7.21「2学期の始まり」

あらすじ

「多分、俺はアイツの全部を救えてないんだろーなって」砂川さん、怖い人に絡まれます。合宿を挟んで久し振りな方々が四粹くんを語ります7話21節。

砂川を読む

Day

9/2

Time

9:45

Stage

紫上学園コンサートホール

【宮坂】

「――結果発表おぉおおおおおおおおおおおおお!!!!

 2学期が始まった。

 まあ、9月入る前に始業式は済ませたんだけど。

 で、9月に突入してまずやったのが、私にとって2度目の「実力試験」。これは4月とは違って紫上会要素は含まれないのでそんなに熱は無い――

【学生】

「「「おぉおおおおおおおおおおお……!!!!/」」」

 ――と思いきや、勝負事にいちいち熱い紫上学園生、体育祭並みに鬼気充満の1日だった。1年とかは次の実力試験で誰がライバルかを測る、という意義もあるからやりがいもあるだろうけど、2,3年は何であんなに張り切ってたんだろ。

 私が思いつくメリットは、恩恵ぐらいだけど。

【鞠】

「(……結局、受けられなかったか)」

 折角特殊な処理をしたというのに。まあ責めはしないけど。

【宮坂】

「1年の部、3位――阿部陸人!! 2位――阿部亘!! 1位――邊見聡!!!」

【邊見】

「えっちゃんは何位になれたかなぁ」

【宮坂】

「2年の部、3位――茅園深幸!! 2位――松井信長!! 1位――覇者・砂川鞠ぃ!!!」

砂川勝利3 (2)

【深幸】

「しれっと覇者とか付け足されてるけど、またお前オール満点やったのか……」

【鞠】

「何故付け足す必要があった」

【信長】

「お見逸れいたします……!」

【鞠】

「……はぁ……」

【宮坂】

「3年の部、3位――児玉願斗!! 2位――菅原二葉!! 1位――六角碧叉!!」

【児玉】

「初めて入った……」

【菅原】

「おめでと、児玉。だけど……」

【六角】

「……………………」

 ……そんなこんなで、いつもの無駄な発表式が終わった。

 表彰を受けた私達はいち早くホールを抜けていく。

 これで解散、仕事を消耗するチャンス……なんだけど――

Stage

紫上学園 外

【六角】

「……説明してもらおうか、会長殿」

 ――帰してくれない。

 3年の頂点に立つ人が私の行く手を阻む。笑ってないこの人を見たのは初めてかもしれない。

【信長】

「六角先輩……」

【深幸】

「まあ……こうなるかなってのは、分かってたが……」

【阿部】

「「???」」

【邊見】

「先輩たちの話だね~。僕たちは教室、戻ってよ~」

 ……多分、彼は雑務から事情を聴いているんだろう。何勝手に話してるんだ、と思わないわけでもないけど、雑務がミスらない為の監視要員としてあの親友は丁度良い。

【六角】

「……村田のことも、学生には隠してるみたいだな」

【鞠】

「何でその学生の1人が知ってるんですか」

【信長】

「矢張り……野球部や職員が知ってしまっている以上、人の口に戸は立てられないかと」

【児玉】

「話さないよう注意はしたが……六角だからな。戸があっても勝手にこじ開ける奴だ」

 超タチ悪い。

【六角】

「で、四粹の親友の俺たちにすら、教えてくれないの会長さんよ」

【鞠】

「私達もほぼ何も知らないですし」

【六角】

「……嘘だな」

 うわー怖い。上級生の鬼気怖い。

【菅原】

「六角ー、無茶無茶。紫上会が何らかの意図で情報を秘匿にしてるなら、それを私情を出ないことで一般学生に漏らすわけがない。それに砂川さんだし」

【児玉】

「お前の後先の考え無さは基本的に状況を改善しないからな」

 他の上級生が後先考えない元会長を宥めている。周りの人は大変だ。

【信長】

「……会長、どうでしょうか。先輩がたには……協力してもらう、というのは」

【鞠】

「……その提案の魅力は」

【信長】

「六角先輩は、気になったことを放置する人ではありません。それが親友の玖珂先輩のことなら尚更に……敵にすると非常に厄介かと」

【深幸】

「だが味方にすれば、一転して強力な駒だぜ。玖珂先輩同様に学園屈指のカリスマだからな、この人の云う事を皆疑いはしない」

 ……私はこの人をあまり知らないけど、会計、更には去年活動を共にしている書記がそう判断するか。

 まあ……放置して泳がせるにはあまりにやんちゃが過ぎるのは目に見えている。こうして不機嫌を散らされる時点で学生たちの不安を煽る害的存在。コレを書記たちに任せるというのも、可成り不安だ。

