7.15「女の子のお客様!」

あらすじ

「何で……そこまで…してくれるんですか?」砂川さん、お土産持って帰ります。家政婦たちの名前は別に覚えなくていい7話15節。

砂川を読む

Time

20:00

Stage

砂川家

【鞠】

「はい、到着。狭くて散らかってますが――」

 と機械的に謙遜してみたけど、よくよく考えたら、いやよく考えるまでもなく彼女の家と比べたら無理ありすぎるよね。嫌味じゃないんだ、ごめん。

【和佳】

「(゚Д゚)」

 とご機嫌を伺ってみると、見事に唖然としていた。私の嫌味は聞こえてないみたいでよかった。

【市鴎】

「お帰りなさいませ、鞠お嬢様」

【家政婦】

「「「お帰りなさいませ」」」

【鞠】

「ただいま帰りました。あと、こちらが連絡した件の女の子ですが」

【市鴎】

「料理分は問題ありません」

【家政婦】

「衣服も、近いサイズがご用意できるかと」

【鞠】

「では先に、お風呂入れちゃってください」

【汐】

「鞠が一緒に入ってあげればいいじゃないですかー」

 ……奥からメイドが現れ出た。お帰りなさいませを省略する相変わらずの殿様メイドだ。

 でも今はメイド服ではなく、朝から着ていたスーツ姿のままだ。多少着崩しているから、仕事は終わったということ。

【鞠】

「何で私が」

【汐】

「鞠が無理矢理連れてきたんだから、鞠がお世話するのが普通の流れじゃないんですか?」

 おっといきなりの正論? メイドのくせにっ。

【汐】

「まあ、鞠がやらないなら~……このお姉ちゃんメイドが入れて差し上げますよ~~!!!(←手わきわき)」

【鞠】

「行きましょう」

【和佳】

「(゚Д゚)」

 やむなし。

 ……私やっぱり、お嬢様の中ではあんまりお嬢様扱いされてなくない?

 なんて思うのは今更過ぎるので、お風呂の湯にでも溶かしてやろうと考えた。

Time

8:45

Stage

砂川家 和佳の部屋

【汐】

「おお~~~~~!!!」

【家政婦】

「「「おお~~~~!!!」」」

【鞠】

「…………」

 お風呂から帰還したら、何か着せ替え大会が始まった。

【鞠】

「あの、何やってるんですか」

【汐】

「そんなの、決まってるじゃないですか! 和佳ちゃんがどんな服似合うのか、調査してるんですよ!!」

【家政婦】

「そう、そうです……滅多に来ないじゃないですか、この家にこんな可愛い女の子……いつもむっさいおじさまばかりですから――!!」

【家政婦】

「気合いを入れて、コーディネートせねば、砂川の家政婦の恥――!」

 出迎えとは打って変わってのレベルで盛り上がっていた。

 確かに云われてみると、この家に来るお客様って皆社会の重鎮ばっかだから、自然と年齢層は50代より上に偏るんだよね。

 ……いや、でもメイド、貴方はこの子の事情分かってるよね? 指示下したのは私だけど村田家潰した張本人貴方だよね? 分かってるよね??

