6.41「実験体」

あらすじ

「わた、し……よ……? ***よ……!」砂川さん、また死にかけます。露骨にファンタジーが噴出する6話41節。

砂川を読む

【英】

「……!! 砂川会長!! 亜弥ちゃん!!」

 稜泉の副会長が、何かを発見したようだった。

 脚が無事な私と亜弥ちゃんが駆けつける。

【英】

「これ……さっきのと似てませんか?」

 壁に備え付けられた上開きのケース。

 パカッと開けると、黒いセンサーのような物体と、アナログなテンキー。

【亜弥】

「……やって、みますか?」

【鞠】

「…………」

 ――さっき読んだものを考えると、迂闊に手を出すべきではない気がする。

 だけど、何としても今は脱出のヒントが欲しい。その為には、我が儘を云っていられない。私は絶対に亜弥ちゃんを地上に戻すんだから。

【鞠】

「お願いします。できそうになかったら、代わります」

【亜弥】

「はい!」

 亜弥ちゃんがさっきと同じ要領でハッキングを仕掛ける。

【英】

「……あの。代わるって……砂川会長も、ハッキングとか詳しいんですか?」

【鞠】

「そういうわけじゃないです。ただ、技術が無くても簡単にプロ級のことができてしまうアプリがあるので。安心してください、市場に出回ってるものではありません」

【英】

「……まあ、砂川会長でしたら、悪用とかしなさそうですもんね」

 もう既に放送機とか監視カメラとかに手を掛けちゃったけどね。

 と、平和なことを話しているうちに……

【亜弥】

「……ロック、解除です!」

 亜弥ちゃんが成功を宣言した。

 その直後。

 ヴーーーーーーーーーーー……

【四粹】

「ッ……! 会長!!」

 後方で紙に囲まれ待機している副会長が、叫んだ。

 ……分かってる。警戒せねばならない。

 何が出てくるとしても、それはロックされていた内容なのだから。

【英】

「何の音でしょう……」

【亜弥】

「……! 壁が、開きます!!」

 すぐ隣だった。

 確かによく見れば縦線の切り込みが存在した、入力機器のすぐ隣の壁が、音を鳴らしていた。

 光が漏れている。

 綺麗な縦線が、どんどん開かれて……光が沢山露出し……「扉」が開かれる。

 軈てその扉から、ソレはゆっくりスライドし、この巨大空間に、私達の眼前に晒された。

【英】

「え……な、何コレ……!?」

 「装置」。

 この扉は、この装置とでも呼ぶべき物体を格納する小空間だった。

【亜弥】

「……ヒトです……ヒトが、入ってます……」

 装置の8割は巨大なガラスの容器に見えた。

 そしてガラスには、赤褐色の液体が充満されており……

 その中に、物体が浮いていた。亜弥ちゃんの云うように、それはヒトに見える。ヒトにしか見えない。

【英】

「ッ……こ、此処、何なんですか……!? 一体何の施設何ですか!?」

【亜弥】

「まるで、ホルマリン漬けのようです……」

 ……情報を読み終えていた私は、勘付いていた。

 そう、コレは――

【鞠】

「「魔女」……」

【亜弥】

「え?」

 ゴボゴボゴボゴボ――!!

【4人】

「「「――!!」」」

 その時、水泡がごぼごぼと――

【???】

「ッ――!!!」

 ――ていうか、目が合った。

【鞠】

「ッ!?!?」

 目が、合ったぁ!?

【四粹】

「早くッ! そこから距離を取ってくださ――」

 副会長の警告は、間に合わなかった。

 突然の衝撃に、私達は皆、眼を開けていられず……次の瞬間には。

【亜弥】

「きゃあぁああッ!!?」

【英】

「ガハッ……!?」

【四粹】

「クッ――!?」

 稜泉の副会長と亜弥ちゃん、それにずっと後方に居た副会長までもが最後方の壁にまで吹き飛ばされて。

【鞠】

「ぁ……」

【魔女】

「ぅぅぅ……ゥゥゥゥ……――!」

 何故か唯一その場に取り残されていた私は、容器が破裂し、装置の上から転がってきた彼女と、まだ目が合っていた。

【亜弥】

「ま……鞠、さん――!」

【英】

「ゲホッゲホッ……ッ――コレ、ヤバい、やつじゃ……!」

 ……全ては、真実。

 マッドサイエンティストもいた。なら、彼らが「魔女」と呼んだサンプルも、いた。

 狂気の存在が、今、単なる人間の私の眼前に居る。私を見ている。

 身体が震える。脳が混乱している。筋肉も混乱している。私は、何も、できない。

 そんな私を……彼女は、ずっと、見ている――

【魔女】

「……助け、に……」

【鞠】

「え――」

【魔女】

「助けに、来て、くれたの、ね……フースイ……!?」

 彼女は……私に話し掛けてきた。

 ただ、この会話は成立するものじゃないと一応しっかり働いてくれてるらしい脳の何処かでもう私は理解していた。だって、この人の目の開け方とか口の開き方とか、同じ人間とか思えなかったから。

 しかしそんな人間でない彼女は、当たり前のように、私に話し掛けてきたのだ。

 私を……「フースイ」と呼んで――

【鞠】

「フースイ――」

 その文字列を……私は。

 どこかで……。

【魔女】

「わた、し……よ……? ***よ……! 足りない、タリナイ、の……お願い、ワケッテ、……ワケテエェエエエエ!!!