 仕方無いか。

【鞠】

「…………」

【六角】

「ん?」

 1年が完全に退散したのを見て、指差して場所の移動を促す。

Stage

7号館 応接室

【六角】

「…………なるほど、な」

【菅原】

「夏休み明けて、いきなりそんな危機的状況に見舞われてるなんてね」

【児玉】

「正直、実感湧かないな……」

 事情を話した。

【信長】

「玖珂先輩については、本当に我々も分かっていません。……六角先輩たちにも、連絡は無いんですね」

【菅原】

「そうなのよ。こんなこと今まで一度も無かったのに……」

【信長】

「そう、ですか……」

【深幸】

「仮に……この先数日ずっと消息不明だった場合、確実に騒ぎになります。そっから、先輩たちみたいに村田の怪奇事件を知ってしまい、繋げて不安を覚えて、その辺を全く言及してない紫上会に不信感を抱く流れは避けられない。そうなったら紫上学園が完全に混乱します。文化祭どころじゃなくなる」

【児玉】

「遅かれ早かれ、そうなるだろうな。玖珂の事情を把握しない限りは」

【信長】

「はい。今は少しでも先輩に関する情報を集めるのが重要です。何かあったらすぐ伝えていただきたい。それと……もう一つ、此方の方が重要なんですが」

【菅原】

「玖珂の親友で紫上会仲間だった私達、それから大勢力である野球部には情報を共有しながら紫上会に協力する立場になって、一般学生の不安を抑えてほしい、ということね」

【深幸】

「そういうことっす。どうでしょう」

【菅原】

「どうする? 六角、これは頷く他ない持ち掛けだと思うけど」

【六角】

「……………………」

 一番騒がしい人が一番黙りこくっていた。

【信長】

「六角、先輩……?」

【六角】

「四粹が、そんなヤベえ連中と何か関わりを持つ」

 喋り出した。

 文脈結構壊してるけど、ちゃんと話聴いてくれてたのかな。

【児玉】

「まあ、あの玖珂に限って……そんなことはないと思いたいが」

【六角】

「四粹さ、B等部で紫上学園に来たんよ。菅原はその頃のアイツ、知ってる?」

【菅原】

「まあ、そこそこ有名だったしね。今とは全然違う」

【深幸】

「……え? そうだったんすか?」

【菅原】

「凄い暗い人だったわ。髪の乱れから雰囲気まで、全てが暗くて……周りは到底、近付こうとは思えなかった」

【鞠】

「…………」

 確かに、モテモテな今とは対照的……。

 ――本当に?

【菅原】

「そんな中、玖珂に一番最初に関わりにいったのが六角だった、って噂だけど」

【六角】

「多分な。正直アイツ、何考えてんのか分かんないし怖そうだし」

【児玉】

「お前に怖いなんて感情が存在したのか……」

【六角】

「うっせ。取りあえず会話しなきゃ始まんないよなって思ったからいったんよ。そしたら、開口一番何云ってきたと思う?」

【菅原】

「分かるわけないでしょ」

【六角】

「「僕なんかと関わらない方がいい」ってよ」

【深幸&信長】

「「――――」」

【六角】

「正直カチンと来たからよー、それから毎日無理矢理手ぇ引っ張って一緒に遊んだなぁ」

【菅原】

「アンタ本当あの頃からキチガイね」

【六角】

「でも俺らしくね」

【菅原】

「まあね……アンタの得意分野というか専売特許というか。相手を疲れさせて諦めさせて仲良くなるって交渉スタイルは初っ端から確立されてたわけか。余計なこと知っちゃった」

 この人はパパと3秒で仲良くなる人だなと確信した。

【六角】

「で、暫くして四粹にどうして皆と関わらない方が良いとかほざいたのって訊いてみたんだがよ」

【深幸】

「な、何て返ってきたんすか」

【六角】

「「僕と関わると、皆が不幸になるから」だそうだ」

【信長】

「先輩……暗すぎる……」

【菅原】

「自己卑下をかっ飛ばしてるわね」

【六角】

「連んでるうちに、コイツは心底優しい奴だなって分かったんだけどよ、更に底に相当な自己卑下抱えてるみたいだった」

【菅原】

「くだらない予想でしかないけど……紫上学園に転校してきたのは、何かショックなことがあったから、かもしれないわね」

【六角】

「俺もそう思ったけど、ならその解決方法は簡単だろ」

【信長】

「え?」

【六角】

「じゃあその分皆を幸せにしちゃえばいい。皆のこと助けちゃえばいいじゃん。取りあえず、俺を助けろ! 俺もこんな性格だから、トラブルに色々見舞われるんよ。だから、一緒に居て、俺を助けてくれ!!」

