6.47「正体」

あらすじ

「貴方が、ミマキ、なんですよね?」砂川さん、答え合わせ。皆さんの疑問が解決されるかは分からない6話47節。

砂川を読む

【町長】

「……これが、地下に」

 暫くして、あの島の町長が顔を出してきた。

 結構ビックリした。何で居るの、って。

【鞠】

「まだ崩れてないとは思いますが……地下に行くのは危険だと思います。いや、そもそもあの島自体、今回の大雨で危険になってる。一峰に要請して、災害対策チームを作って派遣してもらうべきです。私の方で事情、話しておくことができますけど」

【町長】

「おお! それは有難いですー。できれば……地下の調査にも協力願いたいですねー」

【鞠】

「代表が相当頭の緩い人なので、普通に協力してくれると思いますよ」

 例の手記を渡した。

 ……ついさっき気付いたのだが、私は脱出する前にあの研究所で見つけた狂気の紙束をお持ち帰りしてたっぽい。その辺に落ちてたボロボロのクリアファイルに入れて……。

 その頃天候が回復してきてたのもあって、紙はそれほど損傷することなく持ち帰ることができた。ただ、その時の私は何を考えてこれを持ち帰ろうとか思ったのか、分からない。

 なので見舞いに来た町長に、折角なので[J]で書かれてるやつを渡してしまった。

【町長】

「……実を云うと、全く知らないわけでは、なかったのですよ、町長は」

【鞠】

「……え?」

【町長】

「町長の前の町長が云ってたんですがね、怪しい気配を感じる……と。この島に、この島らしからぬ空気が何処かから流れ出ていると。特にミマキ様に心酔し、スピリチュアルな方だったからこそ、何かを感じ取ったのかもしれませんね」

【鞠】

「……廃工場の存在ぐらいは、気付けてもよかったのでは、って思いましたけど」

【町長】

「冒険心が無ければ、自然公園部より外の、純粋な森には誰も近付こうとは思わないでしょう。其処はミマキ様の整理される領域、導きも無く足を踏み入れることは、島民なら誰でも躊躇します」

 それを利用して、あの場所を選んだ……ということか。

【町長】

「しかし、町長は、島のことを誰よりも知りたいと願います。その全てを、後世に継承すべきだと。何者かがミマキ様の領域に踏み込み、無礼を働いたというならば、その尻拭いをするのも人だと町長は考えますー。祈りを忘れず、勇気をもって調査していこうと思います。貴方には、島民を代表して町長が、お詫びと御礼を申し上げますー。ミマキ様の結びが、貴方の僥倖を導きますように」

 ……独特な町長が立ち去っていった。

【鞠】

「ミマキ様の結び、ね……」

 ……何だろう、笑いはしないけど、ちょっと面白い。

【鞠】

「だそうですよ」

【ババ様】

「おお、気付いておったか」

 ババ様の声が聞こえる。

 その距離、0を通り越してもうマイナスなんじゃ、っていう勢いで、内側から元気な女の子の声が響く。

【ババ様】

「やーっと喋れるのー。人気者じゃからなー鞠は」

【鞠】

「嫌味ですか」

【ババ様】

「事実を云うとるだけのつもりじゃが。本当難しい性格よの、鞠」

 より具体的に、どのあたりから響くのかなって神経を集中させると……合ってるかどうかは分かんないけど、何となーく左眼からかなって思った。

 よって私は今、自分の左眼と会話してる感じだった。こっちの眼は実質失明してるんだけどな、というコメントは多分的外れだろう。

【ババ様】

「ここが都会の病院かー! でっかいし、綺麗じゃのー」

【鞠】

「……取りあえず疑問が多々あるので。いいですか、ババ様、一つずつ」

【ババ様】

「ん? うむ」

 じゃあ、一つ目……。これはもう実質、「確認」なのだけど。

【鞠】

「――貴方が、ミマキ、なんですよね?」

【ババ様】

「流石、そこにも気付いておったか。ワシすっごく普通の女の子演じてた筈なのじゃが」

【鞠】

「全く普通じゃありませんでしたし、他の面子は貴方の姿や声を知らないと云っていました。即ち見えていた、聞こえていたのは私だけ」

 まずその情報だけで推測すると真っ先に思うのは、「あれ、幽霊?」。

 しかし彼女について、まだ考えるべき要素はいくつかある。

【鞠】

「貴方は間違いなく地下のことを、あの研究所のことを全て知っていた。最初は、あの「語り手」の継承者――下手をすると悪魔研究をしている現在の学者、或いはその関係者ではと疑いました。しかし誰も貴方を認識できていないという特殊要素を踏まえると、まず形式的な意味でも普通の人間と考えることをやめなければならない」

