6.33「デートな会話2」

あらすじ

「貴方のその性格、皆を裏切ってませんか?」砂川さん、四粹くんと歩きますその2。砂川さんらしい、デートとは思えない濃密なやり取りの6話33節。

砂川を読む

vsother

Stage

ミマ町村部 中央公園

【秭按】

「……あ」

 ポツッ、と、私の頭に雫が落ちた。

【堀江】

「……雨、降ってきましたね」

【秭按】

「予報には、無かった筈だけれど」

 だけど気付けば、厚い雲。雨を降らすには充分な力を持っている。

 本当に、どうして気付かなかったんだろう。

【杏子】

「本降りになったら中止か?」

【堀江】

「でも、そんな雨程度じゃ、恋に飢える少年少女は止められないと思いますけどー」

【杏子】

「……うちのところの会長は、手強いぞ」

【堀江】

「こちらの副会長も、相当ですよー」

【秭按】

「…………」

 本降りになるのも近いだろう。

 夕立ちにしても、生徒が関わるなら私たちは常に最善を考える義務がある。

【秭按】

「町長」

 雲は厚く……そして黒い。

 気付かないうちに、この美しい島を覆っていた、予報無き存在。

 何か……嫌な予感が、する。

     

【ババ様】

「フフッ――さあさ、嵐じゃ……」

     
vsmari

Stage

ミマ自然公園部 森林

【四粹】

「ん……雨、ですね」

 ゆっくり歩いていたら、ポツポツ来た。

 そして間もなく一気に雨が。

【鞠】

「ハイレベルな夕立……」

 瞬時にしてびしょ濡れ。やってくれる。お空も私の事嫌いか。

【四粹】

「どこか、雨宿りできる場所を探しましょう」

【鞠】

「そんなの、あるんですか」

【四粹】

「……あの大樹は、どうでしょう」

 フサフサな大樹があったので、その下に避難する。

 フサフサなお陰で、比較的雨が落ちてこない。風もあるので横からぶっ掛けられる。総合評価すると、微妙。この大樹が悪いんじゃなくて、この大雨と暴風がタチ悪い。

【四粹】

「これは……レクも中止、でしょうか」

【鞠】

「それを伝える効率的手段が、ありません」

 つまり各々の常識で判断してもらわないといけない。

 ……あの空気、とても常識的だとは思えないんだけど。あの3人とか大丈夫かな、余計な事故起こしてなきゃいいけど。

【四粹】

「会長、使ってください」

 副会長がロングタオルを差し出してきた。

 ……いや、何でそんなの持ち歩いてる。本当便利な人だ。

【鞠】

「要りません。貴方が使えばいいじゃないですか」

【四粹】

「いえ、そういうわけには……会長に風邪を引かせるわけにはいきません」

【鞠】

「引くつもりはないですけど、引いたとしてもそれは貴方の所為ではないでしょう」

【四粹】

「……いえ、ここで会長が風邪を引かれた場合、その原因は確実に今のお姿です。その目の前に居たというのに対処を何もせず会長が体調崩されたとなれば、手前が紫上会に呼ばれた意味がありません」

【鞠】

「…………」

 何か、そういえばって思った。

【鞠】

「貴方……周りから卑下してるって云われませんか?」

【四粹】

「え――?」

【鞠】

「私がどう貴方を評価するかは関係無く、既に貴方は紫上学園中から評価されている。紫上会の他の3人からも。貴方は間違いなく有能な人だと。私も、そう思ってます。なのに――何で、貴方そんなに卑下的なんですか?」

【四粹】

「…………」

 別にこんなの、云わなくたって私の人生に何の関係も無いとは思うけど。

 抑も会話の数自分から増やしてどうすんだって思うけど、それでも何か喋っちゃってるのは……この雨の所為か。

【鞠】

「貴方は、どうやら皆の期待に応える、皆の評価を重要視するタイプの人間のようですけど……それなら、ある程度は自分自身のことを評価した方がいい。自己卑下の姿というのは、献身的で美しく見える一方で、他人の目を気にせず自己陶酔してるようにも見えます。貴方のその性格、皆を裏切ってませんか?」

