7.18「ギャングスタ」

あらすじ

「それは依頼による作業とは別のパタンだと考えられます」紫上学園職員室、緊急ミーティング。砂川さんの講義回となります。結構難解かもしれませんが、取りあえずオメルタのところだけ理解してくださいな7話18節。

砂川を読む

Day

8/29

Time

9:00

Stage

紫上学園 職員室

【秭按】

「――では、予定の時刻になりましたので、緊急会議を始めます」

 職員室に職員全員が集結した。

 もう夏休みも終わるんだから先生たちが此処に戻ってくるのは当然な気もするが、職員全員というのは学期が始まっても滅多に無いという。

 パイプ椅子の方々は座る場所も無いみたいで何か見てて気まずい。

 それはいいとして、緊急会議が開かれることとなった。お題は勿論昨日のアレ。昨日開かれてもよかったんだけど、上層が揃って別の場所行って忙しくしてたのもあってスケジュール合わせられなかった模様。私もいっぱい動いてたので丁度良い。

 司会は雑務の姉が務める。若年教師は大変である。

【秭按】

「早速ではありますが、現状の解説をお願いします。……会長」

 そして何故か私はもっと大変である。

【笑星】

「鞠会長、頑張って!」

【信長】

「俺あたりに来ると思ってたんだが……」

【深幸】

「あの先生、会長のこと気に入ってるっぽいしなぁ」

 本来ならいきなり会長を立たせることはせず、副会長あたりが出陣するんだと思うけど……抑もその副会長が出席していない。

【鞠】

「…………」

 こんなタイミングで無断欠席とか、やってくれる。

【鞠】

「敵は「シナ・ファミリア」です」

 時間が勿体ないから、何とか巻いてこの会議を早く終わらせたいんだけど……上手く喋れるだろうか。自信は無い。

 取りあえず、話すべきところを話し、話さないところを出さない。それを徹底したい。

【秭按】

「シナ・ファミリア……」

【宮坂】

「……ほう」

【笑星】

「え……えぇええっ!? 会長、もう何か特定しちゃってるの!? まだ一日だよ!?」

 あんまり近くで驚かないでほしい。昨日の疲れがまだ残っているようで、大きな音を耳に入れたくない。クラクラしたくなる。

【鞠】

「これは、地下社会で一時非常に強力な存在だった、ギャングスタです」

【深幸】

「ギャングスタ――?」

【鞠】

「これが抑も何なのかというと、非合法な商売でもって莫大なお金を稼ぐ連中です」

 昨日の出来事の振り返りとか省いて話してるから話題の唐突性に困惑してる人が多く見られる。でも振り返りとか無駄でしょ。ここの教師なんだからどうせしっかり把握して来てるだろうし。

 ただ、ギャングスタなんてあまり日常で接する話題ではないから、多少詳しく説明しておいた方がいい気はする。

【鞠】

「この地上社会は人類共生を取りあえず基本として、その妨げになるような露骨な行為は集団ルールで以て禁止するようにしてます。例えば……殺人だったり、麻薬商売だったり」

【信長】

「それは……当然といえるな」

【鞠】

「しかし、統計による需要供給の法則において、禁止されたものというのはたいてい一定の、そして強烈な需要を持ちます。当然供給者が稀有であるから、供給者が現れた時、彼らは非常に有難く思うわけです」

【深幸】

「え、お、おう」

【鞠】

「だから多少高値で供給したって、それに文句は云われない。地上社会のあらゆる産業よりも独占率が圧倒的に高いから、とんでもない儲けになる。この黒塗りな裏技をギャングスタは好みます」

【笑星】

「先輩、俺、分からない」

【深幸】

「安心しろ、ひとりじゃない」

【鞠】

「多大な金を持つ者は地下社会の偉人となり、恐ろしい敵あるいは鬼札として地上社会でも強い地位に君臨したりします。大企業の社長ほど、そういう疑いの目は向けられやすくなりますし、案外その通りだったりする」

【宮坂】

「裏技といっても、既に世間に公開されているプロセス。だというのになかなか捕まらないのだなぁ、そんな目立ったことをしている筈なのに」

【鞠】

「彼らもそのリスクを当然理解しています。ゆえに証拠を検挙され逮捕されないよう徹底した工夫をしている。アジトも作らないし、普段は各々地上社会でばらけて地上社会の仕事をしているんです。彼らを、地上社会のルールで捕らえ裁くのは事実として困難。これが現実」

 ……皆さんどこまで分かってるかは分からないけど、ギャングスタの説明とかいうどうでもいい初期段階はさっさと切り上げていいよね。大事なのはシナなのだから。

SINA

【鞠】

「シナはそんなギャングスタの1つで、殺人を専売特許にしてきた、大輪大陸の組織です」

【先生】

「さ、殺人――」

【鞠】

「証拠を残さず対象を攫い、何処かで殺害する。これについてはギャングスタでは珍しくないことです。その場合基本的に世間では行方不明と報じられますが、稀に惨殺死体が発見されることもあります。これが、シナによる犯行の場合は――」

