7.19「残党」

あらすじ

「実行犯がギャングスタでないなら、その「オメルタ」は無い筈じゃないか?」紫上会、秘密裏のミーティング。前回頑張って読んでくれた方を裏切る内容となっておりますことご容赦くださいな7話19節。

砂川を読む

Time

9:45

Stage

7号館 エレベーター

 職員室での緊急会議を切り上げて、紫上会はエレベーターに乗りいつもの場所へ向かう。

 その中で……

【深幸】

「なあ、会長よ」

【鞠】

「何ですか」

【深幸】

「何で全部を話さなかった?」

 会計が指摘してきた。

【鞠】

「…………」

 まあ、それは当然の質問ではあるけど、せめて紫上会室に入ってから投げかけてほしいものだ。

 此処も密室だから問題無いとは思うけど。

【笑星】

「え……どういうこと?」

【信長】

「言葉の通りだよ。会長は、先生方に全部を話しておられない」

【深幸】

「まず、玖珂先輩のことを云ってない。母親によって村田が玖珂先輩への脅迫文を命じられたこと」

【信長】

「それに……これも玖珂先輩だが、あの人が今日姿を見せていないのも気になります」

【深幸】

「話せや、俺たちには」

【鞠】

「……貴方たちに話して、何になるんですか」

 これは砂川の力で漸く対処に踏み込める領域。

 紫上会なんて1つの山のてっぺんに立つだけの者どもが、一体何をできる。

【深幸】

「確かにな。こんなの学生が手に負えるレベルじゃない。何故かお前は手を打てたみたいだが、俺たちがどうこうできるもんじゃない」

【鞠】

「なら」

【深幸】

「だけどな、先輩が、仲間が危険に晒されてるのに何もしないわけにいくか」

【笑星】

「……うん。そうだね、黙ってなんかいられない。きっと、身体が勝手に動いちゃうよ。いつもみたいに!」

【鞠】

「えー……」

【深幸】

「何も情報をくれないとしても……俺たちは俺たちで、勝手にやるぞ。たとえ……お前にとって面倒になっても。玖珂先輩の為に」

 それが彼の助けにならなければただの自爆。貴方たちを好く人たちを悲しませる無価値な行為。そして私への甚大な迷惑。

 それを冒されるぐらいなら……私の手で、彼らの手綱を管理していた方がまだマシ、か。

【鞠】

「あーもう……」

【信長】

「も、申し訳ありません会長……しかしどうか、話していだたけないでしょうか。会長が……本当は今回の事件を、どう結論付けているのかを」

【深幸】

「抑もまだ……終わってねえんじゃねえか?」

 エレベーターを降りて、認証し紫上会室へ入る。

 そしていつも通りリビングを通り過ぎ……ずに、今回はリビングの個人ソファに座る。

【鞠】

「…………」

【笑星】

「あ……話してくれるんだね、会長」

【鞠】

「お願いだから勝手なことしないでください」

【深幸】

「そういう状況、なんだな」

 腐っても紫上会。総合的に見て賢いし、気付きも優秀。そこらの教員よりもずっと。

 そんな彼らは敵、であるのだけど……流石にこの状況でそんなの気にしていられないか。

 私が砂川の人間として敵と戦うことならば、彼らは学園のトップ層として学園を護る。

 その構造が保たれれば、実に効率的だ。

【鞠】

「……貴方の云った通り、下では副会長の要素を省きました」

【笑星】

「会長はやっぱり、玖珂先輩が絡んでるって思ってるんだね……?」

【鞠】

「どう関わってるのかは不明ですが、本人のリアクションがおかしかったですから。確実に何かあります。それに」

【信長】

「それに?」

【鞠】

「無断欠席しなさそうな人がこのタイミングで欠席するのは……」

【深幸】

「……嫌な想像、しちまうよな」

 そう、恐ろしい可能性がある。

【鞠】

「一応先に紹介した護衛に、彼の捜索も投げています」

【笑星】

「捜索って……」

【信長】

「この時点で、一層重いな……」

【鞠】

「それと、シナについてですが、先ほど先生がたに説明したことを一気に覆してしまう事実があります」

【深幸】

「覆す?」

【鞠】

「……既に、数年前にシナは大輪の地下企業によって壊滅させられてるんです」

【笑星&深幸&信長】

「「「は――?」」」

 この事実を隠したことは極めて大きい罪。

 真理学園とか関係無しに誰でも辞職に追い込まれるに値する虚偽だ。

【笑星】

「えっちょっちょっと待って!? じゃあもう、シナなんて居ないってこと!? さっきの説明、何だったの!?」

【鞠】

「真っ赤な嘘というわけではありません。単に組織としてシナは壊滅しているというだけ。組織員全員の検挙が完了しているわけではないんです」

【深幸】

「……えっと、つまり?」

【鞠】

「特にシナの二次組織にして技術部隊だった「スーキュア」の組織員と思われる12名が、ここ1週間の間に毘華経由で渡航したことが同企業の監査で分かっています」

【信長】

「残党、というわけですか」

【鞠】

「ただ、問題なのは……彼らは残骸でしかなく、現在別の何かを組織して活動しているという調査結果は報告されていないことです」

【笑星】

「ごめん会長、もっと優しい文章をください……」

【鞠】

「つまり、彼らは既にギャングスタではなくなっているんです。これが一番現状を複雑化させている要素です」

【深幸】

「……ギャングスタじゃねえってことは……ッ――「オメルタ」が無い!!」

【信長】

「え……? そ、それじゃあ……村田は一体どうして――」

【笑星】

「置いてかないで! 先輩たち分かったなら俺を引っ張って!!」

【信長】

「えっとな……会長はさっき、ギャングスタの特性で「オメルタ」という絶対遵守の掟を説明されていただろう?」

【笑星】

「うん。破ったら、見せしめにされるんだよね。それで、裏切り判定された村田先輩のお母さんが狙われて、でも結果その事前対策で利用された村田先輩が代わりに見せしめされた……」

【深幸】

「だけど、実行犯がギャングスタでないなら、その「オメルタ」は無い筈じゃないか? つまり……見せしめなんてことも、しない。何故なら、見せしめの目的である組織の結束補修とか以前に、その組織が無いんだから」

【笑星】

「……――え!? じゃあ何で村田先輩、あんな事になったの!?

