6.38「地下洞窟」

あらすじ

「ここは……鋪装がされている。まず自然にできるような洞窟ではありません」砂川さん、しぶとく生き存えます。果たして皆のもとへ合流できるのか、ドキドキの6話38節。

砂川を読む

vsmari

Stage

?????

【亜弥】

「…………ッ――」

【英】

「……! 亜弥ちゃん、亜弥ちゃん!!」

【亜弥】

「……ぁ……ぇ――?」

【英】

「亜弥ちゃん、私が、分かりますか……?」

【亜弥】

「…………た……環、さん……?」

【英】

「そうです、英環です……! よかった……って安心できる状況ではないですが……砂川会長!! 亜弥ちゃんが、目を覚ましました――!!」

 ……そんなに声を張らなくても、ここ狭いみたいだしよく響くから、普通に聞こえる。

 寧ろ耳、痛い。頭も痛いからやめて……。

【鞠】

「亜弥ちゃん、身体、動かせますか」

【亜弥】

「……鞠…さん……えっと……」

 横に倒されていた亜弥ちゃんが、ゆったりと、起き上がろうと手足を動かす。

 取りあえず四肢は動かせるっぽい。

【亜弥】

「ここ、どこ、ですか……?」

【鞠】

「私もよく分かりません。取りあえず、凄く暗い場所ということは判明してますが」

 お互いの顔を認識するのもまず無理。そもそも光が届いてない。

 アルスを点灯させて、お互いの位置確認をはかる。あと副会長が懐中電灯を幾つか用意していた。本当用意周到だ。

【四粹】

「……皆さん無事というのは、奇跡に近いですね」

【英】

「はは……全くです。何度、もうダメだと思ったことか……本当に、ありがとうございます。それと……申し訳ありませんでした……」

【鞠】

「どんだけ護符欲しかったんですか」

 何でこの2人、あんな危ない場所で合戦してたのかというと、最初はあんな危ない廃工場が建ってる場所に居たわけじゃなく、普通に自然公園部の山道を歩いていたら木の上に護符があって、亜弥ちゃんと競争になったとのこと。

 だけど、雨が降っていて、音が鳴り……そこからは少し記憶が途切れて、気付いたらあの場所にあって、あと護符がそこにあって、引き続き亜弥ちゃんと競争してた、ということだ。優先順位狂ってない?

 推測でしかないけど、2人が元々居た場所は恐らく私と副会長が飛び降りた場所と思われる。つまり2人はとっくに土砂崩れに巻き込まれてた……で、川の流れに従って三角州から合流して、また落下しそうになってたところを2本の曲がりくねった樹木に、2人と一緒に流れてた自然公園部の木々が引っ掛かってジャングルジムが形成された……という感じだろう。