【みんな】

「「「…………」」」

【六角】

「って云って四粹を紫上会に入れた」

 「ほんとバカだこの人」。

 と皆で心で唱和した気がした。

【児玉】

「……しかし、結果玖珂は紫上会に到達し、六角との黄金コンビとまで云われるようになったな。学園中の人たちから信頼され、学園に無くてはならない存在とされ」

【深幸】

「この会長を倒せるのは先輩しかいない、ってことで3年目の紫上会メンバーに抜擢されたわけだしな……」

【六角】

「転入したてのアイツを考えたら随分明るくなったとは思う。それなりに笑うようにもなった。四粹も、この学園に入って幸せになれてきたかなって思ったんだけど……多分、俺はアイツの全部を救えてないんだろーなって」

【菅原】

「……………………」

【六角】

「それが、俺の紫上会生活唯一といっていい、心残り。いつも俺の隣にいてくれた親友ダチを、一番心の底から笑わせたかった奴を笑わせられなかった」

【児玉】

「六角……」

【菅原】

「……あくまで第三者な視点での印象だとね」

 今度は、元会計が話し出した。

【菅原】

「欲の無い人。本当に」

【深幸】

「欲……ですか」

【菅原】

「楽しんでないとかそういうんじゃなくて……周りの人を、助けることしかしないのよ。それは……果たして彼個人の動機あってそうしてるのかが、六角の話を聴いてて気になった」

【児玉】

「どういうことだ?」

【菅原】

「六角が玖珂に居場所を与えた。玖珂は自分の努力で居場所を作った。どちらも事実だけど……玖珂が本当にそうしたくてしたのかが、ね。極端な云い方をするなら、機械のように物事を処理するかのような。それで、学園生活全てを処理しているかのような」

【六角】

「菅原、お前……」

【菅原】

「……本人も居ないことだし紫上会も引退したからぶっちゃけるけれど、私はアイツのこと、あんまり好きではなかったのよ。良い人って分かってるけど、ちょっと怖かった。この人はこの先、どうするんだろうって――」

【鞠】

「…………」

【菅原】

「六角と離れて、学園を卒業して、彼はその先をどうやって生きてくんだろう、彼はどうなっていくんだろう、なんて勝手な想像をすると……ね」

 ……アルスが振動し音を鳴らした。

【深幸】

「うお!?」

【鞠】

「失礼、着信です」

【児玉】

「相変わらずこっちもフリーダムだな……」

 この時間に掛けてくるのは……どっちだ。

【鞠】

「……こっちか」

 受話を取る。

【鞠】

「何ですか」

【汐】

「― 鞠、朗報ですよ。冴華ちゃんの面会許可が降りました ―」

【鞠】

「……は? 意識、戻ったんですか?」

【汐】

「― 詳しくは聴いてないですが、発見が極めて早くて早期に医療に着手できたのが大きかったみたいですね。いやー安心安心 ―」

 まだ全然安心できる状況じゃないけど、それにしても急展開だ。

【鞠】

「何かを知ってるとは、思えないけど」

【汐】

「― もう和佳ちゃんは送りましたが、鞠の迎えの車、出しましょうか ―」

【鞠】

「お願いします」

 電話を切る。

【鞠】

「村田冴華の意識戻ったそうですよ」

【深幸】

「え……――はあ!? いきなり過ぎね!?

【信長】

「一命を取り留めたんですか……!? アレを実際に見てる自分としては、信じられないな……」

【六角】

「まぁ、あの村田がそう簡単にくたばるとは思ってなかったけどな。俺が鍛え上げた元紫上会雑務を舐めてもらっちゃ困る」

【菅原】

「自分の仕事が杜撰だから全部あの子に修正お願いしてただけでしょーが」

 朗報に、場の雰囲気が少しだけ和らぐ。

 何だかんだで、彼女にはこの学園にも居場所が出来ていた、ということなのかもしれない。あんだけ勝手にやってて不思議なことだ。

【鞠】

「私は彼女の聴取に伺います。……改めて指示しますが、絶対変な気を起こさず、また他の連中にも起こさせないよう学園の空気の管理を徹底してください」

【深幸】

「ああ……!」

【信長】

「笑星や邊見にも伝えておきます」

【六角】

「会長」

 元会長に、呼び止められる。

【六角】

「……四粹のこと、頼むわ」

【鞠】

「…………」

 私が態々振り返るに値しないお願い事だった。

 そんなもの、託されてもって気持ち。

【鞠】

「……だから、云ったのに」

* * * * * *

【鞠】

「貴方は、数多の人々に絶大に信頼されてしまっているということの、責任を取らなければいけません。ちょっとは幸せそうな顔でも周りに見せたらどうなんですか、ハーレム男子」

【四粹】

「…………」

【鞠】

「私を、巻き込まないでくださいよ、本当に」

【四粹】

「――会長」

【鞠】

「何ですか」

【四粹】

「僕には――幸せになる価値はありません」

* * * * * *

 巻き込むなって云ったのに。

【鞠】

「彼も私のこと、嫌いだな」

 ……いや。

 それ以前に、彼は――

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