そんなの、お姉ちゃんじゃないから、だろうし。

 一度赦すともっと過度にベタベタしてきそうだから、だろうし。

 ……だけど、何より根底にあるのは――

【鞠】

「……姉なんて要らないからですよ」

 溜息をついて、俯く。

 少女の寝顔が映って……また、撫でる。

* * * * * *

【和佳】

「嘘つき、嘘つき、嘘つきぃ――!」

【冴華】

「…………」

【和佳】

「嘘つき……ずっと一緒に居るって、云ったのにッ!!」

【冴華】

「……ごめんなさい」

【和佳】

「凄く寂しかった……いつまで待っても、帰ってこなくて――ッ!!」

【冴華】

「ごめんなさい……」

【和佳】

「このまま……このまま、もうずっと帰ってこないんじゃないかって……ッ!!」

【冴華】

「…ごめん、なさい……」

* * * * * *

【鞠】

「姉って、最悪な生き物です」

【汐】

「…………」

【ババ様】

「鞠、もうちょい小さい声で云った方が――」

【鞠】

「偏見なのは、分かってます。だけど……私はろくな姉を見たことがない。兄も、ですか」

 堊隹塚姉弟は比較的まだマシな感じがするけど……村田アイツといい、先輩といい。

 そして――

【鞠】

「私にも、姉が居たんですよ」

【汐】

「――――」

 お姉ちゃんといい。

【ババ様】

「ほう、そうなのか……」

【汐】

「……鞠。それは、本当ですか――?」

【鞠】

「嘘を云う価値もないでしょう」

 抑もこれを発言する価値も無いとは思うけど。

 この時の私は何だか疲れていた。

【汐】

「初耳です……そんなの初めて聴きました。兵蕪様は一言もそんな――」

【鞠】

「当然ですよ。知りませんもん」

【汐】

「……先駆者ってことですか」

 確かにそうなる。

 あの人もメイドに負けないレベルでウザかった。

【汐】

「私よりも先に、鞠のお姉ちゃんになろうとした人が、居たんですね」

【鞠】

「…………」

【汐】

「……鞠にとって……その人が――お姉ちゃん、だったんですね」

 答えられない。

 答えたくなかった。

【汐】

「……今、その人は……って聴いていいんでしょうか」

【鞠】

「もうこの世に居ませんよ」

 コッチは随分あっさりと云える癖に。

 私は……あの人のことを思い出したくない。

【鞠】

「嫌いですよ、あんな姉は」

【汐】

「……鞠」

【鞠】

「約束を全部破って。嘘つきで」

 だから。

【鞠】

「お姉ちゃんなんて……もう要らない」

【ババ様】

「…………」

【汐】

「…………」

【鞠】

「要らない――」

 ……妹を撫でるのを、やめた。

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