6.36「雷」

あらすじ

「会長――工場が、崩れ流れます……!!」砂川さん、命の危険。一生涯経験しなくていい6話36節。

砂川を読む

 ――――。

【鞠】

「――ッ……!?」

 ――あ、あっぶない。意識、飛んでた……。

 あと記憶とかも飛んだ……すぐに、取り返したけど。

 手は離してなくって、私グッジョブ……!

【鞠】

「はぁ――はぁ――」

 さて……状況は……

【英】

「だ……ダメ……もう、ダメ……」

【亜弥】

「環さん、しっかりっ、しっかりしてください、大丈夫ですからっ……!!」

 亜弥ちゃん達は、一度斜面から脱出できそうだったが、今はまた斜面にて激流を縄で耐えている状態。

 その切れた縄を、私が右手で何とか掴んでいて。

 私の左手を、副会長の左手が掴んでいて。

 副会長の右手が、切れたもう一方の、廃工場側の縄を掴んでいた。

 この状況から推測するに……あの一瞬で、工場内から突撃してきた大木が2人の命綱に激突して千切りやがったのだろう。

 あとついでに激突しそうだった亜弥ちゃんを庇って私が大変痛い目に遭ったのだろう。

【鞠】

「ッッ……」

 頭とか腕とか、彼方此方が痛い。破れたような痛み……つまりどこか出血してるんだろうけど、この流水だらけの環境で今私がどうなってるのかよく分かんない。

 さて、こっからどうしようか。

【鞠】

「副、会長……引き上げ、られますか……」

【四粹】

「ッ……正直、難しい、です……」

 今まともに引っ張るという救助行為ができるのは副会長ぐらい。というか副会長だってもう動きが制限されているわけで、これは無理に決まってる。

 諦めるつもりはないんだけど、手が無いのも事実。2人が何とか、自力で此方に戻ってきてくれると助かるが……。

【鞠】

「亜弥ちゃん、登れませんか……? 縄と腕力があれば、どんな急斜面でも歩けるもんですよ」

【亜弥】

「はぁ……はぁ……」

 あと体力も必要か……無理そうだ。2人ともまともに呼吸もさせてもらえずとっくに限界だ。

 ていうか私だって体力と握力の限界だ。手を離したら亜弥ちゃんが死ぬぞ、っていう自己脅迫でもって何とかもたせているような状態。

ミマキ紋章 (1)

【四粹】

「ッ……会長――!!」

 副会長が叫んできた。

【鞠】

「何ですか!」

【四粹】

「手前の感覚ですが……工場が……ッ!」

【鞠】

「ッ――!?」

 首だけ回して、工場の方に何とか視界を……。

【鞠】

「――――」

 緩やかな動き、だが……確かに、私も理解した。副会長が云わんとしていることをまるっと。

【鞠】

「……倒壊するっていうんですか……こんなクソ忙しい時にッ!!!」

 更に破壊されていく。

 壁が突き破られるとか、そんなんじゃなくて、此処に建ち続けるのに必要だった全てのバランスが、崩壊していく……そんな予感。いや、数分……数十秒後の現実。

 廃工場が崩れるということは、私達を支えていた根本が崩壊するということ。

 ゲームオーバー、目前……まさに地獄、これこそ絶体絶命!

 赦されるのは……想像だにできない奇跡に思いを馳せることぐらい……

【英】

「ッ……もう……ダ、メ――」

【亜弥】

「ッ環さん!!」

【鞠】

「亜弥ちゃん――!?」

 亜弥ちゃんの姿が、突然後退した。

 それにとんでもない冷えの感覚を抱いたけど……幸い、そのまま闇に溶けていきはしなかった。

【亜弥】

「グッ……ゥゥゥ……――!!」

 どうやら、限界に達し縄を掴んでもいられなくなった彼女の身体を掴みにいったようだ。とんでもない無茶をしてくれる……しかしそれだと、亜弥ちゃん今片手と両足で縄を持ってることになる。絶望が深くなっただけ。

【英】

「ッ……亜弥、ちゃん……私は、いいから……亜弥ちゃんだけなら、2人も持ち上げ、られるかもしれないから――」

【亜弥】

「絶対、離しません……! 真理学園、生徒会長の名にかけます!! 環さんも――こんなところで諦めないで、縁を結びましょう!!」

【英】

「……!!」

【亜弥】

「それに――兄さんも云ってました! どんなに絶望しても粘って、どうしようもなくても粘って、無価値かもしれなくても粘って、そうしたら……何でか奇跡が、起こるモノだって!!」

【鞠】

「…………」

 本当……こんな時に他人に笑ってみせるのは、流石の妹だと思った。

 あの人ならば、こんな時でも足掻き続けるんだろう。そんなことばっかり、やってきた人だ。

【鞠】

「心配ばっか……かけさせやがって……この兄妹め」

 場違いな溜息が漏れる。

 まあ……なるように、なるだろう。

【四粹】

「ッ――」

 バキバキバキバキバキ……!!!

 異質な混合音。

 金属音。サビの音。

 私達は、遂にその時を知覚する。

【四粹】

「会長――工場が、崩れ流れます……!!」

【鞠】

「……私達も、流されるのは確定でしょうが……イコール、ゲームオーバーとは限らないでしょう」

【四粹】

「……会長……」

【鞠】

「流されるだけなら良いですが、十中八九凶器の雪崩が来ます。副会長、気を付けて」

【四粹】

「……承知です。できる限り、会長達をお守りします」

 気を付けろっつってるのに……こんな時でもソレか。

【鞠】

「……ソレで死んだりしたら、成仏できないよう呪いますんで」

【四粹】

「え!? す、すみません……」

 さあ、深呼吸。

 ここからはきっと、怒濤の展開。思考を停止している暇は無い。刹那の判断、刹那の行動が求められる。

 せめて……亜弥ちゃんだけは、必ず先輩のもとに帰す――!!!

     

 ドオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン――!!!!!!

 ――そうして、私が闇へのウォータースライダーを覚悟した、その時。

【一行】

「「「――!!?」」」

 閃光が発生した。

 ほぼ直後に、轟音。

 私達は思わず目を閉じた。

 だけど、何が起きたのか、少なくとも私は理解していた。

【鞠】

「(雷が、落ちた――)」

 それも、かなり。めちゃくちゃ、近い。

 ていうか……もしかして、そこの工場にでも落ちたんじゃないか……?

 そんな、どうでもよさそうな疑問に苦笑しかけてた時――私の足に、違和感が発生した。

【鞠】

「これは……」

 地震。

 確かにこれは地震、ではあるんだけど、それも何だか違和感があって。

【英】

「え……なに……!?」

【亜弥】

「ど……どうなって……何か変――」

 そう、変だ。

 何か、私達のこの地獄の環境に、変化が起きていて。

【鞠】

「ッ――!!」

 慣性の法則が、働く。投げ飛ばされるという肌の予感。

 今までずっと私達4人と綱引きしてた廃工場が、試合放棄したような感じ。

 倒壊、していく――だが。

 闇へと流される――だが。

 それよりも私は本当の・・・違和感に気づき始めていた。

 それは、足下に、あった。

 崩壊していくのは工場だけじゃなく――足下も、だった。

 斜めに流れていくのではなく――垂直降下していく、全く予想してなかった災害。

【鞠】

「地盤沈下……的な?」

 その数秒後、私は眼を開けていられなくなり。

 何も聞こえなくなり。

 何も、考えられなくなった――

PAGE TOP