7.24「正義が無い」

あらすじ

「あの人は……既にそれを選んでしまったんだと、思うのです」砂川さん、冴華ちゃんから事情聴取。その中で1つ、彼女の中で脅威的な疑問が生まれます7話24節。

砂川を読む

 いい加減、本題に入りたい。

 妹をメイドに任せ廊下で待機させたところで、話を切り替える。

【鞠】

「……何があったか、覚えていますか」

【冴華】

「……いえ。何も。気付いたら……」

 襲われる瞬間すら分からず、気付けば此処。

 果たしてはそれはどれほどの恐怖なんだろう。或いは全然怖くないのだろうか。どっちにしても経験したくはないものだ。

【冴華】

「私の身に……何が起きたんですか」

【鞠】

「……これ、貴方の写真ですけど」

冴華串

 アルスでアレを見せる。

【冴華】

「――――」

【鞠】

「勿論妹には見せてないですよ。ただ、貴方がこうなった原因が、貴方の母親にあるというのは伝えました。元々両親には何の期待もしてなかったようですから、ある種予想通りではあったでしょう」

【冴華】

「……アイツが……」

【鞠】

「貴方は、母親に道具として見捨てられたんです」

 紫上会連中に話したことを全て、彼女にも話していく。

 ……………………。

【冴華】

「……貴方には、今回、助けられてばかりですね」

【鞠】

「こちらもやる必要があった、というだけです。それで――」

【冴華】

「玖珂先輩ね」

 流石、起きたばっかなのに把握が早い。

【鞠】

「前年度の紫上会面子の六角元会長と菅原元会計には彼について知ってることやら気になることとかを既に聴きました。貴方にも、と今こうして訪問したわけです」

【冴華】

「……あの人たちは、どんなことを話したのかしら」

 今朝聴いたばかりのことを話してみる。

【冴華】

「……確かに、そう云われるとあの人は、自主性の欠けた人間でしたね」

 いきなりディスり入ってきた。本調子か。

【鞠】

「そうなんですね」

【冴華】

「貴方は1人で全て仕事をしてしまって彼の仕事ぶりを見ていないから分からないのかもしれませんが……あの人、人に云われてから初めて行動するタイプです」

【鞠】

「……? それは……正直、異議が出ます」

* * * * * *

【鞠】

「貴方、入部希望者が入部したいと私の前に現れただけで入部完了になると思ってるんですか?」

【赤羽】

「は? じゃねえのかよ?」

【鞠】

「なわけあるかッ! 入部届をッ、紫上会に提出するという決まりがあるでしょう、貴方も野球部入った時提出したでしょう! というかこれも軽く概要で触れてた筈なんですけど!!」

【赤羽】

「ッ!?」

【学生】

「おい赤羽、依然ピンチなんじゃねえのかよ! お前ちゃんと事情把握しとけよ!!」

【学生】

「ほんと頭悪いよなお前はもう!!」

【学生】

「てかどうすんだよ、俺たち登場損!?」

【四粹】

「……因みに丁度偶然、私は十数枚ほど入部届用紙を持っていますが、使われますか?」

【赤羽】

「ッ――! 全部ください!! 皆、急いで書け!!」[/voiceg]

【学生】

「おんまえホント巫山戯んなよ――!!」

【学生】

「そして四粹様、素敵な配慮ー!!」

* * * * * *

 私、あの時の準備の良さは陰で結構ビビってたんだけど。私の一応用意しておいた入部届用紙出番無かったもん。

 当然あれは私が指示したわけじゃない。彼が勝手にやった気遣いだ。

【鞠】

「あの人の気遣い、異次元なんですけど」

【冴華】

「……確かに、云わんとしてることは分かります。ですが、本質的な話です。本質的にあの人は、自主性が無い。あの人には……正義が無い」

【鞠】

「……正義が無い?」

【冴華】

「だって、そうでしょう? あの人には、ずば抜けた才知がある。紫上会にも3年連続で入るような異例を達成している、驚異的な勝者……なのに、彼は何もしようとしない。勝者には、その掲げる正義で以て敗者を屈服させる義務があるのに」

 ほんと調子出てきたねこの患者。何云ってるだろ……とは最近云えなくなってきた気がする勝者な私。

 その表現を使われると、私も何か分かってきた気がする。

【冴華】

「だから、私はあの人のことが、どうしても好きにはなれませんでした。皆の為になりたい、とかテンプレート過ぎて詰まらない夢を云うならまだしも、彼はそれすらない。周りが願望し、初めて彼は行動する」

【鞠】

「……それ、別に悪いことじゃない気もしますが」

【冴華】

「事実周りには愛されてるみたいですけどね。だけど、そんな人生に果たして……意義はありますか? 自分の手で人生を切り拓けない者は……果たして幸せになれるのですか?」

 少し、言葉が沈んだ。

 その言葉に対し、自分自身にも思うところがあるんだろう。

 ……では。

【鞠】

「(私は――?)」

【冴華】

「六角先輩や、松井は……きっと良い人生を送るのでしょうね」

 何で、今そんなことを思ったのだろう。

 頭の中でどうでもいいこと考え出すのは私の癖。珍しいことじゃない。けど……その次元は、初めてなんじゃないのか?

 だってそれは――

【鞠】

「(――そんなわけが、ない)」

 あってはならないことだ。

【冴華】

「人生で一番楽な選択肢は、何だと思いますか? それぞれの進路を行く中で……」

【鞠】

「……え?」

【冴華】

「私は……諦めること、だと思っています。道を掘ることを、道を選ぶことを、道を考えることを、放棄することだと思います」

 なのに……どうしても、貼り付いて、離れない。

【冴華】

「私なりの観察でしかありませんが……あの人は……既にそれを選んでしまったんだと、思うのです」

 ――私の歩みは、適当ではない?

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