 つまり、「天使」だの「悪魔」だの、そういった存在だと疑った方がまだマシということになる。

【ババ様】

「では「悪魔」である可能性はどうして否定したのじゃ?」

【鞠】

「勿論疑いましたけど……貴方は、私を助けましたからね。それに、あの研究所には結果として「悪魔」を殲滅する為の技術がある程度完成していました。それを世に出せば、全國の「悪魔」も、勿論「悪魔」とした場合の貴方も困るでしょう。そんな禁断の場所に誘導する価値が分からない」

【ババ様】

「誘導……」

【鞠】

「そう、誘導。ある程度、文脈を作れるんでしょう? 抑もいきなりあんな豪雨が巻き起こること自体おかしいんです。アレは……結局のところ、私を地下に落としたかったんでしょう?」

 となると、他3人が辛い目に遭ったの、私の所為ってことにもなるんだよね。

 だから御礼なんて絶対受け取ってはいけなかった。

【鞠】

「こうなってしまったものは、仕方無いって思うようにはしますけど……亜弥ちゃんを巻き込んだことについては私、赦すつもりはありませんよ」

【ババ様】

「思考が鍛えられておるの。一体その年齢でどれだけのことを経験すれば、そう強靱にもなるのか」

 強くなんかない。ただ、色々諦めてみると主観が削がれて全体が見えてくるというのはよくあることだ。

 とまあ、何となく予想がついていたことはここまでで……こっからは純粋な疑問。

【鞠】

「私は今、どうなってるんですか……?」

 ……これは、2つの意味がある。

 抑も私は、いつの間にやら憑いていた何かに身体どころか魂とかまで奪われそうになってた。恐らく、「悪魔」にでもなりかけてたんだろう。今その病魔はどうなってるのか。

 それを何とかしたのは間違いなくこのババ様であり、意識を失った私の代わりに私の身体を使い、あと機体まで操作して、地上に帰還させたのもババ様だろう。

 そう、ババ様は私の身体を操作できた。今、ババ様と私の関係はどうなってるのか。

 コレによっては私は、今後の生活を大きく変えなければいけない気がした。

【ババ様】

「そうじゃな、重大と云えば重大じゃが、重大の中ではそれほど重大じゃないかも? みたいな重大なところじゃな」

 何ソレややこしい。

【ババ様】

「じゃあ、あの時ワシが打った手を解説するかの」

【鞠】

「……お願いします」

 書記の剥いた可哀想なリンゴを丸かじりしながら、左眼に耳を傾ける。何この表現斬新っ。

【ババ様】

「あの時も云ったように、ワシの力では鞠の内に宿っておる「悪魔」とやらは抑えきれん。彼処で大量に設置されとった塊石もそうじゃ。おまけに何十年も使われ続けてたからか、品質も落ちておった」

【鞠】

「…………」

 そういえば、“彼女”はあの場所から出した途端、装置を破壊して力を発揮していた。コールドスリープさせられてたにしてはスタートダッシュ成功し過ぎている。つまり、深い眠りを強制されてはいたが、実のところ想定よりも浅い状態だったということ。

