7.22「よかった」

あらすじ

「貴方は――私の姉ではない……!」砂川さん、取り乱します。あの人が早々と復活しますが、一層不穏になる7話22節。

砂川を読む

Time

11:00

Stage

霧草総合病院

【汐】

「到着ぅ!!」

 急げとは云ってないんだけど、メイドは随分本気走りを見せてくれた。

 はっきり云って乗客の私は吐く寸前だ。

【ババ様】

「汐の運転は、嫌いじゃ~~~……」

【鞠】

「……正常な感想だと思います……」

 ああ外の空気美味しい……。回転しない景色、グッジョブ。

 と錯乱するのは早めに切り上げて、メイドと共に病院に入る。

【鞠】

「……あの子は」

【汐】

「シェフさんの安全運転で、既に辿り着いてますよ」

 よかったコイツが運んでなくて。

【汐】

「すいませーーん冴華ちゃんのお部屋って何処ですかー?」

【受付】

「え……」

 おっと怪訝な顔されてる。無駄に声大きいしメイド服だし、怪しさ満点だものね。

 ってことで仲介に入る。

【鞠】

「こちらで入院している村田冴華の関係者です。面会許可が降りたと連絡受け取りましたので見舞いに来たのですが、大丈夫でしょうか」

【受付】

「あ、砂川様、ですね。市鴎様より話は伺っていました。少々お待ちください――」

 ……。

 …………。

 ……………………。

Stage

病院廊下

【汐】

「お疲れでーす」

【市鴎】

「鞠様、ご足労ありがとうございます」

【鞠】

「シェフもあの子の送り迎え、引き受けてくれて助かりました。彼女は?」

【市鴎】

「姉妹水入らずが良いかと思いまして」

 ……それを云われると、ちょっとこの扉開けづらいのだけど。

 時間が惜しい……勇気、出してみるか。

 ノックする。

【鞠】

「――入りますよ」

Stage

冴華の病室

【和佳】

「――嘘つきぃ!!

 ……まず聴いたのは、それだった。

【鞠】

「――――」

 そして、視界に入る。

【和佳】

「嘘つき、嘘つき、嘘つきぃ――!」

【冴華】

「…………」

 再会した姉妹の姿。

 私はもっと、お互いに喜んでる姿というのを楽観的ながら想像していた。

 だけど、そこに充満していたのは悲しみだった。

【和佳】

「嘘つき……ずっと一緒に居るって、云ったのにッ!!」

【冴華】

「……ごめんなさい」

【和佳】

「凄く寂しかった……いつまで待っても、帰ってこなくて――ッ!!」

【冴華】

「ごめんなさい……」

【和佳】

「このまま……このまま、もうずっと帰ってこないんじゃないかって……ッ!!」

【冴華】

「…ごめん、なさい……」

 姉は、謝ることしかできなかった。

 彼女とてとんでもない被害者。云い訳を漏らす権利ぐらいはある筈だ。

 だけど、それをしない。それよりも、彼女にとっては妹が大事だから。

 妹の前でその散々な姿を晒していることが彼女には重大だから。

 本当、屑だと思う。

 姉って生き物は――

【鞠】

「――よかった」

【ババ様】

「ん?」

 ……………………。

【鞠】

「――え?」

【ババ様】

「……鞠、混乱しとらんか。疼いとるぞ」

【鞠】

「ッ……」

 確かに、混乱しているようだった。

【汐】

「これは……もうちょっと待った方がいいですね。鞠」

【鞠】

「……そうします」

 一旦病室を出た。

Stage

病院廊下

 ……………………。

【鞠】

「……………………」

【汐】

「……何か、イライラしてますね、鞠」

【鞠】

「…………別に」

【ババ様】

「イライラしとるの」

 あーもう、分かってるって。

 これは仕事疲れとかじゃない……変なストレスだ。

 私がイライラする原因は沢山ある筈だからそこは不思議じゃないんだけど……

【ババ様】

「鞠、あまり取り乱すではない。疼いておる」

【鞠】

「……まだ、疼いてますか」

【ババ様】

「「悪魔」は心の隙を好むもんなんじゃろ? 鞠が動揺すればするほど、コイツも喜ぶんじゃないかの」

【鞠】

「チッ……見るべきものが多過ぎ……」

【汐】

「独り言からの舌打ちなんて、お嬢様らしくないですよ」

 お嬢様だってイライラしたら舌打ちもしたくなるものでしょ。

【汐】

「……彼女、助かってよかったですね」

【鞠】

「私はどっちでもよかったですけど」

【汐】

「へぇ」

 ……これは、偽りない本心の筈だ。

 あの人のせいで、あの人が真理学園に触れてきたせいで、こんな生活が始まったんだから。

 あの人が居なければ、この紫上学園で真理学園というフレーズが囁かれることなく、実力試験をテキトウに済まして、紫上会にも入らなくて、のんびり平穏な毎日を送れたかもしれなかったんだ。

 諸悪の根源、私ならば彼女をそう表現して良い筈だ。だってそうでしょ、彼女のアレは全て悪意に満ちていたんだから。

 おまけに妹まであんなに泣かせて、救うに値しない屑だろう。全部事実だろう。

 なのに――

【汐】

「よかったって……聞こえましたけど」

【鞠】

「…………」

 ――何故、私はそんなことを云ったんだ。

【鞠】

「そんな、わけない……」

【ババ様】

「……間違いなく、云っておったぞ」

 ……まさか、とは思うけど……私は彼女が生還したことに対してよかったとか云ったのか?

