6.06「邂逅」

あらすじ

「コイツ紫上学園でどんな感じ?」大将、降臨。カラオケ行っても歌うの恥ずかしいので持参したポータブルスピーカー音量マックスにして音楽を聴いて帰るのが落としどころな6話6節。

砂川を読む

Stage

カラオケ ディープリヴィア

【謙一】

「ふぅ、落ち着いたな」

 ……で、何でその流れで、私たちはカラオケに入ってるんだろうか。

 ていうかカラオケ、久々に入った私。入ったことないわけではないけど入ろうと思ったことは間違いなく1度たりともなかった。

【鞠】

「先輩……歌いたいんですか?」

【謙一】

「砂川は?」

【鞠】

「別に……」

【謙一】

「俺も」

 じゃあ何で入った。

【謙一】

「皆は?」

【紫上会】

「「「別に……」」」

 うーん、つまり頭おかしい客である。少し広めの部屋取っちゃったし。ちょっとその分お値段高くなった。

【謙一】

「まあ最近のカラオケは入って全く歌わず変える利用者も割と多いから大丈夫大丈夫」

【信長】

「その流行は一体何の価値があるんですか……」

【謙一】

「俺も詳しくは知らんけど、知人曰く「大乱闘したい時」とか「一狩りしたい時」とからしい」

【深幸】

「俺は何となく察したけどそれなら誰かん家でやればいいじゃねえか……わざわざ金出すことか?」

【謙一】

「ああそういや金なんだけど、無理矢理連れてきちゃったのもあるし全員分俺が出すからそこは心配されず」

【笑星】

「えっ、マジで!?」

【謙一】

「マジマジ。砂川お世話になってるし」

【鞠】

「ちょ」

 変な理由付け足さないで。

【信長】

「いえ、流石にそれは……俺たちはお金持ってますし、普通に割り勘でいいと思うんですが」

【笑星】

「俺の分は出してくれるとマジ助かります!!」

【謙一】

「正直だなぁ」

 そんなこんなでお金の話はケリが付いて……。

 そもそもどうしてカラオケに来ちゃってるのかに漸く言及する先輩。

【謙一】

「いやさ、別にカラオケじゃ無くてもよかったんだが、話をめちゃ聴きたかったし、だが俺は周りの目もちょっと気になる、ということで軽い密室が欲しかったんだよ。で、目に付いたのが此処だったってだけで」

【深幸】

「……確かに、有名人っすからね」

【笑星】

「うん……」

【信長】

「だな……」

【四粹】

「…………」

 カラオケを選んだ理由は超アバウトだったけど、それなりに4人は納得しているようだった。

 そう……彼らは知っている。世界は知っている。この井澤謙一という人は、今年度開かれた(厳密にはまだ開催中だけど)「全國大会」の決勝選手ファイナリスト。すなわち、今年世界最強クラスであるのが認められた学生であり、本日至る所で最も話題にされている人でもある。

 正直、ちょっとデカめの帽子被ってるだけだと変装にならないんじゃなかろうかと心配はしていたが、案外気付かれてなかったようだ。まぁあんな死闘をしてたから、今日はずっと空塔の特設医務室で休んでるのだろうと記者たちも予想していたのかもしれない。