 その辺の正誤はもうどうでもいい。大事なのは今この状況だ。ぶっちゃけ、私もワケ分からん。何で生きてるの。

【英】

「亜弥ちゃん、立てますか……?」

【亜弥】

「は、はい……ちょっと、身体のあちこち、痛いですけど……歩けます」

 一安心。いやほんと……重大な怪我しちゃってたら、先輩に合わせる顔が……。

 これで4人中3人がアクションを起こせるって事が分かった。

【鞠】

「土とか砂とか岩とか、そんなのばっか」

 あと泥とか。水分も一応あるってこと。ちょっとした洞窟。

 水分が全て、上から落ちてきてるやつだと此処は可成り危ない。天井が崩れたら今度こそ終わりだ。

【四粹】

「土砂に巻き込まれて、運良く閉じ込められている……と考えるのが適当でしょうか」

【鞠】

「…………」

 そう、適当。本来ならそう考えるだろう。運が良いかどうかは知らないけど。そしてそう仮定すると、希望は9割9分ない。

 しかし……私は一つ、気になることがあった。

【鞠】

「この空間は……最初から存在した、ということは?」

【英】

「え……どういうことですか?」

【鞠】

「雨でぬめった土砂で、こんな空間ができますか? その形跡は無くもないですけど、それは私達と一緒に巻き込まれただけで、壁はかったい岩ですよ」

 アルスを壁に寄せる。光に照らされた面は、どうみても硬そう。叩いても見た目通りだ。

【鞠】

「あの工場、井戸みたいの、ありましたよね」

【四粹】

「はい。ありました。大きな穴が……」

【鞠】

「工場があった場所は、恐らく自然公園部の領域外……人の住み、歩く場所として規定していないところ。井戸といえば生活水の汲み上げを想像しますが、用途は多分それじゃない。寧ろ……何かの採掘。或いは、トンネルのようなものかもしれない」

 であれば、希望が無いわけじゃない。

【鞠】

「私達は土砂に巻き込まれたというより……あの工場が地面を掘りまくってたことに起因する地盤沈下に呑み込まれたんじゃないでしょうか? そして、工場の掘っていたトンネルの中に漂着した」

 一番最初に意識を取り戻したのは副会長だった。そして近くに倒れていた私を起こした。

 起きた私は、脚を負傷してまともに動けない副会長から小型懐中電灯を受け取り、落下場所を観察。上に無数の大木があるのに気付いて……私はこの仮説を閃く。

 しかし土砂や水が少しずつ隙間から漏れ落ちてきてるし、大木たちがいつ落下してきてもおかしくない。亜弥ちゃんと稜泉の副会長を発見して、1人ずつこの洞窟の奥に抱えて運んだ……で、今この場所に至る。

 この場所は、漂着地点よりも高度がある。向かい側にも洞窟は続いており、普通に考えて水や土砂はまず高度の低いそっち側に流れていくだろうと考えた。安全なんて何処にも無いという前提の上、ここは休憩場所に相応しいと判断した。

【鞠】

「ここは……鋪装がされている。まず自然にできるような洞窟ではありません。排水機能を備えた、はっきりとした道なんです」

 単なる発掘場所だったらこの先、行き止まりの可能性も勿論高いけれど……もしそうでなく、何かのトンネルとしてこの洞窟があったのなら……?

 何処かに繋がっている……多少希望的観測を混ぜたって、こんな状況だ。怒られないだろう。

【鞠】

「……私はそろそろ、奥を探索しようと思います」

【英】

「な、なら私達も」

【鞠】

「歩けるなら、まあいいですけど」

 いちいち此処戻ってくるのも嫌だし。

【英】

「あ……でも、玖珂先輩が……」

【四粹】

「手前のことは構わず、3人で行ってください」

【鞠】

「うわ」

 ここまで追い込まれてもまだそんなことサラッと云えるんだ。

 ほんっとに、もう……

【鞠】

「却下です」

【四粹】

「ぇ――」

【鞠】

「ッ……よっと……腕は痛くないんですよね」

 何とか副会長に肩を貸そうとする……けど、この人身長高いんだよな。私は女子平均って感じだから凄く姿勢が変。

【亜弥】

「私も、手伝いますね」

 亜弥ちゃんが反対側から、副会長を支える。これでやっと、副会長も立てるようになった。

【四粹】

「ま、待ってください、皆さんの負担が――」

【鞠】

「確かに逃げ道を見つけて、それから救助隊に来てもらうという手もありますが、それまでこの洞窟がもってくれる保証がない」

【四粹】

「しかし手前が足枷となり皆さんの行動を束縛しては本末転倒の恐れもあります。手前のことはいいです、皆さんの障害となるならば――」

【鞠】

「だから貴方は赤羽なんです」

【四粹】

「ッ――?」

【鞠】

「云ったでしょう、その自己卑下で私に迷惑をかけるのはやめろと。貴方はそれで満足かもしれませんが、私は貴方を残して脱出したら絶対責め立てられますから。彼らからも、紫上学園からも」

