6.40「《悪魔》の研究」

あらすじ

「そんな――莫迦な」砂川さん、研究所の資料を読みます。あの話を飛ばさず読んだ方は結構怖く感じるかもしれない、難解なる6話40節。

砂川を読む

ミマ島に宿る《天使》について

 ミマ島の守りヌシとして崇められている「ミマキ」は縁結びを司り、狭義では恋愛成就の天使のように扱われるのが普通となっているが、その本当の力は人々の関係を平和的に結びつけるものであるという考察

真理を妨げるもの

 ミマキは世界平和に結びつける。ミマキのもとに、人々は正しい関係を結ばれ、その世界は我々が冒してきたよ うな争いに発展することはない。だが、ミマキという縁結びの力が拡がる中でそれでも争いが絶えず我々に不幸が植え付くのは、ミマキという《天使》と同格の存在が世界にあるからだ。

我々に不善な関係を結び、時限崩壊へと誘うものは、まさしく《天使》と正反対 ――《悪魔》と表現しておくべきだろう。

《悪魔》は複数存在する

 争いは絶えない。不幸が蔓延する。本然的な人の生は離反していく。信仰が離反していく。技術や科学と呼ばれる、人に使役する存在が、寄る辺を失った我々を、人を使役する事実を伏蔵して囲んでくる。発展する争い、その不幸な行き先すらも伏蔵されて、我々はもはや道を映す眼すらも持てない事実すらも忘れていく。この傾向が全く薄れないことから、勢力では圧倒的に《悪魔》が上である。争いは世界各地で過激に巻き起こる。その同時発生的な時系列を鑑みるに、《悪魔》はミマキに対し複数存在するように考えられる。

《悪魔》の殲滅方法

 ミマキは争うための力を持たない。故に、この同格の《天使》の力で以て《悪魔》を殲滅することはできないだろう。  ならば、我々と存在性の異なるさような存在へどう復讐することができるのか。それは、《悪魔》の力を利用することで《悪魔》に刃を向ける方法である。

《悪魔》の研究

 我々は、1 体の《悪魔》を捕縛することに成功した。《悪魔》は争いをばらまく時に人に接近する、という仮説の もと動いてきたが、ここで分かったのは、《悪魔》は人に取り憑くことでこの現実世界に干渉している、という事実であった。人ならざる不善な力で我々を惑わす害敵の人はまさしく《魔女》とでも呼ぶに相応しい。

 このサンプルをもとに、《悪魔》との連関の徹底研究を実施。あらゆる体液から常人と比べて非常に濃度の高い霊素液の抽出を確認。《悪魔》の宿合によるものだと考えられる。

《魔女》の力

 捕獲時、また数回の脱走時には《魔女》は奇天烈な攻撃を実行した。この奇天烈というのは、“機能”として捉えるにはあまりに違和感があり、何らかの技術で実現しているとも考えにくいと判断したための表現である。

 瞬時に数体の全長5 mほどの戦闘性能を備えた機体が出現し、我々に攻撃を仕掛けるのである。彼女自身が衰弱していたのもあってか我々は全滅を免れたが、戦争においても通用するであろう殲滅能力はまさに《悪魔》と呼ぶに相応しい。

 そこで我々は脱走時の攻撃の計測も試みた。結果、空間に 高濃度の霊素を確認。《魔女》が放出したものと考えられ、したがってこの力は“霊結”によるものであり、《悪魔》との宿合により得られた力だという結論は更に強まる。

《魔女》の力でもって

 この力の性質を特定できたのは非常に大きな功績であり、我々を破滅へと誘う《悪魔》は霊素体、すなわち聖霊のようなものであり、霊素を撒き散らすことで司る力を一帯に蔓延させることへ繋げ、我々の本然を傷付けるのである。

 捕獲サンプルは 何らかの経緯で《悪魔》の一体と宿合を果たし、最も純粋、すなわち最高濃度であろう霊素を直接操作し、常人の及ばない霊結情報を接続表示することができると結論づけられる。

 すなわち霊素体であるならば、霊素で以て対抗すればよい。それも最高濃度の霊素を操り 最高品質の霊結を展開することが、上位存在である《悪魔》を死傷させる有価値の力となるのだ。

 我々が次すべきは、この力の取得であった。高濃度の霊素をサンプルから抽出し、我々人間でも実用できる技術の開発に着手する。その結果の一つである霊素塊石のみで造られた鎖は、脱走を試みた《魔女》が主研究室にて展開した機体 7 体を沈静化させることに成功、また《魔女》との連関を断ったことにより消失せず、我々はこれら7 体の機体の支配権をサンプルから 剥奪することに成功したのである。云い換えれば、更なる研究の発展により我々がこの未踏の技術の塊である殲滅兵器を以て世界戦争を根本から焼き尽くす道に、遂に我々は立ったということである。

 また、製造された霊素塊石が《悪魔》の持つ霊素技術に干渉可能であることが判明したことにより、ミマ島に住まうとされるミマキなる《天使》に対し接触し、干渉、そして支配する道をも我々は―― (この先文字が壊れており解読できず)

     

【鞠】

「――――」

【四粹】

「これは……もしかして、この場所で行われていた研究、でしょうか」

 ……そうだろう。

 紙は全て手書き、記録レポートでもあり、研究員の日記みたいなものでもある……そんな風に私は感じた。

 右上に日付が書かれていたので、手始めにその順に記述を並べてみた。年についてはどれも酸化が酷く、読み取れなかった。つまり実際にはこの並べ方は間違っているかもしれない。

