6.43「渡してたまるか」

あらすじ

「先輩に……コイツをッ、近付け、させない――もう……絶対、に!!」砂川さん、極限の窮地。突然ホラーに変わった6話もいよいよ大詰めな43節。

砂川を読む

vsmari

Stage

?????

【鞠】

「ッ――ッッッッ――」

 どこだ……どこかに、ないか。

 ふらふらしながら、大きな穴の開いた研究所を走り回る。

 直感する――時間が無い。無理矢理3人を外に出した為に悲鳴を上げているこの地下が崩れるのも、時間の問題かもしれない。

 だがそれよりも早く……私が、消えて、しまう気がするから。

【鞠】

「ふざ……けるな……」

 急げ。早く、早く見つけるんだ……方法を。

【鞠】

「何か書いてない――」

 3人を勢いよく出した為に彼方此方に、さっきまで読んでいた紙が散らばってしまっている。あんな狂ってるのを読み返してる暇は無いが、何かヒントがあるかもしれないと兎に角集めてみる。

 そして、気付く。

【鞠】

「――読める」

 先ほど、副会長と共に早々解読を諦めた紙たち。

 全く未知の、まがまがしさすら感じるほどの言語が、今の私には読めた。

 翻訳とかじゃなくて、書き殴られた筆跡がそのまま頭に入り込んでくるような感覚。

 つまり……ソッチの類いのものだったのだ。

【鞠】

「どいつもこいつもッ、狂ってる――!! 何だこの、研究所はァ!!」

 残念ながら、この紙束には今私が最も欲していた情報が無かった。

【鞠】

「そうだ、あの装置……」

 彼女が封印されていた、あの装置の情報は無いだろうか。

 一瞬今度は私が彼処に入れば、と思ったりもしたが、容器が破損してしまっている以上そのまま使用することは不可能だ。

 しかし彼女を封印できていたということは、この存在を抑え込むメカニズムが装置に組み込まれている筈。それが理解できたら或いは――

【鞠】

「ハァ…ハァ……ッそういえば――」

 副会長と読んだ、日記を思い返す。

 そして辺りにまだ消失せず待機している6つの「機体」を見回す。

 あの装置が彼女をコールドスリープさせておくものだったと仮定した場合、じゃああの鎖は、日記から想像すると恐らく霊素情報を表示主との関係性に関わらず支配する機能を有していたと考えられる。じゃなければ彼女が活動停止している時点で「機体」は消失している筈だからだ。

 ……恐ろしいほど、私は速度を出して色んなモノを理解し始めていた。

 それはすなわち、私がもう私じゃなくなってきている証じゃなかろうか。

【鞠】

「鎖は、確か、霊素塊石で出来てたって……じゃあ」

 彼女を「悪魔」の力ごと統制していたあの装置にだって、ソレが組み込まれているのではないか?

【鞠】

「ッ!!」

 悩んでる暇は無い、機体を一体、起動する。

【???】

「――!!!」

 そして――装置に向かって、弾丸を射出!!

