6.08「ここからが」

あらすじ

「どこで待ち合わせますか?」砂川さん、先輩を誘います。相手のご両親に挨拶する為に家にお邪魔するとかそんなメンタルが作者にあるわけがない6話8節。

砂川を読む

vsmari

Time

20:00

Stage

櫻前区

 ようやく、密室地獄空間から解放された。

 どうやらこの店ではお支払い後、レシートと一緒に歌った履歴楽曲一覧が印刷されるっぽいが、何かのお茶目なのか先輩がそれをお願いしてみたところ、店員が数秒後顔をしかめた。私は今後このお店には来ないことを堅く誓った。

【謙一】

「いやぁ、堪能したな」

【鞠】

「どこが?」

【笑星】

「井澤先輩、また真理学園のこと、聞かせて!!」

【謙一】

「ああ、今度会えたらな。茅園も、ダンス部と紫上会頑張ってな。来園は甲子園観に行くわ松井」

【深幸】

「うっす!」

【信長】

「是非、紫上学園に声援いただければ」

 ……何か、皆すっかり仲良くなっていた。流石のコミュニケーション能力と云いたいところだけど、私の手前で先輩は一体何考えてるんだろ。

【謙一】

「……それと――」

【四粹】

「……?」

 と……先輩は突然、副会長に接近して……何かを耳打ちし出した。

【四粹】

「…………――!?」

【鞠】

「(ん……?)」

 ……表情が崩れないことで有名な副会長の表情が、驚きで崩れた。一瞬だったけど。

 実際私は、今みたいな動的な表情、初めて見たと思う。

【信長】

「玖珂先輩?」

【謙一】

「さて……そんじゃ、俺はスカブリに戻ろうかね。荷物まとめないと。じゃ!」

 先輩、爽やかに去って行った。

 ……真理学園の学生相手だったらあんな清々しくもいかないだろう。普通の学生と比較的普通な会話ができて、嬉しかったんだという説に私は一票投じようと思う。

【鞠】

「…………」

【信長】

「か、会長……その……すみませんでした。会える機会の少ない先輩との時間を、邪魔してしまって……」

 ホントだよ。

 ……まあ、元々そんな予定端から無かったわけだから、それを考えればデメリットばかりあったわけじゃない。これでも、どちらかというえば上機嫌な方だ。

【鞠】

「あの人がしたくてしただけです」

【深幸】

「……良い人、だったな。井澤先輩……」

【鞠】

「そう思える程度の附き合いに留めておいた方が身のためです」

【深幸】

「は?」

【鞠】

「地獄を見たくないなら、深く関わらないこと。安易な興味は持たない方がいいです。では」

 この面子とこれ以上此処に留まる理由はない。

 私も、今度こそ帰路を歩いて行った。

【笑星】

「……会長、やっぱり怒ってるかなぁ……」

【信長】

「思った以上に不機嫌では、なかったかもしれないが……しかし、実際謎めいた人ではある。全國大会で見せた力は……人間離れしていたし」

【深幸】

「全國選手、どいつもこいつも人間離れしてた気もするがなぁ。んじゃ……俺たちも帰るかー」

【笑星】

「うん、そだねー……はぁー凄かったぁ……」

【四粹】

「…………」

Stage

櫻前区 中央通り

【鞠】

「……さて」

 ある程度歩いたところで……アルスを自立させ、画面形成。

 着信をかける。

 …………。

【鞠】

「もしもし、先輩」

【謙一】

「― 撒いたか? ―」

【鞠】

「はい。どこで待ち合わせますか?」

【謙一】

「― そのまんま革肥に行くよ。インターホンとかある? ―」

【鞠】

「ありますけど、間違い無く厄介なことになるので、外で待ってます」

【謙一】

「― オーケー、よろしく ―」

 電話を切った。

 ……私が彼らによって先輩との時間を邪魔されてもなお上機嫌だった本当の理由。

 それは、先輩との時間はこれからだから。

Time

20:30

Stage

砂川家 ダイニングフロア

 しかし、その時間においても厄介な要素はどうしようもなく存在する。

【鞠&謙一】

「「……………………」」

 夕食の時間。

【パパとメイド】

「「……………………」」

 客人を招くぐらいはそれなりの地位にある家なのだから割と頻繁にあると思ったんだけど、慣れてるとは思えないほど神妙、ていうか沈黙しまくってる家主が夕食の空気をこれでもかと重くする。

 いや、何でだよ。

【兵蕪】

「……………………」

 しかもパパは仕事とか関係無しに客人にいっつもフランクな対応しているのに、今は小さな声でぐぬぬぬぬ云ってる。別の意味で怖い。

【汐】

「じーーーーーーーー」

 メイドにいたっては何故か殺気めいたものがはみ出てる視線を先輩にビームしてた。

 もう一度云うけど、今これは夕食の時間だ。

【謙一】

「えっと……砂川さんや、これは一体どういう状況なんだろう」

【兵蕪】

「私も砂川だがッ!!?!??」

【謙一】

「失礼。鞠ちゃん、これマジどういう状況?」

 先輩、荷物をまとめるとか云ってたが、それは半分以上嘘で、その作業は既に終わっていて、明日は観戦目的で来てた人達とかに頼んでそれらを渡航便に運んでもらうらしい。だから今日スカブリに戻る必要は必ずしもなくて、それを聴いた私はじゃあこの家で一泊していったらと誘ってみたのだ。