 ……しかし、一般人にとっては井澤謙一という人で思いつく話題はその程度。

【笑星】

「……真理学園、なんだ」

 彼らはそれに留まらない。もう一つ、巨大な話題との結びつきを既に知ってしまっている。

 この人は――私の先輩、だということだ。

【謙一】

「ああ。俺は真理学園3年……かつて砂川が所属していたところの、学生なんだ」

 息を呑むのが分かる。

 彩解大陸並みに、異界中の異界……これまで噂でしか取り上げることのできなかった領域――野蛮で非道な学園の、実物が彼らの目の前に居る。

【笑星】

「す――すっげええぇええええええええ!!!」

 そして雑務の第一声はソレだった。

【鞠】

「…………」

 私はもっと、蔑む態度を見せるかな……と思ってはいたけど、そういえばと思い出す。

* * * * * *

【笑星】

「こ……この距離でも聞こえていない……?」

【邊見】

「多分、面倒臭がられてるんだと思うよえっちゃん~。諦めて退散しようよー。HR、間に合わないよー」

【笑星】

「でも、気になるじゃんか、邊見。真理学園だよ、真理学園! 俺、いつか会ってみたいなーって思ってたんだよね!」

【邊見】

「えっとー……すみません、うちのえっちゃんが~。悪気は全く以て無いし五月蠅いだけで良い子だから、あんまり嫌いにならないであげてくださいね~(←引っ張る)」

【笑星】

「え、ちょ、邊見~!」

【邊見】

「ほらほら、教室こっちでしょ~。ではでは、失礼しました~……」

* * * * * *

 初めてこの男子が私に接触してきた時も、真理学園という忌避ワードを超元気に口にしていた。

 悪気はなく、単なる好奇心。

 ぶっちゃけ噂にころころ転がされてる様を見てて何の信頼感も生まれなかったが、他の人とは興味の抱き方のベクトルが違う、確かに珍しい人種だった。

【謙一】

「何か変な興味の持ち方してんのな。普通、疫病神みたいに扱われるよなぁ」

 先輩もそれを勘付いているようだった。

【鞠】

「……だから、全國大会では学校名非公表にしてたんですか」

【謙一】

「理由の一つ程度かな。もっと色んなもの考えた結果だ。まぁマスコミさん侮れないし、バレる時は簡単にバレるだろうけど」

 侮れないのはこの人の人脈及び情報隠蔽力の方だと思うけど。

【深幸】

「真理学園……」

【信長】

「会長の、いた場所……」

 さて一方、こちらの2人は言葉をまとめられず感嘆に任せているようだ。雑務と違ってややこしい連中なので、何を考えているのか全然分からない。奇異の眼差しでこちらを見ているのは間違いない。

 ……繰り返しだが、私は先輩をこの人達には見られたくなかった。勿論彼らだけじゃなく、紫上学園生全員に対して云えること。

 理由は単純、彼らは、真理学園わたしたちを穢す側だからだ。

 だけどそんな私の考えに反するように、先輩は寧ろ密室まで作ってアクティブに関わっていく。

【謙一】

「そんじゃ……俺も、君らに教えてもらうとするかね」

 特に何も工夫してないと思うのに、気付けば場の空気を支配していて。

 だから今この時、主体に立ち問うのは彼らではなく先輩で、受動として答えるのは先輩ではなく彼ら。これに反することは、できない。

【4人】

「「「「…………」」」」

 流石……先輩だ……。

 全てにおいて圧倒的な力で、どんな局面でも、あっという間に敵を蹴散らす――

【笑星】

「えっと……何を?」

【謙一】

「勿論、砂川会長さんのことさー。コイツ紫上学園でどんな感じ?」

 ――って矛先私かい!!

【鞠】

「ちょ、何で!?」

【謙一】

「まあ待て後輩、これには俺の個人的な好奇心8割の他にもちゃんと理由があってだな」

 つまりほぼほぼ私への嫌がらせー……。

【謙一】

「真理学園で公的に転校したのって学園史上お前だけだからさ。めちゃ貴重なデータなんよ。何に使えるかは分からないけど思考材料として真理学園も保管しておきたいようなどうでもいいような」

 公的理由、見事にガバガバだった。

【信長】

「え……転校したのが会長だけ……それも、歴史上で??」

【謙一】

「実際あそこからの転入生ってことでビックリしただろ? 真理学園は転入は赦して転校は赦さない学風なんで」

【深幸】

「怖!!」

【謙一】

「その辺、やっぱり出回ってないんだな。一応砂川から、紫上学園での真理学園イメージは色々訊いたんだけど……君らにも直接訊いておこうかな。参考がてら」

 ……先輩、にっこにこしながら真理学園の悪評を聴取し始める。

 多分、ホントに楽しいんだと思う。

 あと私置き去りである。

【謙一】

「ははは、根も葉もないと思ったら案外当たってて面白いな」

【鞠】

「先輩、自分の学園の悪口ですから」

【謙一】

「つっても俺自身酷いところだと思ってるからなぁ。寧ろ理解を示してくれて嬉しいくらいだ(←遠い目)」

【鞠】

「…………」

 ちょっと見ないうちにまた一回り壊れちゃってる。

【信長】

「合ってるんですか……」

【謙一】

「いやさ、ぶっちゃけ俺もよく分かってないんだけどさー。地理も歴史も謎が多くて。だから現生徒会が一生懸命調査活動し始めたぐらいで」

【信長】

「調査活動……それはまた壮大ですね。しかしそういうのって、公的機関がやるものでは」

【謙一】

「公的機関から見放されてるから」

【深幸】

「無法地帯じゃないっすか――ってヤベ」

【謙一】

「無法地帯だよね(←遠い目)」

【深幸】

「アンタがソレ云っちゃダメでしょ……!」

 ……いつまで続くんだろ、この談笑。

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