 後ろに用意しておいたビジュアルボードに例の写真を表示する。

【笑星】

「ちょ――!?」

【鞠】

「――非常に分かり易い特長が見られます。それが、コレです」

冴華串

【先生】

「こ……コレが――」

【先生】

「村田、何でこんな」

【秭按】

「…………」

 あの現場に立ち会えた人は逆に少ないから、初見の動揺は小さくなかろう。

 が、そのリアクションに附き合う為の時間じゃないので、続ける。

【鞠】

「両手首両足首、そして左胸を一本の「串」で貫き置く。貫通を除いて、手足の骨折はあれども、それ以外の外傷は見られない……綺麗な惨殺体です。彼女はまだ生きてますが」

【深幸】

「不謹慎な表現だけど……確かにそんな感じだったな」

【信長】

「しかし惨いことに変わりはない。こんな、非人道的な殺人に着手するのが、シナという組織なんですね」

【鞠】

「そういうことです。シナの存在が確信できるというだけで実際誰が構成員なのかも地上では明らかになっておらず、よってソレがシナによる犯行だと完全証明することはできないみたいです。が、まあシナだろうなという心的結論はつく。実際シナにお世話になったお金持ちの方々も、それを公にしたら自分が串打ちに遭いますゆえ明示はしませんが……」

【宮坂】

「ソレを隠してる時点で、シナは存在するというわけだ」

【鞠】

「シナなる組織について命懸けで調査し言及した勇敢な人達曰く……彼らは暗殺という仕事に誇りを持っていて、その仕事捌きにはもはや芸術性を感じるとか」

 仕事と芸術は水と油だと私は思ってるんだけどな。どうもそうじゃないらしい。

 この映し出された写真から見る彼女への攻撃には、暗殺という言葉から想像される静けさが伝わってくる。

 命の危険に抗う筈の対象に有無を云わせることもなく、抗わせることなく貫き置いた技術。

 確かに、仕事というのは何でも、極めた時にそれは職人技と拍手される。職人技は、人を魅了する。ならば魅了された人の、その手捌き足捌きを見詰める眼はもはや、美術絵の前に足を止めた人の眼と同様なのではないか。

 つまり、そういう流れでシナは評価されているんだ。実際あんなこと、素人ができるわけもない。しかも監視カメラの対策も成功させて、誰にも見つかることなしに彼女をあの場所に連れて行き、串で以て貫き放置するという作業をやってみせた。間違いなくプロの領域。

 私達の敵は、シナ・ファミリア――それほどの存在だと疑うことに、もはや疑問はない。

 まあ幾つかまだ、見過ごせない疑問はあるのだけど。

【先生】

「だけど、どうしてそんなとんでもない組織が、村田さんを狙ったんだ――?」

 では丁度良いし、その方向にシフトしよう。

【鞠】

「ギャングスタのようなリスキーな組織には、「血の掟オメルタ」という戒めが敷かれます」

【笑星】

「オメルタ……」

【鞠】

「抑も暗殺の仕事が実行された時、暗殺されたなんて地上社会で明らかになったら、高い金を払ってでも葬りたいと考えていた地上社会のお偉いさんは特定されかねない。だから殆どの場合「行方不明」とするんです」

【秭按】

「……まあ、あんな分かり易い放置を捜索が徹底される現代社会でするなんて、警察を挑発してるのと同じね」

 結局証拠が無いのであれば、疑われようと捕まりはしない。警察が殺人事件と見ようが失踪事件と見ようが大差は無いんじゃないのって私は思うけど。

【鞠】

「つまりシナが寧ろ全國全住民に知らしめんとするあの形式で惨殺を行う場合、それは依頼による作業とは別のパタンだと考えられます」

【深幸】

「何だよ」

【鞠】

「裁きです」

【信長】

「……裁き?」

【鞠】

「ギャングスタは、少しミスれば即刻検挙に落ちるリスキーな立場ゆえに、組織員の強力な信頼関係を絶対必要とします。そこで、組織の維持方法違反するような莫迦をさせない為に掟を設定するんです。それが「オメルタ」」

【深幸】

「ん……?」

【鞠】

「簡単に云えば集団ルールですが、それに違反し組織を裏切った者は、他の組織員への見せしめ兼ねて、必要以上だろってレベルの制裁で以て惨殺される。これはシナに限った伝統ではありませんが、シナの場合は、このように発見されやすい場所で展示するのが伝統のようです」