 夕食も折角だし一緒しようよって私は思ったので「今日井澤先輩泊めます」と勿論家に連絡。シェフもちゃんと先輩の分を用意してくれていたから、全体にも伝わっているのは確かだ。

 ……で、何でこの2人が今も先輩に対し警戒心を剥き出しにしているのかは、ちょっと私もよく分からない。でもどうせこの人達なので、大した理由じゃないと思う。

【鞠】

「気にしなくていいと思います。先輩、好きに食べてください」

【謙一】

「え、ああ。いや……流石に家主よりも早く手を出すのはなぁ」

【兵蕪】

お構いなくぅうううッ!!!

 構うわ。

 このままではご飯が冷めちゃうだけなので、私が先行する形で晩餐を強制開始する。

 パパやメイドも手を着け始めたので、先輩もようやく動けるように。ホントどうしたこの人達。

【兵蕪】

「……コホン。それで、君は?」

 何だ今のわざとらしい咳は。

【謙一】

「先も申し上げましたが、鞠さんの先輩をやらせていただいてました、真理学園A等部3年、井澤謙一と申します」

【鞠】

「……鞠さん……」

 ちょっと、ドキッとした。お陰でサイコロステーキが変なところ行った。

【汐】

「ムッ――」

 そして何故かこのタイミングで私を睨んでくるメイド。取りあえず無視って噎せておく。

【兵蕪】

「ああ、いや、それは私も分かってるんだ。今でも優海町には経済面で関わっているからね」

【謙一】

「確かに。毎年お付き合いくださり本当ありがとうございます」

【兵蕪】

「真理学園には、私も恩義を感じている身だ。これからも可能な限りの援助をさせていただこう。多忙ゆえ、あまり顔は出せないがね。……さて、話を戻そうか井澤謙一くん」

【謙一】

「戻すって……今のは別の話だったんですか?」

【兵蕪】

「当ッたり前さね、私が訊いてるのは、私の愛娘たる鞠ちゃんと君の好感度はどこまでいってるのかって部分だよ!!!」

【謙一】

「ああ……ギャルゲの好感度システム的なアレですか……」

【鞠】

「ブッ」

 また噎せた。この父親、初対面の私の先輩にいきなり何て尖った話題出してきてるんだ。

 別にまだお見合いとかそういうものじゃない筈なのに……。

【謙一】

「それは……娘さんの方から回答してもらった方が適切かもしれません」

 そしてどうして私に話題を振る!!

【鞠】

「ちょ、先輩!?」

【汐】

自分で云う勇気も無いとかぁああ!?!? 論外ですねえぇえええええ井澤くうぅうううん!?!?

 そしてメイドが好餌を見つけたとばかりに食いかかる。椅子の上に立って威嚇してくるメイドとか世界史上でも滅多に見れるものじゃないと思う。

 そんな、初見だったら十中八九ビビりそうなメイド擬きの女に、しかし先輩は揺るがず対応する。

【謙一】

「いや、一応理由は考えてまして。学生時代が終わったら、生涯共に歩んで、隣で死ぬ覚悟を俺は俺なりにしてるんで。だからあとは、俺をどこまで必要とするか。それにも無論従いますから、好感度的な問題の解説は鞠さん次第ではあるんです」

 違う――色々それっぽいこと云ってるけど結局私に丸投げしてるようなものだ! 嫌がらせだ!!

 そして現段階では決して云わなくてもいい事実を色々云っちゃってる!

【保護者陣】

「「…………」」

 流石のこの2人も、問題発言に唖然である。私だって絶句しちゃう。

 相変わらず勇敢で鬼畜な先輩。そんな先輩を家に招いたらどんな災難が起こるか……ぶっちゃけ予想通りな雰囲気になってはきているけど。

【鞠】

「(そういうとこも、何か……いいんだよなー……)」

 なんて想いにほのぼのしている暇はなくて。

【汐】

「鞠っ!? 生涯共に歩む仲なんですか!? 或いは男を道具扱いですか!? いつの間にそんなアバンチュールな人生設計学んだんですか!! 教えた家庭教師は一体誰ですかああぁああああ!!?」

【兵蕪】

「まままままままりまりり鞠ちゃあぁあああん!?!? パパはッ、パパは赦しませんよーーーー!!!?」

【謙一】

「美味えなコレ……やっぱり素材が違うなぁ」

【鞠】

「…………」

 これまでのトップ5に入るぐらい騒がしく集中のできない夕食に私は振り回されるのだった。

PAGE TOP