 そう、そこなのだ。私やメイドが頭を悩ませているのはそのスッキリ明解にできない構造。

【鞠】

「あれはシナの芸当。故に「スーキュア」の元構成員が犯したことはほぼ間違いありません。しかし、アレが嘗てシナの伝統であった「オメルタ」と同等であるという根拠は無いんです」

【信長】

「仮に見せしめだったとしても、じゃあ一体誰に見せしめているんだ、という話にもなる……」

【鞠】

「実行犯の意図がどうしても掴めない。報告を鵜呑みにした場合、ギャングスタでなくなっている以上彼らの行動推測はギャングスタの物差しでやれば大失敗になる。一体何に価値を置いているのかが全く不明瞭である以上、あの形で学園に関わってきたことの価値をこちらから推測するのも不可能」

【深幸】

「つまり……危機は全く、去ってないってことか」

【鞠】

「村田優可がコンタクト取っていたのは恐らく、この「スーキュア」の残骸。私の持つ情報によれば、彼らは暗殺稼業のシナでも最上位の暗殺部隊でしかなく、シナであれば別の二次組織がやっていたであろう依頼主とのコンタクトを今回彼らがやっていたとしたら……何らかの約束違反を起こした村田優可の嘘が見抜けなかった、という間抜けな結果が一番楽観的な推測になります」

【笑星】

「それでも、村田先輩大重傷だよ……えっと、じゃあ一番ヤバいのは――?」

【鞠】

「最初から依頼主の正体には気付いていた、しかし興味は無くただ単に何らかの彼らの都合が良かったからそのまま娘を標的にし、何らかの都合が良かったから学園に展示した、というのがヤバい上に現実として充分あり得るケースです。これは最早「オメルタ」が生きてません、完全に異なる性質の集団と化しています」

 勿論どれも推測の域を出ない。

 先輩の情報を以てしても、まだ何かが足りていない状態なのである。

【深幸】

「……じゃあ、何で先生たちにはその辺全然伝えなかったんだよ」

【鞠】

「こんな不安を煽るだけの報告したって良いことないですし、実力試験や文化祭に影響を来すような事態になれば疫病神云々で私に非難がいくでしょう」

【深幸】

「結局はソコに辿り着くんだな……」

 当然。私は私のために毎日頑張ってるんだから。

【信長】

「しかし、会長の判断は決して会長1人のみに好都合なわけじゃない。会長以外にこの学園で対策に参加できる力を持つ者はいない以上、いっそ何も知らない方がストレスは掛からない」

【笑星】

「俺たち、しっかり黙っておかないとね。……鞠会長、これから、どうするの?」

【鞠】

「無論、実行犯を全員捕まえます。そしてその為にはまず情報を集めなければいけない」

 その方法は、情報源の成果を待つこと。そして――

【深幸】

「玖珂先輩……」

【笑星&信長】

「「…………」」

 ――玖珂四粹を、見つけ出すこと。

【深幸】

「じゃあ、俺たちは玖珂先輩を――」

【鞠】

「却下」

【深幸】

「マジか」

【笑星】

「どうしてさ、会長! 人捜しだったら俺たちでも参加できると思います!」

【鞠】

「莫迦ですか。何で私が本当の現状を教えたと思ってるんですか」

【笑星】

「え……?」

【鞠】

「無駄なことはしないというギャングスタの基本性質すら最早あるのか疑わしい。今も彼らは学園を注目しているかもしれない。なら……あの事件が起きた直後に何かを調査するような非日常な動きをしている学生は必ず彼らの目に留まる。即刻標的にされかねないんです。……雑務、仕事、あげます」

【笑星】

「――!!」

【鞠】

「これから夏休みが明けます。登校してくれればいいんですが、もしこれからも副会長が姿を見せなかった場合……確実に一般学生は違和感を覚える筈です。そして、今の貴方のように何かをやろうとするかもしれない。それを絶対に、抑えなさい」

【深幸】

「……それが、戦力外な俺らのやれること、か」

【信長】

「確かに……村田の事件は隠しきれないだろうし、玖珂先輩の失踪が続けば、一気に学生の不安は膨れ上がる。会長への非難はおろか、シナやスーキュアのことまで知れ渡ることに繋がりかねない。絶対阻止しなければな」

【笑星】

「……うん。分かった。折角会長から貰った仕事だ、絶対皆を護ってみせる!!」

 信用は当然しきれないが、彼らとてこの事件は極めて不都合。全力でやってくれるだろう。一時休戦的な構造。

 ……どんな目的で、私の視界に入ってきたのかは知らないけど。

 邪魔になるなら、関係ない。たとえ元暗殺家なんていう突然の未知な敵だって――

【鞠】

「――必ず潰す」

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