 刹那にして、装置の外装が砕けとんだ。

【鞠】

「当たり前のように操れるもんなぁ……」

 ソレが分かっていたから、3人を先に地上に戻したんだけど。

 ちゃんと、皆と合流できてるよね。港に降ろしたんだから多分島の誰かが保護してくれてるだろうし。

【鞠】

「…………全然分からん」

 一方機械には素人のままなので、飛び出した中身の一体どれが目的のモノなのか分からない。塊石というんだから石っぽいんだろうけど――

【鞠】

「あ」

 ……灯台下暗しというか。いや元々隠れてたものだから、表現は間違ってる。それでも今の私はそんな感想を抱いた。

 装置をぶっ壊したことで、装置を格納していた空間を覗き見ることができた。

 その中は、この装置を格納したとしても随分余剰が目立つ程度に、広さがあった。

 空間の地には、石ころが詰められていた。あまり行ったことないけど、まるでお寺や神社の石ころ道みたいだなと思った。

 ……広い理由は、コレだろう。

【鞠】

「この夥しい量の塊石で、あの化け物を沈黙させていた……」

 コレを、どうにかして私に投じることができれば――

【鞠】

「ッ!!?!?」

 ――バランスを、崩した。

 石ころ道に、転がり込む。

 ……立ち上がれない。

 身体が動かない……というのはしっくり来なくて。きっとより適切なのは。

 身体が無い。

【鞠】

「……ッ……く…そ……――」

 ――聞こえる。

【???】

「アハハハハハハハハハハハハ」

 「呪い」の声が。

【???】

アハハハハハハハハハアハアハアハハハ

 赤黒い吐息が。

【???】

アハアハハハ、アハハハハハハハハハ、ウフフフ、アハハハハハアハハハ

 神経を蝕む音が。

【鞠】

「いや……だ……いや、だ――」

 自分の首を絞めようと思った。

 舌を強く噛もうと思った。

 だけど目的を遂行しようとする力はもう私のもとには無かった。

 新しい私が、私を支配していく。

 私が……消えていく……。

【???】

「――よもやここまで、とはの」

【鞠】

「……!!」

 溶けかけていた意識が、形を保つよう努力する。

 僅かにまだ権利下にある力を振り絞り、私は瞬きをして視界を更新する。

 仰向けの身体は、明かりもなく暗い天井を見詰める形だったが、本来そこにある筈のない人物像が視界には描かれていた。

 ……消えゆく心にそんな余裕があるわけなかったからか。それとも、どこかでこんな展開を予想していたからなのか。

 私はさほど、驚きは無かった。

【ババ様】

「可成り強いのが憑いとるとは思っておったが……破格じゃの」

【鞠】

「バ…バ……さ」

【ババ様】

「うむ。ババ様じゃ。3人は無事、仲間達と合流できた。雨天も鎮まってきおったし、此処も崩れるには至らん。大丈夫じゃろ」

【鞠】

「…………」

 ……もう、無駄なことは聞かない。

 聞けない。云えない。なら……私が今ただ一つ徹底すべきは――

【鞠】

「消し……て……コイツ、を――!」

【ババ様】

「……無理じゃ。これまで此処に捕らえられてきた程度の輩なら此処らの塊石で何とかできたやもしれんが、鞠に侵食している其奴は、力が強大過ぎる。誰の手にも、負えん」

【鞠】

「……やだ……嫌、だ――」

【ババ様】

「死ぬのが、か?」

【鞠】

「先輩に……コイツをッ、近付け、させない――もう……絶対、に!! 二度とォ――!!!」

 石を掴み、既に破かれている首の皮膚に、押し込む。それぐらいならば、今でもまだ出来る……。

 ねじ込め。ねじ込め。

 ねじ込め、この身体を急いで、まだ人の身体であるうちに――!!

 壊せ!!!

【鞠】

「ッ――ハッ――死、ネ……こッの、ア――クマァッ……!!」

【ババ様】

「……何故、そこまで。何故鞠に、それほどのモノが。何故鞠は、これまで無事だった? 何故鞠は……其奴に対し、異常なほど迅速に抵抗できている?」

【鞠】

「ガハッ――オ゙エ゙ッ――ッッッ……ッッッ――!!!」

【ババ様】

「……鞠は、何を経験したのじゃ? 外には、何があるんじゃ? 鞠――それを、鞠はババ様に教えてくれるのかの。ワシは、興味がある。この島の外が――世界の全景が、真実が!」

 ……私の最期の一手を、ババ様が両手で引き止めた。

 手が止まる。石が、首から、出て行く……。

【ババ様】

「鞠、全く手が無いわけではない。鞠がワシを、外に連れてってくれるというなら、ワシは全力でそれを行使しようぞ。どうじゃ?」

【鞠】

「カ――ハ――」

 もう、声も出せない。何を云われたか正確に聞き取れてもいない。

 しかし……頷く。だから頷く。

 何とか、してくれるっていうなら。

【ババ様】

「この石、借りるぞ……ふぅぅぅぅぅぅぅぅ――」

 先輩を、守ってくれるなら……。

【ババ様】

「ッ――たあぁああああああああ!!!」

 私は、どうなったっていいから。

【鞠】

「――?」

 背面の、石ころの感覚が消えていく。

 暗い空間が一気に光で溢れる。蛍の光のように、大きな光の塊がうようよと舞う。

 軈て――その塊たちは、ババ様が持っている血塗れの塊石に集合して――

【ババ様】

「ハァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア――」

 ババ様自身もまた、光に溢れていて、その光が塊石に溶け込んでいく。

【ババ様】

「――アアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ……ッ!!!」

 ……食い止めていた仮初めの壁が砕かれて、私の意識が再び溶けていく。

 視界も、溶けていく……その所為か、ババ様の姿も、どんどん光に溶けていくように、見えて……

【ババ様】

「ハァ……ハァ……ハァ…………さらばじゃ、ミマの子たちよ……祈れ、信ぜよ――幸福の力は、己が内にあるが故に――ッ」

 そんなババ様が、私の顔に近付いた……。

 顎を……掴まれて……でも、その感覚はなくて……

 塊石を、持って……何する、つもりなんだろ……

 それを見ることはできず……私、は――眼を…閉じ――

【鞠】

「――――」

【ババ様】

「えっと、視力悪そうな方は……えーっと……コッチじゃな!! コッチ――いっっくぞおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!!」

 ぐちゃっ。

【鞠】

「――いっっっっったあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――!!!??

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