【深幸】

「ち、ちょっと待て、その流れだと……村田がシナを裏切ったからああなった……ってならねえか? つまり村田はシナの一員ってことになるじゃねえか!」

 余計な動揺を拡げないでほしい。その辺も今からしっかり誤解の無いよう説明するつもりだったのに。

 というか貴方は持つべき情報を持ってる側なのだから、それなりに推理できるでしょうに。

【鞠】

「ここで、村田冴華の母親である村田優可保護者が登場します。まあ、今は容疑者と付けた方が適切ですが」

 色んな意味で。

【秭按】

「……? それは、どういうこと?」

【鞠】

「地上社会では当然知られてないんですが、彼女の母親もまた地下社会では非常に有名です。表向きは弁護士ですが、裏では膨大な金と暴力団を使って蛙盤区を中心にした公職や大企業上層を縛り支配下におくビジネスマンです。昨日身柄を確保されたので、どれだけヤバい人なのかは各々ニュースを見れば分かると思いますので省略しますけど」

【笑星】

「え、逮捕されたの!? 昨日の今日で会長、張り切り過ぎじゃない!?」

 全くだよ。

【鞠】

「村田優可は、そのシナと連絡を取り合っていたんです。即ちシナのお友達で……仲間、といっていいでしょう。どのレベルの組織員だったのかは分かりませんが……シナのお怒りを買ったんでしょう、「制裁」が発動した」

【信長】

「え……し、しかし――」

【鞠】

「そう、串を打たれたのは、その娘である村田冴華。この謎を紐解く核は、村田優可とシナの繋がり方です。メールのやり取りでしか恐らく彼女はシナと接触していない。そしてそのメールで使われる名義が、村田優可ではなく村田冴華だった」

【信長】

「…………どういう、こと、ですか?」

【鞠】

「この辺は説明しだすと非常に長くなりそうなので、結論を云いましょう。村田優可は娘である村田冴華の名義を使うことで、娘の命を盾代わりにしてシナの逆鱗から命からがら免れた、ということです」

【宮坂】

「――何だと!

【秭按】

「……それのどこが、保護者、なのかしら。同じ時代を生きている筈なのに、どうしてこうも非道者が後を絶たないのか」

【鞠】

「(うわ怖っ……)」

 真面目な先生らしい憤怒に思えるし、先生には分からないだろうなとも思った。

 同じ時代を生きようと、教育というものが違うんだから違う人間が出来上がるに決まってる。……村田優可という人間は、一体どんな少女時代を送って、そうなったのだろうか。

 その情報は昼のワイドショーにでもお任せすればいい。今思慮すべきことではない。

【鞠】

「シナはその名義によって整理していた情報をもとに、裏切り者を制裁した。学園という、発見されないわけがない場所に置くことによって、シナの組織員に改めて裏切ること勿れと知らしめたわけです。だから……この学園は、無実です」

【先生】

「「「――!!!」」」

 事件は、終わった。

 紫上会の結論を、全職員に告げた。

【秭按】

「……それは……もうこれ以上、紫上学園であんな事件は起こらない、という見解なのですね?」

【鞠】

「その通りです。紫上学園は「村田冴華」を晒すには映える場所というだけで、シナと紫上学園に関わりはありません。この前提が崩れるなら結論も変わってきますが……大丈夫ですよね?」

 辺りを見渡す。

 この中に、「裏切り者」が居なければ、という仮定。

 コレが学園として今、一番精査しなければいけないこと。

【鞠】

「紫上会とシナの関係性は、紫上会過去の資料を見て考察しても特に浮かび上がりません。学園側とシナの関係性の調査は……そちらに任せて、大丈夫ですね?」

【先生】

「「「…………」」」

【鞠】

「学園生とシナの関係性は、これから紫上会の方で調査をしてきます。が……およそ普通の学生や大人が関わりたくても関われない大輪の組織です、この学園随一の情報収集力を持った村田冴華であっても無理でしょう。だから私はまず関係は無いとみています」

 勿論私も、と一応付け加えておく。

【鞠】

「それに、ギャングスタはやることなすことリスキーですから、無駄なことはしません。無関係の学園生を濫りに攻撃して注目を高めるとは思えない」

【先生】

「だ、だが、可能性が無いわけじゃないのだろう――?」

【鞠】

「はい。勿論、油断の赦されない状況ですから、念は入れさせてもらいます。紫上会ではなく……私の人脈ということになりますが、護衛をスカブリ全体に配置しました」

【笑星】

「え? 護衛?」

【信長】

「スカブリ全体?」

* * * * * *

【鞠】

「……そんなやっばいのと、戦うのは流石に無理が……」

【謙一】

「― ああ。相手は圧倒的な物理行使の能力を持っている。仮に社会のシステムで以て敵を検挙できたとしても、その時砂川や紫上学園関係者が無事でいられてるか分からない、いや……高確率で何人か犠牲を出す ―」

