7.10「串」

あらすじ

「――まさか――本当に――」砂川さん、盛大に焦ります。直接的な描写なんて元々できないのでハリウッド映画とか見れるなら全然心配しなくていいんじゃないかなって感じの大慌てな7話10節。

砂川を読む

Day

8/28

Time

5:00

Stage

砂川家 鞠の寝室

 ――地獄は、すぐに顔を出した。

【汐】

「鞠! 鞠っ!! 起きてください、鞠っ!!!」

【鞠】

「……っ……?」

 それは、村田家の事情を知った翌日の早朝。

 疲れ切った私はぐっすり寝ていたのだけど……それを目覚ましよりもだいぶ早く、メイドがドアを叩いて起こしにかかっていた。

【鞠】

「ぇ……なにぃ……」

【汐】

「鞠!! 早く起きてっ、さもないとこのドア破りますよ、襲っちゃいますよ!!」

【鞠】

「…………解雇しますよ」

 ベッドから起き上がり、多少ふらつきながらもドアまで歩き解錠。

 開けると、まだ寝間着姿で……いつもと違い真剣表情なメイドが。

 巫山戯の案件ではないことは確定そうだった。

【汐】

「おはようございます鞠」

【鞠】

「まだ5時なんですけど。何かあったんですか」

【汐】

「ヤバいことが、起こりました。紫上学園に……支度を」

【鞠】

「――!」

 ……なるほど。

 ヤバいことというのは、その方向か。

Time

5:15

Stage

霧草区

【汐】

「いつもの3倍、飛ばしてまーす!! 急いでるのでやむなし!!」

 急いでようと規制速度を破れば問答無用でしょっ引かれるんだけど。

 まあ、それは止めない。私も可能な限り早く学園に着きたい。

【ババ様】

「な、何じゃ~~? 何が起こってるんじゃ~~!? 鞠、どうなってるんじゃ~~?」

 時間が無かったのか、何故かスーツ姿なメイドによる映画に劣らないウルトラスタイリッシュドライビングに左眼が眼を回してる。

【鞠】

「学園から電話が来たとのことです」

 こんな早い時間に、一体どうしてうちに電話を掛けてくるのか。

 理由は、まあ単純なこと。当然とも云う。

 紫上会だから。

【鞠】

「……だからって普通、学生にそんなもの見せるかな……」

 見てくれとお願いされたんだから仕方無い。

【汐】

「――着きましたよ!! いつもよりちょっと距離近めですッ」

 ていうか学園の前じゃん。まあ緊急時だしいいけど。

 停車処理してるメイドを置いて、私は車から出て正門へ走る。

Stage

紫上学園 外

 ……場所は、紫上会室でお馴染み、7号館前。

【信長】

「……! か、会長――」

 紫上会掲示板の前に……見慣れない、ソレはあった――

冴華串

【鞠】

「――最悪じゃないですか――」

 地面に串が刺さっていた。一本の細長い、金属製の串だ。全長1.5m程はある。串焼きとか団子とかで見るあの串とは、役割は同じかもしれないが、もはや別物な気もした。

 そしてその串には、焼き鳥やみたらし団子などではなく、ひとりの人間が貫かれていた。

【冴華】

「――――」

 胸と……背中の方へと折り曲げられた両手首と両足首が、仲良く貫かれていた。

 とてもシンプルではあるけど、間違いなくコレは惨殺の意図があった。れっきとした、殺人事件――

【鞠】

「いや、まだ死んだと決まったわけじゃ――」

【笑星】

「う……うわあぁあああああ――!?」

【深幸】

「……何だよ、コレ……村、田――」

 ……同じく連絡を受けて来たのだろう、雑務と会計も到着した。

 そして……

【四粹】

「――――」

 彼もまた、普段の様子と異なり、絶句している。

【鞠】

「…………」

 この巨大な衝撃を目の当たりにしたなら、誰でも絶句するに決まっている。だからそんな顔をしても当然――

【四粹】

「――まさか――本当に――」

 ――そう切り捨てていいものでは、ないと直感する。

 隣に立った彼の呟きが聞こえてきた。それはきっと無意識に口から零れた言葉で……。

【ババ様】

「鞠……これは、村田冴華じゃろ……どうする」

【鞠】

「どうするって云われても――」

 今は副会長より、この被害者だ。

 アルスでその惨状を撮影する。それから、思考する……私は、何をするべきなのか。何を考えるべきなのか、ゆっくりでもいいからハンドル感覚を失わないようにして、呼吸を整えて……。

【鞠】

「…………」

 ――不意に、あの時の光景を思い出した。

 それは……要らない情報だ。消えろ……ッ!

【ババ様】

「ッ……鞠……今、何考えた……」

【鞠】

「ババ様……?」

【ババ様】

「脈打ったぞ……お前さんの中に住まうアレが――」

【鞠】

「……! 抑えられますか――!」

【ババ様】

「……今はまた出てくる気配が無くなっておる。じゃが……こういうのは、宿主の精神状況で様子を変えてくる。無理な話かもしれんが、動転は控えた方がいい」

 そりゃ無理だと思う。けど、ババ様が声を掛けたお陰か、私は落ち着きを取り戻していた。

 ……もう、消えている。今は現実を見ろ。

【汐】

「……これはまた、とんでもないことに」

 停車していたメイドが合流してきた。

【鞠】

「これ、もうアウトですか?」

【汐】

「分かりません。医者ではないですから。ただ、血液の流出量から見てまだ貫通してから時間はそれほど経っていません。そうすぐに真死には至らない世の中ですからね。諦める必要はまだ無いかと」

【鞠】

「誰か救急は」

【信長】

「発見時にもう呼んでます!」

 ……と、丁度サイレンが聞こえてきた。

 15分程度、かかったことになるか。遅い。

 応急措置でもしようとこの状態を動かすことすら危険。専門家に何もかも任せた方が良いだろう。だから私は、別のことを考える。

【汐】

「鞠……これからどうしますか?」

【鞠】

「準備は?」

【汐】

「OKです。夜更かししましたから。兵蕪様にも許可は一応貰ってますし」

【鞠】

「じゃあ今すぐ、叩き潰しに行ってください」

【汐】

「お任せあれ。鞠は?」

【鞠】

「敵を特定します」

【汐】

「……何か策があるみたいですね。でも、無理しちゃダメですよ。お姉ちゃん泣いちゃいます」

 笑いながらメイドは走り去って行った。

 代わりに、救急車が入ってくる。警察のサイレンも聞こえてくる。

【鞠】

「……後から来た私達が事情聴取を受ける必要はありません。大人のお祭り騒ぎに巻き込まれる前に、紫上会室に避難!」

【信長】

「会長、俺は――」

【鞠】

「貴方は別です。そっちは……任せます」

【信長】

「承知しました……!」

【笑星】

「う……ぅぅぅ……」

【深幸】

「行くぞ、笑星! 走れるか!!」

 何も答えられることがない以上、警察の取り調べを受けていても私の時間が拘束されるだけ。無価値だ。それに警察が役に立つかどうかも相当に怪しい。

 ……先手を、取られたのだろうか。それとも?

【鞠】

「……ああくそ――!」

 私が想定していたよりも……遙かに複雑な何かが、私やこの学園を包んでいる……!

 誰だ……こんなことをするのは、一体!!

 一体何が狙いだ――!

PAGE TOP