【鞠】

「あの、その子も疲れてると思うんで程々に。ほら、あまりにベタベタしてくるからビックリしてるじゃないですか」

【和佳】

「(゚Д゚)」

【汐】

「これは多分外観のスケールと玄関のスケールと脱衣所のスケールと浴室のスケールに唖然してる顔ですよー。だから大丈夫大丈夫」

【鞠】

「付け加えていきなり沢山の大人に取り囲まれて唖然してる気もするので、後日にしなさい」

【家政婦】

「後日って……暫くお泊まりいただく予定ですか?」

【鞠】

「詳しくはこれから決めますが、まあ、暫くは。手間を増やすようで申し訳ないのですが」

【家政婦】

「喜んでその手間、背中に戴きますよ。おじさんではなく女の子ですから。寧ろご褒美と見なすべきです」

【家政婦】

「この高麗川こまがわ、ご滞在の間に必ずオンリーワンのドレスを仕上げいたします」

【鞠】

「いや、そういうの別にいい……」

 彼女らがこんなにテンション上がってるの初めて見たかもしれない。

【汐】

「さて、晩ご飯にしましょーか。私、お腹ぺこぺこですー……」

【鞠】

「……今日は、私は此処で戴こうと思います。この子も」

【汐】

「ふむ……なるほど、確かに衝撃が強すぎますからね。でもせめてテーブルは持ってきましょう。あと私も此処で」

【鞠】

「え……」

【汐】

「多分、私も居た方がいいですから。兵蕪様には悲しく独りで過ごしてもらいましょー」

 ……まあ、メイドの方に一理ある。

 仕方無い、と溜息ついて立ち上がろうとする。

【汐】

「鞠、どこ行くつもりです?」

【鞠】

「手頃な折りたたみテーブルないか探そうと」

【家政婦】

「そういうのは、我々の仕事でございます、鞠様。お疲れでしょう、おくつろぎください」

【汐】

「ですです」

【家政婦】

「汐さんは配膳をしましょーかー」

【汐】

「えー私も疲れてるのにー……(←引き摺られ)」

 ……やっと静かになった。まあメイドは戻ってくるからすぐに喧しくなりそうだけど。

 座り直す。

【鞠】

「……大丈夫、ですか?」

【和佳】

「(゚Д゚)……――はっ」

 意識が戻ってきたようだ。

【鞠】

「すみません、うちのハウスキーパー、どうやら挙って子ども好きだったらしいです。悪気は無いので、敵と認識しなくていいと思いますよ」

【和佳】

「……………………」

【鞠】

「どうしました?」

【和佳】

「……オウジョサマダッタンデスカ……――?」

 まだ完全には戻って来れてないみたいだった。

【鞠】

「オウジョサマではないです。まあ、オジョウサマではありますが」

【和佳】

「オジョウサマダッタンデスカ……マリサマ……」

【鞠】

「改めて見つめ直すと恥ずかしい肩書きではあるんですけどね」

 お嬢様ってもっと、華やかなイメージあると思う。私はそんなイメージを崩しかねないほど残念な感じなんだとも。会計の言葉を借りるなら「芋女」ってこと。

 何と云うか、自分の居る立場を持て余してるというか使いこなせてない感が半端ない。でもオシャレとか本当興味無いんだなぁ……社交もあるから最低限の身だしなみは整えられるようにしてるけど、それ以上のスキルには手を出してない。

 ……先輩に怒られるようなら、やろうとは思うけど。

【和佳】

「あ、ああああのっ、ああ和佳、これまで数々鞠様に御無礼を――!?」

【鞠】

「御無礼なんてよくそんな言葉知ってますね」

 確かに数々の無礼は私を実に苦しめてくれた。

 恐喝とかもされた感じだし。それら思い出したら、こうして自分の家で2人座って対面してるこの状況凄い。

【鞠】

「もう過ぎたことですし、掘り返すほどのものでもないでしょう」

【和佳】

「小切手……」

【鞠】

「母親の事務所のあれこれ売りさばけば100万なんてすぐ元取れるでしょ」

 まあ母親追い詰めるのに随分メイドは100万どころじゃないお金を散らしたらしいけど。

 今すぐ潰せと云ったのは私だけど、あの人ならもっとローコストでやれた気がする。散財の才能、花開く前にしっかり云い聞かせておかないと。

【鞠】

「兎も角、あの家には間もなく居れなくなるし、そうなる前に飢えたり衰弱したり、貴方まで倒れるのは目に見えてます。姉の容体は私達が目を光らせておきます。起きたらすぐに貴方が此処に居ることを伝えますし、面会許可が降りるなら貴方を姉のところに連れて行きます。……それで、いいですね?」

【和佳】

「………………あの」

【鞠】

「はい」

【和佳】

「何で……そこまで…してくれるんですか?」

 ……なかなか痛いところをつかれた。

 そこの説明、多分上手にできない。

【鞠】

「……実際のところ私が潰したかったのは、貴方の母親だけです。紫上学園に重大な危害を加えうる強大な存在、彼女さえ倒したならあとは村田家に用はありません。そして、私はあの母親のように、敗者を意味も無く虐げる趣味もありませんから、貴方や姉の方まで壊れるところを目の当たりにしてしまうと……何て云うか、後味悪すぎる」