【鞠】

「先輩がそう云うってことは、きっとそうなるんですね……どうしたものか」

【謙一】

「― 簡単な話だ。敵が処理すべき行為のプロだってんなら、こちらもその行為を阻害するプロを用意すればいいだけのことだろ ―」

【鞠】

「……は?」

【謙一】

「― ってことで、プロをそっちに送った。これで完璧な対策ってわけではないが、護身に役立ててくれや ―」

【鞠】

「え、ちょ、簡単に云いますね。ていうか送った? もうこっち来てるんですか!?」

【???】

「もう来てますよ」

【鞠】

「……え?」

【???】

「もう来てますよ、お嬢様?」

【鞠】

「――んんんんんんんんんんんん……!?!?

【謙一】

「― おい、どうした? 頓狂な声が俺の頭に木霊したんだけど。マジビックリ ―」

【鞠】

「先輩ぃ!? 不審者ッ、不審者が突如ベッドの前にッ、たた、た、助けて――」

【???】

「不審者ではなく、因幡いなばあんと申します」

【鞠】

「不審者ではなくて因幡っていうらしいです、助けて!!」

【謙一】

「― ああソイツ、俺の送ったその道のエージェント。今すっごく暇らしいから、一峰の令嬢でも護衛してみないって船チケット渡した。仲良くな ―」

【鞠】

先輩ぃぃぃいいいいいいい……!!!

* * * * * *

【鞠】

「入ってきてください」

【行】

「もう入ってます」

 ……私の後ろの物陰から人が現れる。

【鞠】

「……………………」

 思わず先輩ではなく敵達の前で頓狂な声あげそうになったじゃないか。どうしてくれるんだ。

 そしていきなりの不法侵入者に職員室に動揺が拡がる。

【笑星】

「侵入者!?」

【秭按】

「何者ですか」

【行】

「私が何者か、ご説明いただけますか、会長様?」

【鞠】

「これは不審者ではなくて因幡というプロだそうです」

【行】

「「朧」の因幡と申します。誰も気付けなかったでしょう? 我々は、プロですから」

【宮坂】

「……君が用意した護衛が、彼女か」

【鞠】

「まあ、そうなります。とある会社のとあるチーム、それが「朧」なんだって理解してくれればいいですが、総勢7人らしいです」

【信長】

「7人って、少なすぎでは……?」

【行】

「7人も居るのですから、寧ろ過剰勢力だと私は認識しておりますが」

【先生】

「「「…………」」」

 納得させる気ないよね、このプロ。

【鞠】

「「朧」はその会社が発表しているサービスには含まれない、云うならばVIP専用のシークレットサービスの最上位です。究極の少数精鋭、1人借りるのに戦艦5艦は手放せってレベルだそうです」

【行】

「参考になるか分かりませんが、5秒あれば此処に居る全員、鎮圧できますよ」

 煽ってる? やめてくれない? いい加減この時間終わらせたいから!

【宮坂】

「……その「朧」は、会長のお家を完璧に護ることのできる品質を持っているのだね?」

【行】

「無論です。支払われた分、「価値」は存分に発揮いたします。絶対、という言葉は如何なる戦場にも存在し得ないので使いませんが、比類無き護衛を約束します」

【鞠】

「というか、これは念には念の話なので。兎に角護衛については現状「朧」に一任します。そして我々がまずやるべきは学園とシナの関係を精査すること。では、各々作業にあたってください。以上」

【行】

「では、私もこれで」

【先生】

「え、ちょ――!?」

【先生】

「終わり!? まだ納得しきれて――」

【宮坂】

「まあまあ。会長がそう決めて実際に護衛を用意したというなら、従おうじゃないか」

【先生】

「が……学園長……!」

【秭按】

「……流石、砂川さんね。何もかもが早いし、打つ手段がどれも強力。現状我々は思いつく対策を持たないのだから、規定通り紫上会に従うべきだと考えます」

【先生】

「堊隹塚先生……貴方は、随分とあの会長を支持してますよね」

【秭按】

「実力があり評価に値するから、私は素直に評価しているというだけのことです。現に1学期の彼女の実績は素晴らしい」

【先生】

「だが、今回の事件は、我々大人でも太刀打ちできそうにない規模のもの、今までの評価で彼女に学園の運命を委ねるというのは――」

【秭按】

「確かにその通りです。実績などこの事件を前には無意味、誰も持ちません。なら……尚更、実力のある者が、前に出て挑まなければならない。私は彼女の奥の知れなさを、合宿で知りましたから」

【先生】

「……堊隹塚先生」

【秭按】

「お願いね……砂川さん」

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