 それだけ塊石の持つ効力に経年劣化が発生していたのだろう。

【ババ様】

「しかし、あの場の塊石全部を、ワシの存在と融合させ一つにしたなら、可成り強い霊素に仕上げられる」

【鞠】

「確か、「悪魔」は霊素体って書いてましたね。貴方もそうなんですか?」

【ババ様】

「霊素もまた、マナと同様に人の想いに呼応して反応を起こす。ミマ島の人々が願い、崇め、奉った、その結果がミマキじゃ。その願い通り、縁結びを奉る者としての」

 ……そうか、何か、分かってきたかもしれない。

 あの時ババ様の身体が光に、霊素塊石に溶けていくよう見えたのは決して気のせいではなかったということだ。

【ババ様】

「ワシの存在を深く、ふかあぁぁぁぁく結びつけた塊石を、鞠に取り込んだ。それによってワシも形状世界に足を着けてはいられなくなり……鞠に自動で取り憑いたってわけじゃ」

 つまり、ざっくり云ってしまえばババ様は塊石と融合して、その塊石が私に取り入れられたから、ババ様も私の中に入ったと。

 ……左眼に宿ってるってことなのかな。そういえば意識完全に飛ぶ直前にすっっっごい痛い思いしたような。

 鏡を見てみる。

 ……取りあえず、眼球は無事っぽい。要は石を突っ込まれたってことだよね? だったら破裂どころじゃない惨事になってる筈だけど。その辺はもう神秘の力ってことでいいんだね。

【鞠】

「取り憑いた……あの文書では「宿合」とか表現してましたね。貴方は寄生と云ってましたが」

【ババ様】

「全部合ってるじゃろー。ほら、ワシだって今、鞠の左眼を通して世界を見ておる。鞠の左眼を支配したに等しい」

 あ、そうなんだ。じゃあ私が今右眼を通して自分の顔を見詰めているけど、同時にババ様が左眼を通して宿主を眺めているってことになるのか。

 流石に超展開で思考回路がショートしそう。しかし大事なのはここから。

【鞠】

「……それで、「悪魔」は抑えつけられたんですか?」

【ババ様】

「うーむ……出来たと云えばそう云えるんじゃが、出来てない気もするのー」

【鞠】

「え、どっちですか、そこ一番ハッキリしてほしいんですけど」

【ババ様】

「手が無いわけではないって云っただけじゃ。それは完全な手段ではない。連中はこのババ様みたいな霊素体と、研究対象にしていた「悪魔」を同格と見なしておったがの、確かにそうかもしれんが実情で考えれば違う。勘で分かる、少なくとも鞠に寄生しておるものは遙かに格上じゃ。多分、「悪魔」の中にもランクがあるんじゃろうな」

【鞠】

「じゃあ……ババ様が体を張ったにも関わらず、消えてない」

 クリアファイルに残っている、町長には渡さなかった紙を取り出す。

 ……読めるはずのない文字が、未だ私には読める。

【ババ様】

「今でも、鞠は「悪魔」の力を使える。多分元あった“機能”も、可成り書き換えられとるじゃろうな。彼処に捕らえられた“魔女”たちのように、の。まあ決定的に違うのは、このババ様という人格を護るコントロール機関が備わってることじゃな!」

【鞠】

「いや、要らないんですけど本当」

【ババ様】

「問題は……このババ様でも抑えきれないほど暴れ回ってくる可能性も否定はできないってところじゃ。人としての鞠が死ねば、その鞠に宿合していたワシも9割がた死ぬじゃろう」

 ……それがヤバいんだ。本当に、冗談にならない。

【ババ様】

「まぁ手段は考えておこう。外の景色を楽しみながらのー」

【鞠】

「呑気ですね。私怖くて仕方無いんですけど」

【ババ様】

「存在を懸けて鞠を助けたんじゃ、これくらいの我が儘は赦せい」

 それ云われたらちょっと何も云えなくなる……。

 ていうか私の適応力っ。もうちょっとこの異常な距離感の会話に慣れ始めてない私?

【鞠】

「……人前では、あんまり応答できませんからね」

【ババ様】

「ふふっ、楽しみじゃのー♪ 生まれて数百年、ずっと悲願だったお外じゃー♪ 早く退院せんかのー♪」

【鞠】

「眼の中で歌わないでください……気持ち悪……」

 そりゃそうだけど、完全に適応するにはもっと時間が掛かりそうだ。

 そんな、私とミマキ――ババ様の一生続く契約が始まった。

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