 いや――違う。向けた相手は絶対、妹の方だ。

【鞠】

「同じ、だから……」

 そう、考えてみれば同じ。

 だから私は彼女に同情した……それだけの、こと。

 それだけのことだ。

【鞠】

「……まったく、ろくな姉がいない世の中だ」

【汐】

「え? ……私も?」

【鞠】

「貴方は姉ですら……いや、これから頑張れば2人、できるかもしれませんね」

【汐】

「それは……どういうことですか?」

【鞠】

「2人お嬢様が増えたわけですから。貴方の努力次第では妹にできるんじゃないですか。私よりはきっと、攻略しやすいと思いますし」

【汐】

「……鞠」

【鞠】

「これで貴方からも、少し解放されればいいのですが」

【汐】

「――――――――」

 まあ、昨夜の様子を見る限りじゃ、厳しそうだけど。姉の方もプライド高いし、こんな姉を喜んで受け入れるとは想像しがたい――

【ババ様】

「鞠。鞠っ」

【鞠】

「? 何ですかババ様」

【ババ様】

「今のは……多分、失言じゃぞ」

【鞠】

「え――」

 何が――と思考する暇も無く、

【汐】

「てやっ」

 私は攻撃された。

【鞠】

「は?」

 具体的には、いきなり真横から頭を拘束されて、側頭部から拳骨でグリグリされる。

【鞠】

ッッッ!?!? いたたたた――!? な、何を――!?

【汐】

貴方はッ、何もーッ、分かってッ、なーーーい……!!!

【鞠】

だから何が!?

 病院で何乱心してるのこのメイド!!

 ……っと、割とすぐ解放された。数十秒の地獄を味わった。頭割れてないだろうか。

【鞠】

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ……――???」

【汐】

「……止むわけが、ないじゃないですか」

【鞠】

「何が、ですか……」

【汐】

「私が一番なりたいのは――鞠のお姉ちゃんなんですから、止めるわけがないじゃないですか」

 ……………………。

【鞠】

「……ワケが、分からない」

【汐】

「はい、分かりません。鞠、貴方にはきっと分からない……下手すればこの先生涯、分からないままかもしれません。それは……鞠の所為ではないと思います」

 何を云ってるんだ。

【汐】

「その上で申し上げます――最低です、鞠」

 メイドが、私の何を理解しているというんだ。

【鞠】

「……………………」

 何だ――その顔は。その表情は。

【汐】

「……そんな鞠も、可愛くて仕方ないんだから、私も相当救いのないお姉ちゃん、ですね」

【鞠】

「貴方は……私の姉ではない」

【汐】

「……………………」

 私は正しいことを云っている。このメイドは私の姉じゃない。断言できる真実。

 私の記憶が、私の耳が眼が、私の肌が、私の全てが疑いなしに主張する。

【鞠】

「貴方は、私の姉ではない」

【汐】

「……………………」

【ババ様】

「――鞠?」

 真実。

 譲ってはならない真実。

【鞠】

「貴方は――私の姉ではない……!」

 だって――

     

【???】

「――お姉ちゃんは私だから」

     

【鞠】

ッ――!!?

 ドクンッ――。

 その刹那。考えていたことが、全部吹き飛び身体が何かに打たれた。

 倒れた。

【汐】

「鞠……? 鞠っ!?」

【鞠】

「はぁ……はぁ……はぁ――」

【ババ様】

ッ――!!!

 ……メイドが、近付いてくる。

 突然倒れた私を起こそうと。

 一方私は、たった一つの思考だけを取り戻し……それを口にする。

【鞠】

「お姉、ちゃん、は――」

 絶対の真実を。

【汐】

「え――」

 嘘を口にするテキに向けて。

【鞠】

お姉ちゃんは――ッ!!

 ゼッタイの、シンジツを――

     

【鞠】

「……………………」

【汐】

鞠……鞠っ! しっかり!!

【鞠】

「…………」

 立ち上がった。

 そして再度ベンチに座った。

【鞠】

「大丈夫、です。眩んだだけです」

【汐】

「……だけ、って感じじゃなかったんですが。それに、凄い汗――」

【鞠】

「大丈夫と云っています」

 ……手を、わきわきと動かす。

 足首も軽く回してみたりして……それから、左眼に話し掛ける。

【鞠】

「……今のって?」

【ババ様】

「ああ……一気に来おったぞ、ものっそいビックリした。姿形はよう分からんかったが……ワシで抑えられる程度でよかった」

【鞠】

「……助かりました」

【汐】

「え、私何もしてないんですけど」

【鞠】

「……はぁ……分かんない」

 もう、何もかも。

 分かんない――

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