 ほら、やっぱり一番厄介な敵。

 私を監視していて、常に私の近くに居て、そんな紫上学園で一番信頼を集める彼に何かあれば、その責任は紫上学園で一番嫌われてる私にあると皆考えて、躊躇い無く非難するだろう。

 私の無能を。私の人格を。私の歴史を。

 絶対に、穢させてなるものか。

【鞠】

「会長が云ってるんです。貴方も残さず連れて行くと。従いなさい、貴方も紫上の学生だというなら」

 ただまあ、もう現時点で副会長片脚やられちゃってるので、私の会長席ヤバい。私の身体もヤバい。媚薬がどうのこうのじゃなくて、生命の危篤はすぐそこに来てるって感じがする。

【四粹】

「――会長――」

【英】

「それに、2人はカップルですものね。そう易々と手は離せませんよ」

【鞠&四粹】

「「ん……!!」」

 私達の代わりに先行し明かりを照らす稜泉の副会長が、突然私達に攻撃。

 そうだった、忘れてた、まだそういう設定じゃん!

【鞠】

「そ、そうですね……HAHAHA……」

【亜弥】

「…………」

 まあ折角だ……これで2人一緒に帰還して、絆の強さ的なものを皆に勝手に認めてもらおうじゃないか。それで全てまるっと解決だ。

 こうなればヤケ。しっかりカップルを演じておこうじゃないか。

【亜弥】

「……違いますよ」

【英】

「え?」

【亜弥】

「2人は、付き合ってません」

 と折角思ってたのに即座に亜弥ちゃんの偽りを叩き割る一言。

【鞠&四粹】

「「――――」」

【英】

「……………………へ?」

【亜弥】

「2人は、付き合ってませんよ。環さん」

【鞠】

「なな何で唐突に、そんなこと……」

【亜弥】

「だって、2人の間に特別な熱を感じません」

 んぐっ。

【亜弥】

「少なくとも……兄さんと一緒に居る時よりも」

 んぐっ!?

【亜弥】

「あと、兄さんは隠し通してるつもりのようですが、兄さんの発着信履歴は全て私、把握してますから。よく夜中に、兄さんと会話してますよね。兄さん、楽しそうです……私の前では見せない表情筋を見せてます……」

 んぐっ!?!? ちょっと先輩、思いっ切りバレてるじゃん!!

【英】

「亜弥ちゃん……競争してる時からもう察してたけど、その、相当なお兄さん愛なんですね……」

【亜弥】

「はい! 兄さんの為なら、土砂にも飛び込みます!」

 それ兄さんの為にならないから絶対やめてっ。

 しかし、矢張りあの人の妹……私如きが欺ける相手ではなかったか……。

【四粹】

「会長……」

【鞠】

「無理です、隠しきれません。相手が悪すぎる」

【英】

「……って、え!? 本当に、玖珂先輩と砂川会長は、付き合ってないんですか……!? ど……どうしてそんな嘘を……」

【亜弥】

「多分、この合宿の本目的から皆さんの意識が逸れないようにする為です。四粹さんはとてもモテモテでしたから、競争を始めてしまうと収拾がつけられなくなるかもしれませんでした」

【英】

「……ああ……確かに……」

 この人は別の人狙いで本当良かった……。

【鞠】

「うちの顧問が勝手に始めた作戦です。効果あったかは知らないですけど」

【英】

「なるほど。しっかりした理由の偽造だったんですね……だけど、凄い、演技でしたね……」

【鞠】

「え?」

【英】

「砂川会長、その……凄い、魅力的にアピールしてたので……昨日と違って……」

【亜弥】

「それは、私も思いました……とても妖艶でした……」

【四粹】

「……石山さんも仰ってましたが、男子の方々は可成り会長を意識してたかと……」

【鞠】

「…………それは忘れてください……」

 媚薬に浸かってた真実だけは絶対隠し通す。

 そんな恐ろしく場違いな決意を胸に秘めて、私は3人と共に奥へ進んでいく。

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