【鞠】

「ッ――!!?」

 突然、彼女の両腕が伸びた。

 私の、首に!!

【四粹】

「会長!! クッ――こんな、時に!!」

【英】

「し、死んじゃう……砂川会長が、死んじゃう」

 身体が、浮く。とても一般女性の、というかずっと寝てたであろう人間の筋力ではない。

 決定的に異なる存在……もう化け物と呼んでもよかろう。

 化け物が私の首を掴み、持ち上げる。

【鞠】

「く――かっ――」

 ああ、終わった。

 そんな呆気ないことを身体が悟りつつ――それでも私は。

 何かを忘れているという気付きに意識をとられていた……。

【魔女】

ッ――!!??

【鞠】

「かはっ――!?」

 落ちた。

 私の身体が……地面に。

【鞠】

「けほっけほっ――!! ッ――」

 自動で身体が呼吸を求める。空気の循環を強行する。気持ち悪すぎて吐きそうになりながらも、私はまだ自分が生きている、という状況に気付いていく。

 ……殺そうとしていた存在を、見上げる。すると、

【魔女】

「……ッ……が……がアァアアアアアア!?!?

 地獄が広がっていた。

 化け物は、今度は逆に、自分の首を絞め始めていた。

 噴水のように自分の浸かっていた液体を勢いよく吐く……それでもまだ続ける。まだ、何かを自分の身体から絞り出すかのように。

 ゴキッという骨の音が聞こえたかもしれない。でも、まだ続ける。ねじ曲がる首はもはや雑巾に見えた。

 ……絞り出て行く。

 僅かに視界に映る――赤黒い煙。黒い体液。

【魔女】

「どう……して……フー、スイ……――!!? 裏切……ッ――アアアァアアアアアアアアア!!??」

【鞠】

「がっ――!?」

 再び詰め寄られ、首を締め付け……ていうか爪を立ててきている。

 間違いなく、殺意――!!

【鞠】

「ッ――や――め――ァァァ……ッ!?」

 食い込んで……肉が、切れていくのが分かる。

 血液が吹き出ているような感覚。

 視界も、何か赤くて……それに、熱くて……

【鞠】

「(ッ――?)」

 そして――何かが、沸騰しているような――

     

【???】

「――きえて?」

     

【魔女】

ッッッああぁああああああアァアアアアアアあああぁあぁぁぁぁぁぁ――!!!!

 また、解放された。

 ……液体が広がる。倒れた私の身体にも染みこむ。

 前を見た。

 ……魔女が、溶けていく最期の瞬間だけ、見えた。

【英】

「なに……私は、何を、見てるの……」

【亜弥】

「鞠さん!!」

 ……痛い。血が流れている。首から……大量の血が……。

 だけど、それよりも……。

【鞠】

「――ッ……」

 熱い。

【鞠】

「……こ…れは……」

 意識が、少しずつ、遠のいていくような気がする。

 その一方で、私は何も考えようとしていない筈なのに、思考が迸っていることにも気付く。

 判断が伝達され……身体が、動く。

【鞠】

「な、に……何これ――何してるの、私ッ――」

 辺りに酷く充満していた、赤黒い気体が……「動く」。

【四粹】

「……!!」

 蠢く音。

 数秒後――

【亜弥&英】

「「!!?」」

 周囲に張り巡らされていた、鎖たちが……全て同時に、粉々に割れた。

 物体が、解放される――

 動き出す――

【鞠】

「ッッ――何、これぇえ……!!! ッあぁあああ――!!?」

 痛い。熱い。消え、そう……ッ!

 その一方で! 私は、私が、何かをやっていることを、理解していて!

 動かしている……操作している、赤黒いモノを使って、あの7体の巨大な物体を――

【???】

「――――!!!!」

【亜弥】

「動き出します……」

【四粹】

「まさか……「機体」……」

【鞠】

ッッッ……ゥゥゥアァァァァァァア――!!!! だ……れ……誰、だァ……!!

 私の身体を……勝手に使ってるのは、誰だッ……!!!

 勝手に考えて、勝手に動いて、

 自分の身体じゃ、無くなっていく。なのに身体は勝手に動いてる! それじゃ、まるで……!

 寄生されてる、みたいじゃないか――!!!

【鞠】

「ッ――寄、生……」

 赤くなっていく景色。

 澱む意識。

 現実から離れて行くからこそ、かもしれない。私は……今そんなのどうでもよくない、って感じのことを。

 思い出した――

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