 ただ、確定なのは……ここはマッドサイエンティストが集まってたってことだろう。

【四粹】

「世界平和を脅かす超越的存在を《悪魔》と定義し、その存在を倒す為の方法を探る場所だった……こうまとめて、大丈夫でしょうか」

 誰が見たって、まともじゃないと思うだろう。

 こんなに立派な研究所を作ったというのに、そこで行われていたのはあまりに現実からかけ離れた、妄想に身を委ねた狂気の試行錯誤。

 ただの個人の趣味だというなら、まだいいかもしれない。近所迷惑だとか、何か見てて怖いとか、そういうのはあるかもだけど、周りに決定的な迷惑を掛けているわけじゃない。

 しかし、明らかにコレはその領域を逸脱している。

【四粹】

「……一体、この場所でどれだけの人間が――」

 「腹を開かれたのか」。

 そう、この研究所を作った何者か……恐らくは複数人によるチームだろうけど、彼らは人を殺している。それも複数人、研究を目的として。実験体として……。

 その点を踏まえたらこの感想は不適切なんだろうけど、まず「悪魔の容疑がかかってる」という意味で、私はこう思った。

 魔女狩りみたいだな――

【鞠】

「――――――――」

 そう。

 私はそう思った。

 この島においては、2回目だ。

* * * * * *

【ババ様】

「この「天使」の力をふんだんに利用することができれば、世界平和に応用できる。じゃがその前に、邪魔をする「悪魔」を殲滅せねば平和にならない。では「悪魔」とは何者か、これを知りたかったんじゃ」

【鞠】

「悪魔の殲滅……」

 何か、おどろおどろしい流れになってきた。

【ババ様】

「これらの人々は、「悪魔」そして「天使」が使役され人界に影響を及ぼしたなら、必ずその痕跡が人界の何処かにあると考えた。……鞠なら、まず、何を調べるかの?」

【鞠】

「…………」

 また質問。

 そんなこと、私は生涯考える筈もないのに。

 ……仮に私がその仮説を支持し、その証拠を見つけようと何かを調べるとするなら……まず、何を標的にするか。

 ――人道とか倫理とか、そういうものを一切考慮しないなら。

【鞠】

「疑いのある人間を観察するでしょう。この島の人間だったり、戦犯だったり」

【ババ様】

「語り手たちもそう考えたそうじゃの」

 嬉しくない。

【ババ様】

「「悪魔」は人に寄生する。ならば、人の体内に必ず、「悪魔」が居る、居た筈じゃ。だから、沢山の目星の腹が開かれた」

【鞠】

「…………」

 結果としてはなんか魔女狩りになってるなぁ。合ってるかな、この喩え。

 食材を扱っている中でしたい話ではない。

* * * * * *

【鞠】

「そんな――莫迦な」

 あの伝承が……ここで、絡んでくるって、どんな伏線!?

 じゃあ、あの伝承の語り手っていうのは、此処の……いや、だとしたら、じゃあ。

 その語りを受け継いでいるあの子は一体、何なんだ――?

【四粹】

「会長……? どうしたんですか?」

【鞠】

「私は……この記述を、内容を知っているんです。この島で……あの子に、聞いたんです」

【四粹】

「え――知っていた……? 誰から、聴いたんですか、これほど恐ろしい島の裏側は、島民の方々も御存知なのですか……?」

【鞠】

「いえ、恐らく知りません。あの子は、この伝承を知っている人はもう殆ど居ないと……もしやあの廃工場の存在も、殆どの島民は知らないんじゃないかと。貴方たちは聴いてなかったんですね……」

【四粹】

「……それは、はい。全く存じ上げませんでした。その、「あの子」、というのは?」

【鞠】

「分かりませんか? ババ様です」

【四粹】

「ババ様……」

 あれ、もしかしてピンと来てない……?

 そっか、あだ名みたいなものだからだ。もしかしたら私だけがそう自己紹介されていて、他の面子に対しては本名で名乗ったのかもしれない。

【鞠】

「女の子です。私達の宿泊してる民家に遊びに来る子ですよ。朝出発する時にも見送りしてた」

【四粹】

「……………………」

 この研究所は、この日記から推測するに……この島の外からやってきた、戦争を知っている人間たちが建設したもの。

 それもあんな分かりにくそうな場所にひっそりとした採掘施設を作って、長い穴とトンネルを作って、地下に建設した。

 島の人達は……工場は兎も角として、此処を恐らく知らない。ミマキを「天使」と表現するなんて、この島の人間は恐らくしない。外の人間が、純粋な信仰の無い論理的、そして自利的な思考で以て形作ったプロジェクト。

 結果どうなったのか、どうしてもうこの研究所は使われていないのか、それはまだ分からないけど……異常だ。今なら副会長が感じ取った異臭を、私も感じることができる。此処は、殺戮の場に等しい。

 そんな、純粋である筈のミマ島の地下で流れた殺戮の歴史を、何であんな女の子が知っている?

 そして――何で私に、それを教えた?

【鞠】

「私を……何に巻き込むつもりで――」

【四粹】

「会長……少し、よろしいですか?」

 私ひとりが、女の子相手に震え始めていた時、副会長が話し掛けてきた。

【鞠】

「……?」

 その表情は――眉間に少し、皺が寄っていて。

 彼は、何かに困っているようだった。まぁこんなヤバい所に来ちゃってることとか、それ以前に生きて帰れるのかも分からない現状は困り果てるには充分だけども。

 ――彼は、疑問を、口にした。

 それを私は、暫くの間、全く理解できなかった。

     
     
     

【四粹】

「手前は……その女の子を知りません」

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