【四粹】

「ッ――!!?」

 ……何か、空気が変わった。

 もしかしたら私は何か地雷を踏んだかもしれなかった。

【鞠】

「……それが、私の考えです。何か……癪に障りましたか」

【四粹】

「……いえ。ただ……僕は、皆に迷惑を、掛けてましたか――?」

 この人……「僕」って云うんだっけ。どうでもいいか。

 というか、どうしてそうなる。

【鞠】

「迷惑ではないです。ただ、皆は貴方のことを評価している。しかし貴方はそれを否定している。貴方は皆の要望に応えようと尽力している。……私は、何か、危なくないかなって思います」

【四粹】

「…………」

 多分、理解できていない。

 私もあんまり理解できていない。元々計画して始めた会話じゃないので、自分自身何を云っているのかを後々解説できるかと云われたら自信はない。

 整理はすべきだ。つまり私は何が云いたいのかというと……

【鞠】

「……貴方は他人を見ているようで、他人を見ていない」

【四粹】

「他人を、見ていない……」

 立ってるのも疲れたので、背を逞しい大木に任せて、座った。

 副会長は立ったまま。

【鞠】

「貴方は自分をとても大切にしている。謙遜することに命でも懸けてるんですか? 誰も、そうしろって頼んでないですよね?」

【四粹】

「ッ……」

【鞠】

「転入直後からずっと、貴方を尊敬しているという声を聞き続けてきました。この島で、色んな生徒会が集っても、その周りから貴方は慕われていることを私は知りました。だが……貴方の態度は、何も変わらない」

 雨、強いな。風もある。

 みたいなしょうもないコメントを頭に漂わせながら、

【鞠】

「皆は、それを見て、いずれ悲しい思いをするんじゃないでしょうか」

 軽く考えたことを、ぽっと口に出す。

【四粹】

「悲しい……皆さんが?」

【鞠】

「私はどうでもいいですけど。しかし皆は貴方を好んでいる。貴方は素晴らしいと考えている。それを、一慮もなく切り捨てられたら、それは苛つくなり悲しむなりするんじゃないですか。自分を否定されたって思うものでしょ」

 ある意味、私もその感情だけで今の道を選んじゃってるわけだし。

【鞠】

「貴方がやってるのは、その切り捨て行為に近い。貴方がソレで良いと、他人のことをどうでもいいと考える人間なら文句は一つもありません。ただ……貴方はそうは決して思っていない。寧ろ、皆を大切にしたいと考えてる人間だ」

 つまり、矛盾している。

 これは恐ろしい矛盾に違いない。この時私は1人の莫迦を思い出していた。

【鞠】

「貴方、ちょっと赤羽大牙に似てるんじゃないですか?」

【四粹】

「――!?」

 果たして私のこの感覚は当たってるのか。

 それを、本来なら口に出す前にやっとけよって話なんだけど、1回ちゃんと考えようかなって思ったが、それよりも副会長が結構な反応を示したのでそっちに注目した。

【四粹】

「そ――それは、流石に、違うのではッ……!」

【鞠】

「……おお」

 怒ってるというか。戸惑ってるというか。どっちもか。

 強く感情を剥きだしている。こんな副会長、見るの初めてだった。思わず感心を漏らしてしまった。

【鞠】

「彼のことは嫌いですか」

【四粹】

「ッ……それは…………赤羽さんは、一度全てを、台無しにされた方です、から」

【鞠】

「そういえば、あの時ヤケに気迫を以て彼を拘束してましたね」

 アレはちょっと怖かった。

【四粹】

「す、すみません……カメラもあるから、もっと適切に動くべきでした……」

 つまり、それなりに感情的に動いた結果だと。

 彼は赦せなかったと。

 ……書記と共に甲子園へ行くという皆の夢を、共有している1人だった筈の彼が、仲間をこよなく大事に想っていた筈の彼が台無しにしたことが赦せなかったと。

 じゃあ……やっぱり、同族なんじゃないの?

【鞠】

「貴方は、数多の人々に絶大に信頼されてしまっているということの、責任を取らなければいけません。ちょっとは幸せそうな顔でも周りに見せたらどうなんですか、ハーレム男子」

【四粹】

「…………」

【鞠】

「私を、巻き込まないでくださいよ、本当に」

 もうあんな腹の立つ事案を処理するの嫌なんだから。

【四粹】

「――会長」

 と、雨へのむかつきに任せて云いたくなったことを云い放ったところで、副会長が口を開いた。

 反論だろうか。文句だろうか。それとも謝罪?

【鞠】

「何ですか」

【四粹】

「僕には――幸せになる価値はありません」

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