【和佳】

「…………」

【鞠】

「まあ、勝者の我が儘と解釈してもらって構いません。貴方と、貴方の姉の命は今、私が掌握しているに等しい。そんなわけで、善意でやってるとは思わないでください」

 ほら、案の定、下手だ。

 何より、大事なことを全く含めることもできず、空白の目立つ幾つかの言葉ばかりが並べられて。

 嘘は云ってないつもりだけど、事実としてこれは嘘だった。醜い回答に、まず自分自身で苛立ちが生まれる。

【和佳】

「……でも」

【鞠】

「え?」

 しかし、そんな酷い答えが返ってきたというのに……彼女は笑っていた。

【和佳】

「和佳…嬉しかった、です……あの時、和佳を抱きしめてくれて……だから、和佳は……鞠様に凄く感謝、してます」

【鞠】

「…………」

【和佳】

「お姉ちゃん以外で……初めて、こんな優しい人に出会った」

 ……莫迦なことを云う。

【鞠】

「私は優しい人間なんかじゃない。良い人間ではありませんよ。貴方は、貴方を支えてくれる優しい人に会えてなさ過ぎたんです」

【和佳】

「……そう、かな」

【鞠】

「そうです。だから――」

 ――だから?

 私は……何を云おうとした?

【鞠】

「……これからが、あるなら」

【和佳】

「え……?」

【鞠】

「貴方は、自分を支えたいと思ってくれる、そんな人達に出会いなさい」

【和佳】

「……は、はい」

 取りあえず、云っちゃったけど……何を云ってるんだ私は……?

 それができない状況に彼女はあるじゃないか? 村田姉妹は、村田優可の子ども。そのレッテルがある限り――

 いや、その再思考は甚だ価値が無い。私が驚愕したのは、そこじゃなくて……

 その先――

【鞠】

「はーいお待たせしましたー」

【兵蕪】

「テーブル持ってきましたーーー!!!」

 そこで食事一式が運び込まれて、一旦この会話は中断することになった。

 ……ていうか待ってすらない存在まで来たんだけど。

【鞠】

「何故パパまで……?」

【兵蕪】

「砂川家、家訓!! 晩ご飯は家族皆で囲むべし!!」

 そんなアットホームな家訓聴いたことないけど、意地でも一緒に食べたいらしい。

【兵蕪】

「あんなクソ広いダイニングで独りむしゃむしゃ食べてろってソレ鬼畜過ぎるでしょー鞠ちゃーん(泣)」

 泣かないで大人。

 あとお客様の前でアクセル全開やめて。

 極めつけに女の子の部屋に無断で入ってこないで。

【鞠】

「………………何故止めなかった」

【汐】

「いや、一応家主ですしこの人、強く云われたら撥ね返せないでしょー? それに、この人にも一応事情は話しておくべきかと。一峰の力使いまくりましたんで」

【鞠】

「しかし――」

 再度、少女を見る。

【和佳】

「ぇ……えと……」

 ……私とメイドが恐れている事態は、起きていないようだった。

 なら……確かに、パパも今からする話に、混ぜた方がいい。

【鞠】

「……このおじさんは、私の父親です」

【和佳】

「鞠様の……お父さん――」

【兵蕪】

「そう。私は砂川兵蕪、鞠ちゃんのパパだ。よろしく! えっと――」

【汐】

「村田和佳ちゃん。……村田優可の娘さんですよ」

【兵蕪】

「――なるほど。これは、少し驚いたね。鞠ちゃんの招待したお客さんとか珍しすぎるから一体どんな友達だろうとワクワクしていたが、井澤くんの時並みに斜め上を突っ切ったものだ」

【鞠】

「友達ではありませんが、そこそこ面識があります。えっと――」

【兵蕪】

「まずは、晩ご飯を食べようじゃないか!! なあ、汐ちゃん!」

【汐】

「え? まあ、そうですね。冷めたらシェフ拗ねますし。鞠も、いいですね」

【鞠】

「……分かりました」

【和佳】

「え……え……?」

【鞠】

「遠慮無く、食べてください。これは……そうですね、私からの命令です」

【和佳】

「……鞠様……」

 何か私まで混乱しっぱなしだけど。一旦全てを置いといて休憩にするのもいいだろう。

【兵蕪】

「いただきます!!」

【鞠&汐】

「「いただきます」」

【和佳】

「ま…ます――」

 本日まさかの一食目。

 それを考慮してくれたのか、前菜のスープはさっぱりしてて美味だった。

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